第59回(R6)理学療法士国家試験 解説【午前問題46~50】

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46 IL〈Independent Living〉運動で正しいのはどれか。

1.1990年代後半に起こった。
2.スウェーデンが発祥である。
3.社会的排除への戦略として提唱された。
4.障害者の自己決定促進の取り組みである。
5.障害の医学的モデルに基づくものである。

解答

解説

IL運動とは?

IL(Independent Living)運動(自立生活運動)とは、「重度の障害があっても、健常者と同じように自立して、生きていきたい」という障害者の主張を実現するため、障害者の自己決定権の拡大などを目的とした運動である。1960年代にアメリカで始まり、その後世界に広がった。

1.× 「1990年代」ではなく1960年代に起こった。
2.× 「スウェーデン」ではなくアメリカが発祥である。
3.× 社会的排除への戦略として提唱されたわけではない
4.〇 正しい。障害者の自己決定促進の取り組みである。「重度の障害があっても、健常者と同じように自立して、生きていきたい」という障害者の主張を実現するものであった。
5.× 障害の医学的モデルに基づくものであるのは、「IL運動」ではなくICFに関しての説明である。ICIDHやICFの医学モデルとは、障害という現象を個人の問題としてとらえ、病気・外傷やその他の健康状態から直接的に生じるものである。したがって、専門職による個別的な治療というかたちでの医療を必要とするものとみる。障害への対処は、治癒あるいは個人のよりよい適応と行動変容を目標になされる。主な課題は医療であり、政治的なレベルでは、保健ケア政策の修正や改革が主要な対応となる(※参考:「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」厚生労働省様HPより)。

 

 

 

 

 

 

47 QOL評価尺度はどれか。

1.TMT
2.SF-36
3.Katz Index
4.ESCROW Profile
5.老研式活動能力指標

解答

解説
1.× TMT(Trail making test)は、注意障害の検査である。視覚による探索能力と、注意の持続の有無を測定できる。紙面にランダムに並べられた数字を順番にたどり、線で結んでいく。TMT-A検査(数字を順番に並べる作業)とTMT-B(数字と文字の切り替え作業)を行う。標準値はA30秒以下、B64秒以下である。
2.〇 正しい。SF-36は、QOL評価尺度である。SF-36(the MOS 36-item short-form health survey)は、8つの下位尺度で構成されている質問紙法により対象者の健康関連QOLを包括的に評価する尺度である。①身体機能、②日常役割機能(身体)、③体の痛み、④全体的健康感、⑤活力、⑥社会生活機能、⑦日常役割機能(精神)、⑧心の健康、以上8つの健康概念を測定する。
3.× Katz Index(カッツインデックス)は、日常生活動作の指標である。①入浴、②更衣、③トイレへの移動、④移乗、⑤排尿・排便コントロール、⑥食事の6項目について自立・依存の2段階で評価する。これらの項目について自立か依存かを評価し、それに基づきA〜Gに分類する。
4.× ESCROW Profile(E:環境、S:社会交流、C:家族構成、R:経済状態、O:予後、W:就労などからなる)は、在宅生活における社会的不利の評価法である。すべての綴りは以下のとおりである。環境(Environment)、社会交流(Social Integration)、家族構成(Cluster of Family members)、社会資源(Resource)、予後・将来の見通し(Outlook)、学歴・職歴・生育歴、地位、身分(Work Status)の6項目で構成されている。
5.× 老研式活動能力指標とは、高次の生活機能の評価である。手段的自立(IADL)、知的能動性、社会的役割の3つの手段的日常生活動作能力(Instrumental ADL:IADL) 13項目を「はい」または「いいえ」で答えてもらう指標である。

 

 

 

 

48 脊髄小脳変性症で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.Frenkel体操が有効である。
2.視野障害を伴うことが多い。
3.包括的な評価指標にSARAがある。
4.有病率は人口10万人あたり100人である。
5.自律神経障害は非遺伝性に比べて遺伝性が多い。

解答1・3

解説
1.〇 正しい。Frenkel体操が有効である。Frenkel体操(フランクル体操)は、視覚で代償して運動制御を促通する運動療法であり、脊髄性運動失調などに対して行われる。多発性硬化症(MS)による視覚障害は、球後視神経炎を初発症状として呈することが多い。
2.× 視野障害を伴うことが多いのは、「多発性硬化症」である。多発性硬化症とは、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)
3.〇 正しい。包括的な評価指標にSARAがある。SARA(scale for the assessment and rating of Ataxia)は、脊髄小脳変性による失調症の定量的な評価法である。全8項目(歩行、立位、座位、言語障害、指追い試験、鼻指試験、手の回内・回外運動、踵脛試験)の評価セットである。四肢の運動失調の他、歩行障害、構音障害、眼球運動障害を簡便に評価できる。
4.× 有病率は人口10万人あたり「100人」ではなく18人程度である。生涯有病率とは、一生のうちに一度はその病気にかかる人の割合をいう。
5.× 自律神経障害は非遺伝性に比べて遺伝性が「多い」ではなく少ない。脊髄小脳変性症の自律神経障害を呈しやすいのは、多系統障害型である。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である(67.2%)。孤発性とは、病気が散発的に起こること。 家族には遺伝しないということを意味する。

