第53回(H30) 作業療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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6 21歳の男性。交通事故によるびまん性軸索損傷と診断された。意識は清明で運動麻痺はない。新しい物事を覚えるのが困難で記憶の障害が顕著である。
 この患者に対する適切なアプローチがどれか。

1.毎日異なる課題を与える。
2.記憶の外的補助手段を使う。
3.試行錯誤が必要な課題を行う。
4.複数の学習課題を同時に行う。
5.日課は本人のペースで柔軟に変更する。

解答2

解説

びまん性軸索損傷とは?

びまん性軸索損傷とは、頭部外傷後、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない状態である。交通事故などで脳組織全体に回転加速度衝撃が加わり、神経線維が断裂することで生じる。頭部外傷は、前頭葉・側頭葉が損傷されやすい。びまん性軸索損傷の好発部位は、①脳梁、②中脳、③傍矢状部などである。症状として、①意識障害、②記銘・記憶障害、③性格変化、④情動障害、⑤認知障害、⑥行動障害などの高次脳機能障害がみられる。他にも、運動失調、バランス障害も特徴的である。

1.× 「毎日異なる課題」ではなく、同じ課題を与えるのがよい。遂行機能障害がある可能性を考慮する必要がある。
2.〇 正しい。記憶の外的補助手段を使う。本症例は、”新しい物事を覚えるのが困難で記憶の障害が顕著である”。記憶障害が顕著であるので、メモ帳などの記憶の外的補助手段を使う。
3~4.× 試行錯誤が「必要な課題」ではなく、不必要な課題を行うのが良い。「複数の学習課題を同時」に行うのではなく「一つの学習課題を一つずつ」行うのが良い。遂行機能障害がある可能性を考慮する必要がある。
5.× 日課は本人のペースで「柔軟に変更する」よりある程度「固定」されていた方が良い。なぜなら、設問より本症例は、”新しい物事を覚えるのが困難で記憶の障害が顕著である”と記載されているため。つまり、前向性健忘が顕著である。日課を本人のペースで柔軟に変更するのではなく、日課をスケジュール通りにこなせるようメモ帳などの外的補助手段を利用しながら改善を促す。

 

 

 

 

 

 

 

 

7 20歳の男性。頸髄完全損傷。手指屈曲拘縮以外の関節可動域制限はない。食事の際のフォークの把持と口元へのリーチの場面を図に示す。
 この動作が獲得できる頸髄損傷患者のZancolliの四肢麻痺上肢機能分類の最上位レベルはどれか。

1.C5A
2.C6A
3.C6B2
4.C7A
5.C8B

解答2

解説

本症例のポイント

写真から、①左肘関節屈曲(MMT3以上)、②手関節背屈(弱い)、③手指の屈曲はテノデーシス作用によるものということが読み取れる。

1.× Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類のC5Aは、肘屈曲(腕橈骨筋-)である。写真から、①左肘関節屈曲(MMT3以上)あることから、C5Aは否定できる。
2.〇 正しい。Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類のC6Aは、手背屈が弱いが働いているレベルである。写真から、②手関節背屈(弱い)、③手指の屈曲はテノデーシス作用を使用していることからC6Aであると読み取れる。
3.× Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類のC6B2は、手背屈が強く、円回内筋(+)、橈側手根屈筋(-)である。写真から、強い手関節背屈と円回内筋の働きは否定できる。
4.× Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類のC7Aは、手指伸展(尺側手指の完全伸展可能、橈側手指および母指は伸展不能)なレベルである。
5.× Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類のC8Bは、手指屈曲・母指伸展(橈側および尺側手指の完全屈曲可能、母趾屈曲弱い。母指球筋弱い、手内筋麻痺。)なレベルである。

 

 

 

 

 

 

8 図はDuchenne型筋ジストロフィー患者に用いる上肢機能障害度分類(9段階法)のレベル8の状態である。
 自立していると考えられる活動はどれか。

1.パソコンのマウスを操作する。
2.スプーンを使って食べる。
3.普通型車椅子で自走する。
4.急須でお茶を注ぐ。
5.Tシャツを脱ぐ。

解答1

解説

上肢運動機能障害度分類(9段階法)

