第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11 48歳の男性。脳梗塞後の右片麻痺。左利き。発症から5か月経過。Brunnstrom法ステージは上肢、下肢ともにⅢ。関節可動域制限は認めず、座位バランスは良好である。短下肢装具とT字杖で歩行は自立している。
 この患者に対する自助具で最も適切なのはどれか。

解答

解説

本症例のポイント

・48歳男性(脳梗塞後の右片麻痺:左利き)
・Brs上肢Ⅲ:座位で肩・肘の同時屈曲、同時伸展
・Brs下肢Ⅲ:座位、立位での股・膝・足の同時屈曲
・関節可動域制限:なし
座位バランス:良好
・歩行:自立(短下肢装具とT字杖)

1.× フットブラシである。座位の状態で足を動かすだけで足裏を洗うことができる。適応は、足裏までのリーチ制限(バランスが不良など)である。本症例は、座位バランスが良好であることから、非麻痺側(左上肢)を使用することで足裏を洗うことができる。
2.× 長柄のくしである。リーチ制限(肩・肘関節などの可動域制限)に対応した自助具である。また、呼吸器疾患患者に対し、長柄の使用によって、前かがみ動作を軽減することができるので、呼吸の安定につながる。本症例は、非麻痺側(左上肢)を使用することで髪をとかすことができる。
3.× ボタンエイドである。適応は、関節リウマチや脳性麻痺(手指の巧級性が低い場合)などである。
4.〇 正しい。台付き爪切りは、麻痺側上肢をわずかに上下させるだけで、麻痺側手指の爪を切ることが可能である。ほかにも、関節リウマチによる手指変形の場合や、両側上肢の切断などの患者、握力低下時でも弱い力で切れる爪切りである。手指の負担をかけず、手掌や踵を用い押すことで爪を切ることが可能である。
5.× ソックスエイドである。股関節などの可動域制限による、リーチ制限に対応した自助具である。

 

 

 

 

 

12 痙直型四肢麻痺の脳性麻痺児の抱き方で適切なのはどれか。2つ選べ。

解答2・3

解説

痙直型四肢麻痺について

痙直型四肢麻痺は大脳の広範囲の障害によって主動筋と拮抗筋が同時に作用し続ける。主動筋、拮抗筋の相反性抑制が起き、筋の機能不全がみられる。錐体路障害による両下肢痙性(両股関節の内転・内旋・膝関節伸展、および尖足)となる。つまり、両下肢の分離運動が困難である。また、両下肢と比較して両上肢の麻痺は軽度である。痙性麻痺を主症状として、筋トーヌス亢進、深部腱反射亢進、病的反射亢進、クローヌス出現、おりたたみナイフ現象がみられる。理学療法では、亢進した筋緊張を抑制し、病的反射の抑制、適切な反射の促通、運動パターンの学習を行う。


1.4~5.× 両下肢痙性(両股関節の内転・内旋・膝関節伸展、および尖足)を助長した姿勢となっている。
2~3.〇 正しい。両下肢痙性(両股関節の内転・内旋・膝関節伸展、および尖足)を抑制した姿勢となっている。つまり、両股関節の外転・外旋・膝関節屈曲するよう促す必要がある。

 

 

 

 

 

13 65歳の男性。3年前から右手に振戦がみられるようになり、体の動きが固く、すくみ足がみられ、表情も乏しくなっていった。日常生活の支障に対して作業療法が処方されたが、本人は何かと理由をつけてなかなか参加せず、無為に過ごす様子が目立ってきた。
 この患者の治療方針を検討する際に、評価すべき精神医学的な合併症として最も重要なのはどれか。

1.うつ病
2.解離性障害
3.強迫性障害
4.身体表現性障害
5.統合失調症

解答

解説

本症例のポイント

・65歳の男性。
・3年前:右手振戦体の動きが固くすくみ足表情乏しい
・作業療法:本人は何かと理由をつけて参加しない。
・無為に過ごす様子が目立ってきた。
→本症例は、パーキンソン病(右手振戦、体の動きが固く、すくみ足、表情乏しい:仮面様顔貌)が疑われる。パーキンソン病は、ドーパミンという神経伝達物質の減少によって起こる病気である。伴って、神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)も減少していると報告されている。したがって、それらの異常により、抑うつ症状を起こしうるとされ、うつ病を発症しやすいといわれている。また、本症例のように、作業療法に積極的に参加しない様子や無為に過ごす傾向も、うつ病の可能性を示唆している。ちなみに、パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。仮面様顔貌とは、表情が乏しく、仮面をつけているような顔のこと。

