第50回(H27) 理学療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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次の文により5 、6 の問いに答えよ。
65 歳の男性。右利き。脳梗塞による片麻痺。Brunnstrom 法ステージは上肢、手指、下肢ともにⅢ。回復期リハビリテーション病棟では車椅子で移動している。発症後3か月の頭部MRI (下図)を別に示す。

6 この患者が基本動作練習を開始した際に観察されるのはどれか。

1. 左側からの方が起き上がりやすい。
2. 座位練習で右手を支持に使うことができない。
3. 立位保持では両下肢に均等に荷重ができる。
4. 車椅子駆動の際に廊下の左壁によくぶつかる。
5. 練習を繰り返しても装具装着の手順を間違える。

解答4

解説

本症例のポイント

・65歳の男性(右利き、脳梗塞、左片麻痺)
・上肢Ⅲ:座位で肩・肘の同時屈曲、同時伸展
・手指Ⅲ:全指同時握り、鈎型握り(握りだけ)、伸展は反射だけで、随意的な伸展不能
・下肢Ⅲ:座位・立位での股・膝・足の同時屈曲
・車椅子で移動。
・MRI画像)側脳室レベルのスライスで劣位半球の右頭頂葉から側頭葉にかけて梗塞が疑える(右大脳梗塞)。
→劣位半球の障害では、半側空間無視の他、着衣失行、身体失認、病態失認などがみられやすい。

1.× 「左側から」ではなく右側からの方が起き上がりやすい。本症例は、MRI画像から劣位半球の右頭頂葉から側頭葉にかけて梗塞が疑える。つまり、左片麻痺であることがわかる。また、BrunnstromステージⅢで痙直が強い時期である。麻痺側への起き上がりは難しいと考える。
2.× 一概に座位練習で右手を支持に使うことができないとは言い切れない。なぜなら、画像上、左半球に異常はみられないため。pusher現象(片麻痺患者が非麻痺側肢で接触面を押して、正中軸を越えて麻痺側方向へ倒れる現象)を併発していると考えられる(病巣は、右中大脳動脈領域梗塞、右頭頂葉、左右視床などであるから一致しているため)。だが、プッシャー現象自体、起こる頻度は多いとも言えず、座位練習で右手を支持に使うことができないと言い切れない。
3.× 立位保持で両下肢に「均等」に荷重するのは難しい。わずかな左右差は健常者にも認められる。どこまでを「均等(平等で差がないこと)」とするかは難しいが、本症例は、左片麻痺(BrunnstromステージⅢ)で痙直が強い時期である。
4.〇 正しい。車椅子駆動の際に廊下の左壁によくぶつかる。(左)半側空間無視の症状である。
5.× 練習を繰り返しても装具装着の手順を間違える症状は観念失行である。観念失行とは、日常の一連の動作や、道具の使用が順序正しく行えないことで、病変部は左頭頂葉であるため不適切である。ちなみに、優位半球(左)の頭頂葉の障害で他にも観念運動失行やゲルストマン症候群が起こりやすい。

 

 

 

 

7 19歳の男性。オートバイ事故による頭部外傷で入院加療中。受傷後1か月。JCS(Japan coma scale)はⅠ- 1 。右上下肢はよく動かすが、左上下肢の筋緊張は亢進し、上肢屈曲位、下肢伸展位の姿勢をとることが多い。座位保持は可能であるが、体幹の動揺がみられる。
 この時期の理学療法で適切なのはどれか。2 つ選べ。

1. 介助なしでのT字杖を用いた歩行練習
2. 臥位での左上肢のFrenkel体操
3. 座位での左下肢筋の持続伸張
4. 立位でのバランス練習
5. 階段を降りる練習

