第52回(H29) 理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

11 Down症候群で乳児期前半にみられる特徴的な姿勢はどれか。

解答:2

解説

 乳児期とは、生後1歳から1歳半頃までのことである。

1.3.✖ 非対称性緊張性頸反射(ATNR)である。新生児期から出現し、4~6か月ごろに消失する。乳児期前半には見られない。痙直型四肢麻痺に見られやすい。
4.✖ 手で足をつかむことができるのは、正常であれば5か月頃に獲得できる。ダウン症児は、四肢体幹の筋緊張のため、乳児期前半での獲得は難しい。
5.✖ 小児の正常な運動発達として、ピポットプローン(飛行機肢位)とよばれる四肢を伸展・外転、脊柱を伸展して腹部を支点とする反り返り姿勢が4~5か月頃にみられる。

ダウン症候群とは?

 ダウン症候群(Down症候群)とは、染色体異常が原因で知的障害が起こる病気である。常染色体異常疾患の中で最多である。Down症候群になりうる異常核型は、3種に大別される。①標準トリソミー型:21トリソミー(93%)、②転座型(5%)、③モザイク型(2%)である。発症率は、平均1/1000人である。しかし、35歳女性で1/300人、40歳女性1/100人、45歳女性1/30人と、出産年齢が上がるにつれて確率が高くなる。症状として、①特異な顔貌、②多発奇形、③筋緊張の低下、④成長障害、⑤発達遅滞を特徴とする。また、約半数は、先天性心疾患や消化管疾患などを合併する。特異顔貌として、眼瞼裂斜上・鼻根部平坦・内眼角贅皮・舌の突出などがみられる。

 乳児期の特徴としては、全身の筋緊張が低く、発達の遅れを伴う。理学療法では、バランスボールなどダウン症児の興味関心を抱きやすい環境で筋緊張を高められる運動(主に体幹筋群)を提供する。スカーフ徴候陽性や、シャフリング移動がみられる。スカーフ徴候の正常(陰性)の場合、腕を首に巻きつけるようにすると抵抗するが、陽性の場合は抵抗がみられない。シャフリング移動とは、お座り姿勢のまま移動する(いざり)ことである。脚の動かし方、手の使い方のバリエーションが少なかったり、下半身の筋肉の張りが弱く、筋肉量も少ないために行うことがある。Down症候群の子供では、立位歩行の獲得が遅れるため、シャフリング移動がみられる。正常発達の乳児期前半では、背臥位にて手で足をつかむ動作を行うようになるが、ダウン症乳児の場合、全身の筋緊張が低下しているため、背臥位では股関節外転・外旋した「蛙様肢位(蛙状肢位)」となり、足の持ち上げが難しくなる。読み方は、そのまま「カエルヨウ肢位、カエルジョウ肢位、カエル肢位」などと読む。

苦手な方向けにまとめました。参考にしてください↓

【暗記用】姿勢反射を完璧に覚えよう!

 

 

 

 

 

12 58歳の男性。歩行時のふらつきを訴えて受診した。歩隔はやや広いが左右方向は安定しており、前後方向への振り子様の歩容がみられる。検査結果を表に示す。
 協調運動改善のための理学療法として適切なのはどれか。

 

1. 自転車エルゴメーターによるペダリング運動
2. rhythmic stabilization
3. 下肢筋群の持続的伸張
4. Frenkel体操
5. Epley法

解答:2

解説

 ①眼振を伴う協調運動障害は、「小脳および前庭の障害」によって起こる。小脳失調では、深部感覚障害やRomberg徴候は、陰性となるのが特徴である。したがって、検査結果から本症例は、「小脳性協調運動障害」があることが考えられる。小脳障害に対する協調運動改善のための理学療法を選択すれば正答となる。

 

