第56回(R3) 作業療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

 

11 80歳の女性。2年前に夫と死別し、平屋の持ち家に1人暮らし。3か月前に屋内で転倒し、右大腿骨頸部骨折で入院した。人工骨頭置換術後のADLは杖歩行で、入浴のみ見守りでその他は自立し自宅退院となった。退院時のHDS-Rは28点であった。要支援1と認定され、通所リハビリテーションを利用するにあたり、担当作業療法士が自宅訪問することとなった。
 初回訪問時の対応で正しいのはどれか。

1. 住宅改修を提案する。
2. 年金受領額を聴取する。
3. 訪問作業療法を勧める。
4. 夫の死亡理由を聴取する。
5. 生活の困りごとを聴取する。

解答5

解説

本症例のポイント

・1人暮らし
・認知機能の低下なし(退院時HDS-R:28点)
・ADL:入浴のみ見守り

一見すると自立して生活できそうであるが、IADLの評価も必要である。退院後、想定していない問題も出ているかもしれない。

1.× 住宅改修を提案する優先度は低い。なぜなら、屋内での転倒の原因が住宅の環境によるものと断定できていないため。屋内での転倒歴があるため、自宅訪問の際に環境整備が必要かどうかを評価し、そのうえで必要であれば住宅改修を提案する。
2.× 年金受領額を聴取する優先度は低い。なぜなら、作業療法士ではなく、ケアマネジャーの役割に近いため。利用者の経済状況によっては介護サービスの利用控えが起こる可能性はあるため、その場合は作業療法士からケアマネジャーに報告することもある。
3.× 訪問作業療法を勧める優先度は低い。なぜなら、本症例のADLは入浴のみ見守りであるレベルで、通所リハビリテーションで対応する方向になっているため。通所で対応できない場合は、訪問作業療法の切り替えも考慮する。
4.× 夫の死亡理由を聴取する優先度は低い。夫の死亡理由は、繊細な内容であるため、初回訪問時ではなく、お互いに関係性が構築されてから聞く。また、通所リハビリテーション導入にあたり関係性が低い。
5.〇 正しい。生活の困りごとを聴取するのは最も優先度が高い。なぜなら、本症例は独居であり、家族や医療スタッフの介助をすぐに受けられる環境にはないため。まずは、退院直後の生活(IADLを含め)を本人がどのように感じているかを聴く必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

12 78歳の女性。布団を持ち上げようとした際、背部から腹部への強い帯状痛を生じ、寝返りも困難となったため入院となった。入院時のエックス線写真(A)とMRI T2 強調像(B)とを下図に示す。
 この患者の病態で適切なのはどれか。2つ選べ。

1. 骨粗鬆症
2. 脊椎分離症
3. 脊柱管狭窄症
4. 椎間板ヘルニア
5. 脊椎椎体圧迫骨折

解答1・5

解説


1.〇 正しい。骨粗鬆症が疑われる。側面エックス線写真(A)にて骨陰影の減少がみられる。
2.× 脊椎分離症の場合は、側面単純エックス線(A)にて、脊椎の分離がみられる。
3.× 脊柱管狭窄症の場合は、MRI T2 強調像(B)にて、脊髄や神経根の圧迫がみられる。
4.× 椎間板ヘルニアの場合は、MRI T2 強調像(B)にて、椎間板の脱出による脊髄の圧迫がみられる。
5.〇 正しい。脊椎椎体圧迫骨折が疑われる。MRI T2 強調像(B)にて、①魚椎変形、②楔状変形がみられる。

 

 

 

 

 

 

 

13 76歳の女性。物忘れのために日常生活で失敗が目立った。最近、夫の浮気を疑うようになり、顔を合わせると興奮し物を投げるなどの行為がみられる。息子が誤りであることをいくら説明しても納得しない。
 この患者の精神症状を評価する尺度として適切なのはどれか。

1. HRS-D
2. NPI
3. POMS
4. SANS
5. SDS

解答2

解説

本症例のポイント

本症例は、「物忘れのために日常生活で失敗が目立った」ことからも認知症を疑う。
妄想や興奮などの行動・心理症状もみられるため、周辺症状の行動障害の評価も行うことが望ましい。

【認知症の主な症状】
①中核症状:神経細胞の障害で起こる症状
(例:記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、失語・失行など)

②周辺症状:中核症状+(環境要因や身体要因や心理要因)などの相互作用で起こる様々な症状
(例:徘徊、幻覚、異食、せん妄、妄想、不安など)

