第50回(H27) 理学療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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次の文により10、11の問いに答えよ。
27歳の男性。企業のラグビー選手として試合中に転倒し、左肩痛を訴えて受診した。来院時のエックス線単純写真を下図に示す。

11 患者はスポーツ選手を継続することを希望している。
 治療として適切なのはどれか。

1. 安静
2. 手術療法
3. 超音波療法
4. ギプス固定
5. ホットパック

解答2

解説

本症例は、肩鎖関節脱臼である。(下に治療法など解説してある)。よって、選択肢2.手術療法が正しい。

1,4.× 安静/ギプス固定(三角巾などの固定)は、肩鎖関節脱臼Ⅰ型、Ⅱ型の治療法である。Ⅰ型(捻挫):三角巾の固定(2~3週間)で手を吊りながら、始めの2~3日は患部を冷やし、その後は患部を暖めて痛みと腫れが引いてきたら肩関節の運動練習を開始して治療していく。Ⅱ型(亜脱臼):三角巾テーピングによる固定(2~3週間)行い、その後、肩関節の動きの可動域練習を開始する。肩関節の可動域がよくなれば筋力トレーニングを行う。
2.× 手術療法は本症例の場合(Ⅲ型)に適応となる。肩鎖関節脱臼は、肩鎖靭帯・鳥口鎖骨靭帯ともに断裂しやすく、また鎖骨の転位がみられる本症例の場合(Ⅲ型)のスポーツ選手は、手術適応となる。仮に、転位がない場合は保存療法となる。Ⅲ型(完全脱臼):中高年の事務職には亜脱臼と同様の治療法を行うが、若者やスポーツ選手は手術適応となる
3.× 超音波療法・ホットパックは、肩鎖関節脱臼Ⅰ型(捻挫)の炎症鎮静後に行うものである。基本的に炎症期間は、三角巾の固定(2~3週間)で手を吊りながら、始めの2~3日は患部を冷やし、その後(炎症鎮静後)は患部を暖めて痛みと腫れが引いてきたら肩関節の運動練習を開始して治療していく。超音波療法・ホットパックとも温熱療法である。炎症がある急性期は禁忌である。

肩鎖関節脱臼の種類

Ⅰ型(捻挫):肩鎖靱帯の部分的な傷みだけ。烏口鎖骨靱帯、三角筋・僧帽筋は正常。
Ⅱ型(亜脱臼):肩鎖靱帯が断裂、烏口鎖骨靱帯は部分的に痛んでいる。三角筋・僧帽筋は正常。関節の隙間が拡大し鎖骨の端がやや上にずれている。
Ⅲ型(脱臼):肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端からはずれていることが多い。鎖骨の端が完全に上にずれている。
Ⅳ型(後方脱臼):肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端からはずれている。鎖骨の端が後ろにずれている脱臼。
Ⅴ型(高度脱臼):Ⅲ型の程度の強いもの。肩鎖靱帯・烏口鎖骨靱帯ともに断裂。三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全にはずれている。
Ⅵ型(下方脱臼):鎖骨の端が下にずれている非常にまれな脱臼。

【その治療】
Ⅰ型(捻挫):三角巾の固定(2~3週間)で手を吊りながら、始めの2~3日は患部を冷やし、その後は患部を暖めて痛みと腫れが引いてきたら肩関節の運動練習を開始して治療していく。
Ⅱ型(亜脱臼):三角巾やテーピングによる固定(2~3週間)行い、その後、肩関節の動きを可動域練習を開始する。肩関節の可動域がよくなれば筋力トレーニングを行う。2か月間は重量物の持ち上げやコンタクトスポーツは禁止。
Ⅲ型(完全脱臼):中高年の事務職には亜脱臼と同様の治療法を行うが、若者やスポーツ選手は手術適応となる
Ⅳ型、Ⅴ型、Ⅵ型(完全脱臼):手術が必要。

 

 

 

 

 

12 4歳の男児。痙直型両麻痺。GMFCS(gross motor function classification system)レベルⅢ。立位姿勢を図に示す。
 理学療法で適切なのはどれか。


1. 股関節内旋筋の促通
2. ハムストリングスの促通
3. 腹筋群と殿筋群の同時収縮の促通
4. 長下肢装具の使用
5. 両側T字杖の使用

解答3

解説

本症例のポイント

・4歳の男児(痙直型両麻痺)
・GMFCSレベルⅢ:「歩行補助具を使用して歩くことは可能」
→本症例は痙直型両麻痺である。両麻痺とは、両下肢に重度の麻痺がある状態のこと。痙直型両麻痺の歩行(クラウチング歩行)は、股・膝とも屈曲位で伸びきらない歩行である。さらに、股関節は内転・内旋となるため内股での歩行(はさみ足)が特徴的である。