1.3.× 自転車エルゴメーターによるペダリング運動/下肢筋群の持続的伸張は、協調運動改善効果は少ない。ちなみに、自転車エルゴメーターによるペダリング運動は、全身持久力の評価やトレーニングに使用する。下肢筋群の持続的伸張は、痙縮や拘縮がある場合に適応となる。
2.〇 正しい。rhythmic stabilizationが協調運動改善のための理学療法として適切である。rhythmic stabilizationは、固有受容性神経筋促通法(PNF)の手技の1つである。協調性改善を目的に、動筋・拮抗筋の交互の等尺収縮を繰り返して関節固定筋群の同時収縮を促す。小脳性協調運動障害にも有効である。
4.× Frenkel体操は、主に、脊髄障害に対する協調運動改善のための理学療法である(小脳性協調障害にも使用されることもある)。脊髄性運動失調など固有感覚低下による協調運動障害においては、視覚代償などを用い、はじめはゆっくり正確に運動を行い、徐々にスピードを速めていくことが一般的である。本症例は、眼振があるため、視覚による代償を使用するFrenkel体操は適さない。
5.× Epley法は、良性発作性頭位めまい症(BPPV)の治療である。卵形嚢から脱落して半規管内に浮遊した耳石が眩暈の原因となっている。これを頭位変換によって卵形嚢に戻すことを目的としている。

 

 

 

 

 

13 65歳の男性。被殻出血による右片麻痺。発症後2か月。意識レベル、認知機能および左下肢の機能に問題はない。右足関節の位置覚障害がみられる。起居動作は自立し、座位は安定している。現在、平行棒内での歩行練習中である。歩行中、右下肢の振り出しは可能であるが、踵接地がみられず、右下肢立脚中期に膝折れを認める。Brunnstrom法ステージ右下肢Ⅲ、右下腿三頭筋のMAS(modified AshworthScale)は2である。
 歩行に用いる最も適切な装具はどれか。

解答:3

 解説本症例の歩行の特徴として、①右下肢の振り出しは可能である(Brs:Ⅲ)、②踵接地がみられない(MAS2)。③右下肢立脚中期に膝折れがある。いずれも解決した装具を選択する。

 

1.✖ プラスチック短下肢装具(くつべら型短下肢装具S)は、下垂足・軽度の痙性麻痺に対して選択する。本症例のように、Brs:Ⅲ、MAS:2、踵接地がみられないほどの痙縮を抑えるには不適切である。
2.✖ オルトップ短下肢装具は、選択肢1.プラスチック短下肢装具(くつべら型短下肢装具S)よりさらに軽度の痙性麻痺に対して適応となる。軽量で着脱が容易であるが、制動力が弱い。
3.〇 正しい。両側支柱付き短下肢装具(ダブルクレンザック足継手付き短下肢装具)は、本症例の歩行に用いる最も適切な装具である。強い痙性のある場合に用いることが多い。ダブルクレンザック足継手は、底屈・背屈制動が可能である。また、プラスチック短下肢装具に比べ足関節の制動力が強く、筋緊張が強い場合にも適応となる。さらに立脚中期の膝折れも、ダブルクレンザック足継手の背屈制動により対応可能である。
4.✖ 両側支柱付き長下肢装具(ダブルクレンザック足継手付き長下肢装具)は、脳卒中重度の片麻痺(振り出し困難)の患者に用いることが多い。長下肢装具は、立位訓練開始から装具をつけ、介助下での平行棒な歩行訓練が必要なレベルの麻痺に適応となる。
5.✖ ゲイトソリューション装具は、より歩行に特化した装具である。油圧の設定によって、軽度~中等度の麻痺がある方でも適応となるが、立脚相に膝折れがみられ、背屈を制動する必要があるため不適当である。ゲイトソリューション装具は、両側継手であり、一側継手に油圧ダンパーによる底屈制動、背屈遊動とそれらの調整機能を持つ。

 

 

 

 