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

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【PT】脊髄小脳変性症についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

49 間質性肺疾患患者に対する理学療法で最も適切なのはどれか。

1.体位排痰法を指導する。
2.吸気筋トレーニングを指導する。
3.上肢の筋力増強運動は行わない。
4.神経筋電気刺激療法は行わない。
5.有酸素運動はSpO260%を目標に実施する。

解答

解説

間質性肺炎

肺機能検査(拘束性障害):肺が縮んでいく病態である。肺活量や全肺気量は低下する。また、間質の線維化によりガスの拡散能は低下し、動脈血酸素分圧も低下する。
単純X線写真:網状陰影・すりガラス陰影が特徴。

【間質性肺疾患とは】(以下引用:「肺線維症に関する総合情報サイト」)
間質性肺疾患は、肺の間質という部分に起こるさまざまな病気の総称です。間質性肺疾患は以下のような病気をまとめた呼び名であり、さまざまなものが含まれます。
・原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎)
・膠原病に伴う間質性肺疾患
・過敏性肺炎
・サルコイドーシスなどを含むその他の間質性肺疾患

1.× 体位排痰法を指導する優先度は低い。なぜなら、間質性肺疾患患者に気道内分泌物がみられにくいため。間質性肺疾患は、乾性咳嗽(痰を伴わない咳)が特徴である。ちなみに、体位排痰法とは、体位変換を行い(痰の貯留部位を上にした姿勢)、気道内分泌物の移動を促す。
2.〇 正しい。吸気筋トレーニングを指導する。なぜなら、呼吸筋をトレーニングすることで、呼吸苦の改善につながるため。
3.× 上肢の筋力増強運動は「行わない」のではなく行う。なぜなら、上肢の筋肉を鍛えることで、腕を使う動作がスムーズになり、息切れが軽減できるため。物を持つだけでなく、呼吸法の定着にも寄与する。
4.× 神経筋電気刺激療法は「行わない」と断言することはできない。なぜなら、神経筋電気刺激療法は、呼吸苦を起こしにくく筋力増強を図れるため。電気刺激療法の主な種類として、①TENS(経皮的電気刺激療法)や②NMES(神経筋電気刺激法)などがあげられる。①経皮的電気刺激療法<TENS>の適応は、慢性腰痛、変形性関節症、関節リウマチ、脊髄損傷後の慢性痛、切断による幻肢痛など、治療目的は鎮痛である。②神経筋電気刺激療法は、主に筋肉や運動神経への電気刺激により筋収縮を起こすことで、筋力増強や筋委縮の予防、痙縮抑制などを目的に行われる治療法である。
5.× 有酸素運動はSpO2「60%」ではなく90%以上を目標に実施する。リハビリテーションの中止基準において、安静時酸素飽和度(SpO2:動脈血酸素飽和度)90%以下は、「積極的なリハを実施しない場合」と規定されている。

 

 

 

 

 

50 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉の副作用で正しいのはどれか。

1.胃潰瘍
2.骨粗鬆症
3.多幸感
4.中心性肥満
5.低血糖

解答

解説

1.〇 正しい。胃潰瘍が、非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉の副作用である。非ステロイド性抗炎症薬<NSAIDs>は、炎症などを引き起こすプロスタグランジンの生成を抑え、抗炎症作用や解熱、鎮痛に働く。副作用として、消化器症状(腹痛、吐き気、食欲不振、消化性潰瘍)、ぜんそく発作、腎機能障害が認められる。胃潰瘍を呈する機序として、抗炎症作用と同時に、胃の粘膜を保護する粘液も抑える効果があるため、胃酸を通しやすくなり、胃の粘膜を傷つけやすくしてしまう。
2~5.× 骨粗鬆症/多幸感/中心性肥満/低血糖は、ステロイドの副作用である。ちなみに、副腎皮質ステロイド薬の副作用は、①易感染性、②骨粗鬆症、③糖尿病、④消化性潰瘍、⑤血栓症、⑥精神症状(うつ病)、⑦満月様顔貌(ムーンフェイス)、中心性肥満などである。

ステロイドの副作用

【ステロイドの機序】
ステロイドは細胞の中に入った後にグルココルチコイド受容体に結合する。ステロイドの結合したグルココルチコイド受容体は、細胞の核内へ移行し、炎症に関与する遺伝子の発現を調節すると言われている。 この結果として強力な抗炎症作用と免疫抑制作用が発揮される。

【ステロイドの副作用】
軽度:中心性肥満、体重増加、満月様顔貌
重度:消化管潰瘍、糖尿病、感染症、骨粗鬆症・骨壊死、筋炎、精神症状(抑うつ、せん妄)

ステロイドを長期的に内服した場合、体内でステロイドホルモンが分泌されなくなることがある。そのため、急に薬の内服を止めると体内のステロイドホルモンが不足し、倦怠感や血圧低下、吐き気、低血糖などの症状が起こることがある。これをステロイド離脱症候群という。

(※参考:「副腎皮質ステロイド」日本リウマチ学会様HP)

 

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