第57回(R4) 作業療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

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16 21歳の男性。2か月前から「自分しか知らないはずのことを皆が知っている」と訴えるようになった。1か月前から自室にこもるようになり、一人きりで誰かに応答しているような様子がみられた。1週前から「変な味がする」と言い、母が作る食事を食べなくなった。家族が精神科の受診を勧めたが、本人は「自分はどこも悪くない」と言って頑なに拒んだ。
 この患者にみられない症状はどれか。

1.観念奔逸
2.思考伝播
3.対話性幻聴
4.彼毒妄想
5.病識欠如

解答

解説

本症例のポイント

・21歳の男性
・2か月前から「自分しか知らないはずのことを皆が知っている」と訴えるようになった。
・1か月前から自室にこもるようになり、一人きりで誰かに応答しているような様子がみられた。
・1週前から「変な味がする」と言い、母が作る食事を食べなくなった。
・家族が精神科の受診を勧めたが、本人は「自分はどこも悪くない」と言って頑なに拒んだ。

→自分しか知らないはずのことを皆が知っているように感じたり、一人きりで誰かに応答したり、「変な味がする」と母のご飯を食べられなくなるなどの症状から、問題文の症例が統合失調症ということが分かる。

1.× 観念奔逸は、この患者にみられない症状である。なぜなら、躁病でみられるため。観念奔逸とは、考えが次々と方向も決まらずにほとばしり出る状態である。
2.〇 思考伝播は、この患者にみられている症状である。思考伝播は、統合失調症で見られ、自分の考えが他者に伝わっているように感じる症状である。設問の「自分しか知らないはずのことを皆が知っている」という訴えと合致する。
3.〇 対話性幻聴は、この患者にみられている症状である。対話性幻聴は、統合失調症で見られ、自分に話しかける声、自分のことを噂していることなどが聞こえてき、それに対して反応することである。周囲の人は1人で誰かと話しているように見える。設問の「一人きりで誰かに応答している」という訴えと合致する。
4.〇 彼毒妄想は、この患者にみられている症状である。被毒妄想は、統合失調症で見られ、食べ物に毒を入れられた感じ、食べることができなくなる症状である。設問の「母が作る食事を食べなくなった」という訴えと合致する。
5.〇 病識欠如は、この患者にみられている症状である。病識欠如は、統合失調症で見られ、自分の病気を認識することができず、「自分は病気ではない」と思い込む症状である。問題文の「自分はどこも悪くない」と受診を拒んだことと合致する。

 

 

 

 

 

17 43歳の女性。うつ病。半年前に子供が1人暮らしを始めてから気分が落ち込み、布団で寝たままでいることが増えた。家事を夫が行うようになると、「夫に迷惑をかけている自分は生きている価値がない」と口にするようになり、夫に連れられ精神科クリニックを受診した。服薬治療が開始され、症状が改善してきたため外来作業療法が処方された。
 導入時の作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。

1.スケジュール表に従った参加を促す。
2.枠組みのある構成的作業を導入する。
3.患者が作製した作品について賞賛する。
4.意欲の低下が認められても作業遂行を促す。
5.体調とともに気分も改善するため心配ないと励ます。

解答

解説

MEMO

・43歳の女性
・うつ病
・半年前:気分の落ち込み
・家事を夫が担当→「夫に迷惑をかけている自分は生きている価値がない」
・服薬治療が開始、症状が改善傾向。

1.× スケジュール表に従った参加を促す必要はない。なぜなら、うつ病は、几帳面で完璧主義、責任感が強い人が多いため。スケジュール表があると、体調が悪くても参加しようとし、さらに症状が悪化してしまう恐れがある。作業基準としては、安全で受身的で非競争的である方が良い。
2.〇 正しい。枠組みのある構成的作業を導入する。【作業基準】①工程がはっきりしている。②短期間で完成できる。③安全で受身的で非競争的である。④軽い運動(いつでも休憩できる)といったものが望ましい。ちなみに、構成とは文芸・音楽・造形芸術などで、表現上の諸要素を独自の手法で組み立てて作品にすることである。
3.× 患者が作製した作品について賞賛する必要はない。なぜなら、うつ病は、他者からの評価を気にするため、賞賛されると「次も頑張らなければいけない」とプレッシャーになってしまう恐れがあるため。うつ病の特徴として、意欲低下、精神運動抑制などの症状のため、自己評価が低く、疲労感が強い傾向にある。
4.× 意欲の低下が認められた場合は作業遂行を促す必要はない。なぜなら、うつ病は、几帳面で完璧主義、責任感が強い人が多いため。うつ病は、体調が悪かったり、意欲が低下している時も担当の仕事があれば無理に作業を完遂しようと試みたり、その中で作業療法士が作業を促すとさらに症状悪化の恐れがある。そのため、このような時は休むことを促すようにする。【対応】①気持ちを受け入れる。②共感的な態度を示す。③心理的な負担となるため、激励はしない。④無理をしなくてよいことを伝える。⑤必ず回復することを繰り返し伝えていく。⑥静かな場所を提供することが大切である。
5.× 体調とともに気分も改善はしやすいが、心配ないと励ます必要はない。なぜなら、励ましは心理的な負担となるため。また心配ないとしても、うつ病患者には大きな心配となっている可能性がある。「心配ない」と一方的かつ否定的ともとれる発言をするよりは、①気持ちを受け入れ、②共感的な態度を示すよう心掛けることが大切である。

