第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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6 手指動作の発達で最も難易度が高いのはどれか。

解答

解説

MEMO

手の把握機能の発達は、
4か月頃:尺側握りが可能となる。
7か月頃:手掌把握が可能となる。
10か月頃:指腹つまみが可能となる。
12か月頃:指尖つまみが可能となる。

1.× 10か月頃に可能となる指腹つまみである。指ひとつひとつが独立してきているが、4指が伸展しており力が抜けていないのが特徴である。
2.× 8か月頃に可能となる指腹つまみである。このころは、親指を示指に動かせるようになり、有効に内転して物をつかめる。
3.× 6か月頃に可能となる4指の把握である。親指以外の4本の指と手掌の間に入れてつかむ。
4.〇 正しい。指尖つまみが手指動作の発達で最も難易度が高い。12か月頃に可能となる。親指と示指でつまんでもほかの指が広がらず、余計な力が入らずに可能となる。日常生活において、指尖つまみが最も使用頻度が高いのが特徴である。しかし、力のコントロールや巧緻性が必要となるため難易度が高いものとなる。
5.× 小球にリーチする場面である。ものに手を伸ばす時期として、4~5か月頃が目安となる。

Brunnstromの手指

ステージstageⅠ:弛緩性麻痺
ステージstageⅡ:自動的手指屈曲わずかに可能
ステージstageⅢ:全指同時握り、鈎形握り(握りだけ)、伸展は反射だけで、随意的な手指伸展不能
ステージstageⅣ:横つまみ(母指は離せない)、少ない範囲での半随意的手指伸展
ステージstageⅤ:対向つまみ、筒握り、球握り、随意的な手指伸展(範囲は一定せず)
ステージstageⅥ:全種類の握り、全可動域の手指伸展、すべての指の分離運動

 

 

 

 

 

7 40歳の女性。保険会社の営業職。くも膜下出血の診断で開頭クリッピング術が施行され、現在、回復期リハビリテーション病院に入院している。事務職への配置転換が可能であるが、本人は営業職への復職を希望している。身体機能に問題はない。Barthel Index100点、HDS-R 25点、Kohs立方体組合せテストIQ88、BIT141点、RBMT標準プロフィール14点、BADS総プロフィール8点、TMT-A120秒、TMT-B145秒であった。
 復職に向けた作業療法として最も適切なのはどれか。

1.営業職への復職を勧める。
2.課題の間違いは翌日指摘する。
3.関わり続けるスタッフを固定する。
4.冬グループ訓練から個別訓練へ移行する。
5.メモリーノートの活用方法を指導する。

解答

解説

本症例のポイント

・40歳の女性(保険会社の営業職)
・くも膜下出血(開頭クリッピング術)
・事務職への配置転換が可能である。
・本人の希望:営業職への復職
・身体機能:問題なし
・Barthel Index100点(全10項目100点満点:自立)
・HDS-R 25点(20点以下:認知症の疑い)
・Kohs立方体組合せテストIQ88(IQ70以下:認知機能障害や視空間失認、構成障害の疑い)
・BIT141点(131点以下:半側空間無視の疑い)
・RBMT標準プロフィール14点(9点以下:記憶障害あり見守り要)
BADS総プロフィール8点(12点以下:遂行機能障害の疑い)
TMT-A120秒TMT-B145秒(A:30秒、B:64秒以上で注意障害の疑い)
→本症例は、遂行機能障害注意障害が疑われる。

1.× あえて、営業職への復職を勧める必要はない。なぜなら、すでに本症例の希望は営業職への復職であるため。また、本症例は、遂行機能障害注意障害が疑われる。本人が希望しても、営業職は顧客や他社との関係があるため、それらを考慮して勧めなければならない。
2.× あえて、課題の間違いは翌日指摘する必要はない。なぜなら、本症例はRBMT標準プロフィール14点であり、記憶障害の疑いはないため。また、課題の間違いのフィードバックは、時間を空けすぎるのも効果が薄いといわれているため、大きな理由がない限り「翌日」ではなく即日でよい。
3.× あえて、関わり続けるスタッフを固定する必要はない。なぜなら、スタッフの固定が遂行機能障害注意障害への改善にはつながりにくいため。関わり続けるスタッフを固定する必要がある場合は、境界性パーソナリティ障害や記憶障害が強くスタッフの変動で不安がみられる場合などである。
4.× グループ訓練から個別訓練へ移行する優先度は低い。なぜなら、本症例は注意障害が疑われるもののTMT-A・Bともに最後まで完遂できる。個別訓練は患者のニーズに合わせたリハビリが行えるが、医療従事者に依存傾向となりやすい性質も持ち合わせる。本症例は回復期にて復職を目指しており、選択肢のなかでより優先度が高いものが他にある。
5.〇 正しい。メモリーノートの活用方法を指導する。メモリーノートとは、忘れてはならないことをノートに書き留め、見返すことで記憶の想起補助に使用するノートのことである。遂行機能障害に対し、手順を書くことで、メモリーノートの活用は非常に効果的である。注意障害に対しても、スケジュールを整理し、注意力を維持する方法を学ぶことができる。

