第49回(H26) 理学療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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次の文により5、6の問いに答えよ。
 58歳の男性。生来健康であったが、突然のめまいと歩行困難で救急搬送された。脳梗塞の診断で理学療法が開始された。理学療法の初期評価では、めまい、眼振とともに、右側には小脳性の運動失調、Horner症候群および顔面の温痛覚障害がみられた。
 左側には上下肢の温痛覚障害がみられたが深部感覚は保たれていた。

6 この患者が立位をとったところ、不安定で突進するような現象(pulsion)がみられるために介助が必要であった。
 この現象がみられる方向はどれか。

1. 後方
2. 前方
3. 右側方
4. 左側方
5. 全方向

解答3

解説

pulsionとは、突進現象のことである。Wallenberg症候群の症状である小脳性運動失調は、病巣側に倒れやすいという特徴がある。また、問題文にも右側には小脳性の運動失調が見られていると記載がある。したがって、この症例では右側に突進する。よって、選択肢3.右側方が正しい。

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)とは?

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)は、椎骨動脈、後下小脳動脈の閉塞により延髄外側の梗塞を来す疾患である。①梗塞と同側の顔面感覚障害(温痛覚)、②梗塞と同側の運動失調(上下肢の動かしづらさ)、③梗塞と同側のホルネル(Horner)症候群(一側眼の瞼裂狭小化、縮瞳、眼球陥凹)、④梗塞と反対側の半身感覚障害(頸から下の温痛覚)、⑤嗄声、嚥下障害、⑥回転性めまい、眼振、⑦味覚障害が生じる。

(※参考:「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

7 脳卒中片麻痺患者の麻痺側の足背屈可動域を測定した結果を表に示す。
 解釈で正しいのはどれか。


1. ヒラメ筋の短縮がある。
2. 分離運動の障害がある。
3. 足の靱帯に疼痛がある。
4. 腓腹筋の収縮時痛がある。
5. 前脛骨筋の筋力はMMT2未満である。

解答2

解説

 

本症例のポイント

・脳卒中片麻痺患者の麻痺側の足背運動
・膝関節屈曲位では関節可動域制限がない。
・膝関節伸展位では自動可動域で制限あり
→落ち着いて選択肢を消去していく。この症例は、腓腹筋の短縮のほかにも膝関節伸展位での足関節背屈の分離運動に障害があると考えられる。

1.× ヒラメ筋の短縮があるならば、膝屈曲位でも伸展位と同じ背屈制限が起こる。なぜなら、ヒラメ筋は単関節筋であるため。
2.〇 正しい。分離運動の障害がある。
3.× 足の靱帯に疼痛があるならば、より運動範囲の大きい膝屈曲位に疼痛が生じる。
4.× 腓腹筋の収縮時痛があると判断できない。なぜなら、腓腹筋は足関節底屈筋であるため。収縮時痛とは、その名の通り筋が収縮した際に生じる痛みのことである。
5.× 前脛骨筋の筋力は、MMT3以上である。なぜなら、膝関節屈曲位にて足関節背屈の自動運動が全可動域可能であるため。

 

 

 

 

8 60歳の男性。Parkinson病。3年前に右手の振戦で発症し、2年前から左足と左手の振戦を認めている。最近、前かがみが強くなり、腹部が締めつけられるような感覚を生じることがある。独歩は可能。事務仕事を継続している。
 外来時の指導で適切なのはどれか。

1. 呼吸法
2. 毎日10分間の散歩
3. 体幹コルセットの装着
4. 四肢の高負荷筋力トレーニング
5. 肩甲帯と体幹を大きく動かす運動

解答5

解説

本症例のポイント

・60歳の男性(Parkinson病)
・3年前:右手の振戦で発症。
・2年前:左足と左手の振戦。
・最近:前かがみが強くなり、腹部が締めつけられるような感覚を生じる。独歩可能。事務仕事を継続
→本症例は、Parkinson病の初期(Yahr分類ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。)と考えられる。就労と自宅内の生活、自主トレーニングの継続が主な理学療法の目的となる。

1.× 呼吸法は優先度が低い。前傾姿勢が強くなり胸郭が圧迫され始めるYahr分類ステージⅣあたりから始める。
2.4.× 毎日10分間の散歩/四肢の高負荷筋力トレーニングは、現在専務の仕事をしており活動性は保たれているため優先度は低い。
3.× 体幹コルセットの装着は、体幹の動きを制限するためのもので、主に圧迫骨折などで使用される。Parkinson病は体幹の動きを促すため、どのステージでも必要ない。
5.〇 正しい。肩甲帯と体幹を大きく動かす運動を現時点で外来時の指導で適切である。前傾姿勢の予防につながる。

Hoehn&Yahr の重症度分類ステージ

ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

 

 

 

 

 