うつ病患者に積極的に説明するべき事項

かかりやすい:几帳面で完璧主義、責任感が強い人が多い。

うつ病の特徴:意欲低下、精神運動抑制などの症状のため、自己評価が低く、疲労感が強い。

①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。
②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。
③自殺しないように約束してもらうことなど。

【作業基準】
①工程がはっきりしている。
②短期間で完成できる。
③安全で受身的で非競争的である。
④軽い運動(いつでも休憩できる)

【対応】
①気持ちを受け入れる。
②共感的な態度を示す。
③心理的な負担となるため、激励はしない。
④無理をしなくてよいことを伝える。
⑤必ず回復することを繰り返し伝えていく。
⑥静かな場所を提供する。

 

 

 

 

18 19歳の男性。てんかん及び軽度知的障害(IQ60)。特別支援学校卒業後にクリーニング店に就職した。「接客態度が悪い」と注意されたことをきっかけに仕事に行けなくなり、引きこもりとなった。時々家族に暴力を振るうために、家族が主治医に相談して外来作業療法が処方された。本人、家族とも復職を希望している。
 この患者に対して優先すべき対応はどれか。

1.暴力の内省を促す。
2.対人技能の訓練を行う。
3.注意力を高める作業を行う。
4.てんかんの疾病教育を行う。
5.運動能力を高めるためのスポーツ活動を行う。

解答

解説

本症例のポイント

・19歳の男性。
・てんかん及び軽度知的障害(IQ60)
・特別支援学校卒業後に就職。
・注意され、引きこもりに。
・時々家族に暴力を振るう。
・本人、家族とも復職を希望している。

1.× 暴力の内省を促す優先度は低い。内省とは、自分の考えや言動、行動について深く省みることである。知的障害は、暴力などの問題行動などに対して悪意を感じることが難しい。また、注意されたことを叱責と捉えるなど自信がなく、自分の気持ちを表現することが苦手である。内省を促すことを第一選択肢にするのではなく、暴力を振るってしまう原因は何か?家族の対応にも視野を広げ対応が必要である。
2.〇 正しい。対人技能の訓練を行うことはこの患者に対して優先すべき対応である。本症例は、「接客態度が悪い」と注意されたことをきっかけに仕事に行けなくなり、引きこもりとなってはいるが、本人・家族とも復職を希望している。知的障害は、状況の判断能力が低く、他者の発言を悪く受け取るなどで、対人技能が低下しているが、本人に分かるよう説明することで、他者からの発言を上手に受け取ることができるようにアプローチしていく。
3.× 注意力を高める作業を行う優先度は低い。なぜなら、本症例の設問文から、現状注意力の問題点は読み取れないため。ただし、知的障害において、ADHDや自閉症などの発達障害や、抑うつや双極性障害、不安障害などの精神疾患を併発しているケースが多いことも報告されているため、評価していく必要はある。
4.× てんかんの疾病教育を行う優先度は低い。なぜなら、本症例の設問文から、現状てんかんの問題点は読み取れないため。ただし、てんかんの疾病教育は、仕事をするうえで「服薬による眠気やふらつき」など理解できるため大切な項目である。社会復帰が近づいてきたら行うようにする。
5.× 運動能力を高めるためのスポーツ活動を行う優先度は低い。本人、家族とも復職を希望しているため、まずは復職に視点をあてて考えていく。知的障害は、運動機能の発達も伴っているため、スポーツ活動を苦手とすることが多い。

