第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 28歳の女性。5年前の外傷性脳損傷よる右片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢Ⅲ、手指Ⅲ。最近、右手指の屈曲拘縮が悪化し、手指衛生が困難となった。
 最も適切な装具はどれか。

1.BFO
2.RICスプリント
3.ナックルベンダー
4.パンケーキ型装具
5.コックアップ・スプリント

解答

解説

本症例のポイント

・28歳の女性。
・5年前:外傷性脳損傷よる右片麻痺。
・最近:右手指の屈曲拘縮が悪化、手指衛生が困難。

1.× BFO(Balanced Forearm OrthosisまたはBall bearing Feeder Orthosis)は、主に第4,5頸髄損傷者に用いられる。患者の前腕を支えてごくわずかの力で上肢の有益な運動を行なわせようとする補装具の一種である。
2.× RICスプリントは、手関節背屈運動により対立つまみを可能にする装具である。C6の残存に適応となる。
3.× ナックルベンダー(MP関節屈曲装具)は、尺骨神経麻痺(鷲手)に対する上肢装具である。MP関節を屈曲位(背屈位)に矯正する。
4.〇 正しい。パンケーキ型装具は、主に脳卒中で手指の麻痺による変形に対して矯正する装具である。上腕骨顆上骨折後のフォルクマン拘縮などにも適応となる。
5.× コックアップ・スプリントは、手関節を機能的な位置に保持できないときに適応され、特に橈骨神経麻痺中枢弛緩性麻痺の拘縮予防に用いられる。手関節背屈装具のことであり、機能的把持動作を可能とする。 

(※写真:BFO:Balanced Forearm Orthosis)

 

 

 

 

 

12 スプリントの型紙で正しいのはどれか。

1.長対立スプリント
2.コックアップ・スプリント
3.標準型夜間用スプリント
4.尺側偏位防止スプリント
5.エンゲン型把持スプリント

解答

解説

1.〇 正しい。長対立スプリント(Rancho型長対立装具:ランチョ型長対立装具)は、正中神経麻痺による猿手に対する上肢装具である。母指対立が困難)に適応となる装具である。
2.× 図は、軽い筋機能改善用スプリント(PIP関節伸展改善用スプリントなど)の型紙である。ちなみに、コックアップ・スプリントは、手関節を機能的な位置に保持できないときに適応され、特に橈骨神経麻痺・中枢弛緩性麻痺の拘縮予防に用いられる。手関節背屈装具のことであり、機能的把持動作を可能とする。
3.× 図は、コックアップスプリントの型紙である。ちなみに、標準型夜間用スプリント(安静用スプリント)は、手関節の固定・支持・変形予防・保護などのために手関節・手指を良肢位に保持する。橈骨神経麻痺や片麻痺などに適応となる。
4.× 図は、良肢位保持スプリントの型紙である。ちなみに、尺側偏位防止スプリントは、関節リウマチに適応し、手関節・MP関節の尺側偏位・掌側脱臼の予防、手関節・MP関節を中間位で固定する役割がある。
5.× 図は、尺骨偏位防止スプリントの型紙である。ちなみに、エンゲン型把持スプリント(Engen型把持装具の使用:手関節駆動式把持スプリント)は、C6レベルまで残存している脊髄損傷に用いる装具である。手関節背屈によりピンチ動作を可能する。

 

 

 

 

13 63歳の男性。脳出血による左片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ。
 上肢の分離運動促通を目的とした自主訓練として最も適切なのはどれか。

1.書字
2.窓ふき
3.紙を割く
4.ボールつき
5.棒を垂直に保持

解答

解説

本症例のポイント

・63歳の男性(脳出血:左片麻痺)
・上肢Ⅲ:座位で肩・肘の同時屈曲、同時伸展
・手指Ⅲ:全指同時握り、鈎形握り(握りだけ)、伸展は反射だけで、随意的な手指伸展不能
・下肢Ⅳ:座位で足を床の後方へすべらせて、膝を90°屈曲。踵を床から離さずに随意的に足関節背屈