1.〇 正しい。うつ病が、合併症として最も重要である。なぜなら、パーキンソン病は、ドーパミンのほかにも、神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)も減少していると報告されているため。したがって、抑うつ症状を起こしうるとされ、うつ病を発症しやすいといわれている。うつ病の症状として、①感情面:抑うつ、不安、焦燥。②意欲面:意欲低下(日内変動があり特に朝が悪い)、自殺念慮。③思考面:微小妄想(罪業、貧困、心気)、思考抑止、離人。④身体面:不眠(早期覚醒が多い)、頭重感、めまい、倦怠感があげられる。うつ病患者への対応として、①気持ちを受け入れる。②共感的な態度を示す。③心理的な負担となるため、激励はしない。④無理をしなくてよいことを伝える。⑤必ず回復することを繰り返し伝えていく。⑥静かな場所を提供するがあげられる。
2.× 解離性障害とは、心的外傷体験・人間関係などを原因として、それらの問題を抱えきれず、記憶・同一性の統合を失うことで当面の苦痛を回避する行動をいう。健忘、混迷状態、解離性同一性障害(多重人格)、Ganser症候群(偽認知症の一つで的外れ応答が特徴)などがみられる。疾病利得が根底に存在する。
3.× 強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。強迫性障害は、真面目で几帳面、細かいことにこだわるという性格の人に比較的多くみられる。男性の場合、学業不振や進学、過労など、女性は異性関係、結婚、妊娠、出産、育児の悩みなどが多くみられる。 
4.× 身体表現性障害とは、ストレスが原因となって身体症状にあらわれる病気である。その特徴は、症状に身体的問題はないといわれても、執拗に検査を求め、繰り返し身体症状を訴えるものである。自分に注意を引こうとする行動がみられることもあるが、原因となるストレスについては無関心であることが多い。
5.× 統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)。

 

 

 

 

14 58歳の男性。不動産関係の会社勤務。半年前に新プロジェクトを担当してから、下肢のしびれと疼痛を訴えるようになった。整形外科や神経内科を受診したが、身体的な疾患は認めなかった。次第に食思低下や不眠を自覚したため、精神科を受診して入院となり、作業療法が導入された。開始当初に、「足のしびれや疼痛があるので整形外科を受診できるように担当医に伝えて欲しい」と作業療法士に訴えた。
 このときの作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。

1.訴えについては傾聴するに留める。
2.整形外科を受診できるよう担当医に掛け合うと約束する。
3.しびれや疼痛は精神的な問題であることを繰り返し説明する。
4.会社で担当した新プロジェクトをどのように感じていたか尋ねる。
5.作業療法に参加をすると下肢の痛みやしびれが軽減すると伝える。

解答

解説

本症例のポイント

・58歳の男性(会社勤務)。
半年前:新プロジェクトを契機に下肢のしびれと疼痛を訴える。
・整形外科や神経内科:身体的な疾患なし
・次第に食思低下不眠を自覚した。
・精神科:入院、作業療法が導入。
・開始当初「足のしびれや疼痛があるので整形外科を受診できるように担当医に伝えて欲しい」と。
→本症例は、身体表現性障害が疑われる。身体表現性障害とは、ストレスが原因となって身体症状にあらわれる病気である。その特徴は、症状に身体的問題はないといわれても、執拗に検査を求め、繰り返し身体症状を訴えるものである。自分に注意を引こうとする行動がみられることもあるが、原因となるストレスについては無関心であることが多い。

