第56回(R3) 理学療法士国家試験 解説【午前問題41~45】

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41 関節リウマチに対する運動療法で正しいのはどれか。

1.活動期では関節可動域運動は行わない。
2.環軸椎亜脱臼では頚椎可動域運動を行う。
3.関節強直では関節可動域運動を行う。
4.等尺性運動で筋力を維持する。
5.ムチランス変形では他動運動を行う。

解答

解説

”関節リウマチとは?”

関節リウマチは、関節滑膜を炎症の主座とする慢性の炎症性疾患である。病因には、遺伝、免疫異常、未知の環境要因などが複雑に関与していることが推測されているが、詳細は不明である。関節炎が進行すると、軟骨・骨の破壊を介して関節機能の低下、日常労作の障害ひいては生活の質の低下が起こる。関節破壊(骨びらん) は発症6ヶ月以内に出現することが多く、しかも最初の1年間の進行が最も顕著である。関節リウマチの有病率は0.5~1.0%とされる。男女比は3:7前後、好発年齢は40~60歳である。
【症状】
①全身症状:活動期は、発熱、体重減少、貧血、リンパ節腫脹、朝のこわばりなどの全身症状が出現する。
②関節症状:関節炎は多発性、対称性、移動性であり、手に好発する(小関節)。
③その他:リウマトイド結節は肘、膝の前面などに出現する無痛性腫瘤である。内臓病変は、間質性肺炎、肺線維症があり、リウマトイド肺とも呼ばれる。
【治療】症例に応じて薬物療法、理学療法、手術療法などを適宜、組み合わせる。

(※参考:「関節リウマチ」厚生労働省HPより)

関節保護の原則とは?

関節リウマチ患者に対する日常生活の指導は、関節保護の原則に基づき行う。関節保護の原則とは、疼痛を増強するものは避けること、安静と活動のバランスを考慮すること、人的・物的な環境を整備することがあげられる。変形の進みやすい向きでの荷重がかからないように手を使う諸動作において、手関節や手指への負担が小さくなるように工夫された自助具が求められる。

1.× 活動期では関節可動域運動を行う。なぜなら、全く動かさないでいると、拘縮につながるため。関節を保護しながら生活の中で手足を使うことが重要である。ただし、リウマチの活動期におけるリハビリテーションの原則は、疼痛と鎮静と変形の予防であるため、それら増強をしないよう負担をかける筋力強化訓練は避けるべきである。
2.× 環軸椎亜脱臼では頚椎可動域運動を行わない。特に、頸部の屈曲は禁忌である。なぜなら、頚椎亜脱臼のような頚椎障害は、頚椎間のゆるみによっておきており、頸椎可動域運動により頚髄圧迫症状(頭痛、運動麻痺、感覚障害)の出現の恐れがあるため。
3.× 関節強直では関節可動域運動を行わない。関節強直とは、徒手的には改善困難な関節可動域制限の状態で、関節が破壊されて変形を起こし、機能しなくなった状態である。したがって、手術適応になる場合がある。炎症や痛みが強い場合など、無理に曲げ伸ばしを行うべきではない。関節可動域運動は、関節強直が起こる前で炎症が強くない時期に行う。
4.〇 正しい。等尺性運動で筋力を維持する。なぜなら、関節運動を伴わずに、筋力の維持向上を図れるため。
5.× ムチランス変形では、「他動運動」ではなく自動運動を行う。ムチランス変形とは、手指の骨端が短縮した状態のことである。関節可動性が亢進しているため、自動運動を中心に行い、軟性のスプリントやテーピングで関節保護を行う。

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【PT専門のみ】関節リウマチについての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

42 車椅子からベッドへの移乗動作において、フットサポートに足を乗せたまま立ち上がろうとすることに関連する病巣はどれか。

1.前頭葉
2.視床
3.被殻
4.中脳背側
5.小脳虫部

解答

解説
 前頭葉の障害において、遂行機能障害注意障害、社会的に不適切な行動、さらに著しい自制の欠如が現れる可能性がある。本症例の「車椅子からベッドへの移乗動作において、フットサポートに足を乗せたまま立ち上がろうとする」様子は、まさに遂行機能障害や注意障害に関連部会といえる。よって、選択肢1.前頭葉が正しい。

