第58回(R5)理学療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11.頚髄損傷者の起き上がり動作を図に示す。
 Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類における最も上位の機能残存レベルはどれか。

1.C5A
2.C5B
3.C6A
4.C6BⅡ
5.C7A

解答

解説

 

C6残存レベルでの起き上がり方法

C6残存レベルでの起き上がり方法は主に3種類あり、
①モノにつかまって起き上がる方法、
②「くの字」に体幹を屈曲してから起きる方法、
一側ずつ肘伸展位でロックして起き上がる方法がある。

C6BⅠでの起き上がり動作は、柵を用いたベッド上での起き上がりでないと行えない。
C6BⅡでの起き上がり動作は、支持物のない状態では一側ずつ肘伸展位でロックして起き上がる方法で可能となる。
C7Aでの起き上がり動作は、肘関節伸展・手指伸展が可能となり、一側ずつ肘伸展位でロックして起き上がる必要はない。

よって、解答は、選択肢4. C6BⅡである。

 

ちなみに、他の選択肢の解説をする。
1.× C5Aでは、1人での起き上がりはできない。
2~3.× C5B/C6Aでは、ベッド柵や紐を利用した起き上がりが可能なケースがある。

 

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

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12.5歳6か月の男児。脳性麻痺。歩行補助具を用いず屋外歩行が可能であるが、階段昇降時は手すりを必要とする。
 GMFCSのレベルはどれか。

1.Ⅰ
2.Ⅱ
3.Ⅲ
4.Ⅳ
5.Ⅴ

解答

解説
1.× Ⅰは、制限なしに歩く。
2.〇 正しい。が該当する。本症例は、歩行補助具を用いず屋外歩行が可能であるが、階段昇降時は手すりを必要とする。GMFCSのレベルⅡは、歩行補助具なしに歩く。ただし、長距離を歩くことやバランスを保つことに制限がある。走ったり跳躍したりする能力が劣っていることがあげられる。
3.× Ⅲは、歩行補助具を使って歩く。屋内を歩くために手に持つ移動器具を必要とし、野外で車輪の付いた移動手段を使用する。
4.× Ⅳは、自力移動が制限されている。座位で活動できるが自力移動はできない。
5.× Ⅴは、電動車いすや環境制御装置を使っても自動移動が非常に制限されている。頭と体幹のコントロールが非常に制限されており、広範な補完的な技術と身体的介助を必要とする。

「GMFCS」とは?

粗大運動能力分類システム(gross motor function classification system:GMFCS)は、判別的な目的で使われる尺度である。子どもの座位能力、および移動能力を中心とした粗大運動能力をもとにして、6歳以降の年齢で最終的に到達するという以下5段階の機能レベルに重症度を分類している。

・レベルⅠ:制限なしに歩く。
・レベルⅡ:歩行補助具なしに歩く。
・レベルⅢ:歩行補助具を使って歩く。
・レベルⅣ:自力移動が制限。
・レベルⅤ:電動車いすや環境制御装置を使っても自動移動が非常に制限されている。

 

 

 

 

 

13.80歳の男性。両膝痛のため、自宅内で自走用標準型車椅子を使用することとなったが、廊下幅が狭く、方向転換ができないと相談があった。
 現在使用している車椅子で180度方向転換が可能となる最小の廊下幅は何cmか。
 ただし、使用する車椅子は全幅70cm、全長120cmとする。

1.90
2.120
3.140
4.180
5.200

解答

解説

(※図引用:「車いすの回転寸法」山形県HPより)

1.× 90cmは、出入口の幅の目安である。

2.× 120cmは、廊下幅やスロープ幅、通路の幅の目安である。
3.〇 正しい。140㎝が、現在使用している車椅子で180度方向転換が可能となる最小の廊下幅である。
4.× 180cmは、乗降ロビーや片麻痺用の車椅子で180度方向転換が可能となる最小の廊下幅である。
5.× 200cm(210㎝)は、①片側の車輪を中心に360度方向転換するもしくは、②片麻痺用の車椅子で360度方向転換が可能となる最小の廊下幅である。

