第55回(R2) 理学療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

 

16 60歳の女性。脊髄小脳変性症。四肢体幹の運動失調で座位保持が困難であったが、2週間の座位保持練習を行い、端座位は上肢で支持しなくても保持できるようになった。
 今後行うバランス能力改善の運動療法として最も適切なのはどれか。

解答
解説

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

 脊髄小脳変性症は、自律神経障害、小脳失調、パーキンソニズムを3徴候とする脳脊髄変性症の総称である。本症例の端座位は、「上肢で支持しなくても保持可能」レベルである。つまり、端坐位での支持基底面内に重心を保持するレベルから、移動するレベルへとステップアップしていく必要がある。したがって、バランス能力改善の運動療法として、選択肢1~2、4~5は、難易度が高いと言える。また、選択肢3.端坐位での重心移動練習は、端坐位での支持基底面内に重心を保持するレベルから、移動するレベルへとステップアップできているといえる。

難易度調整

【バランス練習の流れ】
①支持基底面内に重心を保持する(静的)。
②支持基底面内なら重心を移動できる(動的)。
③支持基底面内から逸脱しても新たに支持基底面を形成できる(立ち直り)。

【協調性運動の運動学習における課題難易度調整】
・動作速度:速い→遅い
・動作方向:単一→多方向
・支持基底面:広い→狭い
・重心移動:保持→移動→新たに形成する(ステップやパラシュート反応など)

 

 

 

17 55歳の女性。8年前に多発性硬化症と診断され、再発や寛解を繰り返し、2回の入院歴がある。現在は症状が落ち着いており、訪問理学療法で屋外歩行練習が実施されている。その際、理学療法士は運動強度を軽度から中等度とし、かつ、外気温の高い時間帯を避けて実施するなどに留意している。
 この理由として関係するのはどれか。

1.Barré徴候
2.Horner徴候
3.Lhermitte徴候
4.Tinel徴候
5.Uhthoff 徴候

解答
解説

本症例のポイント

・55歳の女性(8年前:多発性硬化症)。
・現在:症状が落ち着いている。
・訪問理学療法:屋外歩行練習では、運動強度を軽度から中等度とし、かつ、外気温の高い時間帯を避けて実施するなどに留意している。
→多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

1.× Barré 徴候(バレー徴候)とは、上肢や下肢に軽度の運動麻痺がある場合に現れる徴候のこと。両腕を、手掌を上にして肘を伸ばしたまま前方に挙上し閉眼させると、麻痺側上皮は回内し、次第に下りてくる。
2.× Horner 徴候(ホルナーもしくは、ホルネル徴候)とは、ホルネル(ホルナー)症候群の交感神経遠心路の障害によって生じる。中等度縮瞳眼瞼下垂(眼裂狭小)眼球陥凹(眼球後退)を三大徴候とする。
3.× Lhermitte 徴候(レルミット徴候)とは、首を前に曲げたときに感電したような痛みや刺すような痛みが背中から両脚、片方の腕、体の片側へ走ることをいう。多発性硬化症の特徴的な徴候であるが、「外気温の高い時間帯を避けて実施するなどに留意している。」理由には該当しないため不適当である。
4.× Tinel徴候(チネル徴候)とは、末梢神経の損傷部位をたたいたときに、神経の支配領域にチクチク感や蟻走感が生じることをいう。これにより神経の損傷部位が特定でき、また、神経の回復状況も把握できる。
5.〇 正しい。Uhthoff 徴候(ウートフ徴候)とは、入浴・温熱などで体温が上昇する(運動をすることでも含まれる)と視覚障害や麻痺症状が一過性に悪くなることをいう。本症例の「外気温の高い時間帯を避けて実施するなどに留意している。」理由と一致する。過度な運動負荷は避けることが必要である。

 

 

 

18 32歳の女性。2週前に上気道炎を発症し、5日前から四肢末端の異常感覚を自覚した。その後、徐々に四肢の脱力を認めたGuillain-Barré症候群と診断され、直ちにγ-グロブリン大量静注療法を開始した。入院時の四肢筋力はMMTで段階4であったが、入院2日後には顔面筋麻痺と構音・嚥下障害が出現し、翌日には痰が多く呼吸困難が出現したため、気管挿管され人工呼吸器管理となった。四肢筋力は近位筋で段階1、その他は段階2~3に低下している。
 現時点で優先される治療はどれか。

