第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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6 簡易上肢機能検査(STEF)の検査法を下に示す。
 移動方向および設定で正しいのはどれか。
 ただし、検査は右手で行うこととする。

1.①中球
2.②大直方
3.③木円盤
4.④小球
5.⑤ピン

解答

解説

STEF (Simple Test for Evaluating Hand Function:簡易上肢機能検査)とは?

 STEF (Simple Test for Evaluating Hand Function:簡易上肢機能検査)とは、上肢の動作能力(特に動きの速さ)を客観的に、しかも簡単かつ短時間(20~30分)に把握するための評価法である。10種類のテストからなり、それぞれ大きさや形の異なる物品を把持して移動させ、一連の動作に要した時間を計測し、所要時間を決められた点数(1~10点)に当てはめて、右手と左手との差を左右別に合計点数を算出する。また参考値との比較も可能である。

1.× ①中球は、右手で操作する行う場合、手前から右へ行う。
2.× ②大直方は、右手で操作する行う場合、左から右へ行う。
3.〇 正しい。③木円盤は、右手で操作する行う場合、右手前から左手前へ行う。
4.× ④小球は、右手で操作する行う場合、遠位から手前へ行う。
5.× ⑤ピンは、右手で操作する行う場合、手前から遠位へ行う。

(※図引用:「計測姿勢の違いが手先の運動軌道に与える影響」著:宮寺 亮輔)

 

 

 

 

 

7.関節可動域測定法(日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準による)で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.肩内旋
2.手尺屈
3.小指屈曲
4.股内旋
5.胸腰部右側屈

解答1・3

解説
1.〇 正しい。肩内旋の別法である。以下、別法における【基本軸】肘を通る前額面への垂直線、【移動軸】尺骨である。ちなみに、【測定部位及び注意点】①前腕は中間位とすること②肩関節は90°外転し、かつ肘関節は90°に屈曲した肢位で行うことである。
2.× 手尺屈の【基本軸】前腕の中央線、【移動軸】第三中手骨である。ちなみに、【測定部位及び注意点】前腕を回内位で行う。つまり、設問の図のように手掌側からは測れず、手背側から測ることになる。
3.〇 正しい。小指屈曲は、指尖と近位手掌皮線または遠位手掌皮線との距離(cm)で表示する。
4.× 設問の図は、「股関節内旋」ではなく股関節外旋の動きである。ちなみに、股内旋の【基本軸】膝蓋骨より下した垂直線、【移動軸】下腿中央線(膝蓋骨中心より足関節内外果中央線)である。ちなみに、【測定部位及び注意点】①背臥位で、股関節と膝関節を90°屈曲位にして行うこと、②骨盤の代償を少なくすることである。
5.× 胸腰部右側屈の【基本軸】ヤコピー線の中点に立てた垂直線、【移動軸】第一胸椎棘突起と第5腰椎棘突起を結ぶ線である。ちなみに、【測定部位及び注意点】①体幹の背面で行うこと、②腰かけ座位または立位で行うことである。

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8 33歳の男性。交通事故で完全頚髄損傷(C7頚髄節まで機能残存)を受傷した。受傷後2か月が経過し、全身状態は良好でADLの拡大が図られている。排泄については核上型神経因性膀胱と診断され、自排尿が困難である。
 この患者の排尿管理として適切なのはどれか。

1.圧迫排尿
2.骨盤底筋訓練
3.自己導尿
4.尿道カテーテル留置
5.膀胱瘻の造設

解答

解説

本症例のポイント

・33歳の男性(交通事故)。
・完全頚髄損傷(C7頚髄節まで機能残存)。
・受傷後2か月:全身状態は良好(ADLの拡大)
・排泄:自排尿が困難(核上型神経因性膀胱
→核上型神経因性膀胱とは、仙髄排尿中枢より上位の神経が障害され生じた神経因性膀胱である。膀胱が勝手に収縮してしまう状態になる。一般的には、頻尿、尿意切迫感(急に我慢できないような尿意が起こる)、トイレまで間に合わずに尿が漏れるなどの症状が出現する。