解答3/4

解説

本症例のポイント

・19歳の男性(オートバイ事故による頭部外傷)
・受傷後1か月:JCS(Japan coma scale)Ⅰ- 1 (意識清明とは言えない。大体意識清明だが、今ひとつはっきりしない。)。
・右上下肢はよく動かすが、左上下肢の筋緊張は亢進し、上肢屈曲位、下肢伸展位の姿勢をとることが多い。
・座位:保持可能、体幹の動揺がみられる。
→頭部外傷後、びまん性軸索損傷も伴いやすい。びまん性軸索損傷とは、頭部外傷後、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない状態である。交通事故などで脳組織全体に回転加速度衝撃が加わり、神経線維が断裂することで生じる。頭部外傷は、前頭葉・側頭葉が損傷されやすい。びまん性軸索損傷の好発部位は、①脳梁、②中脳、③傍矢状部などである。症状として、①意識障害、②記銘・記憶障害、③性格変化、④情動障害、⑤認知障害、⑥行動障害などの高次脳機能障害がみられる。他にも、運動失調、バランス障害も特徴的である。

1.× 介助なしでのT字杖を用いた歩行練習は、危険である。なぜなら、JCSⅠ- 1(意識清明ともいえない状態)でさらに左下肢の緊張の亢進、座位時に体幹動揺も認められるため。まずは介助ありで練習するのが望ましい。
2.× 臥位での左上肢のFrenkel体操は優先度は低い。なぜなら、本症例の左上肢は、「筋緊張が亢進し上肢屈曲位になりやすい」ため。つまり、Frenkel体操は、「麻痺側」に対してではなく、運動失調に対して行い、目的は視覚代償による運動制御を促通することである。主に、脊髄障害に対する協調運動改善のための理学療法である(小脳性協調障害にも使用されることもある)。脊髄性運動失調など固有感覚低下による協調運動障害においては、視覚代償などを用い、はじめはゆっくり正確に運動を行い、徐々にスピードを速めていくことが一般的である。
3.〇 正しい。座位での左下肢筋の持続伸張を行う。なぜなら、本症例は「左上下肢の筋緊張は亢進し、上肢屈曲位、下肢伸展位の姿勢をとること」が多く、関節可動域制限をきたしやすいため。拘縮予防に効果的である。
4.〇 正しい。立位でのバランス練習を行う。本症例は、座位は可能であるが体幹の動揺がみられている。その状態に対し次のステップとしての立位練習は適切な難易度といえる。
5.× 階段を降りる練習は、難易度が高く危険を伴う。なぜなら、本症例は、座位は可能であるが体幹の動揺がみられている状態で、まだ立位平地歩行の評価ができていないため。現在の状態での階段練習は時期尚早である。

 

 

 

 

 

8 62歳の男性。5年前に脊髄小脳変性症と診断され、徐々に歩行障害が進行している。体幹失調が顕著で、下肢には協調運動障害があるが筋力は保たれている。歩隔をやや広くすることで左右方向は安定しているが、前後方向への振り子様の歩容がみられる。最近になって自力歩行が困難となり、理学療法で歩行器を用いた歩行を練習している。
 この患者の歩行器に工夫すべき点で適切なのはどれか。

1. サドル付型を用いる。
2. ピックアップ型を用いる。
3. 歩行器は軽量のものを選ぶ。
4. 上肢支持面の側方に重錘を装着する。
5. 上肢支持面は前腕部で支持できる高さにする。

解答5

解説

本症例のポイント

・62歳の男性(5年前、脊髄小脳変性症)
・歩行障害(歩隔をやや広くすることで左右方向は安定しているが、前後方向への振り子様の歩容がみられる)
体幹失調が顕著で、下肢には協調運動障害があるが筋力は保たれている
・最近:自力歩行が困難、歩行器を用いた歩行を練習中。
→適切な歩行補助具の選択には、①支持基底面、②免荷、③重心移動の代償手段の要素を加味して決定する。

