第53回(H30)理学療法士 国家試験解説【午後問題86~90】

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86.変形性膝関節症の進行に伴う関節構成体の変化で正しいのはどれか。

1.滑膜の肥厚
2.骨囊胞の消失
3.軟骨下骨の肥厚
4.関節裂隙の拡大
5.関節靭帯の緊張

解答:1


解説

1.〇:正しい。変形性膝関節症は、摩耗・変性による関節軟骨の退行性変化である。次第に、軟骨下骨層の変化(硬化)と、滑膜は肥厚・増殖が生じる。
2.× 骨囊胞の「消失」ではなく、形成(出現)する。
3.△ 軟骨下骨の「肥厚」ではなく、変化(硬化)が起こる。※厚生労働省HPの解答は1のみ正解となっているが、日本病理学会HPの「変形性関節症」のおいて、「関節軟骨が完全に消失し、その下の骨梁に反応性肥厚をみる」と記載されている(コメントくださった匿名様ありがとうございます)。詳しくは、コメント欄を参照してほしいが、確実に選択肢3が不適切とは言い難い。
4.× 関節裂隙の「拡大」ではなく、狭小化が起こる。
5.× 関節靭帯の「緊張」ではなく、ゆるみが生じる。なぜなら、関節裂隙の狭小化が起こるため。

 

 

 

 

 

 

 

87.脳卒中後の肩手症候群について正しいのはどれか。

1.運動麻痺重症例よりも軽症例に多い。
2.女性の発症率は男性の約2倍である。
3.脳卒中発症後6か月以降に生じる。
4.発症頻度は40 %程度である。
5.複合性局所疼痛症候群typeⅠに分類される。

解答:5


解説

 肩手症候群は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)のひとつとされ脳卒中片麻痺の発症早期(2~3W)からみられる場合もある。ただ、3~6週後の発症例が最も多い。肩・上肢の疼痛・腫脹をきたすが感覚障害は重度でない。長期的には、骨萎縮を起こす(Sudeck骨萎縮)。本症例の多くは片麻痺、心疾患、頚部脊椎症、上肢の外傷などに続発する。重症例は廃用肩・廃用手となる。

 

1.× 逆である。例軽症例よりも運動麻痺重症に多い。発症例はBrs3以上で起こりやすい。
2.× 性差はみられない
3.× 「脳卒中発症後6か月以降」ではなく、脳卒中片麻痺の3~6週後の発症例が最も多い。
4.× 発症頻度は、「40%程度」ではなく20~30%である。
5.〇 正しい。複合性局所疼痛症候群type Ⅰに分類される。type Ⅰは、主要な末梢神経損傷を伴わないものである。

肩手症候群とは?

肩手症候群は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)の1つと考えられており、脳卒中後片麻痺に合併することが多い。他にも骨折や心臓発作などが誘因となる。症状は、肩の灼熱性疼痛と運動制限、腫脹などを来す。それら症状は、自律神経障害によるものであると考えられている。

第1期:症状が強い時期。
第2期:痛みや腫脹が消失し、皮膚や手の萎縮が著明になる時期。
第3期:手指の拘縮と骨粗懸症が著明になる時期の経過をとる。

治療目的は、①疼痛緩和、②拘縮予防・軽減である。
治療は、①星状神経節ブロック、②ステロイド治療、③アームスリング装着を行う。
リハビリは、①温熱療法、②マッサージ、③関節可動域訓練(自動他動運動)、④巧級動作練習を行う。
『脳卒中治療ガイドライン2009』では、「麻痺の疼痛・可動域制限に対し、可動域訓練は推奨される(グレードB:行うよう勧められる)」としている。

 

 

 

 

 

 

 

88 .Parkinson病について正しいのはどれか。

1.喫煙者に多い。
2.再発と寛解とを繰り返す。
3.孤発性症例が家族性症例より多い。
4.30〜40歳代での発症が最多である。
5.我が国の有病率はAlzheimer病より多い。

解答:3


解説

1.× 喫煙者に多いなどの報告はなく、喫煙者との関連性は今のところ報告されていない。Parkinson病は、中脳の黒質の変性により、線条体のドパミンが不足する進行性の神経変性疾患である。
2.× 再発と寛解とを繰り返すのが特徴的なものは、多発性硬化症である。
3.〇 正しい。孤発性症例が家族性症例より多い。孤発性は90%以上を占めている。
4.× 「30〜40歳代」ではなく、65~75歳代での発症が最多である。
5.× 我が国の有病率は、Alzheimer病より少ない。パーキンソン病の患者数約10万人。アルツハイマー病の患者数は、約200万人いるといわれている。

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

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89.皮膚筋炎について正しいのはどれか。

1.先行感染を伴う。
2.悪性腫瘍を伴う。
3.胸腺腫を合併する。
4.嚥下障害はきたさない。
5.遠位筋優位の筋力低下をきたす。

解答:2


解説

多発性筋炎(皮膚筋炎)とは?