1.機能的電気刺激
2.筋力増強運動
3.座位練習
4.自発呼吸練習
5.排痰練習

解答
解説

MEMO

・32歳の女性(Guillain-Barré症候群)。
・入院時:四肢筋力MMT段階4。
・入院2日後:顔面筋麻痺と構音・嚥下障害が出現。
・翌日:人工呼吸器管理四肢筋力近位筋段階1、その他は段階2~3に低下。
→本症例は、Guillain-Barré症候群の進行期~プラトー期の移行期と考えられる。症状が軽い場合は自然と回復することが多いが、重症例は呼吸筋を侵し呼吸困難を呈するため、気道確保や呼吸管理し楽な状態に保てるようにかかわっていく。

1.× 機能的電気刺激(FES)とは、筋もしくは末梢神経を刺激して麻痺筋を収縮させることで、その筋の随意性及び消失した機能を代償させることを目的とした治療法のことをいう。適応症例は、脳卒中脊髄損傷等により運動麻痺を呈している方である。Guillain-Barré症候群(ギランバレー症候群)のような末梢神経障害では、電気刺激が可溶性筋力低下をきたす可能性があるため積極的には用いない。
2.× 筋力増強運動は、四肢筋力の低下進行中であるため不適当である。また末梢神経障害に対して、高負荷の訓練を行うと筋力低下を招くことがあるため、行うのであれば低負荷高頻度の筋力維持程度の訓練に抑える。
3.× 座位練習のリハビリテーションの開始基準として、障害(意識障害、運動障害、ADL障害)の進行がとまっていることがあげられる。また、現時点での筋力では過負荷になる可能性が高い。そのため、現在は不適当といえる。肺痰目的でのギャッジアップ座位などは有効である。
4.× 自発呼吸とは、自身の能力によって行われる呼吸を意味する。自発呼吸に対して、外部から圧力をかけることによって行われる呼吸は「人工呼吸」と呼ばれる。本症例は、痰が多く呼吸困難が出現したため、気管挿管され人工呼吸器管理直後である。また、今後の症状悪化の可能性があげられる。そのため、自発呼吸練習の実効性は期待できず優先度は低い。
5.〇 正しい。排痰訓練は、現時点で最も優先される治療である。本症例は球麻痺による嚥下障害・構音障害がみられるため痰が多いと考えられる。誤嚥・肺炎の予防や呼吸をしやすいよう排痰練習の実施が優先される。

”Guillain-Barré症候群とは?”

Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群は、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下(下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。

(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)

 

 

 

一休みに・・・。

 

 

19 8歳の女児。顕在性二分脊椎。Sharrardの分類はⅣ群である。
 歩行練習の実施方法で適切なのはどれか。

1.靴型装具を使用する。
2.長下肢装具を使用する。
3.短下肢装具とロフストランド杖を併用する。
4.長下肢装具とロフストランド杖を併用する。
5.骨盤帯付き長下肢装具とPCW(postural control walker)を併用する。

解答
解説

 本症例は、Sharrardの分類はⅣ群(L5レベル:短下肢装具による自立歩行可能。股関節伸展、足関節背屈が可能)である。したがって、次のステージへステップアップするために、選択肢1.〇 靴型装具を使用する。のが正しい。

2.× 長下肢装具を使用するのは、Sharrardの分類でⅢ群である。
3.× 短下肢装具とロフストランド杖を併用する。のは、Sharrardの分類でⅢ群である。
4.× 長下肢装具とロフストランド杖を併用する。のは、Sharrardの分類でⅡ群である。
5.× 骨盤帯付き長下肢装具とPCW(postural control walker)を併用する。のは、Sharrardの分類でⅠ~Ⅱ群である。

