第49回(H26) 理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 55歳の男性。筋萎縮性側索硬化症。 1年前から通勤時に右足がつまずくようになった。最近は意識して膝を上にあげて歩行している。腰椎MRIでは病的所見はなく、針筋電図所見では両側の前脛骨筋に右側優位の神経原性変化を認めた。
 適切な対応はどれか。

1. 座位時は足を挙上しておく。
2. 移動時に車椅子を利用する。
3. 立ち上がり運動を繰り返す。
4. 前脛骨筋に治療的電気刺激を行う。
5. 右側プラスチック短下肢装具を装着する。

解答5

解説

本症例のポイント

・55歳の男性(筋萎縮性側索硬化症
・1年前:右足がつまずく。
・最近:膝を上にあげて歩行。
・腰椎MRI:病的所見なし。
・針筋電図所見:両側の前脛骨筋右側優位の神経原性変化を認めた。
→本症例は、筋萎縮性側索硬化症の初期(自立期)である。この時期から自助具や歩行補助具などを用い、社会的交流・日常生活の維持を図る。

1.× 座位時は足を挙上しておく優先度は低い。浮腫に対し有効である。
2.× 移動時に車椅子を利用の優先度は低い。なぜなら、現在歩行(通勤)可能な時期であり、できるだけ本人の能力を維持できる対応を優先するため。
3.× 立ち上がり運動を繰り返すことの優先度は低い。なぜなら、現在、歩行(通勤)可能な時期であり、立ち上がりは行えていると考えられるため。加えて、立ち上がり運動を繰り返すことは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は過用性の筋力低下を起こす恐れがある。
4.× 前脛骨筋に治療的電気刺激を行う優先度は低い。なぜなら、治療的電気刺激は末梢運動神経の障害がないことが条件であるため。機能的電気刺激(FES)は、脳卒中、脊髄損傷等により運動麻痺を呈している方に適応となる。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが障害されている。
5.〇 正しい。右側プラスチック短下肢装具を装着する。なぜなら、足関節背屈を補助するため。装具を装着することで、つまずきを予防できると考えられる。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

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12 56歳の男性。数年前から頸椎椎間板ヘルニアを指摘されていた。昨日、自宅で転倒して突然に麻痺を呈した。頸髄損傷と診断され、主な損傷部位以下の機能はASIA機能障害尺度でBである。頸椎MRIを下図に示す。
 正しいのはどれか。


1. 横隔膜の麻痺がある。
2. 肩をすくめることができる。
3. スプーンを握り食事ができる。
4. 棚の上の物をとることができる。
5. 頸部を回旋することができない。

解答2

解説

本症例のポイント

・56歳の男性(頸椎椎間板ヘルニア)
・昨日、自宅で転倒、突然に麻痺を呈した。
・頸髄損傷(損傷部位以下の機能:ASIA機能障害尺度B(不全麻痺):S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存。
・頸椎MRI:C6レベルの頚髄圧迫
→本症例は、C6レベルの頚髄圧迫の不全麻痺と考えられる。C6機能残存レベルは、【主な動作筋】大胸筋、橈側手根屈筋、【運動機能】肩関節内転、手関節背屈、【移動】車椅子駆動(実用レベル)、【自立度】中等度介助(寝返り、上肢装具などを使って書字可能、更衣は一部介助)である。C6機能残存レベルのプッシュアップは、肩関節外旋位・肘関節伸展位・手指屈曲位にて骨性ロックを使用し、不完全なレベルであることが多い。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

1.× 横隔膜の麻痺は、C3~5の髄節レベルである。そのため、本症例は横隔膜の麻痺は起こらない。
2.〇 正しい。肩をすくめること(肩甲帯挙上)ができるのは、C5の髄節レベルであるため行える。
3.× スプーンを握り食事ができるのは、C8機能残存レベル(手指屈筋レベル)が必要である。
4.× 棚の上の物をとることができるのは、C7機能残存レベル(肘伸展レベル)が必要である。
5.× 頸部を回旋(胸鎖乳突筋)は、C2~3の髄節レベルである。そのため、本症例は頸部を回旋することができる。

ASIAの機能障害尺度の運動障害

A(完全麻痺):S4~5の知覚・運動ともに完全麻痺。
B(不全麻痺):S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存。
C(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満。
D(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上。
E(正常):運動、知覚ともに正常。

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13 58歳の女性。12年前発症の関節リウマチ。突然指が伸展できなくなり受診した。
 受診時の手の写真を下図に示す。
 障害されたのはどれか。


1. 橈骨神経
2. 長橈側手根伸筋
3. (総)指伸筋
4. 固有示指伸筋
5. 尺側手根伸筋

解答3

解説

写真では、第3~5指の伸展が不能であるが、第2指の伸展と手関節の掌背屈(中間位保持)が可能であるのが特徴である。

1.× 橈骨神経は、下垂手となる。障害されれば、示指伸展もみられないはずである。
2.× 長橈側手根伸筋の【起始】上腕骨外側縁、外側上顆および外側上腕筋間中隔、【停止】第2中手骨底の背面橈側である。写真では、手関節掌背屈中間位で保持できているため不適切である。
3.〇 正しい。(総)指伸筋の【起始】上腕骨の外側上顆、前腕筋膜の内面と肘関節包、【停止】中央は中節骨底、両側は合して末節骨底である。写真は、第3~5指の伸展が不能であるが、第2指の伸展と手関節の掌背屈(中間位保持)が可能である。そのため、(総)指伸筋の障害であると分かる.
4.× 固有示指伸筋の【起始】尺骨後面下部、前腕骨間膜背面【停止】第2指の指背腱膜である。示指の伸展が可能なことから不適切である。
5.× 尺側手根伸筋の【起始】上腕頭:内側上顆と前腕筋膜、尺骨頭:肘頭から尺骨中部までの後縁【停止】豆状骨、豆鉤靭帯、豆中手靭帯、有鉤骨、第5中手骨底である。手関節の掌背屈(中間位保持)が可能なところから不適切である。

”関節リウマチとは?”