1.500g以上の重量を利き手に持って前方へ直上挙上する。
2.500g以上の重量を利き手に持って前方90°まで挙上する。
3.重量なしで利き手を前方へ直上挙上する。
4.重量なしで利き手を前方90°以上屈曲する。
5.重量なしで利き手を肘関節90°以上屈曲する。
6.机上で肘伸展による手の水平前方への移動。
7.机上で体幹の反動を利用し肘伸展による手の水平前方への移動。
8.机上で体幹の反動を利用し肘伸展を行ったのち、手の運動で水平前方への移動。
9.机上手の運動のみで水平前方への移動。

 Duchenne型筋ジストロフィーの上肢機能障害度分類のレベル8は、”机上で体幹の反動を利用し肘伸展を行ったのち、手の運動で水平前方への移動が可能”である。上肢運動機能障害度分類(9段階法)の図を見れば、レベルの状態が分かる。

1.〇 正しい。手の運動で水平前方への移動ができれば、パソコンのマウスを操作することは可能である。
2.× スプーンを使って食べるには、肘関節90°以上の屈曲が必要である。レベル5以上(重量なしで利き手を肘関節90°以上屈曲する。)は必要である。
3.× 普通型車椅子で自走するためには、ある程度の筋力も必要である。レベル2以上(500g以上の重量を利き手に持って前方90°まで挙上する。)は必要である。
4.× 急須でお茶を注ぐためには、物を持ち、上肢の前方挙上が必要である。レベル2以上(500g以上の重量を利き手に持って前方90°まで挙上する。)は必要である。
5.× Tシャツを脱ぐためには、上肢の直上挙上が必要である。レベル3以上(重量なしで利き手を前方へ直上挙上する。)が可能である。

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9 35歳の男性。飲酒後電車内で寝過ごし、右上腕部の圧迫によって橈骨神経麻痺となった。受傷4日後で橈骨神経領域の感覚低下があり、手関節背屈および手指伸展の自動運動は困難である。
 この患者に対するアプローチで適切なのはどれか。2つ選べ。

1.上腕部のアイシング
2.手関節背屈の抵抗運動
3.Engen型把持装具の使用
4.手指・手関節の他動伸展運動
5.コックアップ・スプリントの使用

解答4/5

解説

本症例のポイント

・35歳の男性(橈骨神経麻痺)。
・受傷4日後:橈骨神経領域の感覚低下、手関節背屈および手指伸展の自動運動は困難。
橈骨神経麻痺の治療(保存療法)は、主に①局所の安静、②薬剤内服、③必要に応じ装具、④運動療法などがあげられる。

1.× 上腕部のアイシングの優先度は低い。寒冷療法の生理作用には、局所新陳代謝の低下、毛細血管浸透圧の減少、血管収縮とその後の拡張、感覚受容器の閾値の上昇、刺激伝達遅延による中枢への感覚インパルス減少、筋紡錘活動の低下等がある。これらの作用により、炎症や浮腫の抑制、血液循環の改善、鎮痛作用、筋スパズムの軽減が期待される。(引用:「寒冷療法」物理療法系専門領域研究部会 著:加賀谷善教)

2.× 手関節背屈の抵抗運動は優先度は低い。なぜなら、設問より本症例は「手関節背屈および手指伸展の自動運動は困難である」と記載されているため。手関節背屈の抵抗運動はさらに困難であり効果が薄いと考えられる。
3.× Engen型把持装具の使用(手関節駆動式把持スプリント)の使用は、C6レベルまで残存している脊髄損傷に用いる装具である。Engen型把持装具(手関節駆動式把持スプリント)は、手関節背屈によりピンチ動作を可能するためのもので、橈骨神経麻痺の本症例は手関節背屈が困難であるため用いられない。
4.〇 正しい。手指・手関節の他動伸展運動を行う。本症例は、自動運動で全可動域を動かすことは困難である。したがって、他動運動により可動域を確保する。
5.〇 正しい。コックアップ・スプリントの使用は、手関節を機能的な位置に保持できないときに適応され、特に橈骨神経麻痺・中枢弛緩性麻痺の拘縮予防に用いられる。手関節背屈装具のことであり、機能的把持動作を可能とする。 