1.× 書字は、Brunnstrom法ステージ上肢・手指Ⅴに相当し本症例には難易度が高い。図では、書かれた線の列もほぼ平行で手指の巧緻性が認められる。
2.× 窓ふきは、Brunnstrom法ステージ上肢Ⅴに相当し本症例には難易度が高い。図では、患側肩関節を90°以上に挙上している。
3.× 紙を割く動作は、Brunnstrom法ステージ上肢Ⅴに相当し本症例には難易度が高い。図では、両側肘関節を伸展位で肩関節外転している。
4.× ボールつきは、Brunnstrom法ステージ上肢Ⅴに相当し本症例には難易度が高い。図では、肘関節伸展位のまま、前腕回内している。
5.〇 正しい。棒を垂直に保持は、本症例の上肢の分離運動促通を目的とした自主訓練に適している。患側上肢を肩関節屈曲90°に挙上する動作も行え、これはBrunnstrom法ステージ上肢Ⅳに相当する。

 

 

 

 

 

14 63歳の女性。うつ病。元来、働き者で、園芸や裁縫を楽しんでした。定年退職し、子どもの独立、親の死が続いたころから、趣味や家事をする気力がなくなり、不眠と強い倦怠感を訴え、入院した。薬物療法により症状が軽快し、1か月後には病棟内ADLはほぼ自立したため作業療法が開始された。
 作業療法の初期評価で最も適切なのはどれか。

1.独力で調理ができるかどうかを評価する。
2.主観的疲労度を頻繁に聞いて確認する。
3.裁縫での作業遂行の様子を観察する。
4.集団活動での行動特性を観察する。
5.日中の過ごし方の情報を得る。

解答

解説

本症例のポイント

・63歳の女性(うつ病
・元来、働き者、園芸裁縫を楽しんでした。
・定年退職、子どもの独立、親の死が続いたころ:趣味家事をする気力がなくなり、不眠と強い倦怠感を訴え入院。
・薬物療法:症状が軽快。
1か月後:病棟内ADLほぼ自立
→本症例は、うつ病の回復前期である。うつ病の作業療法について、うつ病では意欲低下、精神運動抑制などの症状のため、自己評価が低く、疲労感が強い。そのため、負荷が小さく、自信を回復させるような作業が適切である。病前のようには作業ができないことから自責や自信を無くしてしまうことがあるため配慮が必要である。望ましい作業として、①工程がはっきりしたもの、②短期間で完成できるもの、③安全で受け身的で非競争的なもの、④軽い運動があげられる。

1.3.× 独力で調理ができるかどうかを評価する/裁縫での作業遂行の様子を観察する優先度は低い。なぜなら、病前のように比較する機会を作ることにより、さらに自責したり自信を無くしてしまうことがあるため。いきなり評価するのではなく、徐々に生活に関連した活動を取り入れる。
2.× 主観的疲労度を「頻繁」に聞いて確認する優先度は低い。疲労感の情報は有用であるが、頻繁に聞く必要はない。うつ病の望ましい作業として、①工程がはっきりしたもの、②短期間で完成できるもの、③安全で受け身的で非競争的なもの、④軽い運動があげられる。これらは、休みたいときに休むことができ、自分のペースで行えることが特徴である。うつ病患者の特徴として、常に疲労感が強いこともあげられるため、その疲労度が作業療法によるものか判断が難しい。
4.× 集団活動での行動特性を観察する優先度は低い。なぜなら、集団活動は回復後期に行われるアプローチであるため。本症例に対し、負担が大きすぎると考えられる。
5.〇 正しい。日中の過ごし方の情報を得ることは、作業療法の初期評価で最も適切である。うつ病の治療は休息の確保から始まる。作業療法を開始する時期は、患者が休息を十分取れるようになり、心身の回復を自覚できるようになる頃である。作業療法の開始時に必要となる情報は、入院後の薬物療法の効果、睡眠状態、日中の過ごし方や疲労感、うつ病に対する理解度、薬物療法などの現在受けている治療に関する受け止め方、今後の希望と目標などである(香山, 2014)(一部抜粋:「うつ病治療ガイドライン —精神科作業療法—」)。