関節リウマチは、関節滑膜を炎症の主座とする慢性の炎症性疾患である。病因には、遺伝、免疫異常、未知の環境要因などが複雑に関与していることが推測されているが、詳細は不明である。関節炎が進行すると、軟骨・骨の破壊を介して関節機能の低下、日常労作の障害ひいては生活の質の低下が起こる。関節破壊(骨びらん) は発症6ヶ月以内に出現することが多く、しかも最初の1年間の進行が最も顕著である。関節リウマチの有病率は0.5~1.0%とされる。男女比は3:7前後、好発年齢は40~60歳である。
【症状】
①全身症状:活動期は、発熱、体重減少、貧血、リンパ節腫脹、朝のこわばりなどの全身症状が出現する。
②関節症状:関節炎は多発性、対称性、移動性であり、手に好発する(小関節)。
③その他:リウマトイド結節は肘、膝の前面などに出現する無痛性腫瘤である。内臓病変は、間質性肺炎、肺線維症があり、リウマトイド肺とも呼ばれる。
【治療】症例に応じて薬物療法、理学療法、手術療法などを適宜、組み合わせる。

(※参考:「関節リウマチ」厚生労働省HPより)

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【暗記用】上肢筋の起始・停止・作用・神経を完璧に覚えよう!
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14 25歳の男性。野球の試合で走塁中に右大腿後面に違和感と痛みとを生じ、近くの整形外科を受診した。大腿部エックス線写真では骨折を認めなかった。
 現時点の対応で適切でないのはどれか。

1. 下肢の挙上
2. 浮腫の予防
3. アイシング
4. 超音波照射
5. 弾性包帯での圧迫

解答4

解説

本症例のポイント

・25歳の男性。
・野球の試合で走塁中に右大腿後面に違和感と痛みとを生じた。
・大腿部エックス線写真では骨折を認めなかった。
→本症例は、エックス線写真上で骨折はないことから、筋・腱など軟部組織の損傷と推察される。筋や腱の受傷直後の対応は、RICE処置を行う。RICE処置とは、①安静(Rest)、②冷却(Ice)、③圧迫(Compression)、③挙上(Elevation)することで、これらの頭文字をとったものである。

1.〇 下肢の挙上(Elevation)は、RICE処置である。
2.〇 浮腫の予防(Rest)は、RICE処置である。安静(Rest)には、血管の損傷や浮腫の予防のため、患部の運動の制限が含まれる。
3.〇 アイシング(Ice)は、RICE処置である。
4.× 超音波照射は、非温熱効果で急性期から実施することもあるが、RICE処置を優先する。
5.〇 弾性包帯での圧迫(Compression)は、RICE処置である。

 

 

 

 

 

15 Thomasテスト(変法)による検査を図に示す。
 この検査で評価できないのはどれか。


1. 右腸腰筋の短縮
2. 左大殿筋の短縮
3. 左腓腹筋の短縮
4. 左ヒラメ筋の短縮
5. 左大腿四頭筋の短縮

解答3

解説

Thomasテスト(変法)は、ベッド側へ足に下垂した股関節屈曲拘縮の原因を鑑別する検査である。本問題は、Thomasテスト(変法)というより、足関節を背屈していることで検査肢位によって「伸張されない筋」を選択する。

1.〇 右腸腰筋の短縮は検査できる。Thomasテスト(変法)がそのまま当てはまる。右股関節は伸展されるような肢位であり、右腸腰筋が伸張される肢位であるため検査できる。
2.〇 左大殿筋の短縮は検査できる。なぜなら、左大殿筋が伸張される肢位で、さらに検査者が左股関節は屈曲しているため。
3.× 左腓腹筋の短縮は検査できない。なぜなら、腓腹筋は2関節筋であるため。腓腹筋が伸張されるのは、膝関節伸展位での足関節背屈を行ったときである。ヒラメ筋の短縮は検査できる。
4.〇 左ヒラメ筋の短縮は検査できる。なぜなら、ヒラメ筋は単関節筋であるため。左膝関節屈曲位で左足関節背屈していることから、ヒラメ筋が伸張される肢位である。
5. 左大腿四頭筋(大腿直筋を除く)の短縮は検査できる。なぜなら、左膝関節屈曲位で、大腿四頭筋(大腿直筋を除く)が伸張される肢位であるため。△をした理由は、大腿四頭筋と書かれた場合、大腿直筋も含まれるため。選択肢3.4で腓腹筋とヒラメ筋を分けているのであれば、大腿四頭筋と書かれた場合、評価できない大腿直筋も含まれる大腿四頭筋を評価できるとするのは違和感が残る。私の知識不足もあるため、分かる方がいらしたら、コメント欄にて教えてください。

Thomasテストとは?

Thomasテストは、股関節の屈曲の主動作筋である腸腰筋(腸骨筋・大腰筋・小腰筋)による屈曲拘縮の有無を評価する検査法である。患者を背臥位にし、一側の膝を屈曲させ胸に近づけて、骨盤を後傾(後屈)位とする。その際に、反対側(検査側)の股関節が屈曲し膝が持ち上がれば陽性となる。

 

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