第54回(H31) 作業療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

11 30歳の男性。調理師。頭部外傷受傷後4か月が経過し、回復期リハビリテーション病棟に入院している。麻痺はないが、明らかな企図振戦がある。意識障害や著しい記銘力低下はないが、些細なことで怒り出す。作業をする場合にはすぐに注意がそれてしまい継続できず、口頭での促しが必要である。ADLは自立し、現職復帰を希望している。
 この時期の作業療法の指導で正しいのはどれか。

1. 受傷前の職場を訪問させる。
2. 包丁を用いた調理訓練を行う。
3. 作業の工程リストを作らせる。
4. 訓練はラジオを聴かせながら行う。
5. 怒り出したときには厳格に注意する。

解答

解説

本症例のポイント

・30歳の男性(頭部外傷受傷
・4か月経過:回復期リハビリテーション病棟入院中。
・麻痺はないが、明らかな企図振戦がある。
・意識障害や著しい記銘力低下はないが、些細なことで怒り出す(易怒性)。
・作業をする場合にはすぐに注意がそれてしまい継続できず、口頭での促しが必要である(注意障害)。
・ADLは自立し、現職復帰を希望している。
→頭部外傷は、前頭葉側頭葉が損傷されやすい。症状として、①意識障害、②記銘・記憶障害、③性格変化、④情動障害、⑤認知障害、⑥行動障害などの高次脳機能障害がみられる。他にも、運動失調、バランス障害も特徴的である。

1.× 受傷前の職場を訪問させるのは時期尚早である。現状、現職復帰を希望しているが、職場復帰するかは未定であるため。受傷前の職場を訪問する際は、元上司や職員への病状説明や遂行できる環境を作る必要がある。
2.× 包丁を用いた調理訓練の優先度は低い。なぜなら、企図振戦があり危険性を伴うため。
3.〇 正しい。作業の工程リストを作らせる。本症例は、遂行機能障害があるため、作業工程リストを作ることで、計画の立て方を一緒に考え、手順通りに作業を遂行・継続していく。
4.× 訓練はラジオを聴かせながら行うのは、注意障害があるため困難である。注意障害によりラジオに意識がとられ、注意がそれてしまう。したがって、集中できる環境調整(個別や静かな部屋で一つの作業)が必要である。
5.× 怒り出したときには厳格に「注意する」のではなく、感情障害(易怒性・脱抑制)を助長させる環境にしない。なぜ怒り出したか理由や原因を探し、その要因を排除しなければ退院後も復職は難しい。

びまん性軸索損傷とは?

びまん性軸索損傷とは、頭部外傷後、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない状態である。交通事故などで脳組織全体に回転加速度衝撃が加わり、神経線維が断裂することで生じる。頭部外傷は、前頭葉・側頭葉が損傷されやすい。びまん性軸索損傷の好発部位は、①脳梁、②中脳、③傍矢状部などである。症状として、①意識障害、②記銘・記憶障害、③性格変化、④情動障害、⑤認知障害、⑥行動障害などの高次脳機能障害がみられる。他にも、運動失調、バランス障害も特徴的である。

 

 

 

 

12 57歳の女性。右利き。火災により右前腕以遠にⅢ度の熱傷を受傷した。救命救急センターに搬送され、壊死組織のデブリドマンを施行され、植皮術が行われた。術後3日目にベッドサイドにて作業療法を開始した。
 この時点での受傷手への対応で正しいのはどれか。

1. 弾性包帯による巻き上げ
2. 他動関節可動域訓練
3. 動的スプリント製作
4. 安静時の挙上
5. 抵抗運動

解答

解説

本症例のポイント

・57歳の女性(右利き)
・右前腕以遠にⅢ度の熱傷。
・救命救急センターに搬送され、壊死組織のデブリドマンを施行され、植皮術が行われた。
・術後3日目にベッドサイドにて作業療法を開始。
Ⅱ度:【深さ】真皮深層(DDB)【症状】水泡形成(水泡底は白色、もしくは破壊)、知覚は鈍麻【治癒】3~4週間、瘢痕残す、感染併発でⅢ度に移行。
→各関節に生じやすい拘縮があるのでそれを予防するような肢位を確保する。スプリントや装具を活用しながらポジショニングを行う。植皮を行っている場合には5日~2週間程度、患部に伸張刺激が加わる運動は避ける。よって、本症例は、術後3日目であり、皮膚の生着が見込める1週間程度までは、積極的な作業療法の開始は困難である。炎症症状の対処法(RICE処置)を行っていく。したがって、選択肢4.安静時の挙上し、浮腫の予防・改善に努める。

