第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午前問題1~5】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

 

※問題・解答の引用:第58回理学療法士国家試験、第58回作業療法士国家試験の問題および正答について(厚生労働省HPより)

 

1 60歳の女性。右中大脳動脈閉塞による脳梗塞。左片麻痺や感覚障害は重度で、車椅子座位では頚部右回旋がみられる。また、食事時にはしばしば左側の見落としがみられる。机上での模写検査の結果を図に示す。
 結果の解釈として最も適切なのはどれか。


1.記憶障害が疑われる。
2.左方探索がみられる。
3.理解力の低下がみられる。
4.選択的注意は保たれている。
5.重度の左半側空間無視である。

解答

解説

本症例のポイント

・60歳、女性(脳梗塞:右中大脳動脈閉塞
・左片麻痺や感覚障害:重度
・車椅子座位:頚部右回旋
・食事:しばしば左側の見落としあり。
→本症例は、①座位:頚部右回旋、②食事:左側の見落とし、③模写検査:左上部の花びら未記入であることから、半側空間無視の症状が疑われる。半側空間無視とは、障害側の対側への注意力が低下し、その空間が存在しないかのように振る舞う状態のことである。半盲とは性質が異なり、左半分が見えないわけではなく、左半分への注意力が低下している状態である。したがって、①左側への注意喚起、②左側身体への触覚刺激、③左足方向への体軸回旋運動、④左側からの声かけなどのアプローチが必要である。

1.× 記憶障害が疑われるとはいえない。なぜなら、記憶障害の責任病巣は、①海馬を含む内側側頭葉記憶系、②間脳、③前脳基底部であるため。中大脳動脈は①側頭葉、②前頭葉、③頭頂葉の一部を支配している。前頭葉障害もきたしやすいことも念頭に入れておく。【前頭葉障害の主症状】①遂行機能障害、②易疲労性、③意欲・発動性の低下、④脱抑制・易怒性、⑤注意障害、⑥非流暢性失語である。
2.〇 正しい。左方探索がみられる。なぜなら、模写検査において、左上部の花びらは書かれていないが、左側の地面や草、葉は書けているため。左方探索とは、右側から左側へ探索を行うように促し、「もう左にはなにもない」というところまでものを探してもらう左半側空間無視に対するリハビリのアプローチ方法である。
3.× 理解力の低下がみられるとはいえない。なぜなら、模写検査が遂行可能であるため。ただし、理解力の低下が起こる脳の責任病巣として、側頭葉(特にウェルニッケ野)があげられ、中大脳動脈閉塞で起こる。
4.× 選択的注意は保たれているとはいえない。半側空間無視患者は、多くの情報から重要な情報を選択する選択的注意や注意の持続、視覚ワーキングメモリーなど、必ずしも空間的に偏っていない注意機能にも障害を認めることが数多く報告されている(※引用:「半側空間無視のリハビリテーション―最近のトピックス―」著:水野勝広)。ちなみに、選択性注意とは、多数の刺激の中から必要な情報や物事に注意を向けられないものをさす。
5.× 「重度の」左半側空間無視であるとは断言できない。なぜなら、模写検査において、左上部の花びらは書かれていないが、左側の地面や草、葉は書けているため。重度の半側空間無視である場合、左側の地面などは書けないことが多い。

MEMO

全般性注意障害は、外傷性脳損傷後にみられやすい。全般性注意障害は、5つの注意性が全般的に障害されている状態である。
①持続性:注意を一定時間の状態に保つことが困難になる。
選択性:多数の刺激の中から必要な情報や物事に注意を向けられない。
③転換(導)性:必要に応じて注意の方向性を切り替えることが困難になる。
④配分性(多方向性):2つ以上の課題を同時に遂行したり、順序立てて行ったりすることが困難になる。
⑤容量性(感度):ある情報に関する注意の閾値が適度に保つことが困難である。

 

 

 

 

 

2 80歳の女性。右変形性股関節症に対し人工股関節置換術(後方アプローチ)が施行された。現在、術後2週が経過し、患肢全荷重が許可されている。
 この患者に対するADL指導として最も適切なのはどれか。

1.割り座で靴下をはく。
2.椅子座位で床の物を拾う。
3.床の上で体育座りをする。
4.椅子座位で右下肢を上にして足を組む。
5.階段を降りるときは右足を先に下ろす。

解答

解説

本症例のポイント

・80歳の女性(右変形性股関節症)。
・人工股関節置換術(後方アプローチ)。
・現在:術後2週が経過、患肢全荷重が許可。

【人工骨頭置換術の患側脱臼肢位】
後方アプローチ:股関節内転・内旋・過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展
※人工骨頭置換術の脱臼発生率は、2~7%と報告されており、前方アプローチと後方アプローチと比較して、後方アプローチで発生しやすい。