知的障害者の特徴

 知的障害者は、注意されたことを叱責と捉えるなど自信がなく、自分の気持ちを表現することが苦手である。知的障害では、抽象的概念の形成が困難で、言語概念の形成も遅れることが多く、学習障害を呈する。また、左右の協調的運動や微細運動が不得意であり、更衣動作などの身辺作業面に遅れを伴う。

 

 

 

 

 

19 22歳の男性。注意欠如・多動性障害。大学卒業後に営業職に就いた。顧客との約束や書類を忘れるなどの失敗が続き、上司が度々指導をしても改善しなかった。子供のころから不注意傾向があり、母親は「しつけをしてこなかった自分に非がある」という。その後も失敗が続いて自信を喪失し、1週前から欠勤し精神科の受診に至った。入院となり作業療法が処方された。
 この時期の作業療法士の対応として適切なのはどれか。

1.仕事に適性がないと伝えて転職を勧める。
2.休養に専念し職場復帰を焦らないように伝える。
3.母親のしつけの失敗の影響が残っていると告げる。
4.上司の指導方法が病気の誘因であることを説明する。
5.現場復帰のために対人技能向上を目的とした作業活動を勧める。

解答

解説

本症例のポイント

・22歳の男性。
・注意欠如・多動性障害(ADHD)。
・営業職。
・約束や書類を忘れるなどの失敗が続く。
・上司が度々指導をしても改善しない。
・子供のころから不注意傾向があり。
・母親「しつけをしてこなかった自分に非がある」。
・1週前から欠勤。

→本症例は、注意欠如・多動性障害(ADHD)であるが、失敗が続いて自信を喪失し欠勤となっている。つまり、気持ちの落ち込み(うつ症状)もみられている可能性が高い。うつ病での対応として①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。③自殺しないように約束してもらうことなどが必要になる。

1.× 「仕事に適性がない」と伝えて転職を勧める必要はない。なぜなら、失敗が続いて自信を喪失している時期であるため。「仕事に適性がない」と伝えることで、さらに自信を喪失する恐れもある。退職・転職など重要事項の判断・決定は先延ばしにする。
2.〇 正しい。休養に専念し職場復帰を焦らないように伝えることは、この時期の作業療法士の対応である。本症例は、注意欠如・多動性障害(ADHD)であるが、失敗が続いて自信を喪失し欠勤となっている。つまり、気持ちの落ち込み(うつ症状)もみられている可能性が高い。うつ病での対応として①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。③自殺しないように約束してもらうことなどが必要になる。
3~4.× 「母親のしつけの失敗の影響が残っている」と告げる/「上司の指導方法が病気の誘因であること」を説明する必要はない。ADHDの症状が起こる確かな原因はまだ解明されていないが、「脳障害の説」と「環境要因の説」があり研究されている。ただでさえ、本症例の母親「しつけをしてこなかった自分に非がある」と自責になっている。上司の指導方法が原因だと説明してしまうと、仮に職場復帰した際に上司へ不満を抱えてしまう恐れがある。単純に「育て方やしつけ、指導方法」が原因ではないことを伝え、行動療法から行っていくことが多い。
5.× 現場復帰のために対人技能向上を目的とした作業活動を勧めるのは時期尚早である。本症例は、入院となり作業療法が処方された作業療法の導入時期である。現場復帰のために対人技能向上を目的とした作業活動を勧めるのは回復期が終了して社会復帰を目指す時期に行うことが多い。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療

注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、発達障害の一つであり、脳の発達に偏りが生じ年齢に見合わない①注意欠如、②多動性、③衝動性が見られ、その状態が6ヵ月以上持続したものを指す。その行動によって生活や学業に支障が生じるケースが多い。

①まず、行動療法を行う。
②改善しない場合は、中枢神経刺激薬による薬物療法を用いる。中枢を刺激して、注意力・集中力を上げる。
※依存・乱用防止のため、徐放薬が用いられる。

 

 

 

 

20 33歳の男性。ミュージシャンを志していたが、21歳時に統合失調症を発症し、2回の入院歴がある。3か月前から就労移行支援事業所への通所を開始し、支援によってコンサートホールの照明係のアルバイトに就いた。就労移行支援事業所のスタッフは、定期的に職場訪問を実施して本人と雇用主の関係調整を行っており、主治医やケースワーカーとも連携して支援活動をしている。
 この患者に行われているプログラムはどれか。