1.× 弾性包帯による巻き上げは、十分に皮膚が生着してから実施する。効果として、弾性包帯による巻き上げ・ウレタンによる圧迫は肥厚性瘢痕・ケロイド予防に行うことである。本症例は、術後3日目であり、皮膚の生着が見込める1週間程度までは、積極的な作業療法の開始は困難である。
2.3.5.他動関節可動域訓練/動的スプリント製作/抵抗運動といった関節を動かすのは、十分に皮膚が生着してから実施する。本症例は、術後3日目であり、皮膚の生着が見込める1週間程度までは、積極的な作業療法の開始は困難である。

熱傷の分類

Ⅰ度:【深さ】表皮【症状】発赤、熱感、軽度の腫脹と疼痛、水泡形成(ー)【治癒】数日間、瘢痕とはならない。
Ⅱ度:【深さ】真皮浅層(SDB)【症状】強い疼痛、腫脹、水泡形成(水泡底は赤色)【治癒】1~2週間、瘢痕再生する。
Ⅱ度:【深さ】真皮深層(DDB)【症状】水泡形成(水泡底は白色、もしくは破壊)、知覚は鈍麻【治癒】3~4週間、瘢痕残す、感染併発でⅢ度に移行。
Ⅲ度:【深さ】皮下組織【症状】疼痛(ー)、白く乾燥、炭化水泡形成はない【治癒】一か月以上、小さいものは瘢痕治癒、植皮が必要。

参考にどうぞ↓↓

【PT/OT/共通】熱傷についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

13 85歳の男性。脳血管障害による右片麻痺で、発症から5か月が経過。回復期リハビリテーション病棟に入院中。主な介護者は77歳の妻。左手でT字杖を使用して屋内平地歩行は可能であるが、屋外は車椅子介助である。排泄はトイレにて自力で行うが、夜間頻尿と切迫性尿失禁がある。自宅の見取り図を示す。
 在宅復帰に向けて住環境の調整を行う際、作業療法士のアドバイスで正しいのはどれか。


1. 寝室をB(客室)に変更する。
2. ベッドの頭の向きを逆にする。
3. トイレの扉を内開きに変更する。
4. 屋外スロープは1cm の立ち上がりをつける。
5. 浴室に入出槽用の天井走行リフトを設置する。

解答

解説

本症例のポイント

・85歳の男性(右片麻痺、経過5か月)
・現在:回復期リハビリテーション病棟に入院中。
・屋内:左手でT字杖歩行、屋外:車椅子介助。排泄:自力(夜間頻尿と切迫性尿失禁)

1.〇 正しい。寝室をB(客室)に変更する。夜間は、頻尿と切迫性尿失禁がある。 現在A(寝室)より、B(客室)の方がトイレに近く、戸も引き戸であるため適していると言える。切迫性尿失禁とは、膀胱が自身の意思に反して収縮することで、急に排尿したくなりトイレに行くまでに我慢できずに漏れてしまう失禁である。原因として膀胱にうまく尿がためられなくなる過活動膀胱が多く、脳血管障害など排尿にかかわる神経の障害で起きることもある。過活動性膀胱に対して、電気刺激療法や磁気刺激療法が有効とされる。
2.× ベッドの頭の向きを「逆」にする必要はない。基本的に、非麻痺側(本症例なら左)に起き上がりを行うためである。つまり、右片麻痺の場合、左側へ起き上がるほうがよい。
3.× トイレの扉を「内開き」に変更する必要はない。開き戸には、内開き戸・外開き戸があり、現在の状態が外開き戸である。この間取りのトイレでは、扉が内開きになると、トイレのスペースが狭くなり、杖を使うことが難しくなる。
4.× 屋外スロープは「1cm」ではなく、5cmの立ち上がりをつける。屋外スロープの立ち上がりとは、スロープから落ちないよう左右に縁石のようなものである。車椅子の場合は脱輪しないように屋外スロープには立ち上がりがあった方がより安全である。安全な立ち上がりとするためには、1cmではなく、5cmの高さは必要である。
5.× 浴室に入出槽用の天井走行リフトを設置する必要はない。なぜなら、屋内ではT字杖を使用して移動できているため。ただし、浴槽内での事故も多いため手すりや浴槽内椅子、バスボードの設置の導入など検討していく。