1.× 割り座で靴下をはくことは推奨されない。なぜなら、割り座は股関節の屈曲・内旋を伴い、脱臼するリスクがあるため。あぐら座位で行うよう指導する。ちなみに、割り座とはいわゆる”お姉さん座り”や”トンビ座り”である。
2.× 椅子座位で床の物を拾うことは推奨されない。なぜなら、股関節の過屈曲を伴い、脱臼するリスクがあるため。リーチャーなどの自助具を使用する。
3.× 床の上で体育座りをすることは推奨されない。なぜなら、股関節の過屈曲を伴い、脱臼するリスクがあるため。正座のほうが好ましい。
4.× 椅子座位で右下肢を上にして足を組むことは推奨されない。なぜなら、股関節の過屈曲・内旋を伴い、脱臼するリスクがあるため。靴下をはくために足を組む場合は、ソックスエイドを使用する。
5.〇 正しい。階段を降りるときは右足を先に下ろす。健側(左足)が上段にあることで自重を安全に支えることができる。

 

 

 

 

 

3 30歳の男性。右利き。交通事故による右前頭葉背外側部の頭部外傷で大学病院に入院。全身状態が安定したため、回復期リハビリテーション病院に転院となった。転院後もリハビリテーション治療が継続され、現在5か月が経過した。運動障害や感覚障害を認めず、歩行は自立している。しかし、日中はボーッとして過ごし、促されないと行動に移せない。会話は成立するが、自発性に乏しい。
 患者の高次脳機能評価として最も適切なのはどれか。

1.CBS
2.BADS
3.SLTA
4.SPTA
5.VPTA

解答

解説

本症例のポイント

・30歳の男性(右利き)
・交通事故による右前頭葉背外側部頭部外傷
・全身状態:安定し、現在5か月が経過。
・運動障害や感覚障害:なし、歩行:自立。
・日中:ボーッとして過ごす(自発性に乏しい
促されないと行動に移せない
・会話:成立
→本症例は、右前頭葉背外側部の頭部外傷により、前頭葉障害の症状がみられている。したがって、前頭葉障害に関する評価を選択する優先度が高い。頭部外傷は、前頭葉・側頭葉が損傷されやすい。症状として、①意識障害、②記銘・記憶障害、③性格変化、④情動障害、⑤認知障害、⑥行動障害などの高次脳機能障害がみられる。他にも、運動失調、バランス障害も特徴的である。遂行機能障害とは、物事を計画し、順序立てて実行するという一連の作業が困難になる状態である。遂行機能障害に対する介入方法としては、解決方法や計画の立て方を一緒に考える問題解決・自己教示訓練が代表的である。【前頭葉障害の主症状】遂行機能障害、易疲労性、意欲・発動性の低下、脱抑制(易怒性)、注意障害、非流暢性失語である。

1.× CBS(Catherine Bergego scale)とは、半側空間無視患者の ADL 上での問題点を見つけるための評価である。
2.〇 正しい。BADS(Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome:遂行機能障害症候群の行動評価)は、カードや道具を用いた6種類の下位検査と1つの質問紙で構成されている。質問紙には合計20の質問があり、①感情・人格、②動機付け、③行動、④認知の4カテゴリーが5段階で評価される。検査項目は、【6種類の下位検査】①規則変換カード検査、②行為計画検査、③鍵探し検査、④時間判断検査、⑤動物園地図検査、⑥修正6要素検査である。下位検査は0~4点の5段階で点数化し24点満点で評価する。合計点数が88点以上で車の運転が可能となる。
3.× SLTA(Standard Language Test of Aphasia:標準失語症検査)は、成人の失語症の代表的な検査である。26項目の下位検査での構成で、「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」について6段階で評価する。
4.× SPTA(standard performance test for Apraxia:標準高次動作性検査)は、失行症を中心とする高次動作性障害を評価する。聞く・話す・読む・書く・計算から構成される26項目からなる。
5.× VPTA(Visual Perception Test for Agnosia:標準高次視知覚検査)は、視知覚機能(物体・画像の認知・相貌認知・色彩認知・視空間の認知など)の検査法である。視知覚障害は後頭葉を中心とした部位の損傷により出現する。

CBS(Catherine Bergego scale)とは?

CBS(Catherine Bergego scale)とは、半側空間無視患者の ADL 上での問題点を見つけるための評価である。

①整髪または髭剃りのとき、左側を剃り忘れる。
②左側の袖を通したり、上履きの左側を履いたりするときに困難さを感じる。
③皿の左側の食べ物を食べ忘れる。
④食事の後、口の左側を拭くのを忘れる。
⑤左を向くのに困難さを感じる。
⑥左半身を忘れる。
⑦左側からの音や左側にいる人に注意をすることが困難である。
⑧左側にいる人や物にぶつかる。
⑨よく行く場所やリハビリテーション室で左に曲がるのが困難である。
⑩部屋や風呂場で左側にある所有物を見つけるのが困難である。

※以上の10項目について、【無視なし:0点】【軽度無視(時々):1点】【中等度無視(ほとんど):2点】【重度無視:3点】で評価し、得点が高いほど無視が重度であることを示す。観察評価における各項目の得点の合計が1~10点を軽度の無視、11~20点を中等度の無視、21~30点を重度の無視と評価する。

(原著:Azouvi P, Olivier S, et al.: Behavioral assessment of unilateral neglect: study of the psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003; 84: 51-57. doi: 10.1053/apmr.2003.50062.)

