第52回(H29) 理学療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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6 義肢の写真を下図に示す。
 使われている部品はどれか。

1. 吸着式ソケット
2. ターンテーブル
3. 多節リンク膝
4. トルク吸収装置
5. ドリンガー足部

解答:1

解説

1.〇 吸着式ソケットは、ソケット内壁と断端の軟部組織を密着させることによって自己懸垂性を持つソケットである。バルブより空気を追い出し、最後にふたをする。画像のソケット形状は、四変形ソケットと呼ばれる。
2.× ターンテーブルを取り付けることで、室内畳上でのあぐら座位動作、履物の着脱動作などが可能になる。膝継ぎ手以下を回旋させることができるようになる。
3.× 本画像は、荷重ブレーキ機構の付いた単軸膝である。多節リンク膝は、多軸膝とも呼ばれ、軸が4つ以上あり、立脚期の安定に有効である。
4.× トルク吸収装置とは、ソケットと足部の間などに入れ込む部品で、回旋方向のトルク(衝撃)を吸収する機能がある。つまり、歩行中の蹴り上げ時に生じるショック及び回転運動を吸収する装置である。
5.× ドリンガー足部は、農耕用義足で足部が丸みを帯びた舟底様になり、前足部がないのが特徴である。これにより、あぜ道、坂道での歩行の安定性と容易さが得られ、泥田の中から足部が抜けやすい利点がある。

(※写真引用:「第2章補装具の基礎知識」福島県ホームページより)

 

 

 

 

 

7 病態と図に示す靴の補正との組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

1. 踵骨骨棘:①
2. 外反扁平足:②
3. 外反膝:③
4. 内反足:④
5. 槌指:⑤

解答:1,5

解説

1.〇 正しい。SACH(サッチ)ヒールである。踵部のクッションがたわむことで衝撃を吸収するものである。踵部分がクッション性の高い材質になっており、踵接地時の足部進行方向の安定化とヒールロッカー機能を持たせ、距骨下関節距腿関節の強直・拘縮距骨粘液嚢腫踵骨骨棘に適応となる。
2.× ②は、外側フレアヒールである。外反扁平足ではなく、内反足の適応である。
3.× ③は、逆トーマスヒールである。外反膝ではなく、内反尖足に適応である。
4.× ④は、ロッカーバーである。内反足ではなく、中足骨骨頭の免荷に適応である。
5.〇 正しい。⑤は、メタタルザルパット(サポート)である。槌指に対して、足部のアーチを高めるメタタルザルパットの挿入や、つま先の広い靴で対応する。

 

 

 

 

8 14歳の女子。第5胸椎を頂椎とする側弯症。Cobb角は18度である。体幹前屈時の様子を図に示す。
 正しいのはどれか。

 

1. 右凸の側弯である。
2. 手術療法の適応である。
3. 側弯体操で矯正可能である。
4. Boston 型装具の適応である。
5. 第5胸椎の棘突起は凸側へ回旋している。

解答:1

解説

 側弯症は、脊柱が横に曲がり、多くの場合は脊柱自体のねじれを伴う。側弯症の大部分は、学童期の後半から思春期女児に発生し、その多くは早い時期に発見して治療を受ければ進行して悪化するのを止められる。そのため、早期診断治療が重要である。肩の高さや前屈位で背部より見たときの胸郭の左右差、両ウエストラインのくびれの左右差で判断する。原因のほとんど(70~80%)は特発性である。

 

1.〇 正しい。右凸の側弯である。脊柱側弯症の検診法として、前屈時、背部に肋骨隆起(rib hump)はないか確認する方法がある。隆起している方に凸となる。
2.4.× 本症例のCobb角は18度であるため、手術療法/Boston 型装具の適応ではない。Cobb角は25°までは経過観察と運動療法。25~50°は装具療法。50°以上で手術適応である。
3.× 側弯体操では、矯正は困難である。側弯体操は、脊柱の側弯及び回旋変形の進行防止と改善に有効である。矯正は行わない。
5.× 第5胸椎の棘突起は凸側へ回旋しない。椎体の回旋は椎体の凸方向に起こるが、棘突起は回旋しない

 

 

 

 

 

