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16 19歳の女性。大学1年生。小学生の時より、水泳に秀でていて競技大会では常に優勝を競うほどであった。しかし、高校時代にスランプに陥り当時身長160cm、体重58kgであったが体重を落とせば記録が伸びると思い込み、ダイエットをしているうちに無月経になり、気づくと体重32kgになっていた。心配した母親が本人を説得し病院の精神科外来を受診したところ低栄養で危機的状況にあると医師が判断し精神科病棟への入院を勧めたが、病識のない本人は納得せず、母親の同意による医療保護入院となった。その後作業療法に参加するようになり、1週間が経過した。
患者に対する作業療法士の関わり方で適切なのはどれか。
1. 集団作業療法を勧める。
2. 食事の摂取を積極的に促す。
3. 現在取り組めていることを認める。
4. 高校時代のスランプについて深く聞く。
5. 食べ物を隠れて捨てるのを見つけたら叱る。
解答3
解説
・19歳の女性(大学1年生)
・小学生時代:水泳で常に優勝を競う。
・高校時代:スランプ。当時身長160cm、体重58kgであったが体重を落とせば記録が伸びると思い込み、ダイエットをしているうちに無月経、低栄養になり、気づくと体重32kgになっていた。
・医療保護入院後、作業療法に参加するようになり、1週間が経過した。
→本症例は、摂食障害(神経性無食症)が疑われる(体重58㎏→32㎏)現在は、急性期(入院後1週間)であり、症状が安定していないことが多い。摂食障害には、①神経性無食症、②神経性大食症がある。共通して肥満恐怖、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤の使用抑うつの症状がみられる。作業療法場面での特徴として、過活動、強迫的なこだわり、抑うつ、対人交流の希薄さ、表面的な対応がみられる。患者の性格として、細かい数値へのこだわり(①体重のグラム単位での増減、②この食べ物はあの食べ物より〇カロリー多いなど)がみられる。
【摂食障害の作業療法のポイント】
①ストレス解消、②食べ物以外へ関心を向ける、③自信の回復(自己表出、他者からの共感、自己管理)、④過度の活動をさせない、⑤身体症状、行動化に注意する。
【性格的特徴】
①強情、②負けず嫌い、③執着心が強い、③極端な行動に及びやすい。
1.× 集団作業療法を勧めるのは回復期からである。症状が安定していない急性期から集団作業療法を行うと、摂食障害の患者は競争心が強いため無理をしてしまいがちとなり、症状が悪化しやすい。回復期に集団作業療法に設けることで、①自己表出、②他者からの共感、③相互理解の場となる。
2.× 食事の摂取を積極的に促す優先度は低い。むしろ、摂食障害の作業療法は、食べ物以外へ関心を向ける必要がある。
3.〇 正しい。現在取り組めていることを認める。摂食障害の患者は、自己肯定感が低く、自信がないことが多い。 現在取り組んでいることを認めるなど受容的な態度で接することが大事である。
4.× 高校時代のスランプについて深く聞く優先度は低い。摂食障害の患者は、自己肯定感が低く、自信がないことが多いため、スランプについて深く聞くとさらに症状が悪化する可能性が高い。患者との信頼関係ができた後に行うべきである。
5.× 食べ物を隠れて捨てるのを見つけたら叱る必要はない。摂食障害の患者は、自己肯定感が低く、自信がないことが多いため、叱るとさらに症状が悪化する可能性が高い。患者が食べ物以外に関心を向けて集中できる時間をもてるように、関わることが大切である。
まず患者に対する動機づけが重要。適切な動機づけによって治療に導入し、身体合併症に対しては栄養輸液などを行い、支持的精神療法、家族療法、集団精神療法、認知行動療法、薬物療法などから適宜選択し、組み合わせて治療を行う。
精神療法では、患者との面接を通して、まずは共感的態度をとりながら患者の語ることを受容し、やがて体重や食事に対する誤った認識のあることを自覚してもらい、身体イメージの障害を徐々に修正していく。
また、発症には家族内の葛藤が関与していることも多く、家族関係や食生活に治療者が介入する家族療法も有効。このほか、自分の摂食行動と情動の動きについてグループで話し合う集団精神療法、体重・体型についての歪んだ認識を改善するための認知行動療法、SSRIによる薬物療法も有効であるとされる。
17 65歳の女性。約1年前から抑うつ気分、意欲低下、判断力低下、不眠、食思不振などがあり、約9か月前に精神科外来を初めて受診した。希死念慮や貧困妄想も加わり、約8か月前に医療保護入院となっている。抗うつ剤投与により不眠、食思不振はある程度改善されたが、悲観的な思考内容は遷延化した。促してかろうじて病棟外への散歩に応じるようになり、数か月が経過したところで、主治医から作業療法の依頼があった。
この時点での作業療法として適切でないのはどれか。
1. 本人の自己決定を見守る。
2. 個別のかかわりから開始する。
3. 1回の活動時間は短く設定する。
4. 長期間をかけて完成する課題を採用する。
5. なじみのある課題より初めての課題を採用する。