1.× サドル付型を用いる優先度は低い。なぜなら、本症例は、下肢の筋力は保たれているため。サドル付型歩行器とは、四輪の歩行器に自転車のサドルのような座面が付属するものである。目的として、下肢への免荷であったり、下肢筋力を代償することである。
2.× ピックアップ型を用いる優先度は低い。なぜなら、本症例は体幹失調が顕著であるため。ピックアップ型とは、固定型(交互型)歩行器ともよばれ、使用にあたっては持ち上げて移動する必要がある。そのため、体幹失調や立位バランスが低下している症例は転倒のリスクが高くなる。
3.× 歩行器は「軽量のもの」ではなくある程度重量のあるものを選ぶ。なぜなら、本症例は体幹失調が顕著であるため。ただし、何gの歩行器から「軽量のもの」という規定はないが、歩行器自体にある程度重量がある方が安定するため、臨床現場では歩行器の足に重錘をつけて代償する方法もある。
4.× 上肢支持面の「側方」に重錘を装着する優先度は低い。なぜなら、本症例は、側方は安定しているため。設問から「歩隔をやや広くすることで左右方向は安定しているが、前後方向への振り子様の歩容がみられる」と記載されている。
5.〇 正しい。上肢支持面は前腕部で支持できる高さにする。前腕支持することで、体幹失調の代償ができ安定しやすい。他のアプローチとしては、重錘負荷法、弾性緊縛帯装着、固有受容性神経筋促通法などもある。

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

9 25歳の女性。交通事故で頸椎脱臼骨折を受傷した。脊髄ショック期は脱したと考えられる。MMTで、肘屈曲は徒手抵抗に抗する運動が可能であったが、手関節背屈は抗重力位での保持が困難であった。肛門の随意的収縮は不能で、肛門周囲の感覚も脱失していた。
 目標とする動作で適切なのはどれか。

1. 起き上がり
2. 自動車運転
3. 側方移乗
4. 電動車椅子操作
5. トイレ移乗

解答1

解説

本症例のポイント

・25歳の女性(交通事故で頸椎脱臼骨折)
・脊髄ショック期は脱した。
・MMT:肘屈曲は徒手抵抗に抗する運動が可能手関節背屈は抗重力位での保持困難
・肛門:随意的収縮不能、肛門周囲は感覚脱失。
→まず、本症例の残存機能レベルを考える。本症例は、①肘屈曲は徒手抵抗に抗する運動が可能(C5レベル残存)、②手関節背屈は抗重力位で保持困難(C6レベル障害)なことから、C5レベル残存と考えられる。C5レベルの主な動作筋は三角筋・上腕二頭筋であり、移動は、ハンドリムに工夫が必要だが、車椅子駆動可能である。また、自立度は重度介助で自助具による食事動作、スリング使用により体位変換が可能である。以上のことから目標とする動作を選択する。

1.〇 正しい。起き上がりである。三角筋と上腕二頭筋をトレーニングすることで、起き上がり動作の獲得を目標とする。
2.× 自動車運転は、C6レベルの機能残存が必要である。ハンドル旋回装置や手動装置を利用することで、自動車の運転が可能になる。
3,5.× 側方移乗/トイレ移乗は、C7レベルの機能残存が必要である.
4.× 電動車椅子操作は、C5レベルまで機能が残存していれば、上肢を使ってジョイスティックによる電動車椅子の操作が可能である。現時点で可能な動作であり、問題文の「目標とする動作」とはならないため不適切である。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

 

 

 

 

 

次の文により10、11の問いに答えよ。
 27歳の男性。企業のラグビー選手として試合中に転倒し、左肩痛を訴えて受診した。来院時のエックス線単純写真を下図に示す。

10 この写真から判断できる所見はどれか。

1. 肩腱板断裂
2. 肩甲上腕関節脱臼
3. 肩鎖関節脱臼
4. 鎖骨骨折
5. 上腕骨骨頭骨折

解答3

解説

 鎖骨をX線単純写真で撮影すると肩峰端のコントラストが映りにくい。鎖骨(上方転位)がみられ、肩鎖関節が脱臼している。それに伴い、肩鎖靭帯・鳥口肩鎖靭帯ともに断裂する。よって、選択肢3,肩鎖関節脱臼が正しい。

 

1.× 肩腱板断裂は、X線単純写真では判断できない。なぜなら、X線では筋や腱がうつらないため。もし判断するとしたら、肩腱板断裂が長期化すると、上腕骨頭が上方転位し、単純X線上でも肩峰骨頭間距離の減少がみられる。
2.5.× 肩甲上腕関節脱臼・上腕骨骨頭骨折の所見は見られない。
4.× 鎖骨骨折ではない。なぜなら、骨片がないため。肩峰端のコントラストが映りにくく確認できないだけである。

 

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