1~2.× 股関節内旋筋の促通/ハムストリングスの促通の優先度は低い。なぜなら、本症例は、はさみ足(股関節内旋・膝関節屈曲位)であり、股関節内旋筋・膝関節屈曲筋が促通すると、さらにはさみ足(股関節内旋・膝関節屈曲位)が助長されるため。股関節内旋筋やハムストリングスは抑制し、股関節外旋筋や膝関節伸展筋を促通すべきである。
3.〇 正しい。腹筋群と殿筋群の同時収縮の促通を行う。腹筋群は体幹を安定させ、殿筋群は股関節伸筋・外旋・外転に働く。
4.× 長下肢装具の使用は必要ない。なぜなら、GMFCSレベルⅢは、「歩行補助具を使用して歩くことは可能」であるため。本症例は、尖足を認めるため短下肢装具PCW(postural control walker)を検討する。
5.× 「両側T字杖」ではなくロフストランドクラッチの使用が望ましい。両麻痺とは、両下肢に重度の麻痺がある状態のことで、下肢が重度の麻痺である分、T字杖を使用すると手関節に荷重がかかり負担が大きすぎる。

「GMFCS」とは?

粗大運動能力分類システム(gross motor function classification system:GMFCS)は、判別的な目的で使われる尺度である。子どもの座位能力、および移動能力を中心とした粗大運動能力をもとにして、6歳以降の年齢で最終的に到達するという以下5段階の機能レベルに重症度を分類している。

・レベルⅠ:制限なしに歩く。
・レベルⅡ:歩行補助具なしに歩く。
・レベルⅢ:歩行補助具を使って歩く。
・レベルⅣ:自力移動が制限。
・レベルⅤ:電動車いすや環境制御装置を使っても自動移動が非常に制限されている。

苦手な方向けにまとめました。参考にしてください↓

【PT/OT/共通】GMFCSについての問題「まとめ・解説」

 

 

13 60歳の男性。両下肢のしびれと間欠性跛行とを認める。足背動脈の触知は可能で、体幹を前屈することによって歩行が容易となる。
 症状を改善するのに適している装具はどれか。

1. Boston型装具
2. Jewett型装具
3. Milwaukee型装具
4. Steindler型装具
5. Williams型装具

解答5

解説

本症例のポイント

・60歳の男性。
両下肢のしびれ間欠性跛行を認める。
・足背動脈の触知は可能。
・体幹を前屈することによって歩行が容易。
→本症例は、脊柱管狭窄症が疑われる。体幹を前屈することによって歩行が容易になることから、体幹前屈制限はなく、体幹の後屈と側屈を制限するための装具を選ぶ。ちなみに、間欠性跛行とは、歩行を続けると下肢の痛みと疲労感が強くなり、足を引きずるようになるが、休むと再び歩けるというものである。間欠性跛行は、閉塞性動脈硬化症(ASO)でもみられる。本症例の場合、「足背動脈の触知は可能」と記載があるので、可能性として高いのは脊柱管狭窄症であると考えられる。閉塞性動脈硬化症とは、足の血管の動脈硬化がすすみ、血管が細くなったり、つまったりして、充分な血流が保てなくなる病気である。そのため、血液の流れが悪くなり、歩行時に足のしびれ、痛み、冷たさを感じる。トレッドミル(歩行マシーン)やトラック歩行が運動療法として処方される。

(※図引用:大阪発達総合療育センター 南大阪小児リハビリテーション病院様HPより)

1.× Boston型装具(ボストン型装具)は、側弯症に適応となる。一方の体幹側屈を制限する。
2.× Jewett型装具(ジュエット型装具)は、椎体圧迫骨折円背などに適応となる。体幹前屈を制限する。
3.× Milwaukee型装具(ミルウォーキー型装具)は、側弯症に適応となる。第7胸椎以上の高さで適応となる。
4.× Steindler型装具(スタインドラー型装具)は、椎体圧迫骨折や円背などに適応となる。胸腰椎の全方向への運動を制限する。
5.〇 正しい。Williams型装具(ウィリアムス型装具)である。脊椎分離症や脊椎すべり症などに適応となる。腰仙部の後屈と側屈を制限する。

 

 

 

 

 