解答4
解説
・65歳女性。
・約1年前:抑うつ気分、意欲低下、判断力低下、不眠、食思不振など。
・約8か月前:希死念慮や貧困妄想も加わり、医療保護入院。
・抗うつ剤投与により不眠、食思不振はある程度改善されたが、悲観的な思考内容は遷延化した。
・促しにより病棟外への散歩に応じるようになり、数か月が経過したところで、主治医から作業療法の依頼があった。
→本症例はうつ病の急性期~回復前期の移行期間である。この時期は、症状悪化に配慮しつつ、無理をせず受け入れられる体験をこなしていく。精神状態は不安定なことが多いため、自信を失う恐れや頑張りすぎてしまう作業は避けるべきである。【作業基準】①工程がはっきりしている。②短期間で完成できる。③安全で受身的で非競争的である。④軽い運動(いつでも休憩できる)一貫した対応として、①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。③自殺しないように約束してもらう。
1.〇 正しい。本人の自己決定を見守る。うつ病患者は、決断困難であるため、重要事項の判断・決定は先延ばしにする。
2.〇 正しい。個別のかかわりから開始する。うつ病患者の作業としては、安全で受身的で非競争的であるものが望ましい。なぜなら、他者との優劣がわかりやすいものは自信喪失につながるため。
3.〇 正しい。1回の活動時間は短く設定する。なぜなら、うつ病患者は疲労感を強く感じていることが多いため。短期間で完成でき、いつでも休憩できる作業が望ましい。
4.× 「長期間をかけて完成する課題」ではなく、短時間で完成できる課題を採用する。うつ病患者の作業としては、①工程がはっきりしている、②短期間で完成できる、③安全で受身的で非競争的である、④軽い運動(いつでも休憩できる)が望ましい。
5.〇 正しい。なじみのある課題より初めての課題を採用する。なぜなら、なじみのある作業や病前に経験のある課題は、病前のように作業ができない場合に自信喪失につながるため。負担が少なく患者の自信を回復させるような作業を行うようにする。
18 45歳の女性。20歳前後から、心理的負荷がかかるとリストカットを行うようになり縫合を必要とすることが多かった。また、自分の思い通りにいかないと易怒的となり、周囲に暴言を吐くこともあった。25歳時に精神科を初めて受診し、以後、過量服薬時に数回の入院歴があるが、現在は調理の仕事に就いて3年目となる。最近、職場の人間関係で正論を吐きすぎて孤立し、結果として焦燥感が強まり、主治医の勧めで仕事のシフトのない平日の日中に外来作業療法を開始することになった。
この時点での作業療法士の関わりとして最も適切なのはどれか。
1. 転職を勧める。
2. 主治医に入院処遇を依頼する。
3. チームでの統一した対応をこころがける。
4. 行動化に対しては心的距離を縮めて対応する。
5. 本人の希望に応じて日々臨機応変に対応する。
解答3
解説
・45歳女性。
・20歳前後からリストカット、易怒的、周囲に暴言。
・25歳時:過量服薬時に数回の入院歴。
・現在(就労3年目):人間関係で孤立、焦燥感。
→本症例は、境界性パーソナリティー障害が疑われる。若年女性に多く、人口の1~2%にみられる。境界性パーソナリティ障害では、感情の不安定性と自己の空虚感が目立つ。こうした空虚感や抑うつを伴う感情・情緒不安定の中で突然の自殺企図、あるいは性的逸脱、薬物乱用、過食といった情動的な行動が出現する。このような衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。見捨てられ不安があり、特定の人物に対して依存的な態度が目立ち、他社との適切な距離が取れないなどといった特徴がある。
1.× 転職を勧める必要はない。なぜなら、本症例は病気が原因で、転職が根本的な解決法とはならないため。転職をしても新しい職場で同様の結果になることが考えられる。
2.× 主治医に入院処遇を依頼する必要はない。なぜなら、現在のところリストカットはみられるものの、自殺企図など生命を脅かす行動には至っていないため。本症例は、主治医の勧めで仕事のシフトのない平日の日中に外来作業療法を開始することになっている。
3.〇 正しい。チームでの統一した対応をこころがける。なぜなら、患者に振り回されないため。治療の枠組みをしっかりつくって、過度に依存的な関係をつくらないことが重要である。境界性パーソナリティ患者は、対人関係が不安定(スタッフに対しても対応が極端である)である。また患者の要望をかなえると、徐々に要望がエスカレートする恐れもある。
4.× 行動化に対しては心的距離を縮めて対応する必要はない。なぜなら、行動化は、「自分自身だけ」ではなく、他者を傷つけるおそれがあるため。依存を助長しないように適切な心的距離をとりつつ対応する。行動化とは、行為によって対処するもので、不適切な形で現れた防衛機制の1つである。具体例として、診察室から出ていってしまったり、診察の場で沈黙を続けたりするなどである。
5.× 本人の希望に応じて日々臨機応変に対応する必要はない。なぜなら、患者に振り回されないため。患者の要望をかなえると、徐々に要望がエスカレートする恐れもある。治療の枠組みをしっかりつくって、過度に依存的な関係をつくらないことが重要である。
