第59回(R6)作業療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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6 8歳の脳性麻痺児が階段昇降時に手すりを必要とし、長距離の歩行や狭い場所を歩くときに介助が必要な場合、GMFCS-Expanded and Revised〈E&R〉のレベルはどれか。

1.Ⅰ
2.Ⅱ
3.Ⅲ
4.Ⅳ
5.Ⅴ

解答

解説

GMFCS-Expanded and Revised (E&R)は、粗大運動能力分類システム拡張・改訂されたものである。以下に、各レベルのせた。本症例は、階段昇降時に手すりを必要とし、長距離の歩行や狭い場所を歩くときに介助が必要な場合(言い換えると、短い歩行や広い場所は介助も歩行補助具も使用せず歩行できる)ので、選択肢2.レベルⅡ(制限を伴って歩く)が正しい。

MEMO

【それぞれレベルの大きな見出し】
レベルⅠ:制限なしに歩く
レベルⅡ:制限を伴って歩く
レベルⅢ:手に持つ移動器具を使用して歩く
レベルⅣ:制限を伴って自力移動;電動の移動手段を使用しても良い
レベルⅤ:手動車椅子で移送される

【各レベル間の区別】
• レベル I および II の区別
レベル I の子ども達と青年達に比べて、レベル II の子ども達と青年は、長距離を歩くことやバランスを保つことに制限があり、歩行を習得する最初の頃に手に持つ移動手段を必要とすることがあり、屋外や近隣で長い距離を移動するときに車輪のついた移動手段を使用することがあり、階段を上がったり、下りたりする時に手すりの使用を必要とし、走ったり跳躍したりする能力が劣っている。

• レベル II および III の区別
レベルⅡの子ども達と青年達は、4 歳以降は手に持つ移動器具を使用せずに歩く能力がある(時には使用することを選択するかもしれないが)。レベルⅢの子ども達と青年達は、屋内を歩くために手に持つ移動器具を必要とし、屋外や近隣で車輪のついた移動手段を使用する。

• レベル III および IV の区別
レベルⅢの子ども達と青年達は、一人で坐るか、坐るために最低限の限定的な外的支持を必要としている、立位での移乗においてより自立しており、手に持つ移動器具で歩く。レベルⅣの子ども達と青年達は、(普通支えられての)坐位で活動できるが、自力移動は制限される。レベルⅣの子ども達と青年達は、手動車椅子で移送されるか、電動の移動手段を使用することがおそらくより多い。

• レベル IV および V の区別
レベルⅤの子ども達と青年達は、頭と体幹のコントロールが非常に制限されており、広範な補完的な技術と身体的介助を必要とする。自力移動は、もし子ども達や青年達がどのように電動車椅子を操作するかを習得した時だけに、達成される。

苦手な方向けにまとめました。参考にしてください↓

【PT/OT/共通】GMFCSについての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

7 68歳の女性。くも膜下出血後の四肢麻痺のため作業療法を行っている。現在、四肢の麻痺は、ほぼ認めない。高次脳機能障害が残存しMMSEを実施した。結果を下に示す。
 次に行う検査で最も優先されるのはどれか。

1.AMPS
2.BADS
3.BIT
4.RBMT
5.VPTA

解答

解説

本症例のポイント

・MMSEの図形模写:左半分の図形が書けていない。
→解釈:本症例は半側空間無視が疑われる。したがって、次に行う検査で最も優先されるのは、半側空間無視に関する評価である。ちなみに、図形模写の様子は、意味記憶や失行などの評価にも役立つ。

