第54回(H31) 作業療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

6 30歳の女性。断端長25%残存の左前腕切断。肘関節が屈曲30°に制限されている。屈曲運動を補い、腹部前面での両手動作を可能にするため能動義手を作製する。
 ソケットと肘継手の組合せで正しいのはどれか。

1. 差し込み式前腕ソケット:倍動肘ヒンジ継手
2. 前腕用スプリットソケット:倍動肘ヒンジ継手
3. ノースウエスタン式前腕ソケット:能動単軸肘ヒンジ継手
4. ミュンスター式前腕ソケット:軟性たわみ式継手
5. ミュンスター式前腕ソケット:能動単軸肘ブロック継手

解答

解説
1.× 差し込み式前腕ソケットは、上腕カフなどの懸垂装置を必要とする。倍動肘ヒンジ継手とは組み合わせられない。
2.〇 正しい。倍動肘ヒンジ継手は、支柱式の肘継手で、肘関節の可動域が小さく、屈曲が十分でない短断端前腕切断にスプリットソケットと組み合わせて用いる。肘屈曲角を倍に増幅させることができる。リンク式と歯車式がある。
3.× ノースウエスタン式前腕ソケットは、前腕短断端から長断端の場合に用い、顆上部まで深くソケットに断端を納める自己懸重性前腕ソケットである。十分な肘屈曲ができるよう、開口部を広くとってある。極短断端では使用できない
 能動単軸肘ヒンジ継手は、ケーブルを引っぱるごとに肘の固定と解除を繰り返す機構の肘ヒンジ継手で、上腕長断端切断・肘関節離断に用いる。
4.× ミュンスター式前腕ソケットは、顆上部まで深くソケットに断端を納める懸垂性前腕ソケットである。開口部を狭くすることで、前腕極短断端~短断端に適応がある。
 軟性たわみ式計継手は、前腕中~長断端、手関節離断の場合に適応があり、伸びの少ない布テーブなどで裏打ちした革紐またはナイロンモノフィラメントを用いた、たわみやすい肘継手である。
5.× 能動単軸肘プロック継手は、上腕切断、肩離断、肩甲胸郭間切断の場合に用い、ロックコントロールケーブルを能動的に操作することで、屈曲角度の固定・解除が随意的に行える。

 

 

7 63歳の女性。主婦。関節リウマチ。発症後半年が経過した。SteinbrockerのステージⅡ、クラス2。料理など家事全般を好み、熱心に行ってきた。立ち仕事が多く、最近膝痛が出現した。
 この患者に対する作業療法の留意点で適切なのはどれか。

1. 膝伸展固定装具を装着する。
2. 片手でフライパンを使うよう指導する。
3. 家事は一度にまとめて行うよう指導する。
4. 筋力強化は等尺性収縮運動を中心に行う。
5. 関節可動域訓練は最終域感を超えるようにする。

解答

解説

本症例のポイント

・63歳の女性(主婦、関節リウマチ)。
・発症後半年が経過:SteinbrockerのステージⅡ(軟骨が薄くなり、関節の隙間が狭くなっているが骨の破壊はない状態)、クラス2(多少の障害はあるが普通の生活ができる状態)。
・料理など家事全般を好み、熱心に行ってきた。
・立ち仕事が多く、最近膝痛が出現した。
→関節リウマチ患者に対する日常生活の指導は、関節保護の原則に基づき行う。関節保護の原則とは、疼痛を増強するものは避けること、安静と活動のバランスを考慮すること、人的・物的な環境を整備することがあげられる。手を使う諸動作において、手関節や手指への負担が小さくなるように工夫された自助具が求められる。

1.× 膝伸展固定装具を装着するのは、不適切である。膝伸展位で固定した場合、歩行中の接地の衝撃を膝で吸収できなくなり膝への負担が増す可能性がある。関節の負担軽減・保護を重要視するべきである。膝伸展固定装具を装着するのは、膝伸展筋力が低下し、膝折れが生じやすい場合である。
2.× 片手でフライパンを持つことは、手指や手関節に負担がかかる。 両手で持つのが適切で、両手鍋の利用が良い。
3.× 家事は一度にまとめて行うより、分けて行うよう指導する。関節の負担軽減や易疲労性を考慮するため。
4.〇 正しい。筋力強化は等尺性収縮運動を中心に行う。等尺性収縮運動は、関節運動がないため、関節にかかる負担が低く適している。
5.× 関節可動域訓練は最終域感を超えるようにすれば、関節に負担がかかるため不適当である。

”関節リウマチとは?”

