第54回(H31) 作業療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

 

16 72歳の女性。夫は1年前に亡くなり1人暮らしをしている。家事をこなし地域のボランティア活動にも参加して活動的であるが「最近、下肢の深いところに虫が這うような不快さがあり、週3日くらいよく眠れない。20代のときにも同じような症状があった」と訴えている。
 作業療法士の助言で適切なのはどれか。

1. ペットを飼うように勧める。
2. 家族と一緒に住むようにと家族介入をする。
3. 筋肉量が少ないため筋力トレーニングを勧める。
4. 薬物療法の適応について医師へ相談するよう勧める。
5. 認知症の可能性があるので、介護保険を受けるように勧める。

解答

解説

本症例のポイント

・72歳の女性(1人暮らし)
・夫:1年前に他界。
・家事をこなし地域のボランティア活動にも参加して活動的であるが「最近、下肢の深いところに虫が這うような不快さがあり、週3日くらいよく眠れない。20代のときにも同じような症状があった」と訴えている。
→患者の訴えだけでは、むずむず脚症候群アカシジア(鎮座不能症とも)などがあげられるが判断は困難である。したがって、医師の診察が必要なケースであると考えられる。精神症状ではなく、環境調整などでは改善しない可能性が高いことが推測できる。よって、選択肢4. 薬物療法の適応について医師へ相談するよう勧めるのが正しい。いずれにしても、むずむず脚症候群であればドバミン作動菜などが有効であり、鉄欠乏性貧血であれば原因を精査する必要がある。医師への相談は必須である

1~2.× ペットを飼うように勧める/家族と一緒に住むようにと家族介入をする優先度は低い。なぜなら、本症例の「下肢の不快感」の原因が分からないため。具体的方法は医師の指示・診断が下りてから作業療法を開始する。
3.× 「筋肉量が少ない」ため筋力トレーニングを勧める優先度は低い。そもそも「筋肉量が少ない」と断定できる記載はなく、筋力トレーニングを勧めても改善しない可能性の方が高い。
5.× 「認知症の可能性がある」ので、介護保険を受けるように勧める必要はない。なぜなら、本症例は「家事をこなし地域のボランティア活動にも参加して活動的」であるため。「最近、下肢の深いところに虫が這うような不快さがあり、週3日くらいよく眠れない。20代のときにも同じような症状があった」=「認知症」とは判断しがたい。また、20代の時にも同じ症状があったと述べていることから、認知症の可能性は低いと言える。ちなみに、介護保険制度とは、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みのことである。

むずむず脚症候群とは?

むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、下肢静止不能症候群)は、身体末端の不快感(むずむず感)や痛みによって特徴づけられた慢性的な病態である。入眠時にむずむず感が生じると、それを軽減するために下肢を絶え間なく動かすために入眠が障害される。原因として、鉄欠乏性貧血、腎機能障害、透析患者などに多く見られ、日本において成人の3%程度に見られる。

 

 

 

17 53歳の女性。前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて救急搬送された後、クリッピング術が施行された。術後1週で作業療法が処方された。言語機能と身体機能には大きな問題はみられず、食事、更衣、整容などは自立していたが、担当の作業療法士の名前や新しい出来事が覚えられない、などがみられた。
 この患者に行う評価で適切なのはどれか。2つ選べ。

1. BIT
2. MMSE
3. SLTA
4. VPTA
5. WMS-Ⅲ

解答2.5

解説

本症例のポイント

・53歳の女性(前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血:クリッピング術)
・術後1週:①言語機能と身体機能には大きな問題はみられず、食事、更衣、整容などは自立。②担当の作業療法士の名前や新しい出来事が覚えられない
→本症例は、くも膜下出血後の認知機能障害を起こしていることが疑われる。したがって、認知機能の評価に用いる検査を選択する。くも膜下出血とは、くも膜と呼ばれる脳表面の膜と脳の空間(くも膜下腔と呼ばれ、脳脊髄液が存在している)に存在する血管が切れて起こる出血である。クリッピング手術とは、脳動脈瘤を根本からクリップで挟み、破裂や出血を止める治療法である。

