第49回(H26) 理学療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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6 80歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom 法ステージは上肢、手指、下肢ともにⅢ。右短下肢装具を装着し1本杖歩行は15mまでは可能である。12段の階段昇降は可能であるが、そばで見守る必要がある。
 歩行と階段のFIMの点数の組合せで正しいのはどれか。

1. 歩行6点 ― 階段6点
2. 歩行5点 ― 階段6点
3. 歩行5点 ― 階段5点
4. 歩行4点 ― 階段5点
5. 歩行4点 ― 階段4点

解答3

解説

【歩行】

6点(修正自立):50m以上歩行しているが補装具が必要な場合。

5点(監視):50mに満たないが補装具使用の有無にかかわらず、最低15m程度の歩行が自立

4点(最小介助):最小の介助が必要な場合。

【階段昇降(12~15段:一階分)】

6点(修正自立):手すりや杖などを必要な場合。

5点(監視):監視や指示が必要な場合。

4点(最小介助):最小な介助が必要な場合。

本症例のポイント

本症例は、

歩行:下肢装具を使用した杖歩行が15m可能。(5点:監視)
階段:12段の階段昇降は可能であるが、そばで見守る必要がある。(5点:監視)

したがって、選択肢3.歩行5点 ― 階段5点が正しい。

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7 72歳の女性。右中大脳動脈領域の脳梗塞による左片麻痺。立位時に左下肢の外旋と足部内反が著明であり、歩行時に装具を装着している。
 最も適応となりにくいのはどれか。

1. ツイスター
2. 非麻痺側補高
3. 逆Thomasヒール
4. 外側フレアヒール
5. 内側Yストラップ

解答5

解説

ツイスター(※写真引用:厚生労働省様HP)

本症例のポイント

・72歳女性(左片麻痺)
・立位時:左下肢外旋足部内反著明
・歩行時:装具装着

1.× ツイスターは、下肢の回旋変形を矯正する装具である。特に、立位歩行時に下肢が内旋する場合に用いるものである。
2.× 非麻痺側補高することで、足部内反による脚長差の改善(歩行時のトゥクリアランス改善)ができる。
3.× 逆Thomasヒールは、内反矯正に用いられる。
4.× 外側フレアヒールは、内反矯正に用いられる。
5.〇 正しい。内側Yストラップは、外反矯正に用いるものであるため不適切である。内反矯正には、外側Tストラップが適応である。

 

 

 

 

8 45歳の女性。脊髄小脳変性症。ADLは自立している。独歩は可能で、会社へは電車で通勤している。最近ふらつきが多くなり、ときに転倒することがあるという。
 この患者に指導する内容として適切なのはどれか。

1. 背臥位でのストレッチ
2. 眼球運動による前庭刺激運動
3. 立位での下肢筋力増強
4. 外的リズムに合わせた平地歩行
5. T字杖を使用した応用歩行

解答3

解説

本症例のポイント

・45歳の女性(脊髄小脳変性症)
・ADL:自立。
・独歩:可能(最近ふらつきが多くなり、ときに転倒することがある)
・会社への通勤:電車
→本症例は、脊髄小脳変性症の初期である。

1.× 背臥位でのストレッチは優先度は低い。なぜなら、ストレッチは脊髄小脳変性症の主症状である運動失調(協調性運動)改善が見込めないため。ちなみに、ストレッチは、軟部組織の伸張や体を温める効果があげられる。
2.× 眼球運動による前庭刺激運動は、前庭機能低下による平衡機能障害に対する運動療法である。
3.〇 正しい。立位での下肢筋力増強である。小脳失調を主体とする脊髄小脳変性症に対して、バランス歩行に対する理学療法を集中的に行うと、小脳失調や歩行が改善する(グレード1B)(※引用:「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」
4.× 外的リズムに合わせた平地歩行は、パーキンソン病に対する理学療法である。
5.× T字杖を使用した応用歩行よりも優先度が高い選択肢が他にある。本症例は、「ときに転倒」レベルである。国語の授業のようになってしまうが、頻度を表現する言葉には「よく、ときおり、ほとんど」などが用いられる。「ときに」は、頻度を含む「時々、たまに」という意味も含まれているが、一番よくつかわれるのは「場合によっては」という意味であり、「条件」の意味が大きい。場合によった条件下での転倒であるので、T字杖を使用した場合でも防ぐことができるかは疑問が残り、また、臨機応変の環境変化にも対応すべく「T字杖」ではなく両側四点杖を使用した応用歩行を行うことが多い。ただし、本症例は、会社へは電車で通勤しており、荷物を持つことも想定に入れるため、両側の四点杖の使用も現実的ではなく、仮に安全に会社通勤を行うのであれば、電車ではなくタクシーなどに変更するよう指導する。※T字杖の使用自体が間違いといったことではない。”歩行補助具として、脊髄小脳変性症ではT字杖、ロフストランド杖、抑速ブレーキ付き歩行器もしくは重錘バンドを巻いた歩行器などが使用されている”(※一部抜粋:「脊髄小脳変性症理学療法ガイドライン 」より)。

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

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9 5歳の男児。アテトーゼ型四肢麻痺。未定頸で体幹のコントロールは悪く、自力での寝返りと座位保持はできない。臥位姿勢では、下肢のはさみ肢位を伴う後弓姿勢がしばしばみられ、緊張性頸反射と緊張性迷路反射は残存している。
 この児に座位保持装置を作製する際に必要な調整で誤っているのはどれか。