1.× 圧迫排尿は優先度が低い。なぜなら、圧迫排尿は自排尿がみられるが、残尿がある場合に適応となるため。ちなみに、圧迫排尿とは、膀胱を手で圧迫して尿を排出させる方法である。
2.× 骨盤底筋訓練は優先度が低い。なぜなら、核上型神経因性膀胱により、骨盤底筋群の機能の回復は見込めないため。骨盤底筋は子宮、膀胱、直腸を含む骨盤臓器を支える筋肉で、骨盤底筋を強化することで尿漏れ対策となる。仰臥位が基本的な姿勢であるが、腹臥位や座位など日常生活の中でどんな姿勢で行ってもよい。座位や膝立て背臥位などで、上体の力を抜いてお尻の穴を引き上げて「きゅっ」とすぼめ、5秒キープする動作を10~20回ほど繰り返す方法と、すぼめたりを繰り返す方法の2種類ある。
3.〇 正しい。自己導尿を実施する。なぜなら、本症例は核上型神経因性膀胱による反射性尿失禁を呈していると考えられるため。反射性尿失禁とは、脊髄損傷により排尿をつかさどる神経が障害されており(神経因性膀胱)、膀胱に尿が充満した状態で反射的に尿が漏れてしまうものである。原因として、膀胱尿管逆流症や水腎症などの合併症が起こり得るため、治療法として間欠的な自己導尿も選択される。治療としては、自己導尿排尿訓練などを行う。
4.× 尿道カテーテル留置は優先度が低い。なぜなら、長期的なカテーテル留置は感染や尿路結石のリスクが高まるため。ちなみに、尿道カテーテル留置は、尿道にカテーテルを常時留置して排尿を管理する方法である。繰り返しになるが、尿道留置カテーテルは安易に設置するものでない。適応として、①腎盂腎炎などの疾患により残尿・尿路の確保が必要な場合、②排尿が困難な場合(全身状態が悪い)、③高度尿失禁を有する女性、④本人および介護者による間欠導尿が不可能な場合などが挙げられる。
5.× 膀胱瘻の造設は優先度が低い。なぜなら、本症例は33歳で全身状態も安定し、ADL拡大を図っている最中であるため。膀胱瘻(膀胱ろう)とは、尿を出すための管(膀胱ろうカテーテル)を恥骨の上の腹壁から直接、膀胱内に留置する尿路管理法のことである。適応として、重度の神経障害かつ自己導尿が困難な場合(認知面が低下している場合)などに用いられる。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

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9 70歳の男性。診断名はCOPD。mMRC息切れスケールはグレード4、画像所見では肺の過膨張が指摘されている。在宅酸素療法が導入されていたが、感冒を契機に入院し、入院1週後に作業療法が開始となった。酸素安静時1L/分、労作時2L/分で、開始時(安静時)のバイタルサインは心拍数86/分、呼吸数22/分、SPO2:94%、修正Borg Scale2であった。
 作業療法で最も適切なのはどれか。

1.食事は一度に多めに摂取するように指導する。
2.IADL指導はパンフレットのみで行う。
3.心拍数が110/分になったら中止する。
4.ADL訓練はSPO2:85%以上で行う。
5.洗体動作は呼気に合わせて行う。

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(COPD)。
・mMRC息切れスケール:グレード4
・画像所見:肺の過膨張。
・在宅酸素療法が導入。
感冒を契機に入院。
・入院1週後:作業療法開始。
・開始時:心拍数86/分、呼吸数22/分、SPO2:94%、修正Borg Scale2。
→慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、以前には慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称である。他の特徴として、肺の過膨張、両側肺野の透過性亢進、横隔膜低位、横隔膜の平低化、滴状心などの特徴が認められる。進行性・不可逆性の閉塞性換気障害による症状が現れる。

【血中酸素飽和度が低下しやすい日常生活動作】
①排便(息を止めるため、呼吸のコントロールを行う)
②肩まで湯船につかる(胸部が圧迫されるため、動作環境や方法を工夫する)
③洗髪、上衣更衣、洗体など(上肢を使うため、上肢挙上は片腕のみで、呼吸のコントロールを行う。)
④ズボンや靴下を履く(体を前屈して行うため、動作のスピードや方法を調整する。)

※入浴の生活指導:息切れがある場合は全身入浴を控え、半身浴やシャンプーハットを使用したシャワーなどで対応する。入浴中は酸素吸入を行わない場合が多いため、入浴時間は短めにする。

(図引用:「息切れを増強させる4つの動作のイラスト(慢性呼吸器疾患)」看護roo!看護師イラスト集)

1.× 食事は、「一度に多め」ではなくこまめに摂取するように指導する。なぜなら、食事中は、食事中は前かがみになり、飲み込む時は息を止め、疲労しやすいため。また、食後に呼吸困難を与える原因として、満腹になると横隔膜が圧迫され息苦しくなることがあげられる。1回の食事量を減らし、食事回数を増やす。
2.× あえて、IADL指導はパンフレットのみで行う必要はない。むしろ、IADL(手段的日常生活動作)は、買い物、洗濯、電話、服薬管理などの道具を用いる複雑な動作であるため、その人の環境やニーズ、状態の把握を行い、安全に行えるように生活指導する必要がある。
3.× 心拍数は、「110/分」ではなく140/分になったら中止する。ちなみに、リハビリテーションの中止基準において、「いったんリハを中止し,回復を待って再開」できる基準として、脈拍が 120/分を越えた場合があげられている。いずれにせよ、110/分は中止する基準とはいえない。
4.× ADL訓練は、「SPO2:85%以上」ではなくSPO2:90%以上で行う。なぜなら、リハビリテーションの中止基準において、「積極的なリハを実施しない場合」で安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下と記載されている。
5.〇 正しい。洗体動作は呼気に合わせて行う。洗体動作に限らず、息をこらえるような動作(着衣・排便など)でも息を吐きながらゆっくりと動作を行うよう指導する。