車椅子の通行幅

数値:【建築物移動等円滑化基準】(建築物移動等円滑化誘導基準)
玄関出入口の幅:【80cm】(120cm)
居室などの出入口:【80cm】(90cm)
廊下幅:【120cm】(180cm)※車椅子同士のすれちがいには180cm
スロープ幅:【120cm】(150cm)
スロープ勾配:【1/12以下】(1/12以下、屋外は1/15)
通路の幅:【120cm】(180cm)
出入口の幅:【80cm】(90cm)
かごの奥行:【135cm】(135cm)
かごの幅(一定の建物の場合):【140cm】(160cm)
乗降ロビー:【150cm】(180cm)

(※参考:「バリアフリー法」国土交通省HPより)
(※参考:「主要寸法の基本的な考え方」国土交通省様HPより)

 

 

 

 

14.42歳の女性。3か月前に手足がしびれるようになり、1か月前から手足の脱力を自覚した。神経内科を受診し慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーと診断され、ステロイド療法が開始された。
 筋電図検査所見として正しいのはどれか。

1.誘発筋電図で伝導速度が低下する。
2.誘発筋電図でF波の潜時が短縮する。
3.針筋電図で低振幅・短持続電位波形が出現する。
4.誘発筋電図の反復刺激試験でwaning(M波の振幅が漸減)を認める。
5.誘発筋電図の反復刺激試験でwaxing(M波の振幅が漸増)を認める。

解答

解説

慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーとは?

慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの原因は不明であり、2か月以上にわたる進行性または際年生の左右対称性の多発根ニューロパチーである。末梢運動神経・末梢感覚神経がともに侵される特徴を持つ。電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。

筋電図検査とは、筋肉や神経に異常がないかについて、筋肉が収縮する時や神経を電気で刺激するなどの筋肉や神経の信号の伝わり方を記録する検査である。①神経伝導速度検査、②針筋電図検査、③表面筋電図検査があげられる。この記録を評価することにより、神経や筋肉に疾患があるかを調べることができる(参考:「筋電図検査とは」りんくう総合医療センター様HPより)。
・神経原性変化があると高振幅、長持続、多相性の波形に。
・筋原性変化があると低振幅、短持続、多相性の波形に。

1.〇 正しい。誘発筋電図で伝導速度が低下する。慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの原因は不明であり、2か月以上にわたる進行性または際年生の左右対称性の多発根ニューロパチーである。末梢運動神経・末梢感覚神経がともに侵される特徴を持つ。電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。
2.× 誘発筋電図でF波の潜時は、「短縮」ではなく延長する。F波は、未梢神経刺激で誘発される。
3.× (神経原性変化があると)針筋電図では、「低振幅・短持続電位波形」ではなく、高振幅・長持続電位波形が出現する。主に、糖尿病性神経障害、筋萎縮性側策硬化症、慢性炎症性多発根神経炎、手根管症候群、ギラン・バレー症候群など筋疾患:重症筋無力症、多発性筋炎、進行性筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーなどがあげられる。一方、筋原性変化(筋ジストロフィーやミオパチー)があると低振幅、短持続、多相性の波形となる。ちなみに、針筋電図検査とは、筋肉内に針を刺し、筋肉から出る電位を記録する検査である。脊髄にある前角細胞と呼ばれる運動神経以下の運動神経と筋肉の異常を検出するために行われる。異常を示す筋肉が限局している場合には、その分布により原因が末梢神経にあるのか、それとも脊髄なのかなどをある程度推定することができる。
4.× 誘発筋電図の反復刺激試験で、waning(M波の振幅が漸減)を認めるのは、「慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー」ではなく重症筋無力症である。重症筋無力症とは、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患のこと。全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴(眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型と呼ぶ)。嚥下が上手く出来なくなる場合もある。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともある。日内変動が特徴で、午後に症状が悪化する。クリーゼとは、感染や過労、禁忌薬の投与、手術ストレスなどが誘因となって、急性増悪し急激な筋力低下、呼吸困難を呈する状態のことである。直ちに、気管内挿管・人工呼吸管理を行う。【診断】テンシロンテスト、反復誘発検査、抗ACh受容体抗体測定などが有用である。【治療】眼筋型と全身型にわかれ、眼筋型はコリンエステラーゼ阻害 薬で経過を見る場合もあるが、非有効例にはステロイド療法が選択される。胸腺腫の合併は確認し、胸腺腫合併例は、原則、拡大胸腺摘除術を施行する。難治例や急性増悪時には、血液浄化療法や免疫グロブリン大量療法、ステロイド・パルス療法が併用される。(※参考「11 重症筋無力症」厚生労働省HPより)
5.× 誘発筋電図の反復刺激試験で、waxing(M波の振幅が漸増)を認めるのは、「慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー」ではなく Lambert-Eaton症候群(ランバート・イートン症候群)である。Lambert-Eaton症候群とは、肺小細胞癌を高頻度に合併する傍腫瘍性神経症候群で、神経終末部のアセチルコリン(Ach)の放出障害をその病態の基盤とする神経筋接合部・自律神経疾患である。四肢筋力の易疲労性を生じ、筋の反復運動により筋力が増強する(waxing現象)のがみられる。