1.CBT(Cognitive Behavioral Therapy)
2.IPS
3.NEAR
4.SST
5.WRAP

解答

解説

本症例のポイント

・33歳の男性。
・ミュージシャンを志していた。
・21歳時:統合失調症を発症(2回入院)
・3か月前:就労移行支援事業所への通所を開始(支援によってアルバイトに就く)
・就労移行支援事業所のスタッフは、定期的に職場訪問を実施して本人と雇用主の関係調整を行っており、主治医やケースワーカーとも連携して支援活動をしている。

→本症例は支援によってアルバイトに就き、その就労移行支援事業所のスタッフも問題なく関係者と調整できている。このまま就労への定着していくことが望ましい。

1.× CBT(Cognitive Behavioral Therapy:認知行動療法)とは、歪んだ認知を自覚させて、行動を変化さえるよう働きかける治療法である。適応疾患として、不安障害、うつ病、パニック障害、恐怖症(広場恐怖や社会恐怖が含まれます)、ストレス、過食症、強迫性障害、外傷後ストレス障害(PTSD)、双極性障害および重度の精神障害などがあげられる。
2.〇 正しい。IPS<Individual Placement and Support>は、この患者に行われているプログラムで最も優先度が高い。IPS<Individual Placement and Support>は、患者への信頼と可能性を信じることをベースとして、症状の安定度や職業準備性よりも就労意欲を重視し、仕事の中で自分を高め(ストレングス)、最終目的を疾患からの回復(リカバリー)とするものである。つまり、精神障害者の就労を支援するものである。
3.× NEAR<Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation:認知矯正療法>は、統合失調症患者を対象とし、記憶力・集中力・物事の段取りを考えて実行する能力などの認知機能障害の改善を図るためのリハビリテーションである。参加可能基準は、主に7つ挙げられ、①年齢は13歳~65歳、②知的レベルは境界以上、③取りレベルは小学4年生以上、④現時点で物質及びアルコール乱用者ではない、⑤何らかの中毒における解毒から1ヵ月以上経過している、⑥過去3年間に頭部外傷歴がない、⑦セッションの間座っていられる程度に精神症状が安定していることがあげられる。
4.× SST<Social Skills Training:社会生活技能訓練>は、社会生活を送るうえでの技能を身につけ、ストレス状況に対処できるようにする集団療法の一つ(認知行動療法の一つ)である。精神科における強力な心理社会的介入方法である。患者が習得すべき行動パターンを治療者(リーダー)が手本として示し、患者がそれを模倣して適応的な行動パターンを学ぶという学習理論に基づいたモデリング(模倣する)という技法が用いられる。
5.× WRAP< wellness recovery action plan:元気回復行動プラン>は、重篤な精神科患者であっても元気になって回復できる方法があり、そのためのプランについて、自分や同じような悩みをもつ人の体験やアイデアについて語り合うものである。①リカバリーに大切なこと、 ②元気に役立つ道具箱をベースに6つのプラン「①日常生活管理プラン、②引き金になる出来事に気づき対応するための行動プラン(外的要因)、③注意サインに気づき対応するための行動プラン(内的要因)、④調子が悪くなってきているときのサインに気づき対応するための行動プラン、⑤クライシス(緊急状況)プラン、⑥クライシス後プラン」について、自分や同じような悩みをもつ人の体験やアイデアについて語り合うものである。

IPSとは?

IPSとは、個別の就労活動支援と職場定着支援を中心とした就労支援モデルです。正式名称は「Individual Placement and Support」といい、日本語に訳すと「個別職業紹介とサポート」になります。IPSモデルの理念は、「どんなに重い精神障害を持つ人であっても、本人に働きたいという希望さえあれば、本人の興味、技能、経験に適合する職場で働くことが出来る」「就労そのものが治療的であり、リカバリーの重要な要素となる」という信念に基づいています。

IPSモデルの基本原則
IPSには下記7つの基本原則があります
① 就労支援対象についての除外基準なし
② 短期間、短時間でも企業への就労を目指す
③ 施設内でのトレーニングやアセスメントは最小限とし、迅速に職場開拓(就職活動など)を実施する
④ 就労支援と医療保健の専門家でチームを作る
⑤ 職探しは本人の技能や興味に基づく
⑥ 就労後のサポートは継続的に行う
⑦ 生保や年金など経済的側面の相談、支援も行う

(引用:「IPSモデルとは?」多摩地域IPS就労支援センター様HPより)

 

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