1.〇 正しい。訴えについては傾聴するに留める。治療の導入時には、①症状の訴えを傾聴し、身体症状を真剣に受け止めていることを態度や言葉で示すこと、②完全に精神的なものとして身体症状を説明することを避けること、③身体疾患が明らかでない限り、さらなる紹介や検査を避けること、④定期的に通院してもらうようにすることが望ましい(※引用:「身体症状症」医学と医療の最前線より)。
2.× 整形外科を受診できるよう担当医に掛け合うと約束する優先度が低い。なぜなら、ドクターショッピングをしたり、医療に対する不信感を募らせたりする要因となり、それらがさらに症状を持続・増悪させてしまうことがあるため。
3.× しびれや疼痛は精神的な問題であることを繰り返し説明する優先度が低い。なぜなら、医師が心理社会的な要因の関与について患者に伝えると、患者が不満不信感を抱き、ドクターショッピングにつながりかねないため。患者の多くは、身体症状の原因には身体に何らかの異常があると考えているため、心理社会的な要因が症状に影響していることを否認する患者も少なくない。
4.× 会社で担当した新プロジェクトをどのように感じていたか尋ねる優先度が低い。なぜなら、「足のしびれや疼痛があるので整形外科を受診できるように担当医に伝えて欲しい」という返答となっていないため。また、医療側からの質問や説明は最小限にとどめることが望ましい。医療側が自分の考えやアドバイスを伝えることによって、患者自身が自分のことを否定されたように感じることがある。したがって、患者の言動に対する価値判断は患者に直接は伝えないことが望ましい。
5.× 作業療法に参加をすると下肢の痛みやしびれが軽減すると伝える優先度が低い。なぜなら、確実に良くなるという約束をしてしまうと、良くならなかった場合に信頼関係の破綻訴訟問題にも発展しかねないため。また、短期目標の設定において、「症状の消失や以前のように活動できること」にしてしまうと、かえって症状に気をかけ、持続・増悪させてしまうことが多い。そのため、治療の短期的な目標は、症状の軽減あるいは症状があってもある程度の活動が可能となること等、実現可能
な目標を設定する。

 

 

 

 

 

15 19歳の女性。大学生。1か月前から通学途中の電車の中で突然、強い不快感を覚え、大量の汗をかき、呼吸困難となり、このままでは死んでしまうのではないかと恐怖心を抱くようになった。次第に電車に乗れなくなり、通学ができなくなった。母親と精神科クリニックを受診して、外来作業療法が処方された。
 この患者の発作時に予想される症状はどれか。2つ選べ。

1.健忘
2.昏迷
3.振戦
4.せん妄
5.動悸

解答3・5

解説

本症例のポイント

・19歳の女性(大学生)
・1か月前:通学途中の電車の中で突然、強い不快感を覚えた。
・大量の呼吸困難、死への恐怖心を抱く。
・次第:電車に乗れなくなり、通学ができなくなった。
→本症例は、パニック障害が疑われる。パニック障害とは、誘因なく突然予期せぬパニック発作(動悸、発汗、頻脈などの自律神経症状、狂乱・死に対する恐怖など)が反復して生じる状態をいう。また発作が起こるのではないかという予期不安を認め、しばしば広場恐怖を伴う。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②抗不安薬、③認知行動療法などである。

1.× 健忘とは、きっかけとなった出来事の数秒前、数日前、さらに前、またはその後に起こった体験や出来事を思い出す能力が部分的または完全に失われる障害である。原因として、頭部への衝撃による外傷性のものや、脳手術による脳の損傷、服用している薬の副作用などがあげられる。
2.× 昏迷とは、意識清明であるが、表出や行動などの意思活動がまったく行われなくなった状態である。つまり、身動きもせず横たわっていたり、話しかけても反応のない状態である。激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態である。うつ病性昏迷、緊張病性昏迷、ヒステリー性昏迷など、いくつかの疾患でみられる。
3.5.〇 正しい。振戦(震え)/動悸は、パニック発作に予想される症状である。パニック障害とは、誘因なく突然予期せぬパニック発作(動悸、発汗、頻脈などの自律神経症状、狂乱・死に対する恐怖など)が反復して生じる状態をいう。また発作が起こるのではないかという予期不安を認め、しばしば広場恐怖を伴う。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②抗不安薬、③認知行動療法などである。
4.× せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。高齢者は薬剤によってせん妄が引き起こされる場合も多い。【原因】脳疾患、心疾患、脱水、感染症、手術などに伴って起こることが多い。他にも、心理的因子、薬物、環境にも起因する。【症状】①意識がぼんやりする、②その場にそぐわない行動をする、③夜間に起こることが多い(夜間せん妄)、④通常は数日から1週間でよくなる。

逆行性健忘とは?

 逆行性健忘とは、発症以前の過去の出来事に関する記憶を思い出すことの障害である。ここでいう出来事とは本人の生活史上の経験であっても、本人が生活してきた時代における社会的な事実であってもよい。すなわち、発症以前に本人が経験し、覚えているはずの出来事を思い出すことができない状態である。しかし、どの程度の期間の逆行性健忘があるかの評価は必ずしも容易ではない。なぜなら、その個人の過去の記憶を正確に証明することは困難であるため。また、世俗的な事象を対象に過去の記憶を確認しようとしても、個人の関心の度合いが異なるためである。

 

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