第47回(H24) 理学療法士国家試験 解説【午後問題41~45】

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41 左中大脳動脈閉塞で生じやすい高次脳機能障害はどれか。

1.自然にバイバイと手を振ることはできるが、指示されるとできない。
2.着る手順を説明できるが、誤った着方をする。
3.重度の運動麻痺があるのに、歩けると主張する。
4.視界の左半分にある物を見落とす。
5.色紙の色分けができない。

解答1

解説

中大脳動脈の領域

①側頭葉
②前頭葉
③頭頂葉の一部を灌流している。

1.〇 正しい。自然にバイバイと手を振ることはできるが、指示されるとできない(観念運動失行)は、優位半球 (左)の障害で生じる。
2.× 着る手順を説明できるが、誤った着方をする(着衣失行)は、劣位半球 (右)の頭頂葉障害で生じる。
3.× 重度の運動麻痺があるのに、歩けると主張する(病態失認)は、劣位半球(右)の頭頂葉障害で生じる。
4.× 視界の左半分にある物を見落とす(半側空間無視)は、 劣位半球(右)の頭頂葉障害で生じる。
5.× 色紙の色分けができない(色彩失認)は、後頭葉の損傷で起こる。色彩失認は、色知覚の非言語的課題では正常な成績をあげることができ、色彩失認の患者は色覚は保たれているが、見せられた色の名を言えず、検者が言った色を指示することも出来ない状態である。すなわち色覚が保たれているのに、特有の色を持つ物品の形は思い出せるが、その色が思い出せない。

失行

観念失行:使用すべき対象物(道具・物品)の使用障害である。
観念運動失行:習慣的な動作を言語命令に従ったり、模倣で遂行することができない状態である。

 

 

 

 

 

 

42 理学療法介入法の説明で誤っているのはどれか。

1.CI療法(constraint-induced movement therapy)では、共同運動を抑制する装具を用いる。
2.サーキット・クラス・トレーニングでは、グループでいくつかの課題を順番に練習する。
3.課題指向型介入では、日常生活で遂行される具体的動作の練習を中心に行う。
4.トレッドミル部分荷重歩行練習では、懸垂装置を使用して歩行練習を行う。
5.二重課題法では、練習課題とそれ以外の課題とを同時に遂行させる。

解答1

解説

1.× CI療法(constraint-induced movement therapy)では、「共同運動を抑制する装具」ではなく、健側側の動きを抑制する道具(三角巾など)を用いる。CI療法(constraint-induced movement therapy)は、脳卒中による片麻痺患者に対して、健側肢の働きを制限することで患側肢の運動を誘導する治療法である。
2.〇 正しい。サーキット・クラス・トレーニングでは、グループでいくつかの課題を順番に練習する。トレーニングの種類を豊富にすることで多様な刺激を入力できることから、神経可塑性の面においても有益であるとされている。脳卒中患者の歩行能力の改善に有効であるという報告もある。
3.〇 正しい。課題指向型介入では、日常生活で遂行される具体的動作の練習を中心に行う。課題指向型介入とは、患者の状態を理解した上で最適な課題の内容をセラピストが設定し、患者はその課題の問題解決を通じて合目的な脳機能の再構築を促すというものである。例えば、洗顔や歯磨きをするといった日常生活動作に、積極的に麻痺側を用いるように促し問題を解決することである。
4.〇 正しい。トレッドミル部分荷重歩行練習では、懸垂装置を使用して歩行練習を行う。懸垂装置を使用すると、①荷重制限がある場合や、②座位が可能でも歩行訓練が行えなかった片麻痺患者の場合でも安全に歩行練習を行うことができる。歩行パターンの促進、廃用症候群の予防、運動耐容能・心肺機能の向上につながる。
5.〇 正しい。二重課題法では、練習課題とそれ以外の課題とを同時に遂行させる。練習課題に加えて注意力を分散させる課題を同時遂行させる方法である。例えば、歩行中に計算やしりとりなどをすることである。

 

 

 

 

 

 

43 Parkinson病患者で早期に困難となる動作はどれか。
 ただし、いずれの動作も上肢での代償はないものとする。

1.寝返り
2.平地歩行
3.階段の昇り
4.端座位の保持
5.椅子からの立ち上がり

解答1

解説

1.〇 正しい。寝返りは、Parkinson病患者で早期に困難となる動作である。なぜなら、4大徴候(姿勢反射障害、静止時振戦、無動、筋固縮)の無動・姿勢保持反射障害は、体幹にも生じるため。
2.× 平地歩行は、Hoehn&Yahrの重症度分類ステージⅣまで行える。ただし、小刻み歩行・すくみ足など、早期より歩行障害が認められる。
3.× 階段の昇りは、比較的保たれやすい。なぜなら、Parkinson病に逆説的運動という特徴があり、階段を昇る・ものを跨ぐ動作(一般的に難易度が上がる動作)は、視覚刺激を利用して行うため。
4.× 端座位の保持は、Hoehn&Yahrの重症度分類ステージⅤまで行える。ただし、姿勢反射障害がみられると、体幹の傾きが見られやすくなる。
5.× 椅子からの立ち上がりは、Hoehn&Yahrの重症度分類ステージⅣまで行える。特に、無動・姿勢反射障害により、重心の移動が困難で離殿が行いにくくなる。