Sharrard(シェラード)の分類

第Ⅰ群(胸髄レベル):車椅子を使用している。下肢を自分で動かすことはできない。
第Ⅱ群(L1〜2レベル):車椅子と杖歩行を併用している。股関節屈曲・内転、膝関節伸展が可能。
第Ⅲ群(L3〜4レベル):長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能。股関節外転、足関節背屈が可能。
第Ⅳ群(L5レベル):短下肢装具による自立歩行可能。装具なしでも歩行可能。股関節伸展、足関節底屈が可能。
第Ⅴ群(S1〜2レベル):ほとんど装具が不要で自立歩行可能。足関節の安定性が低い。
第Ⅵ群(S3レベル):ほとんど運動麻痺はなく、健常児とほぼ同様の歩行。

 

 

 

 

20 85歳の女性。自宅仏壇のろうそくの火が右袖に引火し、右前腕から前胸部および顔面にⅢ度5%とⅡ度15%の熱傷および気道熱傷を受傷した。受傷翌日に前胸部から右前腕前面にかけて植皮術を実施した。
 術後早期から開始する理学療法として正しいのはどれか。

1. squeezingによる排痰を実施する。
2. 前腕は最大回内位に保持する。
3. 肩関節は外転位に保持する。
4. 筋力増強運動は禁止する。
5. 起立歩行は禁止する。

解答3
解説

本症例のポイント

・85歳の女性。
・「右前腕から前胸部および顔面」に「Ⅲ度5%」と「Ⅱ度15%」の熱傷および気道熱傷。
・受傷翌日:前胸部から右前腕前面にかけて植皮術を実施。
→本症例は、「右前腕から前胸部および顔面」に熱傷および気道熱傷していることから、①肩・肘の拘縮予防や②排痰の促通(今回熱傷部位によりsqueezingはできない)、③廃用予防が必要になる。

1. × squeezingによる排痰を実施する必要はない。なぜなら、本症例は前胸部から右前腕前面にかけて植皮術を行っているため。Squeezing(スクイージング)とは、胸郭の呼気時圧迫により呼気流速を増し排痰を促進し、反動による吸気時の拡張を促す。小児では呼吸数が多いこともあり正確な適用が困難なことも多い。他にも、Percussion(パーカッション)という技法があり、それは胸壁を用手的に振動させる。不整脈や気管支攣縮、酸素消費量増加の原因となり侵襲的であるため特に重症小児患者には用いないほうが良いと思われる。本症例は、植皮術を行っており、5日~2週間程度、患部に伸張刺激が加わる運動は避けた方が良い。
2. × 前腕は、「最大回内位」ではなく回外位に保持する。熱傷の二次性症状として、癒着・瘢痕拘縮が起こりやすいため、熱傷部位が伸張される肢位をとる。
3. 〇 正しい。肩関節は内転拘縮をきたしやすいため外転位に保持する。各関節に生じやすい拘縮があるのでそれを予防するような肢位を確保する。スプリントや装具を活用しながらポジショニングを行う。
4~5 熱傷の理学療法として、①変形拘縮の予防、②瘢痕形成予防、③浮腫の改善、④筋力維持改善、⑤全身体力の維持を行う。したがって、熱傷部位に負担がかからない部位は、運動を行うべきである。本症例は、右前腕から前胸部および顔面、気道熱傷されているが、下肢の筋力増強運動や・起立歩行は行える。

熱傷の分類
・Ⅰ度:【深さ】表皮【症状】発赤、熱感、軽度の腫脹と疼痛、水泡形成(ー)【治癒】数日間、瘢痕とはならない。
・Ⅱ度:【深さ】真皮浅層(SDB)【症状】強い疼痛、腫脹、水泡形成(水泡底は赤色)【治癒】1~2週間、瘢痕再生する。
・Ⅱ度:【深さ】真皮深層(DDB)【症状】水泡形成(水泡底は白色、もしくは破壊)、知覚は鈍麻【治癒】3~4週間、瘢痕残す、感染併発でⅢ度に移行。
・Ⅲ度:【深さ】皮下組織【症状】疼痛(ー)、白く乾燥、炭化水泡形成はない【治癒】一か月以上、小さいものは瘢痕治癒、植皮が必要。

苦手な方向けにまとめました。参考にしてください↓↓

理学療法士国家試験 熱傷についての問題7選「まとめ・解説」

 

4 COMMENTS

匿名

sharrard分類Ⅳでは残存レベルL5で背屈可能となるので、底屈不十分になると考えますが、いかがですか?

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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