1.× BIT(Behavioural Inattention Test:行動無視障害)は、半側空間無視の検査である。①通常検査(線分抹消試験・文字抹消試験・星印抹消試験・模写試験・線分二等分試験・描画試験)と②行動検査(写真課題・電話課題・メニュー課題・音読課題・時計課題・硬貨課題・書写課題・地図課題・トランプ課題)がある。
2.〇 正しい。MMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)は、認知機能の検査である。内容は、見当識・記銘力・注意と計算・想起・言語・組み立ての各項目があり、30点満点で評価する。26点以下で軽度認知障害の疑いを示し、23点以下では認知障害の可能性が高いことを示す。
3.× SLTA(Standard Language Test of Aphasia:標準失語症検査)は、失語症の検査である。26項目の下位検査での構成で、「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」について6段階で評価する。
4.× VPTA(Visual Perception Test for Agnosia:標準高次視知覚検査)は、物体・画像の認知・相貌認知・色彩認知・視空間の認知などについて評価する。 
5.〇 正しい。WMS-Ⅲ(Wechsler Memory Scale- III:ウェクスラー記憶検査)は、認知機能の評価に用いる。13の下位検査により言語性記憶、視覚性記憶、総合、注意・集中力、遅延再生の5つの指標を求める。

 

 

 

18 14歳の女子。生来健康で活発であった。6か月前からダイエットを契機に拒食や過食嘔吐をするようになり、体重が58kg(身長158cm)から41kgまで減少した。心配した母親に連れられて精神科を受診し、入院となった。3週後、体重は47kgを超えて作業療法が開始となったが、部屋にある料理の本をずっと眺めており「したいことに集中できない」と訴えた。
 この患者に対する作業療法士の声かけで適切なのはどれか。

1. 「気分転換できる作業を探しましょう」
2. 「復学に向けた計画を考えていきましょう」
3. 「料理に興味があるのですね。簡単なものから作ってみましょう」
4. 「食物から距離を取るために、ここでは料理の本を見るのはやめましょう」
5. 「休養が大事な時期です。何もせずゆっくり過ごすことを目標にしましょう」

解答

解説

本症例のポイント

・14歳の女子。
・6か月前:ダイエットを契機に拒食や過食嘔吐になった。
・体重が58kg(身長158cm)から41kg(BMI:16.4)。
・3週後:体重は47kg(BMI:18.8)
・部屋にある料理の本をずっと眺めており「したいことに集中できない」と訴えた。
→本症例は、摂食障害の神経性無食症が疑われる。摂食障害の治療としてまず患者に対する動機づけが重要である。適切な動機づけによって治療に導入し、身体合併症に対しては栄養輸液などを行い、支持的精神療法、家族療法、集団精神療法、認知行動療法、薬物療法などから適宜選択し、組み合わせて治療を行う。精神療法では、患者との面接を通して、まずは共感的態度をとりながら患者の語ることを受容し、やがて体重や食事に対する誤った認識のあることを自覚してもらい、身体イメージの障害を徐々に修正していく。また、発症には家族内の葛藤が関与していることも多く、家族関係や食生活に治療者が介入する家族療法も有効。このほか、自分の摂食行動と情動の動きについてグループで話し合う集団精神療法、体重・体型についての歪んだ認識を改善するための認知行動療法、SSRIによる薬物療法も有効であるとされる。

1.〇 正しい。摂食障害害患者は、食べ物への強い執着があり、食べ物のことが頭から離れなくなる。作業療法時には食べ物以外へ関心を向けさせることが必要である。「気分転換できる作業を探しましょう」が正しいと言える。
2~5.×  「復学に向けた計画を考えていきましょう」「料理に興味があるのですね。簡単なものから作ってみましょう」 「食物から距離を取るために、ここでは料理の本を見るのはやめましょう」 「休養が大事な時期です。何もせずゆっくり過ごすことを目標にしましょう」、それぞれの選択肢は、「復学に向けた計画」「料理」「料理の本の禁止」「休養」と、侵襲的な患者心理への介入指示的な態度となっている。良好な関係を築くうえで障害になりかねないため避けるべきである。

摂食障害とは?