リハビリテーションの中止基準

1. 積極的なリハを実施しない場合
[1] 安静時脈拍 40/分以下または 120/分以上
[2] 安静時収縮期血圧 70mmHg 以下または 200mmHg 以上
[3] 安静時拡張期血圧 120mmHg 以上
[4] 労作性狭心症の方
[5] 心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈がある場合
[6] 心筋梗塞発症直後で循環動態が不良な場合
[7] 著しい不整脈がある場合
[8] 安静時胸痛がある場合
[9] リハ実施前にすでに動悸・息切れ・胸痛のある場合
[10] 座位でめまい,冷や汗,嘔気などがある場合
[11] 安静時体温が 38 度以上
[12] 安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下

2. 途中でリハを中止する場合
[1] 中等度以上の呼吸困難,めまい,嘔気,狭心痛,頭痛,強い疲労感などが出現した場合
[2] 脈拍が 140/分を超えた場合
[3] 運動時収縮期血圧が 40mmHg 以上,または拡張期血圧が 20mmHg 以上上昇した場合
[4] 頻呼吸(30 回/分以上),息切れが出現した場合
[5] 運動により不整脈が増加した場合
[6] 徐脈が出現した場合
[7] 意識状態の悪化

3. いったんリハを中止し,回復を待って再開
[1] 脈拍数が運動前の 30%を超えた場合。ただし,2 分間の安静で 10%以下に戻らないときは以後のリハを中止するか,または極めて軽労作のものに切り替える
[2] 脈拍が 120/分を越えた場合
[3] 1 分間 10 回以上の期外収縮が出現した場合
[4] 軽い動悸,息切れが出現した場合

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10 30歳の男性。脊髄損傷(第5胸髄節まで機能残存)。受傷から5か月が経過、セルフケアは自立し、退院に向けて住宅改修を検討している。排尿は自己導尿、排便は座薬を使用し便器上で排泄。自宅のトイレの改修前の見取り図を示す。
 必要な住宅改修で適切でないのはどれか。
 ただし、車椅子は全幅58cm、全長80cmとする。

1.引き戸に変更する。
2.開口幅を85cmに変更する。
3.洗面台に下部空間をつくる。
4.床をフローリングに変更する。
5.縦手すりを設置する。

解答
※本症例は、第5胸髄節まで機能残存している。第5「頚髄」節まで機能残存していると、問題作成者は作りたかったのかと推測している。

解説

(※参考:「主要寸法の基本的な考え方」国土交通省様HPより)

1.〇 正しい。引き戸(横にスライドする戸)に変更する。なぜなら、開き戸のままでは開けた後、扉が進路をふさいでしまうため。
2.〇 正しい。開口幅を85cmに変更する。なぜなら、出入口の幅は80cm以上が望ましいとされているため。ただし、直角路の通路において、幅は90cm必要となり、戸の操作も必要となるため、85cmはぎりぎりであるといえる。とはいえ、選択肢の中で最も優先度が低いものが他にある。
3.〇 正しい。洗面台に下部空間をつくる。なぜなら、洗面台の下部空間を作ることで、車いすを使用している人がアプローチしやすくなり、洗面台を使いやすくなるため。
4.△ 微妙・・・。床をフローリングに変更する。なぜなら、現在の床面はタイル張りとなっているため。タイルは、凹凸のある床材のため車椅子操作には適さない。フローリングは、滑りにくく、床面の傷やタイヤの汚れを防ぐことができる。ただし、本症例は、第5胸髄節まで機能残存しているため、車いす自走のレベルから考慮すると、そこまで必要とは言い切れない。
5.× 縦手すりを設置する優先度は最も低い。本症例は、脊髄損傷(第5胸髄節まで機能残存)であるため。横手すりを活用し自立した生活が行える。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

車椅子の通行幅

数値:【建築物移動等円滑化基準】(建築物移動等円滑化誘導基準)
玄関出入口の幅:【80cm】(120cm)
居室などの出入口:【80cm】(90cm)
廊下幅:【120cm】(180cm)※車椅子同士のすれちがいには180cm
スロープ幅:【120cm】(150cm)
スロープ勾配:【1/12以下】(1/12以下、屋外は1/15)
通路の幅:【120cm】(180cm)
出入口の幅:【80cm】(90cm)
かごの奥行:【135cm】(135cm)
かごの幅(一定の建物の場合):【140cm】(160cm)
乗降ロビー:【150cm】(180cm)

(※参考:「バリアフリー法」国土交通省HPより)
(※参考:「主要寸法の基本的な考え方」国土交通省様HPより)

 

2 COMMENTS

山口

いつも拝見させていただいてます。
問10は第5胸髄節まで残存なのでT5ではないかと思いました。間違っていたらすみません。

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大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り、解説が間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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