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6 80歳の女性。77歳頃から物忘れが目立ち始め、今では歩行時のつまずきやすさ、書字の震えがある。日によって程度は異なるものの、自宅のテレビや窓、棚のガラス戸など、光沢のあるところに知らない人が映って見えるようになった。「テレビに知らない人の顔が見える」「変なおじいさんが裸でいる」などと家族に訴え、ガラス戸に向かって怒鳴る様子もみられた。家族と物忘れ外来を受診した。PETでは頭頂葉から後頭葉の一部に糖代謝の低下が認められた。
作業療法士から家族へのアドバイスとして適切なのはどれか。
1. 部屋を薄暗くする。
2. テレビの音を大きくする。
3. 移動の際には車椅子を使用させる。
4. 興奮したときはきっぱりと幻覚であることを伝える。
5. 見えている内容を否定しないで気持ちを受け止める。
解答5
解説
・80歳の女性。
・77歳頃:物忘れが目立つ。
・現在:歩行時のつまずきやすさ、書字の震え(パーキンソニズム)、日によって程度は異なるものの、自宅のテレビや窓、棚のガラス戸など、光沢のあるところに知らない人が映って見えるようになった(具体的な幻視)。
・家族と物忘れ外来を受診した。PETでは頭頂葉から後頭葉の一部に糖代謝の低下が認められた。
→本症例は、Lewy小体型認知症が疑われる。Lewy小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動障害、自律神経障害などが特徴である。
1.× 部屋を薄暗くする必要はない。むしろ、部屋は明るくすることが望ましい。なぜなら、パーキンソニズム(歩行時のつまずきやすさ)があり転倒の危険性が高いため。
2.× テレビの音を大きくする必要はない。なぜなら、本症例は聴覚障害を疑う所見はないため。
3.× 移動の際には車椅子を使用させる必要はない。なぜなら、パーキンソニズム(歩行時のつまずきやすさ)があるが、歩行ができないわけではないため。まずは、つまずかないよう段差の解消などで転倒しづらい環境をつくる。
4.× 興奮したときはきっぱりと幻覚であることを伝える必要はない。なぜなら、Lewy小体型認知症による幻覚は、非常にリアルであり、本人には幻覚か現実か自覚しにくい。また、興奮の原因は、必ずしも幻覚と断定できない。認識を否定、訂正、説得は困難といえる。
5.〇 正しい。見えている内容を否定しないで気持ちを受け止める。家族の認知症患者への対応として、間違いを強く指摘せず、人格を尊重することが重要である。
7 66歳の女性。左変形性股関節症。後方アプローチによる人工股関節全置換術を受けた。全荷重で術後リハビリテーション中である。
退院後の生活指導として正しいのはどれか。
1. 和式トイレを使用する。
2. 椅子に座る際には足を組む。
3. 椅子は通常よりも低いものを選ぶ。
4. 床のものを拾うときには非術側を前に出す。
5. 端座位で靴にかかとを入れるときは外側から手を伸ばす。
解答4
解説
・後方アプローチ:股関節の過屈曲 + 内転 + 内旋である。
・前方アプローチ:股関節の伸展 + 内転 + 外旋である。
1.× 「和式トイレ」ではなく洋式トイレを使用する。なぜなら、和式トイレの使用は、脱臼の危険性がある(股関節過屈曲を伴う)ため。
2.× 椅子に座る際は、足(手術側)を組むと脱臼の危険性がある。なぜなら、太もものうえに太ももの乗せるように足を組むと股関節の過屈曲、内転を伴うため。ただし、足首を太ももに乗せるように(股関節外旋優位)足組みを行えば、脱臼のリスクは低く、靴下や靴の着脱が行える。
3.× 椅子は、通常よりも「低いもの」ではなく高いものを選ぶ。なぜなら、低い椅子は、脱臼の危険性がある(股関節過屈曲を伴う)ため。
4.〇 正しい。床のものを拾うときには非術側を前に出す。なぜなら、脱臼予防(手術側の股関節の屈曲が軽減される)になるため。
5.× 端座位で靴にかかとを入れるときは、「外側から」ではなく内側から手を伸ばす。なぜなら、脱臼予防(手術側の股関節の内旋が軽減される)になるため。
8 65歳の男性。右利き。左中大脳動脈領域の脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢、手指および下肢ともにⅢ。
この時の椅子座位での右上肢訓練プログラムとして正しいのはどれか。(※不適切問題:解なし)
1.組んだ両手でテーブル上のボールを前方に転がす。
2.組んだ両手を挙上してペグを把持する。
3.上肢を下垂して手部で床上のボールを転がす。
4.前方にあるペグを把持して抜く。
5.机にある輪をつまみあげる。
解答 解なし(採点対象外)
理由:設問の状況設定が不十分であり、正解が得られないため。
解説
ステージⅢ(共同運動が顕著で痙縮が強く、分離運動ができない状態)の作業療法では、①屈筋群の緊張を抑制、②伸筋の誘発・促通、③随意的伸展を可能にすることである。
1.× 組んだ両手でテーブル上のボールを前方に転がすのは、上肢ステージⅣの時に対象となる。なぜなら、協調性のある分離運動が必要であるため。非麻痺側上肢の介助下で、肩関節屈曲しながら、肘関節伸展・前腕回内・手関節背屈を促す練習である。まずは、ステージⅢは①屈筋群の緊張を抑制、②伸筋の誘発・促通、③随意的伸展を可能にすることである。