1.× HRS-D(Hamilton rating scale for depression:ハミルトンうつ病評価尺度)は、うつ病にみられる17の項目についてその重症度を医療者が評価するものである。
2.〇 正しい。NPI(neuropsychiatric inventory) は、援助者からの聞き取りにより、「認知症の行動・心理症状(BPSD」を評価する方法である。 「認知症の行動・心理症状(BPSD)」に関連する12項日につき、頻度を0~4の5段階で、重症度を1~3の3段階で評価し、点数が高いほど重症となる。
3.× POMS(気分プロフィール検査)は、最近1週間の気分の状態(緊張、抑うつ、怒り、活気、疲労、混乱の6尺度)を測定するものである。被検者が答える質問紙法の検査である。
4.× SANS (Scale for the Assessment of. Negative Symptoms:陰性症状評価尺度)は、感情鈍麻、思考障害など、統合失調症の陰性症状の評価に用いられる。
5.× SDS(Self-rating Depression Scale:うつ性自己評価尺度)は、20項目(主感情2項目、生理的随伴症状8項目、心理的随伴症状10項目)を4段階で自己評価するものである。うつ状態の程度を調べる自記式質問票である。

 

 

 

 

 

 

 

14 50歳の男性。アルコール依存症。大学を卒業後、就職したころから飲酒が始まる。転勤で一人暮らしになってから飲酒量が増加し、仕事もやめ昼夜問わずに飲み続けるようになった。その後、精神科病院を受診し入退院を繰り返す。主治医には「酒はもうやめます」と言いながらも退院後に再飲酒していた。作業療法士には「酒をやめたいのは本当だが、退院しても仕事が見つからないのでつい飲んでしまう。何とかしてほしい」と話す。
 この患者の心理状態として最も適切なのはどれか。

1. 否認
2. 共依存
3. 両価性
4. 自己中心
5. 刹那主義

解答3

解説

本症例のポイント

・主治医には「酒はもうやめます」と言いながらも退院後に再飲酒していた。
・作業療法士には「酒をやめたいのは本当だが、退院しても仕事が見つからないのでつい飲んでしまう。何とかしてほしい」と話していた。

1.× 否認とは、容認したくない感情や経験を実際には存在しなかったかのように振る舞うことである。否認を繰り返すことにより、自己中心、現実逃避、利那主義というような傾向を強め、飲酒行為やその結果に対する周囲の非難・忠告を受け付けなくなる。
2.× 共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態を指す。依存症・アディクション(嗜癖:しへき)は、「身体的・精神的・社会的に、自分の不利益や不都合となっているにもかかわらず、それをやめられずに反復し続けている状態」である。
3.〇 正しい。両価性とは、同一の対象に対して相反する感情、とくに愛と憎しみが同時に存在している状態である。本症例は、主治医や作業療法士に両価性の心理状態を見せている。主治医には「酒はもうやめます」と言いながらも退院後に再飲酒していた。作業療法士には「酒をやめたいのは本当だが、退院しても仕事が見つからないのでつい飲んでしまう。何とかしてほしい」と話していた。
4.× 自己中心とは、他をかえりみず、自分の都合や立場のみを考えて行動することである。自己愛性パーソナリティ障害に見られやすい症状で空想や行動にみられる誇大性、賞賛されたいという欲求、共感の欠如を特徴である。
5.× 刹那主義とは、過去も将来も考えず、現在の瞬間の感情のままに生きようとする考え方である。本症例は、飲酒欲求に逆らえずに飲酒するもので、今を楽しもうとする意図はない。

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など

 

 

 

 

 

 

 

15 17歳の男子。子供の頃から内向的な性格だが、乳幼児健診等で異常を指摘されたことはない。高校1年時から周囲の物音に敏感となり、「学校で同級生に嫌がらせをされる」と不登校になった。自宅では「向かいの家の住人が自分の行動に合わせて悪口を言う」、家族と外出した街中では「自分の考えたことが知れわたっている」と言うようになり、精神科を受診し、通院治療で状態がある程度改善した後に外来作業療法が導入された。
 この患者でみられやすい症状はどれか。

1. 意識変容
2. 観念奔逸
3. 強迫観念
4. 思考制止
5. 連合弛緩

解答5

解説

本症例のポイント

本症例は、統合失調症の疑いがある。
被害妄想:「向かいの家の住人が自分の行動に合わせて悪口を言う」と感じる。
思考(考想)伝播:「自分の考えたことが知れわたっている」と感じる。

1.× 意識変容は、急性脳症・非痙攣性てんかん重積状態・脳卒中・中枢神経系感染症・薬剤性・心因等により生じる。ちなみに、意識変容とは、意識障害の一種で、幻覚や錯覚、思考の混乱や不安、興奮など異常な言動が生じている状態のことである。 意識混濁が伴って現れることも多い。
2.× 観念奔逸は、主に双極性障害でみられる。ちなみに、観念奔逸は、考えが次々と浮かびだんだんと考えがずれてくることである。
3.× 強迫観念は、主に強迫性障害でみられる。ちなみに、強迫観念は、自分では不合理だとわかっていても絶えず頭に浮かんできてしまう考えのことである。
4.× 思考制止(思考抑制)は、主にうつ病でみられる。ちなみに、思考制止(思考抑制)は、思考の進みが遅く停滞する状態である。
5.〇 正しい。連合弛緩は、主に統合失調症でみられる。思考過程異常であり、個々のアイデアに論理的な結びつきがなくなって話の文脈にまとまりがない状態のことをいう。個々の思考には問題ないことが多い。

 

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