 

 

 

 

4 胸郭出口症候群の検査法における手技とテスト名の組合せで正しいのはどれか。

1.①:Morleyテスト
2.②:Attentionテスト
3.③:Allenテスト
4.④:Adsonテスト
5.⑤:Wrightテスト

解答

解説

胸郭出口症候群とは

胸郭出口症候群は、胸郭出口付近における神経と動静脈の圧迫症状を総称したものである。症状として、上肢のしびれ、脱力感、冷感などが出現する。胸郭出口は、鎖骨、第1肋骨、前・中斜角筋で構成される。原因として、①前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫される斜角筋症候群、②鎖骨と第一肋骨の間で圧迫される肋鎖症候群、③小胸筋を通過するときに圧迫される小胸筋症候群、④頭肋で圧迫される頸肋症候群などがある。

1.× ①は、「Morleyテスト」ではなく一般的な橈骨動脈の触診である。もし整形外科疾患テストをご存じの方がいらしたらコメント欄にてご教授いただければ幸いです。ちなみに、Morley test(モーレイテスト)は、胸郭出口症候群の誘発テストで、方法は、検者が患者の鎖骨上縁の斜角筋三角部を指先で1分間圧迫する。患側頚部から肩・腕および手指にかけての痛み・しびれ・だるさなどが出現すれば陽性である。
2.× ②は、「Attentionテスト」ではなくSpurlingテストである。Spurlingテスト(スパーリングテスト)は、頚椎の椎間孔圧迫試験である。方法は、頭部を患側に傾斜したまま下方に圧迫を加える。患側上肢に疼痛やしびれを認めれば陽性である。陽性の場合、椎間板ヘルニアや頚椎症による椎間孔狭窄(頚部神経根障害)などが考えられる。Attentionテストは、注意力を測るテストの総称で、かなひろいテストやTrail making test(TMT)などがあげられる。
3.〇 正しい。③は、Allenテストである。Allenテスト(アレンテスト)は、胸郭出口症候群誘発テストである。方法は、肩関節を90°外転・外旋、肘関節を90°屈曲位に保持させ、頭部を健側に回旋させて橈骨動脈の脈拍をみる。障害側の橈骨動脈の拍動が減弱あるいは消失すれば陽性である。
4.× ④は、「Adsonテスト」ではなくJacksonテストである。Jacksonテスト(ジャクソンテスト)は、頚部神経根障害(頚椎椎間板ヘルニア)を検査する。方法として、被験者は頸部伸展し、検査者が上から下に押し下げる。このとき肩や上腕、前腕、手などに痛みやしびれが誘発されるかどうかで神経根に障害が生じているか否かを診断する。ちなみに、Adsonテスト(アドソンテスト)は、胸郭出口症候群誘発テストである。方法は、両手を膝に置き、頚椎を伸展し、患側へ回旋を加え、深吸気位で息を止めさせたときに、橈骨動脈の脈拍をみる。橈骨動脈が減弱もしくは消失すれば陽性である。
5.× ⑤は、「Wrightテスト」ではなくEdenテストである。Edenテスト(エデンテスト)は、胸郭出口症候群誘発テストである。方法は、患者は座位になり胸を張った状態で両方の肩関節を伸展する。検査者は橈骨動脈の拍動をモニターして約1分程度保持する。橈骨動脈の拍動が減弱または消失した場合、胸郭出口症候群と判断する。ちなみに、Wrightテスト(ライトテスト)は、胸郭出口症候群誘発テストである。方法は、座位で両側上肢を挙上(肩関節を外転90°・外旋90°、肘関節を屈曲90°)させる。橈骨動脈の拍動が減弱すれば陽性である。

 

 

 

 

 

5 42歳の女性。最近、手の震え、歩行時のふらつきがひどくなり、神経内科を受診した。精査の結果、脊髄小脳変性症と診断された。頭部MRIを下に示す。
 頭部MRIの画像で正しいのはどれか。

1.①
2.②
3.③
4.④
5.⑤

解答

解説

脊髄小脳変性症のMRI所見

小脳の萎縮に伴う第四脳室の拡大

1.× ①の画像は、正常と読み取れる。
2.× ②の画像は、右小脳半球に梗塞が読み取れる。脊髄小脳変性症の場合は、小脳の萎縮が読み取れるため否定できる。
3.× ③の画像は、小脳虫部に梗塞がみられ、
4.〇 正しい。④の画像は、小脳萎縮がみられる。脊髄小脳変性症のMRI所見である。
5.× ⑤の画像は、右小脳半球に梗塞が読み取れる。

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

類似問題です↓
【OT/共通】脊髄小脳変性症についての問題「まとめ・解説」

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)