第56回(R3) 作業療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

 

16 55歳の男性。営業部の部長職に就いていたが、物や人の名前や地名が出てこないことを自覚し、その後は部下を同伴して仕事を継続していた。好きな日曜大工で使用していた工具を目の前にしてもそれを呼称できなくなり妻同伴で物忘れ外来を受診した。WAIS-Ⅲでは言語性IQが79、動作性IQは131、全検査IQは103であった。その後も徐々に言いたいことが言葉にならず、仕事で著しく疲弊するようになり退職した。徐々に誰に対してもなれなれしくなり、節度を失うような人格変化も認められるようになった。
 この患者の受診当初のMRI画像で予想される脳の萎縮部位はどこか。

1. 側頭葉内側部
2. 前頭葉眼窩面
3. 頭頂連合野
4. 側頭葉前部
5. 後頭葉

解答4

解説

本症例のポイント

意味性認知症が疑われる。
①物や人の名前や地名が出てこない。
②工具の名前が出てこない。
③徐々に節度を失うような人格変化が出てくる。

意味性認知症とは、前頭側頭葉変性症に含まれ、病初期には意味記憶の障害(物品呼称や単語理解の障害)が優位に出現する。病期の進行に伴い、前頭側頭葉変性症の特徴である常同行為や脱抑制・反社会的行動、滞統言語がみられるようになる。

1.× 側頭葉内側部(特に海馬)の萎縮は、主に記銘力低下を生じやすくアルツハイマー型認知症に特徴的な所見である。
2.× 前頭葉眼窩面の萎縮は、脱抑制が生じやすく前頭側頭型認知症に特徴的な所見である。脱抑制とは、状況に対する反応としての衝動や感情を抑えることが不能になった状態のことである。意味性認知症は、前頭側頭葉変性症に含まれるが、受診当初の本症例の様子からこの患者の受診当初のMRI画像で予想される脳の萎縮部位の優先度は低い。
3.× 頭頂連合野の萎縮は、半側空間無視・着衣失行・構成障害・身体部位失認などを生じやすくアルツハイマー型認知症(中期以降)に特徴的な所見である。
4.〇 正しい。側頭葉前部は、この患者の受診当初のMRI画像で予想される脳の萎縮部位である。側頭葉前部の萎縮で、意味性認知症が生じる。特に左優位萎縮では「一般物品」について、右優位萎縮では「人物」についての意味記憶障害を呈しやすい。
5.× 後頭葉の萎縮で、物体失認・相貌失認・色彩失認・運動視障害などを生じやすくレビー小体型認知症に特徴的な所見である。ちなみに、色彩失認は、色知覚の非言語的課題では正常な成績をあげることができ、色彩失認の患者は色覚は保たれているが、見せられた色の名を言えず、検者が言った色を指示することも出来ない状態である。すなわち色覚が保たれているのに、特有の色を持つ物品の形は思い出せるが、その色が思い出せない。

前頭側頭型認知症 (Pick病)とは?

脳血流量の低下や脳萎縮により人格変化、精神荒廃が生じ、植物状態まで進行する。2~8年で衰弱して死亡することが多い。

【病理所見】前頭葉と側原が特異的に萎縮する。

【症状】
①人格障害・情緒障害などが初発症状。
②初期前半には記憶障害・見当識障害はほとんどみられない。
③性的逸脱行為(見知らぬ異性に道で抱きつくなど)がみられる。
④滞続言語。

WAIS-Ⅲとは?

WAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale:ウェクスラー成人知能検査)とは、成人用のウェクスラー知能検査WAISの改訂第3版のことである。質問やイラスト、積み木などの検査キットを用いて、「言語性IQ」「動作性IQ」に加え、「言語理解」「知覚統合」「作動記憶」「処理速度」の4つの指標が得られる。

IQとは、「同世代の集団において、どの程度の知的発達の水準にあるか」を表した数値である。平均値は100であり、点数が平均より高ければIQは100以上になり、点数が平均より低ければIQは100以下となる。79~70以上は「境界域」といい、69以下は「知的障害」と分類される。

 

 

 

 

 

 

 

 

17 50歳の男性。妻と二人暮らし。1年前に支店長に昇進してから仕事量が増え、持ち前の几帳面さと責任感から人一倍多くの仕事をこなしていた。半年前に本社から計画通りの業績が出ていないことを指摘され、それ以来仕事が頭から離れなくなり、休日も出勤して仕事をしていた。か月前から気分が沈んで夜も眠れなくなり、1か月前からは仕事の能率は極端に低下し、部下たちへの指揮も滞りがちとなった。ある朝、「自分のせいで会社が潰れる、会社を辞めたい、もう死んで楽になりたい」と繰り返しつぶやいて布団にうずくまっていた。心配した妻が本人を連れて精神科病院を受診し、同日入院となった。入院後1週間が経過した時に気分を聞くと、返答までに長い時間がかかり、小さな声で「そうですねえ」と答えるのみであった。
 作業療法士の対応として適切なのはどれか。

1. 退職を勧める。
2. 気晴らしを勧める。
3. 十分な休息を勧める。
4. 自信回復のために激励する。
5. 集団認知行動療法を導入する。

解答3

解説

うつ病患者への対応

気持ちを受け入れる。
共感的な態度を示す。
心理的な負担となるため、激励はしない。
無理をしなくてよいことを伝える。
必ず回復することを繰り返し伝えていく。
静かな場所を提供する。

 

【うつ病患者に積極的に説明するべき事項】
①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。
②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。
③自殺しないように約束してもらうことなど。