1. ヘッドレストを付ける。
2. リクライニング式にする。
3. 胸ベルトを付ける。
4. 座面を水平に保つ。
5. 骨盤ベルトを付ける。

解答4

解説

本症例のポイント

・5歳の男児(アテトーゼ型四肢麻痺
→アテトーゼ型四肢麻痺では、下肢よりも上肢(頸部)の障害が強い。錐体外路障害により動揺性の筋緊張を示す。

【頭部のポイント】
未定頸で体幹のコントロールは悪い。
②緊張性頸反射と緊張性迷路反射は残存
→頭部保持のサポートが必要。

【下肢のポイント】
①自力での寝返りと座位保持困難
②下肢のはさみ肢位を伴う後弓姿勢
→下肢伸展筋の緊張が高いため、股関節屈曲位の姿勢を保つ。

1. 〇 正しい。ヘッドレストを付ける。なぜなら、本症例は未定頸で体幹のコントロールは悪いため。ヘッドレストは、頭部のコントロールが不安定な患者に使用され、安定させる機能を持つ。
2. 〇 正しい。リクライニング式にする。なぜなら、未定頚で自力での座位保持が困難であるため。リクライニング式にして背もたれに寄り掛かれるように調整することで安定する。
3. 〇 正しい。胸ベルトを付ける。なぜなら、体幹コントロールが悪いため。
4. × 座面を水平に保つ優先度は低い。座面は、「水平」ではなくやや後ろに傾ける。そうすることで股関節屈曲位を保て下肢伸展筋の緊張抑制に寄与する。
5. 〇 正しい。骨盤ベルトを付ける。なぜなら、骨盤の前方へのずれと、下肢のはさみ肢位の予防ため。ちなみに、体幹ベルトは体幹に巻き支えるものである。

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【PT/OT/共通】脳性麻痺についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

10 9歳の男児。Duchenne型筋ジストロフィー。独歩は可能だが、腹部を突き出し両肩を左右に振る動揺歩行と内反尖足とが顕著である。床からの立ち上がり動作では登はん性起立を示し、柱などにつかまればかろうじて立ち上がることができる。上肢に拘縮はなく、ゆっくりであるが両上肢を挙上することができる。
 この時期に行う理学療法士の対応で優先度が高いのはどれか。

1. 電動車椅子の購入を家族に提案する。
2. 下肢の漸増抵抗運動を行う。
3. 四つ這い移動の練習を行う。
4. 松葉杖歩行の練習を行う。
5. 体幹装具を装着させる。

解答3

解説

本症例のポイント

・9歳の男児(Duchenne型筋ジストロフィー)
・独歩:可能(動揺歩行・内反尖足が顕著)
・床からの立ち上がり動作:登はん性起立、柱などにつかまればかろうじて立ち上がることができる
・上肢拘縮はなく、ゆっくりであるが両上肢を挙上することができる。
→本症例は、Duchenne型筋ジストロフィーのステージ4(歩行可能 イスからの立ち上がり不能)である。この時期は、過負荷に注意しつつ残存能力を維持(ストレッチや筋力維持)と、あわせて環境整備を行っていく。

1.× 電動車椅子の購入を家族に提案するのは、歩行が不能になるステージ5以降である。本症例には時期尚早である。
2.× 下肢の漸増抵抗運動(抵抗を徐々に強くする運動)は過負荷になるため行わない。主に、低負荷での立ち上がり練習や歩行練習を行う。
3.〇 正しい。四つ這い移動の練習を行う。現在ステージ4で独歩は可能であるが、動揺歩行や内反尖足、登攀性起立などの様子がみられる。ステージ5から、主な移動は四つ這いとなるため、スムーズな移行のためにも練習しておく。
4.× 本症例は独歩可能であるため、松葉杖歩行の練習は行わない。進行するにつれ、①歩行器→②手すり→③手びき→④四つ這いのように理学療法を行っていく。また、松葉杖は免荷のために使用されることが多い。 
5.× 体幹装具を装着させるのは、ステージ5以降である。脊柱変形が顕在化する前に導入することが望ましく、歩行不可能となった時が 1 つの判断時期となる。脊柱変形が強くなった後に導入すると、突出した骨が装具に圧迫し痛みを生じやすく、また胸郭の拘束によって呼吸困難感を引き起こすために長時間の装着が難しくなる。したがって、呼吸理学療法を同時に行うことが必要である(※参考:「筋ジストロフィー患者への装具療法」著:山本洋史)

Duchenne型筋ジストロフィーのステージ

ステージ1 歩行可能 介助なく階段昇降可能(手すりも用いない)
ステージ2 階段昇降に介助(手すり、手による膝おさえなど)を必要とする
ステージ3 階段昇降不能 平地歩行可能 通常の高さのイスからの立ち上がり可能
ステージ4 歩行可能 イスからの立ち上がり不能
ステージ5 歩行不能 四つ這い可能
ステージ6 四つ這い不能だが、いざり移動可能
ステージ7 這うことはできないが、自力で坐位保持可能
ステージ8 ベッドに寝たままで体動不能 全介助

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