次の文により14、15 の問いに答えよ。
 85歳の男性。脳梗塞の既往がある。2 、3か月前から食事中にむせることが多くなっていた。3日前から元気がなく、昨晩から発熱と意識障害とがみられたため救急搬送され気管挿管の上、入院となった。体温38.0℃、呼吸数25/分、左胸部に肺胞呼吸音、右胸部に水泡音が聴取された。エックス線写真を下図に示す。

14 この患者の症状が生じている原因として最も考えられるのはどれか。

1. 気胸
2. 心不全
3. 肺水腫
4. 間質性肺炎
5. 誤嚥性肺炎

解答5

解説

本症例のポイント

・85歳の男性(脳梗塞)
・2~3か月前:食事中にむせる
・3日前:発熱意識障害、救急搬送され気管挿管の上、入院となった。
体温38.0℃、呼吸数25/分、左胸部に肺胞呼吸音、右胸部に水泡音が聴取された。
→水泡音は吸気相~呼気相初期に聴かれる「ブツブツ」「ポコポコ」という音で低調で短い。食事中にむせることは誤嚥性肺炎のリスクとなる。

1.× 気胸とは、胸腔内に空気が貯留して肺が虚脱している病態である。肺野透過性(黒い部分が増える)は亢進する。
2.× 心不全の所見は、心拡大・両肺野のうっ血・胸水貯留などである。
3.× 肺水腫の所見は、両肺野の透過性は低下(白い部分が増える)し、蝶形陰影などである。肺水腫とは、肺静脈性肺高血圧と肺胞内の液貯留を伴った重度の急性左室不全である。
4.× 間質性肺炎の所見は、画像上にすりガラス陰影などが出現する。また、両肺から捻髪音を聴取できる。
5.〇 正しい。誤嚥性肺炎はこの患者の症状が生じている原因として最も考えられる。誤嚥性肺炎は、筋を含んだ喀痰や唾液、誤嚥した食塊など本来肺に入ってはいけないものが肺に入ってしまうことで引き起こされる。口腔ケアは肺炎の発症率を有意に低下させる。所見は、大葉性肺炎の形を示す。

心不全とは?

心不全は心臓のポンプ機能低下のため末梢組織の酸素需要に見合った血液量を供給できない状態である。肺循環系にうっ血が著明なものを左心不全、体循環系にうっ血が著明なものを右心不全という。体液の著明やうっ血を生じ、主な症状として呼吸困難、咳嗽、チアノーゼ、血性・泡沫状喀痰(ピンクの痰)などがある。

心拍出量の低下を起こす原因として、
・左心不全:肺循環系にうっ血が著明なもの(呼吸困難、起座呼吸、尿量減少など)
・右心不全:体循環系にうっ血が著明なもの(頸静脈怒張、胸水・腹水、下腿浮腫、肝腫大など)
右室拡張末期圧の上昇(体循環の静脈系のうっ血)により右心不全は引き起こされる。

 

 

 

 

次の文により14、15 の問いに答えよ。
 85歳の男性。脳梗塞の既往がある。2 、3か月前から食事中にむせることが多くなっていた。3日前から元気がなく、昨晩から発熱と意識障害とがみられたため救急搬送され気管挿管の上、入院となった。体温38.0℃、呼吸数25/分、左胸部に肺胞呼吸音、右胸部に水泡音が聴取された。エックス線写真を下図に示す。

15 この患者の病変が生じている部位に痰が貯留している場合の排痰体位として最も適切なのはどれか。


1. 座位
2. 背臥位
3. 左側臥位
4. 右側臥位
5. 45°前方に傾けた右側臥位

解答3

解説

本症例のポイント

本症例の病巣は中葉か下葉と推測できる。ここから、シルエットサイン陰性であることから、病巣は中葉を否定できるため下葉と判断できる。したがって、右下肺野(S9)である。シルエットサインとは、心臓や大動脈などでできる線(右 2 弓とか)に隣接して病変ができると、その線が消える現象である。例えば、右下肺野に濃度上昇物を認め、心臓右縁下部が不明瞭になっている場合、「シルエットサイン陽性」と判断し、右中葉に病変部位が存在する。 左横隔膜のシルエットが消失している場合、左横隔膜上に病変があることを示す。

1.× 座位は、肺尖区(S1)の排痰体位である。
2.× 背臥位は、前上葉区(S3)の排痰体位である。
3.〇 正しい。左側臥位は、右下肺野(S9)からの排痰体位である。
4.× 右側臥位は、左中葉、舌区(S4,S5)の排痰体位である。
5.× 45°前方に傾けた右側臥位は、左肺外背側病変(S2)からの排痰体位である。

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