摂食障害には、①神経性無食症、②神経性大食症がある。共通して肥満恐怖、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤の使用抑うつの症状がみられる。作業療法場面での特徴として、過活動、強迫的なこだわり、抑うつ、対人交流の希薄さ、表面的な対応がみられる。患者の性格として、細かい数値へのこだわり(①体重のグラム単位での増減、②この食べ物はあの食べ物より〇カロリー多いなど)がみられる。

【摂食障害の作業療法のポイント】
①ストレス解消、②食べ物以外へ関心を向ける、③自身の回復(自己表出、他者からの共感、自己管理)、④過度の活動をさせない、⑤身体症状、行動化に注意する。

【性格的特徴】
①強情、②負けず嫌い、③執着心が強い、③極端な行動に及びやすい。

 

 

 

一休みに・・・。

 

 

19 7歳の男児。几帳面なところがある。小学校に入学して数か月後から肩をすくめる、まばたきをすることが目立ってきた。最近、授業中に顔しかめや首ふりなども激しくなり、担任の先生から注意されることが増えた。友達と遊んでいるときや眠っているときは起こらない。悩んだ母親が本人を連れて来院、チック障害と診断され作業療法の導入となった。
 作業療法士の対応で適切なのはどれか。

1. 本人に困っていることを聞く。
2. 本人にチックが起こるときの状況を尋ねる。
3. チックを起さないよう努力するように本人に言う。
4. 緊張に慣れる目的で最前列に座らせるよう担任の先生に依頼する。
5. クラスメートに障害のことは知らせずにおくよう担任の先生に依頼する。

解答

解説

本症例のポイント

・7歳の男児(チック障害
・小学校に入学して数か月後:肩をすくめる、まばたきをすることが目立ってきた。
・最近:授業中に顔しかめや首ふりなども激しくなり、担任の先生から注意されることが増えた。友達と遊んでいるときや眠っているときは起こらない。
→チック:突発的に急速的に起こる不随意な運動または発声のこと、症状は反復的である。小児期に発症することが多く男児に多い。まず単純運動チックより発症することが多く、そこに単純音声チックが加わる。症状は一過性である場合もあるが、慢性化した場合やがて複雑性チックが出現する。1年以上持続する多発性運動チックと音声チックがあるとき、Tourette(トゥレット)症候群と診断される。

1.〇 正しい。本人に困っていることを聞く。なぜなら、チックの背景に不安などの心理的要因があることがあり、また二次的に自尊感情・社会性・学業などに困難をきたしている場合があるため。本症例は設問から「授業中に顔しかめや首ふりなどが激しくなっている」ことから、学業に困難をきたしている可能性が高い。
2~3.× 本人にチックが起こるときの状況を尋ねる/チックを起さないよう努力するように本人に言う優先度は低い。チックの背景に不安などの心理的要因があることがあり、また二次的に自尊感情・社会性・学業などに困難をきたしている場合がある。よりチックに意識が向かい、チックの助長になりかねない。
4.× 緊張に慣れる目的で最前列に座らせる必要はない。チックは不安・興奮・強い疲労によって悪化するので、緊張の高い最前列では悪化するおそれがある。
5.× クラスメートに障害のことは知らせずにおくよう担任の先生に依頼する必要はない。なぜなら、クラスメートが無遠慮にチックを指摘して本人の自尊感情が傷つく可能性があるため。したがってむしろ、担任を通じてクラスメートに知らせて配慮してもらうのが良い。

 

 

 

20 61歳の男性。BMI 27.5。前頭葉および側頭葉に著明な萎縮を認めて入院加療中。発語は発症前より減少しているが、エピソード記憶や手続き記憶は比較的残存している。自分の昼食を食べ終えた後も他人の食事や配膳車の残飯を勝手に取って食べる行為があり、取り戻そうとすると激しく怒り出す。午後の集団体操プログラムではすぐに立ち去ろうとする一方、カラオケには興味を示し、集中して数曲を歌う。
 食行動に対する作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。