過活動膀胱とは?

過活動膀胱とは、膀胱の蓄尿期において尿意切迫感があり、頻尿や尿失禁をきたす疾患である(切迫性尿失禁)。明らかな神経学的異常に起因する神経因性過活動膀胱と、原因を特定できない非神経因性過活動膀胱に分けられる。原因として、①加齢、②骨盤底筋の低下、③生活習慣病、④肥満などと関連するといわれている。有病率は高齢になるほど高くなる。過活動膀胱では、膀胱訓練や骨盤底筋訓練など機能訓練を行い、薬物療法で治療を行う。

骨盤底筋は子宮、膀胱、直腸を含む骨盤臓器を支える筋肉で、骨盤底筋を強化することで尿漏れ対策となる。仰臥位が基本的な姿勢であるが、伏臥位や座位など日常生活の中でどんな姿勢で行ってもよい。座位や膝立て背臥位などで、上体の力を抜いてお尻の穴を引き上げて「きゅっ」とすぼめ、5秒キープする動作を10~20回ほど繰り返す方法と、すぼめたりを繰り返す方法の2種類ある。

膀胱訓練とは、排尿の間隔を徐々に延長し、膀胱にためることができる尿量を徐々に増やしていくものである。最初は30秒程度からスタートし、徐々に我慢する時間を延ばしていく。

 

 

 

 

 

14 45歳の男性。アルコール依存症。家で飲酒し酔って妻を怒鳴ってしまい、翌日に強い罪悪感を覚えることが増えている。反省して飲酒を減らそうとしたがうまくいかなかった。このままではいけないと思い、精神科を受診した。患者は妻の強い希望を受け入れて、しぶしぶ入院治療を受けることにした。治療プログラムの1つとして作業療法が処方された。初回の面接で、患者は、断酒しなければならないのはわかるが、コントロールして飲みたいという気持ちもあると述べた。
 治療への動機付けの目的で、面接の中で取り上げるべき話題として最も適切なのはどれか。

1. 妻との関係
2. 作業療法の必要性
3. 飲酒による身体的な問題
4. 断酒について迷っている気持ち
5. ストレス発散のための飲酒の必要性

解答
解説

本症例のポイント

・45歳の男性(アルコール依存症)
・妻の強い希望により入院治療を受けている。
・初回の面接で、患者は、断酒しなければならないのはわかるが、コントロールして飲みたいという気持ちもあると述べた。
→本症例は、現在初回の作業療法開始したところであるため、導入期~解毒期にあたると考えられる。設問から「コントロールして飲みたい」との発言からも断酒と適度の飲酒との葛藤が感じられる。

1. 妻との関係は、優先度は低い。なぜなら、妻との関係(家族関係の回復)は治療後期に主に行う項目であるため。妻との関係について、問題文では「家で飲酒し酔って妻を怒鳴ってしまい、翌日に強い罪悪感を覚える」とあるが、主問題(飲酒)とはっきりしているわけで、治療が軌道に乗った後に必要なら話題として取り上げる。
2. 作業療法の必要性は、患者に対して言う事ではなく、作業療法の指示を出す医師に言うべきである。
3. 飲酒による身体的な問題は、優先度は低い。なぜなら、身体的問題を認識しても飲酒がやめられない状態がアルコール依存症であるため。導入期は、まず病気であること(病気の認識)が大切になる。アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。
4. 断酒について迷っている気持ち(断酒と適度の飲酒との葛藤)は、治療への動機付けの目的で、面接の中で取り上げるべき話題として最も適切である。本症例は、現在初回の作業療法開始したところであるため、導入期~解毒期にあたると考えられる。設問から「コントロールして飲みたい」との発言からも断酒と適度の飲酒との葛藤が感じられる。なぜまだ飲酒をしたいのか?飲酒の希望も聞くことで治療への動機付けにつながる。
5. ストレス発散のための飲酒の必要性は優先度は低い。なぜなら、さらに飲酒欲求を増長する可能性があるため。

