第52回(H29) 理学療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

次の文により16、17の問いに答えよ。
 20歳の女性。1か月前に転倒し、疼痛は軽減したが膝関節の不安定感があり来院した。

 

16 実施した検査を図に示す。矢印は力を加えた方向を示す。
 この検査で陽性となったとき、損傷されたのはどれか。

1. 外側側副靱帯
2. 後十字靱帯
3. 前十字靱帯
4. 腸脛靱帯
5. 内側側副靱帯

解答:2

解説

1.5.× 外側側副靱帯/内側側副靱帯は、内/外反動揺性テストなどで確認できる。
2. 〇 正しい。図で行っているのは、後方引き出しテスト(drawer sign)である。後十字靱帯が損傷されたとき陽性となる。
3. × 前十字靱帯は、前方引き出しテストで確認できる。
4. × 腸脛靱帯は、Oberテスト(オーバーテスト)で陽性となる。他にも、Graspingテスト(グラスピングテスト)で確認できる。やり方は、腸脛靭帯を圧迫してテンションをかけた状態で、膝の曲げ伸ばしで症状が再現されるかどうかで判断する。

 

 

 

 

 

次の文により16、17の問いに答えよ。
 20歳の女性。1か月前に転倒し、疼痛は軽減したが膝関節の不安定感があり来院した。

17 他に損傷がなかった場合、優先すべき治療はどれか。

1. 安静固定
2. 水中歩行練習
3. 大腿四頭筋の強化
4. 超音波療法
5. ハムストリングスの強化

解答:3

解説

 症例の状態は、1か月前に転倒し、疼痛は軽減したが膝関節の不安定感があり来院している。後十字靭帯損傷後の治療では、疼痛や手術後に下肢の廃用性筋委縮を伴うことが多い。筋力訓練は下肢の筋全体に行うが、その際に脛骨の「後方引き出し」による不安定性に注意する必要がある。部分荷重は術後1~2周目の早朝から行うことが多い。

 

1.× 安静固定は、受傷して応急手当て時に必要になる(RICE処置)。本症例には、①受傷は1か月前であること、②さらなる筋委縮や関節拘縮を招くことなどの理由から不適切である。
2.× 水中歩行練習/超音波療法は、優先すべき項目ではない。なぜなら、現在、本症例の疼痛は軽減しているため。優先すべきは「膝関節の不安定感」にアプローチであるため。一般的に、水中歩行練習は膝関節への体重の負荷軽減(変形性関節症や肥満に対する有酸素運動など)のために行う。超音波療法は、一般的に疼痛管理と関節可動域の改善を目的とする。
3.〇 大腿四頭筋の強化は、優先すべき治療である。なぜなら、膝関節の後方へのずれ(不安定性)に対して拮抗することができるため。大腿四頭筋の訓練は、下腿の前方引き出し力強化につながる。
5.× ハムストリングスの強化は、優先すべき項目ではない。なぜなら、さらに脛骨が後方引き出しされてしまう恐れがあるため。それでも、ハムストリングスを鍛えたい場合は、脛骨近位を押さえるかセラバンドで支える必要がある。反対に、前十字靭帯損傷の際は、脛骨の前方不安定性を防ぎ、膝関節の安定性獲得のためにハムストリングスの強化が必要になる。

 

 

 

 

18 53歳の女性。脳出血による右片麻痺で、発症後6週経過。Brunnstrom法ステージは上肢、手指、下肢ともにⅣ。両足をそろえた位置から理学療法士を両上肢で押しながら図のように左足を一歩前に出す運動を行っている。
 この目的として誤っているのはどれか。

1. 歩幅の拡大
2. 歩隔の拡大
3. 右側の殿筋強化
4. 右側の下腿三頭筋の強化
5. 右側の上肢肩甲帯の安定化

解答:2

解説

 本症例は、右片麻痺で、Brunnstrom法ステージは上肢、手指、下肢ともにⅣ(分離した運動が出現するレベル)である。図は、左足を一歩前に出す運動(ステップ練習)を行っている。歩行周期の相として、麻痺側の立脚期である。Brunnstrom法ステージⅣでは、分離動作を練習し、さらに筋力向上をはかっていく。

 