MEMO

全般性注意障害は、外傷性脳損傷後にみられやすい。全般性注意障害は、5つの注意性が全般的に障害されている状態である。
①持続性:注意を一定時間の状態に保つことが困難になる。
②選択性:多数の刺激の中から必要な情報や物事に注意を向けられない。
③転換(導)性:必要に応じて注意の方向性を切り替えることが困難になる。
④配分性(多方向性):2つ以上の課題を同時に遂行したり、順序立てて行ったりすることが困難になる。
⑤容量性(感度):ある情報に関する注意の閾値が適度に保つことが困難である。

 

 

 

 

 

8 49歳の男性。右利き。脳梗塞による右片麻痺、Brunnstrom法ステージ上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ、感覚障害を認める。MMSEは30点、高次脳機能障害は認めない。杖と短下肢装具を使用して歩行は自立。ドライブが趣味である。
 運転再開に向けた自動車の改造として適切なのはどれか。2つ選べ。

1.移乗ボードの設置
2.体幹ベルトの使用
3.手動運転装置の設置
4.ハンドルにノブを設置
5.左アクセルペダルへの変更

解答4・5

解説

本症例のポイント

・49歳の男性(右利き、脳梗塞:右片麻痺)
・上肢Ⅲ:座位で肩・肘の同時屈曲、同時伸展
・手指Ⅲ:全指同時握り、鈎形握り(握りだけ)、伸展は反射だけで、随意的な手指伸展不能
・下肢Ⅳ:座位で足を床の後方へすべらせて、膝を90°屈曲。踵を床から離さずに随意的に足関節背屈 
・感覚障害:認める
・MMSE:30点、高次脳機能障害:なし
・歩行:自立(杖と短下肢装具を使用)
・趣味:ドライブ
→本症例は、右片麻痺であるものの、高次脳機能障害はなく、歩行も自立されている。運転再開に向けた自動車の改造に必要になる点として、麻痺と感覚障害がみられる右上下肢の使用は控えたほうが良い。

1.× 移乗ボードの設置の優先度は低い。なぜなら、本症例の歩行は自立(杖と短下肢装具を使用)されているため。ちなみに、トランスファーボード(スライディングボード)とは、座った姿勢を保持したままベッドから車椅子に移譲するための福祉用具である。介助者は少ない力で無理なく介助できる。
2.× 体幹ベルトの使用より優先度が高いものが他にある。なぜなら、設問文に座位機能に関する記載がないため。むしろ、本症例の歩行状態から、座位保持は自立していると推測できる。ちなみに、体幹ベルトは体幹に巻き支え、体幹保持するものである。主に、脳性麻痺の車いすに用いることが多い。
3.× 手動運転装置の設置の優先度は低い。なぜなら、本症例は右片麻痺であり、左の上下肢の使用が見込めるため。ちなみに、手動運転装置とは、足を使わず手や腕で運転する装置である。両下肢が不自由な方が両上肢で運転することができる運転補助装置である。
4.〇 正しい。ハンドルにノブを設置する。なぜなら、本症例は右片麻痺で、右手だけではハンドル操作が不十分となることがあるため。ハンドルのノブは、片手でハンドル操作を容易にするための装置である。操作だけでなく握りの弱さを補うことができる。
5.〇 正しい。左アクセルペダルへの変更を行う。なぜなら、本症例は右片麻痺で、アクセルの操作が難しいと考えられるため。左アクセルペダルは、右足の操作が困難な場合、左足でアクセル操作ができるようにする装置である。

 

 

 

 

9 68歳の男性急性心筋梗塞のため14日間入院し退院後2か月が経過した。心臓リハビリテーションのために実施した検査場面を図に示す。
 測定項目に含まれないのはどれか。

1.血圧
2.肺活量
3.1回換気量
4.運動負荷量
5.酸素摂取量

解答

解説

エルゴメーター負荷試験とは?