多発性筋炎とは、自己免疫性の炎症性筋疾患で、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下をきたす。典型的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ぶ。膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患で、遺伝はなく、中高年の女性に発症しやすい(男女比3:1)。5~10歳と50歳代にピークがあり、小児では性差なし。四肢の近位筋の筋力低下、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状がみられる。手指、肘関節や膝関節外側の紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な症状がある。合併症の中でも間質性肺炎を併発することは多いが、患者一人一人によって症状や傷害される臓器の種類や程度が異なる。予後は、5年生存率90%、10年でも80%である。死因としては、間質性肺炎や悪性腫瘍の2つが多い。悪性腫瘍に対する温熱療法は禁忌であるので、その合併が否定されなければ直ちに温熱療法を開始してはならない。しかし、悪性腫瘍の合併の有無や皮膚症状などの禁忌を確認したうえで、ホットパックなどを用いた温熱療法は疼痛軽減に効果がある。

(※参考:「皮膚筋炎/多発性筋炎」厚生労働省様HPより)

1.× 先行感染を伴いやすいのは、Guillain-Barré症候群である。皮膚筋炎は、膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患である。
2.〇 正しい。悪性腫瘍を伴う。胃癌、肺癌、子宮癌、悪性リンパ腫などを合併することが多い。皮膚筋炎は診断されたらすぐに、徹底的に悪性腫瘍の検査を行うことが重要である。
3.× 胸腺腫を合併しやすいのは、重症筋無力症である。合併しやすいのは、間質性肺炎である。
4.× 嚥下障害はきたす。下肢を初発とする筋力低下があり、その後、嚥下障害、構音障害、呼吸困難を伴う。
5.× 「遠位筋優位」ではなく、近位筋優位の対称性の筋力低下をきたす。筋力低下・筋委縮・筋圧痛を伴う。

”Guillain-Barré症候群とは?”

Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群は、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下(下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。

(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)

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90.神経麻痺と起こり得る症状の組合せで正しいのはどれか。

1.腋窩神経麻痺:下垂指
2.肩甲上神経麻痺:Phalen徽候
3.前骨間神経麻痺:涙滴徴候
4.大腿神経麻痺:下垂足
5.副神経麻痺:翼状肩甲

解答:3


解説

1.× 下垂指は、「腋窩神経麻痺」ではなく、後骨間神経麻痺(橈骨神経遠位の障害)で生じる。腋窩神経は小円筋と三角筋を支配し、腋窩神経麻痺では上肢挙上が困難となる。
2.× Phalen徽候(ファレン徴候)の陽性であれば、「肩甲上神経麻痺」ではなく、正中神経麻痺を疑う。肩甲上神経は、棘上筋と棘下筋を支配している。Phalen徽候(ファレン徴候)とは、手関節を最大掌屈位約1分間保持させると、正中神経が分布している指に疼痛やしびれの増悪がみられる徴候で、手根管症候群で陽性となる所見である。
3.〇 正しい。前骨間神経麻痺は、涙滴徴候がみられる。涙滴徴候とは、母指と示指で、きれいなO型を作れず、涙の形を呈するものである。
4.× 下垂足は、「大腿神経麻痺」ではなく、腓骨神経麻痺で生じる。ちなみに、大腿神経麻痺では歩行時の膝折れが起こる。
5.△ 翼状肩甲は、「副神経麻痺」より、一般的に長胸神経麻痺で生じる(副神経麻痺でも起こりえないとはいえないが、他の選択肢で優先して生じるものが他にある)。副神経麻痺は胸鎖乳突筋、僧帽筋を支配する。翼状肩甲とは、肩甲骨内側縁が後方に突出して鳥の翼のような形状をとることをいう。原因として、長胸神経の障害である。長胸神経支配の前鋸筋麻痺や三角筋拘縮(短縮)症でみられる。他にも、過去問より肩甲背神経、長胸神経の両方を選択する問題があったが、一般的であるのは長胸神経の障害である。

 

7 COMMENTS

匿名

90問目の5番の選択肢ですが、
副神経の支配筋である僧帽筋の麻痺でも
翼状肩甲は見られます。
翼状肩甲が見られやすい原因として長胸神経が多いのだと理解すると良いのでしょうか?

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大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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匿名

1.× 先行感染を伴いやすいのは、Guillain-Barré症候群である。皮膚筋炎は、膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患である。
Guillain-Barré症候群も交差免疫による自己免疫性疾患に属します

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大川 純一

コメントありがとうございます。
2022年から当サイトの解説を閲覧いただきありがとうございます(IPアドレスから分かります)。
もしよろしければ、どのように書けば良いか?までご教授いただければ幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

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匿名

86
不思議な問題ですね。
3 軟骨下骨は肥厚しないのでしょうか。
骨の硬化って何でしょうね。骨基質の増加。骨カルシウム濃度の増加。
結果X腺で不透過性とその領域が増すということでしょうか。
組織学的には反応性に骨芽細胞が骨新生をして骨基質が増加するところが現れるのですが、これを肥厚とは言わないのでしょうか。
日本病理学会では肥厚の記載があるのですよね。https://pathology.or.jp/corepictures2010/19/c01/04.html

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匿名

補足ですが
3の解説 骨棘は主に軟骨膜の骨化(軟骨に発生する)で軟骨下骨の変化でありません。滑膜に生じることもあります。
5の弛緩の理由。靱帯に変性変化、膠原線維が細くなるような微細変化があり、つま組織学的損傷による力学的強度の低下によります。1の滑膜の肥厚の原因と同様であったり運動制限によるメカニカルストレスの変化が原因と思います。
どうでもいいことかもしれませんが。

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大川 純一

コメント・ご教授ありがとうございます。
おっしゃられる通り確実に選択肢3が否定できないと判断しましたので、解説文も修正させていただきました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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