1.× AMPS(Assessment of Motor and Process Skills:運動技能とプロセス技能の評価)は、日常生活動作の検査の1つで、観察により評価する。対象者自身が自分の興味や必要性によって日常生活動作を選んで実行し、その遂行度合いを作業療法士が評価する。ADLとIADLに関わる16の運動技能と20の遂行技能を観察する。
2.× BADS(Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome:遂行機能障害症候群の行動評価)は、カードや道具を用いた6種類の下位検査と1つの質問紙で構成されている。質問紙には合計20の質問があり、①感情・人格、②動機付け、③行動、④認知の4カテゴリーが5段階で評価される。検査項目は、【6種類の下位検査】①規則変換カード検査、②行為計画検査、③鍵探し検査、④時間判断検査、⑤動物園地図検査、⑥修正6要素検査である。下位検査は0~4点の5段階で点数化し24点満点で評価する。合計点数が88点以上で車の運転が可能となる。
3.〇 正しい。BIT(Behavioural inattention test)は、行動性無視検査である。①通常検査(線分抹消試験・文字抹消試験・星印抹消試験・模写試験・線分二等分試験・描画試験)と、②行動検査(写真課題・電話課題・メニュー課題・音読課題・時計課題・硬貨課題・書写課題・地図課題・トランプ課題)がある。半側空間無視の検査として用いられている。
4.× RBMT(Rivermead behavioral memory test:リバーミード行動記憶検査)は、記憶障害の患者が日常的に遭遇する状況を想定して行う記憶障害検査である。1.氏名、2.持ち物、3.約束、4.絵、5.物語(直後・遅延)、6.顔写真、7.道順(直後・遅延)、8.用件、9.見当識で9つの項目を検査する。日常生活を想定した記憶検査である認知症を来す疾患をはじめ、多くの疾患に対して、その記憶障害の性質や程度、リハビリテーションの効果評価に用いられる。
5.× VPTA(Visual Perception Test for Agnosia:標準高次視知覚検査)は、視知覚機能(物体・画像の認知・相貌認知・色彩認知・視空間の認知など)について評価する。ちなみに、視知覚障害は、後頭葉を中心とした部位の損傷により出現する。視知覚機能の機能が障害されていた場合は、「左半分」にはならず、図形全体に支障きたしやすい。

MMSEとは?

Mini Mental State Examination(MMSE)とは、認知障害(認知症・せん妄・健忘性障害)のスクリーニングとして国際的によく用いられている検査である。内容は、見当識・記銘力・注意と計算・想起・言語・組み立ての各項目があり、30点満点で評価する。26点以下で軽度認知障害の疑いを示し、23点以下では認知障害の可能性が高いことを示す。

 

 

 

 

8 80歳の男性。糖尿病で治療中。意識混濁と呂律緩慢のため救急車で搬入された。
 初診時の心電図と頭部MRI拡散強調像を下に示す。
 この疾患の再発予防に使用される最も適した薬剤はどれか。

1.硝酸薬
2.β遮断薬
3.抗凝固薬
4.ステロイド薬
5.抗てんかん薬

解答

解説

本症例のポイント

・80歳の男性(糖尿病で治療中)
・意識混濁と呂律緩慢のため搬送。
・初診時の心電図:心房細動の所見
・頭部MRI拡散強調像:左中大脳動脈領域に高信号。
→本症例は、心房細動により心原性脳塞栓症(脳梗塞)が疑われる。心房細動とは、心原性脳塞栓症の原因として最も多い不整脈である。心房細動は、心臓がこまかく震えている状態である。血栓ができやすいため脳塞栓の原因となり最多である。心房細動の特徴として、心房の興奮が形・大きさともに不規則であり、基線が揺れている(f波)。心房が正常に収縮しないためにP波が消失し、QRS波が不規則である。心房細動を洞調律に戻す非薬物療法には、カテーテルアブレーションのほかに電気的除細動という方法もある。電気的除細動を行うのは、心房細動が起こると①血圧が急に下がって強い症状のために動けなってしまうような場合、②抗不整脈薬が有効でない場合、③肥大型心筋症・心アミロイドーシスや心不全などがあるため抗不整脈薬を使うよりも電気的除細動の方が安全と判断される場合などである。

→拡散強調像(DWI画像)は、発症後1~3時間以内の超急性期の梗塞巣を確認できるとされる。なぜなら、水分子の拡散運動(自由運動度)を画像化したものであるため。拡散が低下した領域が高信号として描出される。発症から4~5時間以内の脳梗塞に対しては、血栓溶解療法(t-PA療法)という治療が行われる。初期対応は予後に大きく関わるため迅速に対応する必要がある。

