第56回(R3) 作業療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

 

11 71歳の女性。独居。臥床傾向となり、訪問作業療法が依頼された。畳の上に布団を敷いて就寝しており、床からの立ち上がりは台につかまり実施していた。セルフケアは時間がかかるが実施可能である。家事は簡単な炊事を行い、洗濯を時々行う程度であった。
 生活機能の拡大に向けて、作業療法士が行う指導で最も優先されるべきものはどれか。

1. ベッドを導入させる。
2. 運動習慣を確立させる。
3. 食料品の買い出しを促す。
4. 家事動作を積極的に実施させる。
5. 地域活動への参加を促進させる。

解答1

解説

本症例のポイント

①71歳の女性。独居。臥床傾向
②就寝:床上布団、床からの立ち上がり:台につかまる。
③セルフケア:時間がかかるが可能。
④家事・洗濯:実施可能。
→本症例の「生活機能の拡大」を図るためにはどうするか考える。なぜ本症例は臥床傾向なのか?床上で布団使用し、床からの立ち上がりには台が必要であるのが一つの要因とも考えられる。

1.〇 正しい。ベッドを導入させることは、本症例において生活機能の拡大につながる。なぜなら、臥床傾向に至っている原因の一つとして、台使用での床からの立ち上がりを強いられているため。ベッドの導入で、スムーズに立ち上がれることで、洗濯の回数の増加も可能と考えられる。また、転倒の防止に役立つだけではなく、一時的な体調不良による身体機能の低下時でも独居が持続可能な可能性を上げることができる。
2.× 運動習慣を確立させる優先度は低い。なぜなら、運動習慣を身に着け、床からの立ち上がりが台なしでスムーズにできるには、まずは運動の必要性を理解し、その効果が確実に出るまで時間がかかりすぎるため。また、運動習慣の確立の効果としては、生活習慣病の予防改善や気分転換やストレス解消があげられる。
3.× 食料品の買い出しを促す優先度は低い。なぜなら、本症例は独居生活が概ね自立しており、現在も食料品の買い出しは出来ていると考えられるため。ただし、食料品の買い出しは、荷物を持っての屋外歩行の必要があるため危険を伴う。食料品の買い出しの評価を行い、危険であれば、「食料品の買い出しを促す」より、ヘルパー宅配サービスの導入を提案する方が優先度は高い。
4.× 家事動作を積極的に実施させる優先度は低い。なぜなら、設問から「セルフケアは時間がかかるが実施可能である。家事は簡単な炊事を行い、洗濯を時々行う程度」であるため。つまり、セルフケアに何かしらの問題があると考えられ、セルフケアの効率的な方法の確認・指導、福祉用具などの導入が優先される。
5.× 地域活動への参加を促進させる優先度は低い。なぜなら、設問から「セルフケアは時間がかかるが実施可能」とあり、本症例のセルフケアに何かしらの問題があると考えられるため。また、地域活動への参加は、安定した生活基盤が確立されたのちに行っていく。

 

 

 

 

 

 

 

12 図に示す自助具のうち第二のてこを利用しているのはどれか。

解答3

解説

てこの種類

第1:作用点と力点の間に支点
【利点】比較的安定感がある。
例:シーソー、ハサミ(上腕三頭筋による肘関節伸展)

第2:支点と力点の間に作用点
【利点】小さい力で大きな回転力を生む。
例:栓抜き、ボートのオール(下腿三頭筋による足関節底屈)

第3:支点と作用点の間に力点
【利点】運動の速さに有利だが大きな力が必要。
例:ピンセット、トング(上腕二頭筋による肘関節屈曲)

1.2.5.× 第一のてこである。第一のてこは、荷重点(作用点)と力点の間に支点がある。
3.〇 正しい。第二のてこである。第二のてこは、支点と力点の間に荷重点(作用点)がある。 
4.× 第三のてこである。第三のてこは、支点と荷重点 (作用点)の間に力点がある。

 

 

 

 

 

 

 

