第47回(H24) 作業療法士国家試験 解説【午後問題31~35】

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31 小脳失調患者の上肢の協調性向上を目的とした方法で正しいのはどれか。

1.上肢遠位部に弾性緊迫帯を巻く。
2.上肢遠位部に重錘を負荷する。
3.筋にタッピング刺激を与える。
4.筋に寒冷刺激を与える。
5.筋の他動伸張を行う。

解答

解説

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

1.× 弾性緊迫帯を巻くのは、「上肢遠位部」ではなく「体幹や四肢近位部」に巻く。(弾性)緊縛帯法とは、四肢・体幹を圧迫固定することで運動効果を向上させる手段である。脊髄小脳変性症に対し、運動学習を進め、運動・動作の改善をはかることを目的に利用する。体幹四肢近位部の筋の筋腹から関節にかけて弾性包帯を巻いて圧迫する。
2.〇 正しい。上肢遠位部に重錘を負荷することは、小脳失調患者の上肢の協調性向上を目的とした方法である。これを重り負荷法(重錘負荷法)という。重り負荷法(重錘負荷法)とは、上下肢に重りを着用させることで運動学習を進め、運動・動作の改善を図る方法である。脊髄小脳変性症(運動失調)に適応となり、上肢では 200g~400g、下肢では 300g~600g 程度のおもりや重錘バンドを巻く。ほかのアプローチとして、弾性緊縛帯を装着することもある。
3.× 筋にタッピング刺激を与えることは、主に脳性麻痺に用いられることが多い。タッピングとは、対象とする筋をリズムよく叩くことによって、筋に注意が払われ効果的にトレーニングができる可能性がある方法である。
4.× 筋に寒冷刺激を与えることは、主に炎症抑制、鎮痛、リラクセーション、代謝率の低下である。
5.× 筋の他動伸張を行う(ストレッチ)は、拘縮予防や関節可動域の維持・向上に用いられることが多い。

寒冷療法の生理作用

寒冷療法の生理作用には、局所新陳代謝の低下、毛細血管浸透圧の減少、血管収縮とその後の拡張、感覚受容器の閾値の上昇、刺激伝達遅延による中枢への感覚インパルス減少、筋紡錘活動の低下等がある。これらの作用により、炎症や浮腫の抑制、血液循環の改善、鎮痛作用、筋スパズムの軽減が期待される。

(引用:「寒冷療法」物理療法系専門領域研究部会 著:加賀谷善教)

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32 上腕骨顆上骨折後の作業療法で正しいのはどれか。

1.固定期は、固定関節以外も安静に保つ。
2.固定期は、上肢下垂位のポジショニングに努める。
3.固定除去直後は、前腕の重さを利用して肘関節の可動域訓練を行う。
4.固定除去2週後から、2kgの重錘を用いて肘関節の持続伸張を行う。
5.固定除去4週目で肘関節拘縮が残存する場合は、強い矯正を加える。

解答

解説

上腕骨顆上骨折とは?

上腕骨顆上骨折は、小児の骨折中最多であり、ほとんどが転倒の際に肘を伸展して手をついた場合に生じる。転移のあるものは、肘頭が後方に突出してみえる。合併症は、神経麻痺(正中・橈骨神経)、フォルクマン拘縮(阻血性拘縮)、内反肘変形などである。

1.× 固定期(約4週間までの期間)は、固定関節以外も安静に保つ必要はない。むしろ、他の筋力の維持のため運動療法を実施する。つまり、固定関節以外も安静に保つ必要はなく、自由に動かしてよい。
2.× 固定期(約4週間までの期間)は、「上肢下垂位」ではなく「肘関節屈曲90°」のポジショニングに努める。なぜなら、肘関節屈曲90°は上肢下垂位よりも浮腫の予防や筋の伸張ストレスが緩和するため。
3.〇 正しい。固定除去直後は、前腕の重さを利用して肘関節の可動域訓練を行う。合併症である神経麻痺(正中・橈骨神経)、フォルクマン拘縮(阻血性拘縮)、内反肘変形などに注意をする。
4.× 2kgの重錘を用いて肘関節の持続伸張を行うのは、「固定除去2週後から」ではなく「8週後程度から」開始する。
5.× 肘関節拘縮が残存する場合でも強い矯正を加えることは行わない。なぜなら、強い矯正は組織の炎症や過剰仮骨からの骨性の強直をきたす恐れがあるため。ちなみに肘関節拘縮が残存する場合でも、自動運動にて改善可能である。

 

 

 

 

 

33 遂行機能障害のある頭部外傷患者がうまく日常生活を送るための補助手段でないのはどれか。

1.カレンダー
2.プリズム眼鏡
3.メモリーノート
4.アラーム付き時計
5.パーソナルコンピューター

解答

解説

遂行機能障害とは?

