第55回(R2) 理学療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

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16 83歳の女性。転倒して右股関節痛を訴えた。エックス線写真(下図)を別に示す。
 疑うべき疾患はどれか。

1.股関節脱臼
2.大腿骨近位部骨折
3.恥骨結合離開
4.恥骨骨折
5.腸骨骨折

解答
解説

本症例のポイント

・83歳の女性(転倒して右股関節痛)
・エックス線写真の特徴は、骨盤輪や閉鎖孔が左右不均等である。
→右の恥骨の連続性が破綻しており、右恥骨骨折が疑える。ちなみに、両側の恥骨上枝と下枝が縦方向に骨折したものを「Straddle骨折(ストラドル骨折)」という。尿路損傷を合併しやすい特徴を持つ。

1.× 股関節脱臼であれば、本来の股関節の位置から大腿骨が大きく上方へ偏位する(脱臼)。大腿骨頭は寛骨臼内に存在している。
2.× 大腿骨近位部骨折であれば、大腿骨頸部に転位が見られる。左右を見比べることで分かるが、左右差は認められない。
3.× 恥骨結合離開は、恥骨結合部に指1本分の離開がみられる状態である。出産後の女性に多く発症する。恥骨結合部は、直腸内のガス・便に被ってはっきりしないため断言しにくい。
4.〇 正しい。骨盤輪や閉鎖孔が左右不均等であることから、恥骨骨折である。
5.× 腸骨骨折は、図の明るさからでは判断しにくいが、骨折線は認められない。

 

 

 

 

17 69歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。発症から4週が経過。Brunnstrom 法ステージは上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅲ。移乗とトイレ動作は手すりを使用して自立、車椅子駆動は自立している。歩行は短下肢装具とT字杖を使用して軽介助が必要であり、病棟では車椅子で移動している。病室を図に示す。
 この患者に適切なのはどれか。

解答
解説

本症例のポイント

・69歳の男性(脳梗塞による右片麻痺
・Brs:上肢Ⅱ(上肢のわずかな随意運動)、手指Ⅱ(自動的手指屈曲わずかに可能)、下肢Ⅲ(座位、立位での股・膝・足の同時屈曲)。
・移乗とトイレ動作:手すりで自立、車椅子駆動:自立
・歩行:軽介助(短下肢装具とT字杖)、病棟では車椅子で移動している。
→本症例は、車椅子を使用すれば身の回りのことが「自立」となる。したがって、ベッドの起き上がり時車椅子への移乗時トイレ動作(立ち上がり・下衣動作)の手すりの位置を正しく設定することが求められる。

本症例は脳梗塞による右片麻痺なので、

 ①ベッドの手すりの位置は、背臥位時の左手(非麻痺側)にあると起き上がり動作・移乗時にも安全に行える。この時点で選択肢1.2は除外できる。

 ②トイレの手すりの位置は、座位時の左手(非麻痺側)にあると立ち上がり動作・下位動作にも安全に行える。この時点で選択肢3.4も除外できる。

よって、選択肢5が正解となる。

 

 

 

 

18 17歳の男子。頚髄損傷。プールに飛び込んだ際に、頭部を底に打ちつけて受傷した。受傷8週後のMMT結果を表に示す。
 機能残存レベルはどれか。

1.C4
2.C5
3.C6
4.C7
5.C8

解答
解説

本症例のポイント

・17歳の男子(頚髄損傷
・表を見ると上腕三頭筋と橈側手根屈筋がMMT2であり、長橈側手根伸筋(手関節背屈)は両上肢ともMMT4以上ある。ASIAによる運動の残存機能レベルの決定は、MMT3以上ある最も低い髄節を機能残存レベルと定義している。したがって、長橈側手根伸筋が機能する髄節を選択する。

1.× C4の主な動作筋は、横隔膜僧帽筋である。具体的なkey musclesは存在しない。
2.× C5のkey musclesは、上腕二頭筋である。表ではMMT4であるが、より下位(C6)の機能が残存しているため不適切である。
3.〇 正しい。C6のkey musclesは、長橈側手根伸筋である。C7である上腕三頭筋がMMT2であるため、機能残存レベルはC6と決定できる。
4.× C7のkey musclesは、上腕三頭筋である。表ではMMT2であるため不適切である。
5.× C8のkey musclesは、手指屈筋である。表に、浅指屈筋・深指屈筋の評価はないため不適切である。

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19 66歳の男性。意識障害で右上肢を下に腹臥位で体動困難となっているところを発見された。両膝、右手首、右肘および右前胸部に多発褥瘡を認め、脱水症を伴うことから発症後数日が経過していると考えられた。保存的加療とともに理学療法が開始され、徐々に意識障害が改善すると、入院後1か月で訓練中に右手のしびれを訴え、図のような手を呈した。
 この患者の右手に適応となるのはどれか。