2.× 視床は、主に感覚の中継を担う。障害されると感覚障害、視床痛、運動失調などがみられる。
3.× 被殻の障害では、主に運動麻痺がおこる。他にも、感覚障害がみられる。
4.× 中脳背側は、主になめらかな動きを可能にする錐体外路性運動系の重要な中継所である。また、中脳背側の上丘の障害により、中脳背側症候群(パリノー症候群:Parinaud症候群)がみられる。症状は、垂直注視麻痺や調節・輻輳反射の消失である。
5.× 小脳虫部は、主に体幹の平衡感覚を担う。障害されると体幹運動失調、酩酊様歩行などがみられる。

(図引用:中脳断面図 Wikiより)

 

 

 

 

 

43 高齢者の転倒で生じやすいのはどれか。

1.距骨骨折
2.脛骨骨折
3.肩甲骨骨折
4.踵骨骨折
5.橈骨骨折

解答

解説

高齢者の転倒による骨折

①大腿骨近位部骨折
②脊椎圧迫骨折
③上腕骨近位部骨折
④橈骨遠位端骨折

1.× 距骨骨折は、外部より比較的強い衝撃が加わったり、高所よりの転落により生じやすい。比較的まれな骨折である。
2.× 脛骨骨折は、一般的には事故スポーツによる比較的に強い衝撃で骨折することが多い。
3.× 肩甲骨骨折は、肩周囲の骨折の中では稀な骨折である。単独で起こることは稀で上肢や肋骨の骨折を伴うことがほとんどである。転倒や交通事故などで生じる。ちなみに、肩甲骨骨折には、①直達外力による肩甲骨体部の骨折、②転倒の際の介達外力による肩甲骨頸部の骨折、③肩関節脱臼に伴う肩甲骨関節窩の骨折などがある。
4.× 踵骨骨折は、高所よりの転落や階段を踏み外すことによって生じる。
5.〇 正しい。橈骨骨折は、高齢者の転倒で生じやすい。特に、遠位端において高齢者では好発する。転倒し手をついた際におこる骨折であり、骨粗鬆症のある方では多発する。

橈骨遠位端骨折

Smith骨折(スミス骨折):Colles骨折とは逆に骨片が掌側に転位する。

Colles骨折(コーレス骨折):Smith骨折とは逆に骨片が背側に転位する。

Barton骨折(バートン骨折):橈骨遠位部の関節内骨折である。遠位部骨片が手根管とともに背側もしくは掌側に転位しているものをいう。それぞれ背側Barton骨折・掌側Barton骨折という。

 

 

 

 

 

 

44 筋萎縮性側索硬化症の進行により非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉療法を適応すべき数値はどれか。

1.PaO2:80mmHg
2.PaCO2:60mmHg
3.睡眠中SpO2:94%
4.最大吸気圧:75cmH2O
5.%努力性肺活量(%FVC):85%

解答

解説

非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉療法

非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉療法は、気管切開することなくマスクを介して換気を行う治療法である。高二酸化炭素血漿を伴う呼吸不全(Ⅱ型呼吸不全)が対象となる。非侵襲的陽圧換気は、挿管をせずに鼻・口にマスクを使用した陽圧換気法で、患者にとって負担の少ない補助換気法である。気管内挿管が不要であるため患者は、苦痛が少ないが、挿管をして換気を行う侵襲的陽圧換気法の方が気道確保や換気は確実である。

【睡眠時のNPPVの適応】
①慢性肺胞低換気(肺活量が60%以下の場合はハイリスク)
②昼間に酸素飽和度以下(94%以下)または高二酸化炭素血症(45mmHg以下)
③睡眠時SpO2モニターで、apnea-hypopnea index(AHI)が10/時間以上、SpO2が92%未満になることが4回以上か、全睡眠時間の4%以上

【睡眠時に加えて覚醒時のNPPVの適応】
①呼吸困難に起因する嚥下困難
②ひと息に長い文章を話せない
③慢性肺胞低換気症状を認め、昼間に酸素飽和度以下(94%以下)または高二酸化炭素血症(45mmHg以上)