Hoehn&Yahrの重症度分類ステージ

0度:パーキンソニズムなし
Ⅰ度:一側性パーキンソニズム。日常生活(労働を含む)に介助を要しない。
Ⅱ度:両側性パーキンソニズム。日常生活(労働を含む)がやや不便であるが制限はされない。
Ⅲ度:軽~中等度パーキンソニズム。姿勢反射障害あり。日常生活(労働を含む)に一部介助(制限)が必要になるが自力での生活可能。
Ⅳ度:高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能
Ⅴ度:介助なしにはベッド又は車椅子生活

 

 

 

 

 

 

44 脊髄小脳変性症患者で、運動範囲が小さく動作が緩慢な状態に対する運動療法として適切なのはどれか。

1.Frenkel体操
2.重錘負荷を用いたバランス練習
3.外的リズム刺激による歩行練習
4.弾性緊迫帯を装着した協調運動
5.PNF を用いた同時筋収縮の促通

解答3

解説

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

本症例の場合、「運動範囲が小さく動作が緩慢状態(パーキンソニズム)」であるため、線条体黒質変性症と考えられる。パーキンソニズムに対する運動療法を選択する。

1.× Frenkel体操は、脊髄癆性運動失調などに適応となる。視覚で代償して運動制御を促通する運動療法である。
2.× 重錘負荷を用いたバランス練習(重錘負荷法)は、小脳性運動失調患者に対する協調運動障害の改善を目的として行われる。長時間の持続効果は期待できない。
3.〇 正しい。外的リズム刺激による歩行練習は、最も優先度が高い。なぜなら、本症例は、パーキンソニズムが主症状として現れる線条体黒質変性症と考えられるため。外的リズム刺激は、メトロノームなどで聴覚を利用する。
4.× 弾性緊迫帯を装着した協調運動は、小脳性運動失調患者に対する協調運動障害の改善を目的として行われる。固有感覚への感覚入力を強化し、運動や動作の学習を図る方法である。
5.× PNF(固有受容性神経筋促通法)を用いた同時筋収縮の促通より優先度が高いものが選択肢の中に他にある。PNF(固有受容性神経筋促通法)を用いた同時筋収縮の促通は、脊髄性の疾病だけでなく、中枢神経疾患・末梢神経疾患・スポーツ傷害(外傷・障害)なども対象となる。主に固有受容器を刺激することによって、神経・筋の反応を促通することを目的とした神経生理学的アプローチする。

 

 

 

 

 

 

45 球麻痺を伴う筋萎縮性側索硬化症患者とその家族への在宅指導で適切でないのはどれか。

1.自己導尿
2.摂食指導
3.吸引器の取扱い
4.電動車椅子操作
5.コミュニケーションエイドの使用法

解答1

解説

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋委縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

1.× 自己導尿は必要ない。なぜなら、膀胱直腸障害は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の陰性症状であるため。
2.〇 摂食指導は必要となる。なぜなら、球麻痺により嚥下障害がみられるため。
3.〇 吸引器の取扱いは必要となる。なぜなら、球麻痺により嚥下障害がみられるため。吸引器は、痰の吸引や誤嚥の防止に使用する。
4.〇 電動車椅子操作は必要となる。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症(ALS)により、歩行障害がみられるため。筋萎縮性側索硬化症(ALS)により、上・下位運動ニューロン障害がみられる。
5.〇 コミュニケーションエイド(意思の伝達)の使用法は必要となる。なぜなら、球麻痺により構音障害がみられるため。コミュニケーションエイド(意思の伝達)とは、電話に文字変換装置、パソコン通信などに音声変換装置、椅子に文字盤をつけるなど機能補助をした福祉機器を指す。

球麻痺とは?

延髄にある神経核が障害された状態を指し、舌咽・迷走・舌下神経が障害される。
したがって、嚥下・構音障害、舌萎縮、線維束攣縮などがみられる。

 

4 COMMENTS

匿名

問45の解説にて、答えは1なのに2が正しいとの記載があります。
小さな誤記載ですが、訂正よろしくお願いします。

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する
匿名

問題44
参考文献では、脊髄小脳変性症(多系統萎縮症は除く)とあるのに、
正解が3になるのでしょうか?

線条体黒質変性症は、多系統萎縮症の症状の一つですよね?
お忙しいとは思いますが返答よろしくお願いします

返信する
大川 純一

参考文献では、脊髄小脳変性症(多系統萎縮症は除く)とあるのに、正解が3になるのでしょうか?
→そのようです。

線条体黒質変性症は、多系統萎縮症の症状の一つですよね?
→私の認識では違うと思います。線条体黒質変性「症」は、多系統萎縮「症」の「症状」の一つではないと思います。

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