9 健常児。最近、腹臥位にて図に示す姿勢をとるようになった。
 この月齢で残存している可能性が最も高い反射はどれか。


1. Moro反射
2. Galant反射
3. 交叉伸展反射
4. 足底把握反射
5. 非対称性緊張性頸反射

解答4

解説

本症例のポイント

・健常児の腹臥位
反り返り姿勢(ピボットプローンポジションである。腹臥位で両上肢を外転、両下肢を伸展・外転、脊柱を伸展して腹部を支点とする姿勢で4~5か月児にみられる。

1.× Moro反射(モロー反射)は、4~6か月までに消失する。背臥位の子どもの後頭部に手をやって15 cmほど頭を持ち上げ、頭を落下させると、両上肢が伸展、外転し、続いて内転が起こる。
2.× Galant反射(ガラント反射、側彎反射、背反射とも)は、2か月までに消失する。脊柱の外側に沿って上から下へこすると刺激側の背筋が収縮して側屈する。
3.× 交叉伸展反射は、2か月までに消失する。検者が一側下肢を伸展させ、同側の足底を刺激すると反対側の下肢が屈曲し、その後に刺激を与えている検者の手を払いのけるように伸展・交差する。
4.〇 正しい。足底把握反射(足趾把握反射)は、9か月までに消失する。残存している可能性が最も高い。新生児の母趾球を検者の母指で圧迫すると、全趾が屈曲する。
5.× 非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、4~6か月までに消失する。背臥位にした子どもの顔を他動的に一方に回すと、頸部筋の固有感覚受容器の反応により、顔面側の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する。

 

苦手な方向けにまとめました。参考にしてください↓

【暗記用】姿勢反射を完璧に覚えよう!

 

 

 

 

 

10 25歳の男性。オートバイ運転中に乗用車と接触して頭部を強打し救急搬送され、外傷性脳損傷と診断された。理学療法が開始され2か月が経過した。FIMは92点。
 基本動作はすべて可能であるが、注意散漫になりやすい。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅵ、下肢Ⅴ、modified Ashworth scale1、歩行速度は0.9m/s、functional balance scaleは52点であった。
 現時点の理学療法で重点的に行う内容はどれか。

1. 痙縮の軽減
2. 平地歩行練習
3. 二重課題練習
4. 分離運動の促通
5. 立位バランス運動

解答3

解説

本症例のポイント

・25歳の男性(外傷性脳損傷)
・理学療法開始2か月経過:FIM92点。基本動作自立、注意散漫になりやすい。
・Brunnstrom法ステージは上肢Ⅵ(腰の後方へ手をつける。肘を伸展させて上肢を前方水平へ挙上。肘90°屈曲位での前腕回内・回外)、下肢Ⅴ(立位で股伸展位、またはそれに近い肢位、免荷した状態で膝屈曲分離運動。立位、膝伸展位で足を少し前に踏み出して足関節背屈分離運動
・modified Ashworth scale1(軽度の筋緊張亢進があり、ひっかかりや可動域の終末でわずかな抵抗がある
・歩行速度:0.9m/s。(平均0.8~1.0m/s)
・functional balance scale:52点(56点満点)
→検査結果から問題点の抽出を行う問題である。FBS(functional balance scale)とは、バランス能力の低下を発見するスクリーニング検査である。14項目について、0~4点の5段階で評価する。56点満点である。得点が高いほどバランス機能良好である。一般的には、Berg Balance Scale(BBS)を指す。

1.× 痙縮の軽減を図るより優先度が高いものが他にある。なぜなら、modified Ashworth scale1屈曲にて可動域終わりに抵抗あり)で痙縮は軽度であるため。
2.× 平地歩行練習より優先度が高いものが他にある。なぜなら、歩行速度は0.9m/sで、歩行障害は軽度であるため。
3.〇 正しい。二重課題練習を行う。なぜなら、本症例は、注意散漫になりやすいため。二重課題練習をおこなうことで、注意の分散に対してアプローチする。
4.× 分離運動の促通を図るより優先度が高いものが他にある。なぜなら、Brunnstrom法ステージは上肢Ⅵ、下肢Ⅴであり現段階では分離運動が行えている。
5.× 立位バランス運動より優先度が高いものが他にある。なぜなら、functional balance scaleは52点(56 点満点)であり、バランス障害は軽度であるため(判定基準:合計点が45点以下は転倒のリスクが高い。)。

modified Ashworth scaleの判定基準

0:筋緊張の亢進がない
1:軽度の筋緊張亢進があり、ひっかかりや可動域の終末でわずかな抵抗がある
1+:軽度の筋緊張亢進があり、ひっかかりと引き続く抵抗感が残りの可動域(1/2以内)にある
2:さらに亢進した筋緊張が可動域ほぼ全域にあるが、他動運動は可能
3:顕著な筋緊張亢進があり、他動運動は困難
4:他動運動では動かない。

 

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