13 58歳の男性。両手の母指と示指で紙をつまみ、左右に引っ張ったときの写真を下に示す。
 考えられる末梢神経障害はどれか。

1. 右Guyon管症候群
2. 右後骨間神経麻痺
3. 左前骨間神経麻痺
4. 右手根管症候群
5. 左肘部管症候群

解答5

解説

本症例のポイント

写真は、Froment(フローマン徴候)陽性となっている。Froment徴候(フローマン徴候)の陽性で「尺骨神経麻痺」を疑える。Froment徴候(フローマン徴候)とは、尺骨神経麻痺のときに母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。本症例は、左手の母指が屈曲位であり、左Froment徴候(フローマン徴候)陽性であることから、左尺骨神経麻痺である。つまり、選択肢5.左肘部管症候群が正しい。肘部管症候群は、尺骨神経が肘関節背面内側にある尺側骨手根屈筋下の肘部管を通過する際に生じる絞拒性障害である。尺骨神経麻痺を来し、指の開閉運動障害や鷲手変形を生じる。

1.× 右Guyon管症候群は、右尺骨神経麻痺を呈す。左右違いである。ちなみに、Guyon管を通るものとして、①尺骨神経、②尺骨動脈である。
2.× 右後骨間神経麻痺は、右drop hand (下垂手)を呈す。ちなみに、後骨間神経は、橈骨神経の枝である。
3~4.× 左前骨間神経麻痺/右手根管症候群は、tear drop徴候陽性(猿手)となる。ちなみに、前骨間神経麻痺は、正中神経の枝である。右母指球の萎縮や Phalen test(ファーレンテスト)陽性となる。
5.〇 正しい。左肘部管症候群が考えられる末梢神経障害である。左肘部管症候群は、左尺骨神経麻痺をきたし、Froment徴候陽性となる。Froment徴候(フローマン徴候)とは、尺骨神経麻痺のときに母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。

前骨間神経と後骨間神経について

前骨間神経と後骨間神経は、前腕の橈骨と尺骨という2つ骨の間を繋ぐ骨間膜の前後を走る神経である。両者とも触覚に異常がないのが特徴である。神経炎以外にも、外傷、絞扼性神経障害でも生じる。

【前骨間神経】
・肘の辺りで正中神経から分岐して主に母指(親指)と示指の第1関節を動かす筋肉を支配している。
→涙のしずくが陽性。

【後骨間神経】
・肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する筋肉を支配している。
→下垂指(drop finger)となる。

 

 

 

 

 

 

 

14 20歳の女性。高校卒業後、コンビニエンスストアの仕事についた。2年が経過した頃、人手不足もあり業務に追われる状態が続いた。次第に集中困難、頭が回らない感覚、不眠、動悸や呼吸困難感が現れ始め、休職するに至った。約1か月の自宅療養で呼吸困難感は軽減したが、頭痛、めまいによる歩行のふらつき、不眠が出現し、たえず漠然とした不安に襲われ外に出られなくなった。その様子を心配した家族が本人を連れて精神科を受診し、外来作業療法が導入された。
 導入時の作業療法で最も適切なのはどれか。

1. 全身のストレッチ
2. 高負荷の歩行訓練
3. ワークサンプル法による職業訓練
4. 遂行機能に対する認知リハビリテーション
5. 社会生活技能訓練<SST>による接客場面のロールプレイ

解答1

解説

本症例のポイント

・20歳の女性。
・高校卒業後:就職2年後、業務に追われ次第に集中困難頭が回らない感覚不眠動悸呼吸困難感が現れ始め休職した。
約1か月の自宅療養:呼吸困難感は軽減したが、頭痛、めまいによる歩行のふらつき、不眠が出現し、たえず漠然とした不安に襲われ外に出られなくなった(約1か月以上続く症状)。
→本症例は全般性不安障害が疑われる。全般性不安障害は、日常生活において漠然とした不安を慢性的に感じてしまう病気である。特定の状況に苦手意識を感じるパニック障害や社交不安障害とは異なり、不安を感じる事象が非常に幅広い(漠然とした将来の不安など)ことが特徴である。導入時の作業療法は、軽い運動などで身体的な緊張の軽減を図ることである。治療法として認知行動療法(セルフコントロール)、薬物療法があげられる。