”Guillain-Barré症候群とは?”

Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群は、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下(下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。

(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)

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15.67歳の男性。Parkinson病。発症後5年経過。Hoehn&Yahrの重症度分類ステージⅢ。四肢に中等度の筋強剛を認めるが、筋力や関節可動域に明らかな問題はない。歩行場面では、開始後しばらくして小刻み歩行で小走りとなり、会話しながらだとそれが顕著となる。腰掛けるために椅子に近づくと、すくみ足がみられる。
 この患者の歩行障害への対応で適切なのはどれか。

1.狭い場所を歩く。
2.直線上を継ぎ足で歩く。
3.長下肢装具を用いて歩く。
4.認知課題を追加しながら歩く。
5.リズミカルな繰り返しの聴覚刺激を用いて歩く。

解答

解説

パーキンソン病とは?

パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害の1つである。 睡眠時随伴症に分類される。

矛盾性運動(逆説的運動)とは、本来難易度が高いはずであるが、スムーズに足が出るといった現象である。すくみ足の症状があっても、床の上の横棒をまたぐことができること、リズムをとったり、視覚的な目標物を踏み越えさせたりすると、本来難易度が高いはずであるが、スムーズに足が出るといった現象である。ちなみに、階段昇降もこれに含まれ、平地歩行に比べて障害されにくい。階段昇降は、歩行の改善、下肢筋力強化の効果も期待される。

1.× 「狭い場所」ではなく広い場所を歩く。歩行障害(小刻み歩行、突進現象、すくみ足など)の誘発因子は、狭路、障害物、精神的緊張などである。
2.× あえて、直線上を継ぎ足で歩く必要はない。継ぎ足歩行(タンデム歩行)とは、踵とつま先を交互に接触させて直線上を歩行することである。バランス能力の検査(体幹や下肢の運動失調の検査)で用いられることが多く、小脳障害の場合に、ふらつきが強く、一直線上をまっすぐ歩くことができない。
3.× 長下肢装具を用いて歩く必要はない。長下肢装具は、立位訓練開始から装具をつけ、介助下での平行棒な歩行訓練が必要なレベルの重度の麻痺に適応となる。臨床では、重度弛緩性麻痺時には長下肢装具で立位練習を行い、股関節の収縮が得られてきた際に、短下肢装具へ移行しながら練習することが多い。
4.× 認知課題を追加しながら歩く必要はない。むしろ、精神的緊張にもつながり小刻み歩行などが生じやすくなる。二重課題法では、練習課題とそれ以外の課題とを同時に遂行してもらう。練習課題に加えて注意力を分散させる課題を同時遂行してもらう方法である。例えば、歩行中に計算やしりとりなどをすることである。外傷性脳損傷による注意障害に対して用いられることが多い。
5.〇 正しい。リズミカルな繰り返しの聴覚刺激を用いて歩く。Parkinson病の歩行障害の対応策として、①視覚(障害物を跨ぐ、床に目印をつける)、②聴覚(メトロノームなどのリズムや歩行に合わせてのかけ声)、③逆説的運動(階段昇降)である。

Hoehn&Yahr の重症度分類でステージ

ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLに一部介助に一部介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

類似問題です↓
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