1.× 硝酸薬は、血管を拡張させる薬である。狭心症に適応となる。ちなみに、狭心症とは、心臓に血液を供給する血管の狭窄により、心筋が虚血(酸素不足)状態になることによって生じる病気である。
2.× β遮断薬は、気管支を収縮させる薬である。慢性心不全に適応となる。通常、慢性心不全の方は心機能が低下しているため、交感神経が活発化している。しかし、長期間このような状態が続くと、心不全はだんだんと悪化していく。β遮断薬は、この神経の働きを抑えることで、無理をしている心臓の動きを少し休める作用がある。
3.〇 正しい。抗凝固薬が再発予防に使用される。本症例は、心房細動により心原性脳塞栓症(脳梗塞)が疑われる。血栓塞栓予防薬(抗凝固薬)は、血圧の低下にも寄与し塞栓の形成を予防する。
4.× ステロイド薬は、抗炎症作用と免疫抑制作用があげられる。
5.× 抗てんかん薬は、てんかん、双極性障害に適応となる。てんかん発作は、大脳の神経細胞の過剰な電気的興奮と、その興奮が広がることによって起こる。抗てんかん薬はこの「興奮系」を抑えるタイプと、興奮の広がりを抑える「抑制系」の働きを強めるタイプがある。

副腎皮質ステロイド薬とは?

【ステロイドの機序】
ステロイドは細胞の中に入った後にグルココルチコイド受容体に結合する。ステロイドの結合したグルココルチコイド受容体は、細胞の核内へ移行し、炎症に関与する遺伝子の発現を調節すると言われている。 この結果として強力な抗炎症作用と免疫抑制作用が発揮される。

【ステロイドの副作用】
軽度:中心性肥満、体重増加、満月様顔貌
重度:消化管潰瘍、糖尿病、感染症、骨粗鬆症・骨壊死、筋炎、精神症状(抑うつ、せん妄)

ステロイドを長期的に内服した場合、体内でステロイドホルモンが分泌されなくなることがある。そのため、急に薬の内服を止めると体内のステロイドホルモンが不足し、倦怠感や血圧低下、吐き気、低血糖などの症状が起こることがある。これをステロイド離脱症候群という。

(※参考:「副腎皮質ステロイド」日本リウマチ学会様HP)

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【OT専門のみ】心電図についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

9 70歳の女性。独居。身長155cm、体重52kg。自宅で転倒。右大腿骨頸部骨折と診断され、右人工骨頭置換術(後方アプローチ)を受けた。術後、回復期リハビリテーション病院を経て自宅退院の見込みである。右股関節の屈曲角度は100度、伸展0度である。左下肢機能には問題を認めない。屋内外は杖歩行自立。現状の家屋環境を図に示す。
 退院時に向けた環境調整で最も適切なのはどれか。
 ただし、手すりの高さはすべて適切である。

1.浴槽内いすを設置する。
2.屋内階段の壁側にも手すりを設置する。
3.補高便座を設置する。
4.玄関の上がりかまちに踏み台を設置する。
5.屋外階段の手すりの平坦部分を取り除く。

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の女性(独居、身長155cm、体重52kg)。
・右人工骨頭置換術(後方アプローチ
自宅退院の見込み。
・右股関節の屈曲角度:100度、伸展0度。
・左下肢機能:問題を認めない。
・屋内外は杖歩行自立
→本症例は、右人工骨頭置換術(後方アプローチ)をしているため、脱臼肢位を防ぐ生活指導が必要となる。受傷理由が「転倒」であり、再転倒を防ぐための住宅改修も必要と考えられるが、脱臼は再手術が必須となるため最も優先度が高いものとして、脱臼肢位を予防することがあげられる。

【人工骨頭置換術の患側脱臼肢位】
①後方アプローチ:股関節内転・内旋・過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展
※人工骨頭置換術の脱臼発生率は、2~7%と報告されており、前方アプローチと後方アプローチと比較して、後方アプローチで発生しやすい。