1.〇 正しい。全身のストレッチは、導入時の作業療法で最も適切である。なぜなら、あまり負担をかけずに身体的回復を促し、リフレッシュ効果が見込めるため。
2.× 「高負荷」の歩行訓練は優先度が低い。あえて高負荷である必要はなく、導入時の作業療法は、軽い運動などで身体的な緊張の軽減を図ることである。また、高負荷の歩行訓練は、主に閉塞性動脈硬化症患者などに用いられる。
3.× ワークサンプル法による職業訓練は優先度が低い。なぜなら、仕事を想起し、不安を助長することにつながりかねないため。ワークサンプル法とは、実際の仕事の一部(ワークサンブル)を対象者に行ってもらい、その出来栄えを量的・質的に評価する。
4.× 遂行機能に対する認知リハビリテーションは優先度が低い。なぜなら、本症例は認知機能に問題はないため。治療法として、認知リハビリテーションではなく、認知行動療法(セルフコントロール)が必要である。
5.× 社会生活技能訓練<SST>による接客場面のロールプレイは優先度が低い。なぜなら、認知行動療法の基本的な手技ではあるが、導入時には負担が大きく仕事を想起し、不安を助長することにつながりかねないため。社会生活技能訓練<Social Skills Training:SST>とは、「人が地域社会で自立して円滑に生活できる」ための技能を習得することを目的とし、日常的な生活場面で適切な行動がとれるよう、具体的な場面を設定してロールプレイ(役割分担)を行いながら練習することである。

 

 

 

 

 

 

 

15 18歳の男子。幼少時から一人遊びが多かった。運動や言語の発達に目立った問題はないが、視線が合わないことが多い。急な予定変更や大きな音でパニックになることがあった。中学校や高校では場の空気が読めないことでいじめられた経験があり、現在は自室に引きこもり、ほとんどの時間をインターネットに接続したパソコンでアニメやゲームなどに興じている。心配した親が相談機関を訪れ、作業療法士が対応した。
 この男子の特徴としてみられやすいのはどれか。

1. 手先が器用である。
2. 特定の物事にこだわる。
3. 特定の領域の学習が苦手である。
4. 特定の場面で発語が困難になる。
5. 意思を伝える際に身振りを多用する。

解答2

解説

本症例のポイント

・18歳の男子。
・幼少時:一人遊びが多い。運動や言語の発達に目立った問題はない。視線が合わないことが多い(コミュニケーションが苦手)。急な予定変更や大きな音でパニックになることがあった。
・中学校~高校:場の空気が読めないことでいじめられた。
・現在:自室に引きこもり、ほとんどの時間をインターネットに接続したパソコンでアニメやゲームなどに興じている(特定のものにこだわりあり)。
→本症例はAsperger症候群が疑われる。Asperger症候群(アスペルガー症候群)の特徴して、①言語発達の遅れはない、②知能は正常であることが多い、③対人接触に無関心というよりはむしろ常軌を逸し一方的に接近しようとする、などのことが挙げられる。また、興味・関心の幅が狭いので新たな作業の導入には抵抗が強く、その一方で同じ作業を続ける力はもともと(こだわり)がある。

1.× 手先は「器用」ではなく不器用なことが多い。
2.〇 正しい。特定の物事にこだわる。本症例は、アニメやゲームなどに熱中している様子があったが、他にも生活パターンや自分ルールを守るといった傾向もみられることがある。
3.× 特定の領域の学習は、「苦手」ではなく得意(熱中)する。なぜなら、特定の分野へのこだわりが強いため。Asperger症候群(アスペルガー症候群)は、①言語発達の遅れはなく、②知能は正常であることが多い。一方で、特定の領域の学習が苦手なのは学習障害である。
4.× 特定の場面で発語が困難(選択性緘黙)はみられない精神疾患で起こり、発声器官には問題がなく言語理解も出来ているのに、離せなくなってしまう。5歳前後で発症することが多いが、話す機会の増える学校に入学するまで症状が顕在化しないことが多い。
5.× 意思を伝える際に身振りを多用することはない。むしろ、言語的コミュニケーション含め非言語的コミュニケーション(身振り・表情など)も苦手である。ただし、言語発達の遅れや知能は正常であることが多い。

 

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