1. 減量の必要性を説明する。
2. 他の患者に状況を説明し、受容的に対応してもらう。
3. 毎回の昼食が終了次第、体操プログラムを導入する。
4. 毎回の昼食が終了次第、カラオケのプログラムを導入する。
5. 他人の食事を勝手に食べてはいけないことを言葉で簡潔に伝える。

解答

解説

本症例のポイント

・61歳の男性(BMI 27.5)
前頭葉および側頭葉に著明な萎縮を認める。
・発語:発症前より減少している。
・記憶:エピソード記憶や手続き記憶は比較的残存
・自分の昼食を食べ終えた後も他人の食事や配膳車の残飯を勝手に取って食べる行為(脱抑制)があり、取り戻そうとすると激しく怒り出す(易怒性)。
・午後の集団体操プログラムではすぐに立ち去ろうとする一方、カラオケには興味を示し、集中して数曲を歌う。
→本症例は、前頭側頭型認知症(Pick病)が疑われる。

1.× 減量の必要性を説明する優先度は低い。なぜなら、本症例は、BMIが25以上あるので肥満といえるが、自分の昼食を食べ終えた後も他人の食事や配膳車の残飯を勝手に取って食べる行為(脱抑制)によって行われている要素が強いため。つまり、前頭側頭型認知症(Pick病)が原因であるため、減量の必要性を説明で脱抑制を止めることは難しいと考えられる。脱抑制を止めたい場合は、環境調整するのが望ましい。
2.× 他の患者に状況を説明し、受容的に対応してもらう優先度は低い。なぜなら、他の患者さんの受容度によって異なるため。一般的な患者は、同じ料金を払っている以上、自分の食事を取られては受容的に接することはできない可能性が高い。脱抑制を止めたい場合は、環境調整するのが望ましい。
3.× 毎回の昼食が終了次第、体操プログラムを導入する優先度は低い。なぜならそもそも本症例は設問から「午後の集団体操プログラムではすぐに立ち去ろうとする」ため。昼食を食べた後でも時間調整によって参加してもらえるとは限らない。一方でカラオケは数曲歌うようであるので、カラオケをしながら体を動かしたり、盛り上げて立って歌ってもらうなどで活動量を拡大を図る。
4.〇 正しい。毎回の昼食が終了次第、カラオケのプログラムを導入することは、食行動に対する作業療法士の対応で最も適切である。本症例は、前頭側頭型認知症(Pick病)の脱抑制により「自分の昼食を食べ終えた後も他人の食事や配膳車の残飯を勝手に取って食べる行為」がみられる。一方で、「カラオケには興味を示し、集中して数曲を歌う」。毎回の昼食が終了次第、カラオケのプログラムを導入することで、脱抑制をとめられ、食べ物から注意をそらすことができる。
5.× 他人の食事を勝手に食べてはいけないことを言葉で簡潔に伝える優先度は低い。なぜなら、前頭側頭型認知症(Pick病)が原因であるため。また、本症例は、設問から「取り戻そうとすると激しく怒り出す(易怒性)」様子も見られる。

前頭側頭型認知症(Pick病)とは?

 病理所見として、前頭葉と側頭葉が特異的に萎縮する特徴を持つ認知症である。脳血流量の低下や脳萎縮により人格変化、精神荒廃が生じ、植物状態におちいることがあり、2~8年で衰弱して死亡することが多い。発症年齢が50~60代と比較的若く、初発症状は人格障害・情緒障害などがみられるが、病期前半でも記憶障害・見当識障害はほとんどみられない。働き盛りの年代で発症することが多いことで、患者さんご本人が「自分は病気である」という自覚がないことが多い。その後、症状が進行するにつれ、性的逸脱行為(見知らぬ異性に道で抱きつくなどの抑制のきかない反社会的な行動)、滞続言語(何を聞いても自分の名前や生年月日など同じ語句を答える)、食行動の異常(毎日同じものを食べ続ける常同行動)などがみられる。治療は、症状を改善したり、進行を防いだりする有効な治療方法はなく、抗精神病薬を処方する対症療法が主に行われている。

(参考:「前頭側頭型認知症」健康長寿ネット様HPより)

 

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