2.× 組んだ両手を挙上してペグを把持するのは、上肢・手指ステージⅤの時に対象となる。なぜなら、協調性のある分離運動が必要であるため。肩関節屈曲・肘関節伸展・手指屈曲を保持した状態で、手の掌背屈でペグをつかむ必要がある。
3.× 上肢を下垂して手部で床上のボールを転がすのは、上肢ステージⅣの時に対象となる。なぜなら、協調性のある分離運動が必要であるため。肘関節伸展と手関節の随意的な運動の分離(ボールのリリース)が必要である。
4.× 前方にあるペグを把持して抜くのは、上肢ステージⅣ以上の時に対象となる。なぜなら、協調性のある分離運動が必要であるため。上肢の伸展と対向つまみが必要である。
5.× 机にある輪をつまみあげるのは、上肢ステージⅤの時に対象となる。なぜなら、協調性のある分離運動が必要であるため。輪をつまみあげる指尖つまみ動作が必要である。
9 アテトーゼ型脳性麻痺児の食事の様子を図に示す。
スプーンを口に近づけると図のような姿勢になってしまう。
この児に出現している原始反射はどれか。
1. 探索反射
2. Galant 反射
3. 交差伸展反射
4. 手の把握反射
5. 対称性緊張性頸反射
解答5
解説
1.× 探索反射(四方反射、口唇反射)は、新生児を背臥位にし、検者の指で口唇の上下・左右を刺激する(触れる)と刺激の方向に口を開いて、頭部を向ける。胎児期後期から、生後5~6ヵ月まで。
2.× Galant 反射(側彎反射、背反射)は、脊柱の外側に沿って上から下へこすると刺激側の背筋が収縮して側屈する。胎児期後期から、生後2ヵ月まで。
3.× 交差伸展反射は、一側の下肢を屈曲し他側を伸展させたうえで、伸展側の足底部を刺激(または屈曲)すると非刺激側は屈曲から伸展する原始反射である。
4.× 手の把握反射は、新生児を背臥位で顔を正面に向け、上肢は半屈曲位として、検者の指を小指側から手の中に入れ、掌を圧迫すると、検者の指を握り締める。胎児期後期からみられ、4~6ヵ月ごろには消失。
5.〇 正しい。対称性緊張性頸反射(STNR)は、この児に出現している原始反射である。腹臥位(水平抱き)で頭部を伸展させると、頸部筋の固有感覚受容器の反応により、上肢は伸展、下肢は屈曲し、頭部を屈曲させると逆に上肢は屈曲、下肢は伸展する。4~6 ヵ月に出現、8~12ヵ月まで。
アテトーゼ型は、麻痺の程度に関係なく四肢麻痺であるが上肢に麻痺が強い特徴を持つ。錐体外路障害により動揺性の筋緊張を示す。筋緊張は低緊張と過緊張のどちらにも変化する。他にも、特徴として不随意運動が主体であることや、原始反射・姿勢反射が残存しやすいことがあげられる。アテトーゼ型脳性麻痺の介助のポイントとして、体幹は包み込むようにして安定させ、四肢をフリーにしないことで安定させるとよい。また、上肢や体幹の極端な非対称性の体位は、体幹の側屈と短縮を引き起こすため避けるようにする。
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10 32歳の女性。右利き。診断名は右乳がん(ステージⅡ)。右乳房切除術と腋窩リンパ節郭清術施行目的で入院となった。夫と2歳の子どもとの3人暮らし。職業は保育士。術前の右上肢機能は良好であり、セルフケアや家事動作は自立していた。
術後作業療法について正しいのはどれか。
1. 日光浴を勧める。
2. 術側の上肢は固定する。
3. 事務職への転職を勧める。
4. 重量物を持たないように指導する。
5. 3か月間物干し動作は行わないよう指導する。
解答4
解説
乳癌手術は、乳房切除・腋窩リンパ節切除する。したがって、リンパ還流が障害されるため、リンパ浮腫や腋窩周辺の瘢痕化や癒着、神経障害による知覚異常などの症状が起こりうる。リンパ浮腫増悪の原因には、ペットの咬傷・ひっかき傷、蚊などの虫刺されによる感染などがあげられる。血圧測定、採血などの刺激によってもリンパ浮腫が生じることがあるため、これらは健側で行うようにする。乳房切除術後の注意事項として、①患側上肢での血圧測定、採血、注射などは避ける。②袖口のきつい服や腋窩を締め付ける服は避ける。③スキンケア、虫刺されに注意する。④患側上肢では重いものを持たないようにする。⑤患側上肢の過度の負荷や外傷を避ける。
1.× 日光浴を「勧める」のではなく控えるべきである。なぜなら、日光による炎症で皮膚障害が起こりうるため。リンパ浮腫は、感染による皮膚障害を契機に増悪しやすい。
2.× 術側の上肢は、「固定する」のではなく、挙上したり自動運動したりしてリンパ還流を促す。浮腫が軽減する。
3.× 事務職への転職を勧める必要はない。ただし、保育士の業務を継続するにあたって、子どもの抱っこは、「右上肢(手術側)」ではなく左上肢で行うなど、右上肢(手術側)に負担がかからないような作業姿勢に留意する。
4.〇 正しい。重量物を持たないように指導する。なぜなら、リンパを滞留しやすくなるため。術側上肢を長時間下げた肢位(キャリーバックを使用した長時間の旅行)や、肘にカバンなどの重量物をかけることは控える。重量物を持つ場合は健側で行うよう指導する。
5.× 物干し動作の制限はない。むしろ、上肢挙上の日常生活動作(物干し動作など)は、術後の癒着予防・浮腫改善・肩関節の可動域制限の予防の効果もあるため、適度に休息をとりつつ行えば制限の必要はない。術後の早期リハビリテーションから行う。