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など

 

 

 

 

15 65歳の女性。元来、几帳面な性格だが友人も多く活動的に過ごしていた。3か月前に、自宅のリフォームを契機に、早朝覚醒、食思不振、抑うつ気分や意欲低下が生じ、友人とも会わないようになった。自宅で自殺を企図したが未遂に終わり、1か月前に家族が精神科を受診させ、即日医療保護入院となった。単独散歩はまだ許可されていないが、抗うつ薬による治療で抑うつ気分は改善傾向にあり、病棟での軽い体操プログラムへの参加を看護師から勧められて、初めて参加した。
 この時点での患者に対する作業療法士の関わりで適切でないのはどれか。

1. 必要に応じて不安を受け止める。
2. 過刺激を避けながら短時間で行う。
3. 具体的体験により現実感の回復を促す。
4. 参加各回の達成目標を明確にして本人と共有する。
5. 薬物療法の副作用が生じていないかアセスメントする。

解答

解説

本症例のポイント

・65歳の女性。
・元来、几帳面な性格だが友人も多く活動的に過ごしていた。
・3か月前:自宅のリフォームを契機に、早朝覚醒、食思不振、抑うつ気分や意欲低下が生じ、友人とも会わないようになった。
・1か月前:自宅で自殺を企図したが未遂に終わり、家族が精神科を受診させ、即日医療保護入院となった。
・現在:単独散歩はまだ許可されていないが、抗うつ薬による治療で抑うつ気分は改善傾向にあり、病棟での軽い体操プログラムへの参加を看護師から勧められて、初めて参加した。
→本症例は、うつ病の回復前期~回復後期である。うつ病の作業療法について、うつ病では意欲低下、精神運動抑制などの症状のため、自己評価が低く、疲労感が強い。そのため、負荷が小さく、自信を回復させるような作業が適切である。病前のようには作業ができないことから自責や自信を無くしてしまうことがあるため配慮が必要である。望ましい作業として、①工程がはっきりしたもの、②短期間で完成できるもの、③安全で受け身的で非競争的なもの、④軽い運動があげられる。


1.〇 正しい。必要に応じて不安を受け止める。本症例は、抗うつ薬による治療で抑うつ気分は改善傾向にあるが、病棟での軽い体操プログラムに初参加した。環境や状況の変化で症状が不安定になりやすいため、不安を訴えたら、共感・受容的な態度で接する必要がある。
2.〇 正しい。過刺激を避けながら短時間で行う。長時間の作業は負担になり、疲労を避けるためである。望ましい作業として、①工程がはっきりしたもの、②短期間で完成できるもの、③安全で受け身的で非競争的なもの、④軽い運動があげられる。
3.〇 正しい。具体的体験により現実感の回復を促す。一方、うつ病に非現実的な体験(気分転換に海外旅行など)を勧めるのは、それがかえってストレスとなるため行わない。
4.× 参加各回の達成目標を明確にして本人と共有する必要はない。なぜなら、達成目標を明確にすると、目標に達しない場合に自信をなくしてしまう可能性があるため。
5.〇 正しい。薬物療法の副作用が生じていないかアセスメントする。本症例は、抗うつ薬による治療で抑うつ気分は改善傾向にあるが、抗うつ薬には副作用が多く、随時アセスメントする必要がある。主な副作用としては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)では吐き気・食欲不振・下痢、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)では吐き気・尿が出にくい・頭痛などがあげられる。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)