関節リウマチは、関節滑膜を炎症の主座とする慢性の炎症性疾患である。病因には、遺伝、免疫異常、未知の環境要因などが複雑に関与していることが推測されているが、詳細は不明である。関節炎が進行すると、軟骨・骨の破壊を介して関節機能の低下、日常労作の障害ひいては生活の質の低下が起こる。関節破壊(骨びらん) は発症6ヶ月以内に出現することが多く、しかも最初の1年間の進行が最も顕著である。関節リウマチの有病率は0.5~1.0%とされる。男女比は3:7前後、好発年齢は40~60歳である。
【症状】
①全身症状:活動期は、発熱、体重減少、貧血、リンパ節腫脹、朝のこわばりなどの全身症状が出現する。
②関節症状:関節炎は多発性、対称性、移動性であり、手に好発する(小関節)。
③その他:リウマトイド結節は肘、膝の前面などに出現する無痛性腫瘤である。内臓病変は、間質性肺炎、肺線維症があり、リウマトイド肺とも呼ばれる。
【治療】症例に応じて薬物療法、理学療法、手術療法などを適宜、組み合わせる。

(※参考:「関節リウマチ」厚生労働省HPより)

Steinbrockerの病気分類

【ステージ分類:リウマチの病期】
ステージⅠ:X線検査で骨・軟骨の破壊がない状態。
ステージⅡ:軟骨が薄くなり、関節の隙間が狭くなっているが骨の破壊はない状態。
ステージⅢ:骨・軟骨に破壊が生じた状態。
ステージⅣ:関節が破壊され、動かなくなってしまった状態。

【クラス分類:機能障害度】
クラスⅠ:健康な方とほぼ同様に不自由なく生活や仕事ができる状態。
クラスⅡ:多少の障害はあるが普通の生活ができる状態。
クラスⅢ:身の回りのことは何とかできるが、外出時などには介助が必要な状態。
クラスⅣ:ほとんど寝たきりあるいは車椅子生活で、身の回りのことが自分ではほとんどできない状態。

 

 

 

8 60歳の女性。視床出血発症後1か月。左片麻痺を認め、Brunnstrom法ステージは上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅳである。左手指の発赤、腫脹および疼痛を認め、訓練に支障をきたしている。
 この患者に対する治療で正しいのはどれか。

1. 交代浴を行う。
2. 肩関節の安静を保つ。
3. 手指の可動域訓練は禁忌である。
4. 疼痛に対し手関節の固定装具を用いる。
5. 肩関節亜脱臼にはHippocrates 法による整復を行う。

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の女性(視床出血:発症後1か月)。
・Brs上肢Ⅱ(上肢のわずかな随意運動)、手指Ⅱ(自動的手指屈曲わずかに可能)、下肢Ⅳ(座位で足を床の後方へすべらせて、膝を90°屈曲。踵を床から離さずに随意的に足関節背屈)
・左手指の発赤、腫脹および疼痛を認め、訓練に支障をきたしている。
→本症例は、脳卒中後に手指の発赤・腫脹・疼痛を生じていることから複合性局所疼痛症候群(CRPS Type I)が疑われる。複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは、「外傷等による組織損傷後に、疼痛がその原因の程度とは不釣り合いに強く長期にわたって持続し、さらに原因と直接因果関係のない浮腫・皮膚血流変化や発汗異常を伴う慢性疼痛症候群」のことをいう。

1.〇 正しい。交代浴を行う。温冷交代浴は、複合性局所疼痛症候群に含まれる脳卒中による肩手症候群などで主に行われる。温熱・寒冷を繰り返し行うことで、血行促進や自律神経への作用を目的に行う。
2~4.× CRPSの痛みや浮腫はなかなか消失せず、運動障害から徐々に関節拘縮や骨萎縮などが進行する。CRPSの患者さんは痛みにとても敏感であるため、運動療法は難渋することが多い。しかし、一度関節拘縮が完成してしまえば完治することは困難であるため、薬物療法や物理療法、心理的サポートを含め、多角的なアプローチで早期に治療することが重要。したがって、装具などの安静必要はなく、疼痛自制内での愛護的な関節可動域訓練を行う。
5.× 肩関節亜脱臼にはアームスリングを使用する。Hippocrates法は肩関節前方脱臼の整復法である。脇窩に脚を入れて患肢を下方に牽引する方法である。

肩手症候群とは?