19 22歳の男性。職場でケアレスミスがあまりにも多いため、産業医の勧めで精神科を受診した。母親の話によると、幼少時から落ち着きがなく、小学校の担任から「人の話を聞いていない」、「順番を守れない」、「隣の子にちょっかいを出す」などと注意されたことがあり、大学でも提出物の締め切りを守れないなどといった問題から成績は悪かった。
この患者に薬物療法を行う場合、最も適切と思われる向精神薬はどれか。
1. 気分安定薬
2. 抗うつ薬
3. 抗精神病薬
4. 抗不安薬
5. 精神刺激薬
解答5
解説
・22歳の男性。
・職場:ケアレスミスがあまりにも多い(不注意)
・幼少時:落ち着きがない(多動性)
・小学校:「人の話を聞いていない(不注意)」、「順番を守れない(衝動性)」、「隣の子にちょっかいを出す(衝動性)」
・大学:提出物の締め切りを守れない(不注意)。
→本症例は、注意欠如・多動性障害(ADHD)が疑われる。注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、発達障害の一つであり、脳の発達に偏りが生じ年齢に見合わない①注意欠如、②多動性、③衝動性が見られ、その状態が6ヵ月以上持続したものを指す。その行動によって生活や学業に支障が生じるケースが多い。対人関係面で周囲との軋轢を生じやすく、大人からの叱責や子どもからのいじめにあうことがある。このため、二次障害として、自信喪失、自己嫌悪、自己評価の低下がみられることがある。そのため、患児の行動特徴を周囲が理解し、適切に支援をしていくことが重要である。①まず、行動療法を行う。𠮟責せずに、個別に近い対応で作業を粘り強く支援していく。②改善しない場合は、中枢神経刺激薬による薬物療法を用いる。中枢を刺激して、注意力・集中力を上げる。※依存・乱用防止のため、徐放薬が用いられる。
1.× 気分安定薬は、双極性障害の急性期に用いられることが多い。
2.× 抗うつ薬は、うつ病に用いられることが多い。
3.× 抗精神病薬は、統合失調症に用いられることが多い。
4.× 抗不安薬は、不安や緊張の軽減に用いられることが多い。
5.〇 正しい。精神刺激薬は、 注意欠如・多動性障害(ADHD)に用いられることが多い。
20 45歳の男性。統合失調症。25年間の入院の後、退院してグループホームに入居することになった。作業療法士は患者の強みとしての性格、才能、希望、環境について、日常生活、経済的事項、仕事などの項目に分けて本人と一緒に確認の上文章化し、患者の言葉を用いて退院後の目標を立てた。
本アセスメントの根拠となるモデルはどれか。
1. ICFモデル
2. 作業適応モデル
3. 人間作業モデル
4. ストレングスモデル
5. CMOP(Canadian Model of Occupational Performance)
解答4
解説
・45歳の男性(統合失調症)
・入院の後、退院(グループホーム入居)
・作業療法士は「患者の強みとしての性格、才能、希望、環境について、日常生活、経済的事項、仕事などの項目に分けて本人と一緒に確認の上文章化し、患者の言葉を用いて退院後の目標を立てた」
→キーワードは「患者の強み(ストレングス:Strengths)」である。その評価方法を選択する。
1.× ICFモデルとは、すべての人を対象として、プラス・マイナスの両面からその人の「健康状態の構成要素」を評価する分類である。①生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加の3つの構成要素)と②背景因子(環境因子、個人因子の2つの構成因子)で構成される。
2.× 作業適応モデルとは、作業環境は、作業する患者個人の①感覚運動機能、②認知機能、③身体的機能と同様に重要であり、作業を進める際には、これらを統合的に介入し進めていくべきであるという考えである。
3.× 人間作業モデルを構成するのは、「作業」を人間性の保持に必要なもの、健康が破綻した後の再調整をするものとして位置づけている。その人の行動を位置づけるものとして「意志・習慣化・遂行技能」の3要素の相互作用と、これに加えて「環境」 を4要素として挙げており、これらよりどの程度作業に適しているかを考える。
4.〇 正しい。ストレングスモデルが、設問の本アセスメントの根拠となるモデルである。ちなみに、ストレングスモデルとは、患者がもつ性格・技能・環境・関心などのよい点(ストロングポイント)に着目して、それを伸ばし、回復に向かわせるような取り組みを行うことをいう。
5.× CMOP(Canadian Model of Occupational Performance:カナダ作業遂行モデル)とは、「人は作業欲求をもち、人が作業を行うことを可能にするためには、人と作業療法士の協業的(協働的)アプローチが重要である」とする作業療法理論である。ちなみに、協業的(協働的)アプローチとは、それぞれが別々の役割を持ちながらも、協力して共通の目標を達成するために、それぞれの得意な部分を活かして取り組んでいくというやり方のことである。