遂行機能障害とは、物事を計画し、順序立てて実行するという一連の作業が困難になる状態である。遂行機能障害に対する介入方法としては、解決方法や計画の立て方を一緒に考える問題解決・自己教示訓練が代表的である。

1.〇 カレンダーは、遂行機能障害の物事を計画する段階の補助として活用できる。また、カレンダーを使用することで重要なことに意識が向くようになる。
2.× プリズム眼鏡は、遂行機能障害のある頭部外傷患者がうまく日常生活を送るための補助手段でない。なぜなら、プリズム眼鏡は①斜視や斜位の矯正、②半側空間無視などに用いられるため。プリズム適応療法は、視野を右にずらすプリズム眼鏡をかけ、目標物を指さす課題を繰り返すと、最初は正確な位置を指すのが難しいが、次第にプリズムによる視覚情報に適応し、正確な位置を指せるようになる。そして、プリズム眼鏡をはずすと、今度は逆に目標物よりも左側を指すようになる。この現象が、左半側空間無視の治療に応用される。ただし、脳卒中治療ガイドラインでは、プリズム適応療法は、グレードC1(十分な科学的根拠がないが、行うことを考慮しても良い。有効性が期待できる可能性がある。)である。
3.〇 メモリーノートは、忘れてはならないことをノートに書き留め、見返すことで記憶の想起補助に使用するノートのことである。また展望記憶として、次に行うことをスケジュールすることも可能である。
4.〇 アラーム付き時計は、これから先に起こる行動予定時間にアラームを鳴らして展望記憶の補助として用いる。アラームが鳴ることで目的に従って効率的な手段や行動を補助する。
5.〇 パーソナルコンピューターを使用することにより、スケジュール管理なども行える。また、携帯電話との同期もできるため、その予定に合わせてメッセージを送ることも可能となっている。

 

 

 

 

 

 

34 頸髄完全損傷患者(第5頸髄節まで機能残存)で機能するのはどれか。

1.横隔膜
2.腹直筋
3.外肋間筋
4.内肋間筋
5.外腹斜筋

解答

解説

第5頚髄節の機能残存レベル

第5頚髄節の機能残存レベルは、三角筋と上腕二頭筋が残存しており、肩関節運動、肘関節屈伸・回外が可能である。プッシュアップ動作はできないため、平地では車椅子や電動車椅子を使用する。

1.〇 正しい。横隔膜の支配神経は、横隔神経と副横隔神経(C3~C5)である。
2.× 腹直筋の支配神経は、肋間神経・腸骨下腹神経(T7~T12)である。
3~4.× 外肋間筋/内肋間筋の支配神経は、肋間神経(T1~T11)である。
5.× 外腹斜筋の支配神経は、肋間神経・腸骨下腹神経(T5~L1)である。

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35 増悪期の多発性硬化症患者への対応で適切でないのはどれか。

1.温浴
2.体位変換
3.良肢位保持
4.視覚ガイド
5.心理カウンセリング

解答

解説

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

1.× 温浴は、増悪期の多発性硬化症患者への対応で適切でない。なぜなら、ユートホフ現象(Uhthoff現象:体温上昇によって症状悪化)に配慮しなければならないため。温浴や運動は症状が一時的にひどく出現したり、別の場所に症状がでてしまう。
2~3.〇 正しい。体位変換/良肢位保持は、増悪期の多発性硬化症患者への対応である。なぜなら、有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)に配慮しなければならないため。また、痙縮・褥瘡予防にも寄与する。
4.〇 正しい。視覚ガイドは、増悪期の多発性硬化症患者への対応である。なぜなら、視覚障害(視神経炎)を合併することが多いため。
5.〇 正しい。心理カウンセリングは、増悪期の多発性硬化症患者への対応である。なぜなら、多発性硬化症は様々な心理的・感情的な障害が生じ、うつ病や躁鬱状態となることも多いため。

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