14 75歳の男性。冠動脈バイパス術後。病棟での運動療法中に胸部不快感を生じた。そのときのモニター心電図を下図に示す。
 この患者にみられるのはどれか。

1. 心房細動
2. 洞性徐脈
3. WPW症候群
4. 心室性期外収縮
5. Ⅱ度房室ブロック

解答:1

解説

 心電図の読解の問題は、①P波の有無、②R-R間隔が一定か、③QRSの幅の広さ、の3点を読む。

1.〇 正しい。心房細動である。特徴として、心房の興奮が形・大きさともに不規則であり、基線が揺れている(f波)。心房が正常に収縮しないためにP波が消失し、QRS波が不規則なことより心房細動ということが読み取れる。
2.✖ 洞性徐脈の特徴として、洞結節からの興奮が緩徐となっている状態である。
3.✖ WPW症候群は、正常な刺激伝導系以外に心房と心室を連結する伝導路が存在することにより、心室の早期興奮が生じるものであり、しばしば発作性の不整脈を生じる。心電図の特徴として、緩やかに立ち上がった後に急峻なR波。この緩やかな部分をデルタ波であり、WPW症候群の特徴的所見である。他にも、PQ間隔短縮、幅広いQRS波を認める。
4.✖ 心室性期外収縮の特徴として、本来の洞結節からの興奮より早く心室で興奮が開始する。つまり、P波を伴わない幅広く変形したQRS波が洞調律と関係ない部分でみられる。
5.✖ Ⅱ度房室ブロックの特徴として、心房から心室への伝導が突然途絶える状態である。そのため、P波の後のQRS波が突然脱落する(QRS波の脱落)。

類似問題です↓
【PT専門のみ】心電図についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

15 70歳の男性。脳梗塞による左片麻痺。線分抹消検査では紙面の左下方の線分抹消が行えず、車椅子駆動時には左側を壁にぶつけることがあった。
 理学療法として適切なのはどれか。

1. 右側から聴覚刺激を与える。
2. 右後頸部筋へ振動刺激を行う。
3. 頭部は正面を向いたまま体幹を右に回旋させる。
4. 手がかりを与えながら左側にある視覚標的を右へ移動させる。
5. 視野が右へ偏位するプリズム付眼鏡をかけてリーチ動作を行わせる。

解答:5

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(脳梗塞による左片麻痺)
・線分抹消検査:紙面の左下方の線分抹消が行えない。
・車椅子駆動時:左側を壁にぶつける。
→本症例は、左半側空間無視の症状が出ていることが分かる。左半側空間無視は、右頭頂葉後部(右中大脳動脈領域)の障害で生じる。半盲とは性質が異なり、左半分が見えないわけではなく、左半分への注意力が低下している状態である。リハビリテーションの方法としては、①左への注意喚起、②左身体への触覚刺激、③左方向への体軸回旋運動、④左側からの声掛けなどを行う。

1~4. × 右側から聴覚刺激を与える。/右後頸部筋へ振動刺激を行う。/頭部は正面を向いたまま体幹を右に回旋させる。/手がかりを与えながら左側にある視覚標的を右へ移動させる。のは、すべて逆であり、左側へのアプローチを行う。左右逆に変換してもらうと正しい選択肢となる。
5.〇 正しい。 視野がへ偏位するプリズム付眼鏡をかけてリーチ動作を行わせる。なぜなら、プリズム付眼鏡は、標的が実際よりも右寄りに見えるため。プリズム適応療法の手順は、①視野を右に偏倚させるプリズムメガネによって目標点が実際より右にずれて見える。②自らの手の軌跡を見ずに目標点に手を伸ばすと実際より右にずれた点を指してしまう。③この動作を何度か繰り返すと実際の目標点を正確にさせるようになる(プリズム適応)④プリズム適応状態でメガネを外すと今度は実際の目標点より左を指差す(after effect)といった具合である。

左半側空間無視に対するエビデンス

・グレードB:視覚探索訓練、無視空間への手がかりの提示、プリスム適応療法など。

・グレードC1:無視側の耳への冷水刺激、無視空間への眼振の誘発を行う視運動性刺激、無視側への体幹回旋、無視側後頸部の筋への振動刺激など

しかし、永続的効果・日常生活動作への般化については、十分な科学的根拠はない。

 

2 COMMENTS

大川 純一

コメントありがとうございます。
答えが選択肢4ということでしょうか?
「④右側からの声かけ」がどこから来たのか確認できませんでした。
左半側空間無視は、「無視空間への刺激提示」を行います。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)