エルゴメータ負荷試験とは、検査用の自転車を漕ぎ、ペダルに抵抗をつけることにより心臓に負荷をかける検査である。時間とともに徐々にペダルを重くし、負荷を増やしていきながら運動前、運動中、運動後の心電図を比べる。労作性狭心症や運動によって誘発される不整脈の精査に有効である。また、運動中の心拍数や血圧の変動もみることができる。(※参考:「エルゴメータ負荷試験」岡山大学様HPより)

1.〇 血圧は、検査項目に含まれる。運動前、運動中、運動後も心電図と血圧を測定できる。一般的に、運動負荷が増加すると、心拍出量が増大し、血圧が上昇する。
2.× 肺活量は、測定項目に含まれない。なぜなら、負荷に応じて肺活量に変化はみられないため。肺活量とは、[最大吸気量 + 予備呼気量]のことをいう。つまり、限界まで吸い、限界まで吐いたときの空気の量である。
3.〇 1回換気量は、検査項目に含まれる。なぜなら、運動により呼吸回数や1回換気量が増加するため。1回換気量を測定することで、運動負荷に対する呼吸器系の反応を評価できる。ちなみに、一回換気量とは、一回の呼吸運動(呼気と吸気)で気道・肺に出入りするガスの量のことを指す。単位はmL。1回換気量のうち、ガス交換が可能な領域(呼吸細気管支と肺胞)を出入りする分が「有効換気量(350mL)」であり、ガス交換が行われない領域(鼻腔・口腔・気管・気管支・終末細気管支)を出入りする分は、「死腔換気量(150mL)」である。したがって、有効換気量+死腔換気量で健康な成人の1回換気量を求めることができる。
4.〇 運動負荷量は、検査項目に含まれる。エルゴメータ負荷試験は、時間とともに徐々にペダルを重くし、負荷を増やしていきながら運動前、運動中、運動後の心電図を比べる。
5.〇 酸素摂取量は、検査項目に含まれる。酸素摂取量は、肺からの酸素の取り込み、心臓などの循環機能などが影響する。

(※図引用:「呼吸機能検査 フロー・ボリューム曲線」医學事始様HPより)

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10 42歳の男性。右利き。自営業。3年前に脳出血発症後、回復期リハビリテーション病院を経て自宅退院し復職したが仕事中に再発した。初発時の頭部CT(A)と再発時の頭部CT(B)を下に示す。
 再発時の新たな症状として最も考えられるのはどれか。

1.昏睡
2.構音障害
3.右同名半盲
4.回転性めまい
5.Gerstmann症候群

解答

解説

MEMO

初発時の頭部CT(A):被殻出血
再発時の頭部CT(B):被殻出血(広範囲)
→被殻出血の特徴的症状は、①病側の共同偏視、②優位半球障害時に運動失語、③劣位半球障害時に失行・失認などである。出血が次第に増大すると、徐々に意識が薄れて、昏睡状態になることもある。血腫量が31ml以上でかつ血腫による圧迫所見が高度な被殻出血では、手術を検討する。特にJCSで20~30程度の意識障害を伴う場合には、定位的脳内血腫除去術や開頭血腫除去術を検討する。

1.× 昏睡より考えられるものが他にある。ただし、被殻出血に限ったことではないものの脳出血にて昏睡も起こりうる。昏睡とは、覚醒させることができず、閉眼した状態が続く無反応状態である。出血が次第に増大すると、徐々に意識が薄れて、昏睡状態になる。昏睡が起こる機序として、①脳出血→②頭蓋内圧上昇→③固い頭蓋骨の中に入っている脳がむくむ→④脳幹という生命の中枢を圧迫し、昏睡に至る。
2.〇 正しい。構音障害は、再発時の新たな症状として最も考えられる。被殻・淡蒼球は、大脳基底核を構成している。また、内包後脚には、錐体路が通っているため、この部分に障害が及ぶと錐体路障害が起こる。具体的な症状としては、片麻痺、中枢性顔面神経麻痺、感覚障害、運動性失語(優位半球の場合)などである。
3.× 右同名半盲より考えられるものが他にある。右同名半盲の責任病巣は、視覚野(後頭葉)や視覚路、左視索、左外側膝状体、左視放線、左後頭葉などである。障害視野は、両眼の視野の右半部となる。
4.× 回転性めまいより考えられるものが他にある。回転性めまいの責任病巣は、前庭系(耳の内部にある平衡器官)や前庭神経である。回転性めまいとは、自分は動いていないにも関わらず、自分や周囲(天井や壁など)がぐるぐる回っているようなめまいのことである。
5.× Gerstmann症候群より考えられるものが他にある。Gerstmann症候群(ゲルストマン症候群)の責任病巣は、優位球の角回の障害で起こる。ちなみに、Gerstmann症候群(ゲルストマン症候群)とは、①手指失認、②左右失認、③失書、④失算の四徴のことである。

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