(引用:NPPVガイドライン改訂第2版より)

1.× PaO2(動脈血酸素分圧)は、肺における血液酸素化能力の指標である。基準値は、若年健康者でほぼ100Torr(mmHg)、老年健康者で約80Torr(mmHg)である。設問のPaO2:80mmHgは正常範囲である。
2.〇 正しい。PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)は、動脈血中の二酸化炭素の分圧を表す。換気の指標として用いられる。正常値は35〜45Torr(mmHg)であり、PaCO2>45Torr(mmHg)の状態だと、換気量が低下していることを示す。したがって、設問のPaCO2:60mmHgは、非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉療法を適応すべき数値と考えられる。
3.× SpO2(動脈血酸素飽和度)は、正常範囲は94%以上である。睡眠中SpO290%以下になる場合は、夜間の非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉療法の導入を検討する。睡眠中の無呼吸によって血液中の酸素濃度が下がり、「低酸素血症」が生じ、心拍数や血圧が上昇する。
4.× 最大吸気圧(PIP)とは、人工呼吸器から送り出す吸気時の圧力を示している。正常値としては、75~100cmH2Oである。設問の最大吸気圧:75cmH2Oは正常範囲である。
5.× %努力性肺活量とは、胸いっぱいに空気を吸ってから可能な限り(最大限の努力で)一気に吐き出す量をいう。喘息などの閉塞性の呼吸器疾患があると、すべて吐き出すことができず努力性肺活量が減少する。基準値は80%以上である。80%未満で拘束性換気障害と判断する。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

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45 悪性腫瘍の合併がない初発の皮膚筋炎で、死因となる頻度が最も高い合併症はどれか。

1.肝不全
2.腎不全
3.心筋梗塞
4.間質性肺炎
5.ステロイドミオパチー

解答

解説

多発性筋炎(皮膚筋炎)とは?

多発性筋炎とは、自己免疫性の炎症性筋疾患で、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下をきたす。典型的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ぶ。膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患で、遺伝はなく、中高年の女性に発症しやすい(男女比3:1)。5~10歳と50歳代にピークがあり、小児では性差なし。四肢の近位筋の筋力低下、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状がみられる。手指、肘関節や膝関節外側の紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な症状がある。合併症の中でも間質性肺炎を併発することは多いが、患者一人一人によって症状や傷害される臓器の種類や程度が異なる。予後は、5年生存率90%、10年でも80%である。死因としては、間質性肺炎や悪性腫瘍の2つが多い。悪性腫瘍に対する温熱療法は禁忌であるので、その合併が否定されなければ直ちに温熱療法を開始してはならない。しかし、悪性腫瘍の合併の有無や皮膚症状などの禁忌を確認したうえで、ホットパックなどを用いた温熱療法は疼痛軽減に効果がある。

(※参考:「皮膚筋炎/多発性筋炎」厚生労働省様HPより)

1~2.× 肝不全/腎不全は、まれである。腎不全に至っては、他の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス:SLEなど)ではよく合併する。
3.× 心筋梗塞は、まれである。心筋障害の合併は、10~30%で認められるが、心不全、不整脈、心筋炎、心筋梗塞など合わさった数字である。死因となることもあるが、間質性肺炎のほうが圧倒的に多い。
4.〇 正しい。間質性肺炎は、悪性腫瘍の合併がない初発の皮膚筋炎で、死因となる頻度が最も高い。特に筋炎症状が乏しいのに皮膚症状が強い皮膚筋炎に合併する場合は、急速に間質性肺炎が進行する事があるため、出来るだけ早く治療する必要がある。ちなみに、他に多い死因として、悪性腫瘍(3割)、感染症である。
5.× ステロイドミオパチーは、皮膚筋炎治療中に合併することがある。ステロイドミオパチーとは、グルココルチコイドによって誘発されるミオパチー(筋疾患)である。あらゆるグルココルチコイド療法において発生し得る副作用である。特に高齢者、栄養不良の患者、担がん患者において発生しやすいが、死因とはなりにくい

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