 

 

 

 

 

 

 

10 7歳の女児。アテトーゼ型脳性麻痺。GMFCSレベルⅣ。頭部は右を向きやすく、上肢はATNR様の姿勢をとる。利き手は右であるが物を持続的に把持する能力は低い。食事訓練場面では座位保持装置に座って肘当てと同じ高さのテーブルで、スプーンでの自力摂取を試みている。
 食事訓練における作業療法士の対応として適切なのはどれか。

1.BFOを利用する。
2.テーブルを補高する。
3.皿をテーブルの右側に置く。
4.スプーンの柄が細いものを選ぶ。
5.座位保持装置を床から60度の角度でティルティングする。

解答2

解説

本症例のポイント

・7歳の女児(アテトーゼ型脳性麻痺)
・GMFCSレベルⅣ(自力移動が制限)。
・頭部は右を向きやすく、上肢はATNR様(非対称性緊張性頸反射)の姿勢をとる。
・利き手は右であるが物を持続的に把持する能力は低い。
・食事訓練場面では座位保持装置に座って肘当てと同じ高さのテーブルで、スプーンでの自力摂取を試みている。
→アテトーゼ型は、麻痺の程度に関係なく四肢麻痺であるが上肢に麻痺が強い特徴を持つ。錐体外路障害により動揺性の筋緊張を示す。筋緊張は低緊張と過緊張のどちらにも変化する。他にも、特徴として不随意運動が主体であることや、原始反射・姿勢反射が残存しやすいことがあげられる。リラクセーションを図り過緊張を取りながら、随意的な運動や反応を引き出していく。

 

(※写真:BFO:Balanced Forearm Orthosis)

1.× BFOを利用は、第4・5頸椎損傷レベルALSに適応となる。食事等の日常生活動作の自立を目的とし、車椅子やテーブルに取り付けて使用する。肩・肘関節周囲筋がMMT2程度の筋力が弱い場合でも手を口に近づける食事動作に役立つ。
2.〇 正しい。テーブルを補高する。テーブルは肘の高さより高くすることで、テーブルと体幹・前腕が十分密着し、安定が図られる。
3.× 皿をテーブルの右側に置いた場合、非対称性緊張性頸反射(ATNR)が影響する。筋トーヌスの異常亢進をもたらすため不適当である。頭部が正中位になるように、皿もテーブルの真ん中に置き訓練を行う。ちなみに、非対称性緊張性頸反射(ATNR)とは、背臥位にした子どもの顔を他動的に一方に回すと、頸部筋の固有感覚受容器の反応により、顔面側の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する。生後から、生後4~6ヵ月まで。
4.× スプーンの柄が「細いもの」ではなく、太いものを選ぶ。なぜなら、物を持続的に把持する能力が低いためである。
5.× あえて、座位保持装置を床から「60度の角度」でティルティングする優先度は低い。本症例は、設問より「食事訓練場面では座位保持装置に座って肘当てと同じ高さのテーブルで、スプーンでの自力摂取を試みている」。座位保持装置のティルティングとは、座面と背面の角度を一定に保持した状態で支持部全体を傾けることである。座位保持装置を床から60度の角度でも、上肢筋が正常に近い場合は、自力摂取は可能であるが、本症例の場合、設問から「物を持続的に把持する能力は低い」ため、ティルティングしても、姿勢は安定するものの食事動作は困難になる可能性が高い。

「GMFCS」とは?

粗大運動能力分類システム(gross motor function classification system:GMFCS)は、判別的な目的で使われる尺度である。子どもの座位能力、および移動能力を中心とした粗大運動能力をもとにして、6歳以降の年齢で最終的に到達するという以下5段階の機能レベルに重症度を分類している。

・レベルⅠ:制限なしに歩く。
・レベルⅡ:歩行補助具なしに歩く。
・レベルⅢ:歩行補助具を使って歩く。
・レベルⅣ:自力移動が制限。
・レベルⅤ:電動車いすや環境制御装置を使っても自動移動が非常に制限されている。

 

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