肩手症候群は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)の1つと考えられており、脳卒中後片麻痺に合併することが多い。他にも骨折や心臓発作などが誘因となる。症状は、肩の灼熱性疼痛と運動制限、腫脹などを来す。それら症状は、自律神経障害によるものであると考えられている。

第1期:症状が強い時期。
第2期:痛みや腫脹が消失し、皮膚や手の萎縮が著明になる時期。
第3期:手指の拘縮と骨粗懸症が著明になる時期の経過をとる。

治療目的は、①疼痛緩和、②拘縮予防・軽減である。
治療は、①星状神経節ブロック、②ステロイド治療、③アームスリング装着を行う。
リハビリは、①温熱療法、②マッサージ、③関節可動域訓練(自動他動運動)、④巧級動作練習を行う。
『脳卒中治療ガイドライン2009』では、「麻痺の疼痛・可動域制限に対し、可動域訓練は推奨される(グレードB:行うよう勧められる)」としている。

 

 

 

 

 

9 38歳の女性。32歳時に四肢脱力が出現、多発性硬化症の診断を受け寛解と増悪を繰り返している。2週前に痙縮を伴う上肢の麻痺にて入院。大量ステロイドによるパルス療法を行った。
 この時点での痙縮の治療手段で正しいのはどれか。

1. TENS
2. 超音波療法
3. 赤外線療法
4. ホットパック
5. パラフィン療法

解答

解説

本症例のポイント

・38歳の女性(32歳:多発性硬化症)。
・寛解と増悪を繰り返している。
・2週前入院:痙縮を伴う上肢の麻痺が要因。
大量ステロイドによるパルス療法を行った。
→本症例は、多発性硬化症であるため有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。温熱療法は行わず、痙縮の治療手段を選択する。ちなみに、ステロイドパルス療法とは、ステロイドを短期間で大量に用いることにより作用を強め「劇的な効果を得る」ことを目的とした治療法である。治療全体でのステロイドの用量を減少させることができ、短期間の大量投与は副作用も少ないことが知られている。急性期治療後のステロイド内服は長期にならないよう漸減中止することが望ましい。なぜなら、ステロイドの長期内服による合併症を予防するため。

1.〇 正しい。TENS (Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:経皮的電気神経刺激療法)は、温熱を出さず慢性疼痛の緩和痙縮改善に効果がある。疼痛部位の支配神経などに電極を配置し、経皮的に低周波による電気刺激を加える方法である。
2.× 超音波療法は、温熱療法である。ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)を引き起こす可能性が高いため控える必要がある。超音波を用いた機械的振動によるエネルギーを摩擦熱に変換することによって特定の部位を温める温熱療法の一つである。
3.× 赤外線療法は、温熱療法である。ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)を引き起こす可能性が高いため控える必要がある。赤外線が有する温熱効果を利用し、血流の増加や褥瘡治療にも用いられる。
4.× ホットパックは、温熱療法である。ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)を引き起こす可能性が高いため控える必要がある。シリカゲルを厚手の布袋に詰めたものを熱水(80~90℃)に浸した後、バスタオルでくるみ患部に当て、温熱刺激を与えるものである。
5.× パラフィン療法は、温熱療法である。ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)を引き起こす可能性が高いため控える必要がある。熱伝導率の小さいバラフィンを用いて、関節を温めて血行を促し、炎症や痛み、こわばりを抑制する。

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

10 頸髄損傷完全麻痺者(第6頸髄節まで機能残存)が肘での体重支持を練習している図を示す。
 この練習の目的動作はどれか。


1. 導尿カテーテル操作
2. ベッド上での移動
3. 足上げ動作
4. 上着の着脱
5. 寝返り

解答

解説

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

1.× 導尿カテーテル操作は、C7レベル以上の機能残存で可能になる。
2.〇 正しい。ベッド上での移動の練習場面である。C6レベルの機能残存では、肘で体重を支持し、そこを軸に頭部の屈曲・伸展の動きを伝えることで前方への移動が可能である。
3.× 足上げ動作は、C6レベル残存では行えない。足を動かすには、上肢を大腿部へひっかけ体幹の力と一緒に動かす必要がある。
4.× 上着の着脱は、肘関節での体重支持といった練習にはならない。「上着」ではなく、ズボンの着脱は肘関節の体重支持は必要である。肘関節で体重を支持することで、殿部や下肢への荷重を減らして着脱を行う。
5.× 寝返り(C6レベルの機能残存)は、ベッド柵を使用する。もしくは、上肢の重みや肩甲骨の外転・広背筋を用いて体幹を回旋させる。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)