1.BFO
2.虫様筋カフ
3.短対立装具
4.手関節駆動式把持装具
5.コックアップ・スプリント

解答
解説

本症例のポイント

・66歳の男性。
・意識障害で右上肢を下に腹臥位で体動困難となっているところを発見。
・両膝、右手首、右肘および右前胸部に多発褥瘡。
発症後数日が経過している。
・入院後1か月で訓練中に右手のしびれ。
→図の右手の形から、尺骨神経麻痺である鷲手もしくは正中神経高位麻痺である祈祷手のどちらかであると判断できる。本症例は、両膝、右手首、右肘および右前胸部に多発褥瘡を認めていることから、各箇所の長時間の圧迫も推測できる。また図から第1背側骨間筋の筋萎縮もみられる。以上のことから、肘部管の尺骨神経の障害であることが推測される。そのため、尺骨神経麻痺に対する上肢装具を選択する。ちなみに、正中麻痺の原因は、開放創や挫傷(ケガ)、骨折などの外傷、手根管症候群や回内筋症候群などの絞扼性神経障害、腫瘍・腫瘤、神経炎などにより生じる。

1.× BFOの適応は、第5頸椎レベル損傷の場合に用いる。BFOは、前腕を支持することにより、上肢の重さを軽減させ、弱い力で上肢の動きを引き出す自助具(非装着式上肢装具)である。
2.〇 正しい。虫様筋カフは、尺骨神経麻痺で生じる鷲手に適応となる。指の基節骨の背側に装着し、MP関節の伸展を防止する。
3.× 短対立装具は、正中神経麻痺で生じる猿手に適応となる。母指とほかの四肢を対立位に保持する。
4.× 手関節駆動式把持装具は、第6頸椎レベル損傷の場合に用いる。
5.× コックアップ・スプリントは、橈骨神経麻痺で生じる下垂手に適応となる。橈骨神経麻痺を与える可能性の高い圧迫部位は、上腕中央部(橈骨神経ではが上腕骨のすぐ後ろを橈骨神経が通過するため)である。

(手の)背側骨間筋

・【起始】4個ある。それぞれ2頭もつ。第1~5中手骨の相対する面。
・【停止】基節骨、指背腱膜、中節骨底、末節骨底。
・【作用】第2,4指の外転、第3指の橈・尺側外転。母指の内転。掌側骨間筋と共同しておのおのの基節骨の屈曲、中節・末節骨(DIP)の伸展。
・【神経】尺骨神経C8,T1

 

 

 

20 75歳の男性。脳挫傷。飲酒しトイレで倒れていた。頭部CT(下図)を別に示す。明らかな運動麻痺はなく、反復唾液嚥下テスト〈RSST〉は5回/30秒である。改訂水飲みテスト〈MWST〉や食物テストでは嚥下後の呼吸は良好でむせもない。義歯を使用すれば咀嚼可能であるが、実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしない。
 この患者の摂食嚥下で障害されているのはどれか。

1.先行期
2.準備期
3.口腔期
4.咽頭期
5.食道期

解答
解説

テストの説明

 反復唾液嚥下テスト〈RSST〉は、30秒間の空嚥下を実施してもらい、嚥下反射の随意的な能力を評価する。3回/30秒以上から嚥下の反復ができれば正常である。

 改訂水飲みテスト〈MWST〉とは、3mlの冷水を口腔内に入れて嚥下を行わせ、嚥下反射誘発の有無、むせ、呼吸の変化を評価する。嚥下あり、呼吸良好、むせない状態で、追加嚥下運動(空嚥下)が2回/30秒可能であれば、最高点数の5点である。

 本症例は、明らかな運動麻痺はなく、反復唾液嚥下テスト〈RSST〉・改訂水飲みテスト〈MWST〉や食物テストでは嚥下後の呼吸は良好でむせもない。また、義歯を使用すれば咀嚼可能である。ただ、実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしないことが問題となっている。

 脳挫傷は、頭部を強打した時に生じ、直撃損傷対側損傷がある。対側損傷がみられる場合、対側の方が脳の損傷が大きいことが多い。頭部CTを見ると、前頭葉に浮腫脳内血腫ごま塩状の点状出血(両側の前頭葉から側頭葉にかけて不整形な低吸収域と一部の高吸収域)がみられる。また対側損傷により、後頭葉の損傷も考えられる。前頭葉損傷による発動性意欲注意コントロールの影響・また左後頭葉損傷による視覚性失認(見ただけではその物体が何であるかわからず、食べると分かる)で、実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしないと考えられる。

1.〇 正しい。先行期は、目で見て食べ物を認識する相である。前頭葉損傷による発動性意欲注意コントロールの影響・また左後頭葉損傷による視覚性失認(見ただけではその物体が何であるかわからず、食べると分かる)で、実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしないと考えられる。
2~5.× 本症例は、明らかな運動麻痺はなく、嚥下後の呼吸は良好でむせはなく、また、義歯を使用すれば咀嚼可能である。そのため、準備期(その食べ物を口から入れ、咀嚼する)・口腔期(舌や頬を使い、食べ物を口の奥からのどへ送る)・咽頭期(食べ物を食道へ送る)・食道期(食べ物を胃へ送り込む)の問題ではない。

 

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