1.〇 正しい。浴槽内いすを設置する。なぜなら、股関節過屈曲を防ぐことができるため。また立ち上がる際も重心移動が少なくて済むため安全に行える。
2.× 屋内階段の壁側にも手すりを設置するより優先されるものが他にある。なぜなら、階段昇降に関しての記載はないため。退院時に屋内階段の必要性がないようなら、生活指導で、1階を生活拠点に移すよう指導することもある。
3.× 補高便座を設置するより優先されるものが他にある。なぜなら、補高便座の有無で、股関節の脱臼肢位とはなりにくいため。ちなみに、補高便座とは、膝にかかる負担を軽減し、便座への座り込みと立ち上がりを楽に行えるものである。
4.× 玄関の上がりかまちに踏み台を設置する優先度は低い。なぜなら、すでに上がり框に縦手すりが設置してあり、踏み台を設置することで、縦手すりがうまく機能しなくなる可能性が高いため。
5.× あえて、屋外階段の手すりの平坦部分を取り除く必要はない。なぜなら、手すりの平坦部分は、歩き始めの安定確保に寄与するため。

 

 

 

 

 

10 72歳の男性。在宅酸素療法中。呼吸困難が増悪したため入院し、作業療法が開始された。開始時の胸部CTを下に示す。mMRCはGrade4であり、酸素流量は安静時3L/分、労作時5L/分であった。
 この患者の日常生活指導で最も優先されるのはどれか。

1.口すぼめ呼吸を指導する。
2.更衣動作は素早く行わせる。
3.呼吸困難時には深呼吸を促す。
4.立ち上がってすぐに移動する。
5.短時間で動作を区切って休憩する。

解答

解説

本症例のポイント

・72歳の男性(在宅酸素療法中)。
・呼吸困難が増悪し入院。
・胸部CT:左肺に浸潤影(すりガラス陰影
・mMRC:Grade4(息切れがひどく家から出られない,衣服の着替えをするときにも息切れ)
・酸素流量:安静時3L/分、労作時5L/分
→本症例は、間質性肺炎が疑われる。間質性肺炎とは、肺の間質組織の線維化が起こる疾患の総称で、慢性的かつ進行性の特徴を持つ。病因は、喫煙、職業上の曝露、感染、免疫不全などである。症状は咳、痰、呼吸困難などで、早期には特徴的な症状がないこともある。肺機能検査(拘束性障害)で肺が縮んでいく病態である。肺活量や全肺気量は低下する。また、間質の線維化によりガスの拡散能は低下し、動脈血酸素分圧も低下する。

1.× 口すぼめ呼吸を指導するのは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。口すぼめ呼吸とは、呼気時に口をすぼめて抵抗を与えることにより気道内圧を高め、これにより末梢気管支の閉塞を防いで肺胞中の空気を出しやすくする方法である。鼻から息を吸い、呼気は吸気時の2倍以上の時間をかけて口をすぼめてゆっくりと息を吐く。
2.× 更衣動作は「素早く」ではなくゆっくり呼吸に合わせて行わせる。なぜなら、本症例のmMRC:Grade4(衣服の着替えをするときにも息切れ)であるため。
3.× 呼吸困難時には深呼吸を促す必要はない。なぜなら、間質性肺炎は、拘束性障害(肺コンプライアンスの低下:肺が膨らみにくくなる)であるため。肺や胸郭を動かす呼吸仕事量を増大させ、深い吸気により咳を誘発させる可能性もあるため。したがって、間質性肺炎の治療では、横隔膜呼吸(腹式呼吸)を練習する。
4.× 立ち上がってすぐに移動する必要はない。なぜなら、すぐに移動することで、さらなる息切れを助長しかねないため。ひとつひとつ動作を区切って、呼吸が乱れないようにする。
5.〇 正しい。短時間で動作を区切って休憩する。なぜなら、本症例のmMRCはGrade4(息切れがひどく家から出られない,衣服の着替えをするときにも息切れ)であるため。運動時・動作時は、息が乱れたり、息を止めないよう意識する。

修正MRC(mMRC)質問票

グレード0:激しい運動をしたときだけ息切れがする。
グレード1:平坦な道を早足で歩く,あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある。
グレード2:息切れがあるので,同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い,あるいは平坦な道を自分のペースで歩いているとき,息切れのために立ち止まることがある。
グレード3:平坦な道を約100m,あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。
グレード4:息切れがひどく家から出られない,あるいは衣服の着替えをするときにも息切れがある。

(動画でわかる呼吸リハビリテーション第4版p137より引用)

 

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