9 60歳の男性。右利き。脳梗塞を発症し、回復期リハビリテーション病棟に入院中である。食事時に右手でスプーンの柄を握りこんでしまい、うまくスプーン操作ができず、介助が必要になることが多いが、少しずつ食事動作が円滑にできる場面が増えてきている。頭部MRIを下図に示す。
 この食事動作の病態として考えられるのはどれか。

1. 観念失行
2. 視覚性失認
3. 運動維持困難
4. 右上肢運動麻痺
5. 右上肢深部覚障害

解答:1

解説

 頭部MRI画像より、左角回の脳梗塞と判断でき、観念失行を生じていると考えられる。

1.〇 正しい。観念失行である。観念失行とは、使い慣れているはずの道具の使用・日常の一連の動作を順序正しく行えないことである。本症例の「スプーンの使用方法が分からない状態」と一致する。
2.× 視覚性失認は、主に左後頭葉の障害(左後頭葉の視覚前野から側頭葉の側頭連合野にかけての腹側視覚路の障害)である。視覚で認識した物体がなんであるか分からないが、視覚以外の感覚(例えば、味覚)を使えば物体がなんであるかわかる。
3.× 運動維持困難は、右前頭葉の比較的広範囲(前頭葉、側頭葉、頭頂葉を含む中大脳動脈領域)の病変によって生じる。作業への集中が困難となり、1つないし2つの動作を同時に行えなくなる病態である。
4.× 右上肢運動麻痺は、右上肢運動麻痺は、左錐体路が障害されることで起こる。
5.× 右上肢深部覚障害(位置覚・振動覚の障害)は、左頭頂葉が障害されることで起こるため本症例でも障害されている可能性はある。しかし、問題文は、この食事動作の病態として考えられるのはどれか?である。そのため、仮に深部感覚が低下しているのであれば、食事時に右手でスプーンの柄を握りこむ様子は認められず、左手の触覚や目で代償して食事をとる場面が観察できる。

 

 

 

 

 

10 10歳の男児。Duchenne 型筋ジストロフィー。独歩不可能で、屋外は車椅子で、室内では四つ這い移動が可能。上肢に拘縮はなく、座位で上肢の使用が可能である。
 この時期に優先して行うべき評価はどれか。

1. 知能検査
2. 深部腱反射
3. 神経伝導速度
4. 呼吸機能検査
5. 前腕回内外試験

解答:

解説

機能障害度

ステージⅠ:階段昇降が可能で、手すりを必要としない。
ステージⅡ:歩行は可能。階段昇降で手すりを必要とする。
ステージⅢ:歩行は可能だが、階段昇降などは不可能。通常の高さの椅子であれば立ち上がり可能。
ステージⅣ:1人では歩けないが、介助歩行は可能。
ステージⅤ:起立・歩行は不可能だが、四つ這いなどでの移動は可能。
ステージⅥ:四つ這いも不可能だが、いざり移動は可能。
ステージⅥ:いざり移動も不可能。座位を保持することは可能。
ステージⅧ:座位保持ができず、寝たきりの状態。

 本症例は、ステージⅤであることが分かる。今後、呼吸筋の筋力低下や心筋変性により、呼吸困難・心不全など罹患するリスクが上がる。よって、優先的に検査するのは、選択肢4.呼吸機能検査となる。また、車椅子座位時間が長時間になると脊柱の変形が急速に進行し、呼吸筋の筋力低下により呼吸機能は低下する。ステージの進行に伴い、人工呼吸管理が必要となるため、車椅子座位時間が増えるこの時期に呼吸機能の定期的な検査は重要である。

 

1.× 知能検査の優先度は低い。なぜなら、Duchenne 型筋ジストロフィーでは、精神発達遅延は必ずしもみられないため。
2.× 深部腱反射の優先度は低い。なぜなら、深部腱反射は、上位運動ニューロン障害や下位運動ニューロン障害の評価であるため。Duchenne 型筋ジストロフィーは筋疾患である。
3.× 神経伝導速度の優先度は低い。なぜなら、神経伝導速度は、末梢神経障害で行う検査であるため。Duchenne 型筋ジストロフィーは筋疾患である。
5.× 前腕回内外試験の優先度は低い。なぜなら、前腕回内外試験は小脳性運動失調の評価であるため。

 

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