1.〇 正しい。歩幅の拡大を目的に行う。脳血管障害の患者の歩行は、歩幅が狭小化し、一歩目が大きく踏み出せないことが多い。そのため、前方のPTを両上肢で押しながら、麻痺側下肢での体重支持を十分に行い、非麻痺側下肢をしっかり振り出せるように練習を行うことが大切である。歩幅を拡大することによって、効率のよい歩行が獲得できる。麻痺側の立脚期を獲得が大切になる。ちなみに、歩幅とは、一側の踵が接地してから他側の踵が接地するまでの距離を示す。
2.× 歩隔の拡大は、目的として誤っている。なぜなら、歩隔の広い歩行は、歩行効率が悪化するため。立位・歩行のバランス能力が低下すると、歩隔を拡大することで、支持基底面を広く取り安定性を代償する。つまり、バランスが悪いと支持基底面を広く取ろうとして、勝手に歩隔が拡大する。したがって、訓練により、歩隔を適正化し、歩行の効率を改善する必要がある。拡大したままだと分回し歩行にもつながる。
3~4.〇 正しい。右側の殿筋強化/右側の下腿三頭筋の強化を目的に行う。なぜなら、それらの筋は、麻痺側立脚期に働くため。麻痺側殿筋群および足関節周囲筋の弱化により麻痺側支持期に不安定性を呈し、身体重心の推進力低下を招く。図のように訓練することで、麻痺側下肢での体重支持を十分に行い、股関節と足関節周囲筋の強化を図る。
5.〇 正しい。右側の上肢肩甲帯の安定化を目的に行う。なぜなら、安定した歩行、きれいな歩容には上肢帯の安定は不可欠であるため。上肢の支持により、肩甲帯強化(前鋸筋など)を行い、上肢のコントロール改善にもつながる。

類似問題です↓
【PT専門】歩行周期についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

19 42歳の男性。Guillain-Barré症候群。発症後3日目。四肢体幹の重度な麻痺と呼吸筋麻痺のため人工呼吸器管理の状態である。
 この時期に行う理学療法で適切なのはどれか。

1. 体位排痰
2. 痙縮の抑制
3. 体幹の漸増抵抗運動
4. 上下肢の高負荷の筋力増強運動
5. 上下肢の過伸張を伴うストレッチ

解答:1

解説

”Guillain-Barré症候群とは?”

Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群は、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下(下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。

(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)

1.〇 正しい。体位排痰である。なぜなら、体位排痰は肺炎予防・喀痰排出のため。呼吸筋群が侵され、呼吸困難を呈し、人工呼吸管理を必要とすることもある。
2.✖ 痙縮の抑制は不適切である。なぜなら、Guillain-Barré症候群は、弛緩性麻痺が特徴であるため。痙縮は生じない。
3~5.✖ 体幹の漸増抵抗運動/上下肢の高負荷の筋力増強運動/上下肢の過伸張を伴うストレッチは、発症後3日目の時点(症状進行中)では、末梢神経障害に対して高負荷の訓練を行うと筋力低下を招くことになるため不適切である。弛緩性麻痺に対し、過伸張を伴うストレッチは軟部組織の損傷につながる。それらだけでなく、呼吸苦を生じるため不適切である。急性期は廃用症候群の予防と改善(低負荷・高頻度)、代償動作の獲得を行う。

類似問題です↓
【PT専門】Guillain-Barré症候群についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

20 多職種で構成される病院内のカンファレンスに出席する際に、先輩から「この会議は、チームビルディングは成熟していて活発な議論がなされるが、コンフリクトマネジメントに課題がある」と助言を受けた。
 このカンファレンスにおける対応として最も優先すべきなのはどれか。

1. 自分の意見を積極的に述べる。
2. 参加者と打ち解けられるようにする。
3. 意見が衝突した際に注意深く対応する。
4. 他者の意見を傾聴することを優先する。
5. 他者の意見に異を唱えずに議論を進める。

解答:3

解説

用語説明

チームビルディング・・・仲間が主体的に自分らしさ、多様性を発揮しつつ、相互に関わりながら一丸となって共通のゴールを達成しようとチャレンジする、そうした組織をつくるための取り組み全般。

コンフリクト・・・「意見や利害の衝突、葛藤、対立」といった概念を意味する言葉。ある事象に対する認知が相いれない形で存在している状態を指し、それが顕在化している場合もあれば、気づかれないまま潜在化していることもある。

コンフリクト・マネジメント・・・組織運営においてネガティブに評価されがちなこうした状況を、組織の活性化や成長の機会と捉え、積極的に受け入れて問題解決を図ろうとする考え方。その方法として、①合理化による乗り越え、②当事者間での話し合い、③第三者(メディエーター)の関り、④第三者による制裁がある。

 つまり、先輩から「この会議は、チームビルディングは成熟していて活発な議論がなされるが、コンフリクトマネジメントに課題がある」→この会議は”相互に関わりながら一丸となる”議論はできているが、“ネガティブな問題に対して成長としてとらえることができない”といった課題がある」と言っている。ネガティブな問題に対して成長できるよう介入することが望ましい。

 

1~2.4.× 自分の意見を積極的に述べる。/参加者と打ち解けられるようにする。/ 他者の意見を傾聴することを優先する。は、チームビルディングができているため、最も優先すべき項目ではない。
3.〇 正しい。意見が衝突した際に注意深く対応することが最も優先すべきである。「意見が衝突した際」とは、コンフリクトが起こった際のことを指す。この際、当事者間で十分話し合うことや、それがうまくいかない場合は状況が長期化しないように第三者を介して話し合うなどして注意深く対応することが必要である。
5.× 他者の意見に異を唱えずに議論を進めるのは、まず除外される項目である。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)