うつ病の対応

かかりやすい:几帳面で完璧主義、責任感が強い人が多い。

うつ病の特徴:意欲低下、精神運動抑制などの症状のため、自己評価が低く、疲労感が強い。

①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。
②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。
③自殺しないように約束してもらうことなど。

【作業基準】
①工程がはっきりしている。
②短期間で完成できる。
③安全で受身的で非競争的である。
④軽い運動(いつでも休憩できる)

【対応】
①気持ちを受け入れる。
②共感的な態度を示す。
③心理的な負担となるため、激励はしない。
④無理をしなくてよいことを伝える。
⑤必ず回復することを繰り返し伝えていく。
⑥静かな場所を提供する。

 

 

 

 

 

15 23歳の女性。パーソナリティ障害。高校生のころから、わざとらしい言動や芝居かかった振る舞いで、たびたび友達と喧嘩になっていた。高校卒業後は、対人関係のトラブルで仕事が長続きせず、職を転々とした。最近、感情が不安定で、派手な外観や見栄を張るような言動が目立ち、無断外泊を繰り返すため、母親に連れられて精神科を受診した。情緒の安定を目的に作業療法が処方された。
 作業療法場面で予想される行動特徴はどれか。

1.被暗示性が強い。
2.単独での活動を好む。
3.平板化した感情表出である。
4.過度に作業療法士に依存する。
5.作業工程の細部へのこだわりがある。

解答

解説

本症例のポイント

・23歳の女性(パーソナリティ障害
・高校生:わざとらしい言動や芝居かかった振る舞い
・最近:感情が不安定で、派手な外観見栄を張るような言動が目立ち、無断外泊を繰り返す。
→本症例は、演技性パーソナリティ障害がもっとも疑われる。演技性パーソナリティ障害の特徴を選択する。

1.〇 正しい。被暗示性が強い。被暗示性とは、暗示のかかりやすさのことを指す。大きな声や、はっきりとした号令、命令につい従う。また、他の人の思いがまるで伝染するように、共通した考えや感情を持ちやすくなる。ちなみに、演技性パーソナリティ障害とは、被暗示性(他人の影響を受けやすいこと)を認める。他にも、自己の感情を誇張して表出したり、絶えず自分が注目や称賛の的となるように振舞ったりすること特徴である。
2.× 単独での活動を好む/平板化した感情表出であるのは、シゾイドパーソナリティ障害の特徴である。シゾイドパーソナリティ障害は、きわめて内向的で人との接触に乏しく、社会技能の障害が顕著であるものである。社会的関係への関心のなさ、人との関わりが苦手で孤独を選ぶ傾向、そして感情的な平板さを特徴とする障害である。
4.× 過度に作業療法士に依存するのは、境界性パーソナリティ障害の特徴である。境界性パーソナリティ障害は、感情の不安定性と自己の空虚感が目立つものである。こうした空虚感や抑うつを伴う感情・情緒不安定の中で突然の自殺企図、あるいは性的逸脱、薬物乱用、過食といった情動的な行動が出現する。このような衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。見捨てられ不安があり、特定の人物に対して依存的な態度が目立ち、他者との適切な距離が取れないなどといった特徴がある。
5.× 作業工程の細部へのこだわりがあるのは、強迫性パーソナリティ障害の特徴である。強迫性パーソナリティ障害は、秩序・完全主義・精神および対人関係の統一性にとらわれ、柔軟性・開放性・効率性が犠牲にされている傾向にある。男性に多い。仕事においても、患者はミスがないか繰り返し確認し、あらゆる細部に注意を払う傾向にある。

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