1.× 退職を勧める必要はない。なぜなら、うつ病の急性期は判断力が低下しているため。重要事項(退職など)の決定は先延ばしにすることを指導する。
2.× 気晴らしを勧める必要はない。なぜなら、無理な気晴らしは時として患者の負担を増大させ逆効果になるため。また、うつ病は気分転換では改善しない。
3.〇 正しい。十分な休息を勧める。うつ病の治療で最も重要なことは、十分な休養をとることであり、これをしっかりと説明する必要がある。
4.× 自信回復のために激励する必要はない。なぜなら、激励や積極性を促すことは、患者の負担を増大させ逆効果になるため。うつ病患者は頑張りたいのに頑張れない点に苦痛を感じている。
5.× 現時点で、集団認知行動療法を導入する必要はない。なぜなら、本症例は入院1週間経過の急性期であるため。認知行動療法は、回復期の後期(~維持期)のうつ病に適切である。

 

 

 

 

 

 

 

18 23歳の男性。中学生の頃から対人緊張が強く、人前での食事で発汗や赤面、緊張が強まることがあった。大学進学後も実習の発表時に緊張が強く、動悸や発汗を苦にしていた。卒業後に病院で作業療法士として働いていたが、通勤中のバスに停留所から同僚が数人乗り込んでくると、動悸、振戦、発汗が生じるようになった。車内に知り合いがいなければ不安や自律神経症状を生じることはない。
 考えられるのはどれか。

1. 解離性障害
2. 強迫性障害
3. パニック障害
4. 社交(社会)不安障害
5. PTSD<外傷後ストレス障害>

解答4

解説

本症例のポイント

社交(社会)不安障害が疑われる。
①中学生の頃から対人緊張が強く、人前での食事で発汗や赤面、緊張が強まることがあった。
②車内に知り合いがいなければ不安や自律神経症状を生じることはない。

1.× 解離性障害とは、心的外傷体験・人間関係などを原因として、それらの問題を抱えきれず、記憶・同一性の統合を失うことで当面の苦痛を回避する行動をいう。健忘、混迷状態、解離性同一性障害(多重人格)、Ganser症候群(偽認知症の一つで的外れ応答が特徴)などがみられる。疾病利得が根底に存在する。
2.× 強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。
3.× パニック障害とは、誘因なく突然予期せぬパニック発作(動悸、発汗、頻脈などの自律神経症状、狂乱・死に対する恐怖など)が反復して生じる状態をいう。また発作が起こるのではないかという予期不安を認め、しばしば広場恐怖を伴う。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②抗不安薬、③認知行動療法などである。
4.〇 正しい。社交(社会)不安障害が考えられる。社交(社会)不安障害とは、比較的少人数の集団内(社交場面)で、他の人々から注視をされたり、低い評価を受けたり、辱められたりすることに対する強い恐れを主な症状として、そのような場所をできるだけ避けようとするものである。本症例のように、対人場面において過剰な不安や緊張が誘発されるあまり、動悸・震え・吐き気・赤面・発汗などの身体症状が強く発現する。
5.× PTSD<外傷後ストレス障害>とは、極めて強烈なストレスを受けた後、数週間から数ヵ月を経て(6ヵ月以上潜伏期間があることはまれ)、再体験、回避、認知や気分の異常、過覚醒の各症状が4週間以上持続し、著しい苦痛や社会的障害を生じている状態をいう。本症例は、発症が心的外傷を受けてから数日後と短く、また3週間と早期に消退しているため否定できる。

 

 

 

 

 

 

 

19 8歳の男児。幼児期より落ち着きがなくじっとしていられず、家族で外出した際にはよく迷子になり、両親も養育に困難を感じていた。小学校に入学してからは、授業中に勝手に席を立って歩き出したり、順番を守ることも難しく、日常的に忘れ物や落とし物も多く、うっかりミスをして教師に注意されるが、その後も同じミスを繰り返していた。授業中は周囲の雑音に注意を削がれて勉強に集中できず、最近では学業不振が目立ち始めたため放課後等デイサービスで作業療法士が対応することになった。
 作業療法士の対応として適切でないのはどれか。

1. 感覚統合療法を実施する。
2. ペアレントトレーニングを実施する。
3. 社会生活技能訓練<SST>を実施する。
4. 学校を訪問して授業の様子を観察する。
5. 担当教員に本人の行動修正をより促すよう依頼する。

解答5

解説

本症例のポイント

注意欠如・多動性障害(ADHD)が疑われる。
①注意欠如:日常的に忘れ物や落とし物も多く、うっかりミスをして教師に注意される。授業中は周囲の雑音に注意を削がれて勉強に集中できない。
②多動性:授業中に勝手に席を立って歩き出す。
③衝動性:順番を守ることも難しい。

対人関係面で周囲との軋轢を生じやすく、大人からの叱責や子どもからのいじめにあうことがある。このため、二次障害として、自信喪失、自己嫌悪、自己評価の低下がみられることがある。そのため、患児の行動特徴を周囲が理解し、適切に支援をしていくことが重要である。 サポートが良ければ、成長とともに過半数は改善していく。放置すると、思春期に感情障害、行為障害、精神病様状態に陥りやすい。

1.〇 正しい。感覚統合療法を実施する。軽度発達障害の作業療法では子どもの協調運動障害や行動障害の改善を期待して、各種の感覚統合的アプローチが行われている。感覚統合療法とは、五感からの刺激を交通整理して適切な体の反応や動作を身につけるための訓練である。学習障害自閉症注意欠如・多動性障害(学習や行動、情動機能の偏り)に適応となることが多い。
2.〇 正しい。ペアレントトレーニングを実施する。ペアレントトレーニングとは、親(保護者)を対象に子どもの養育技術を獲得させるトレーニングのことである。日本では主に発達障害児の反社会的行動・不適応行動の改善を目的に行われるが、注意欠如・多動性障害(ADHD)の児の親に対しても有用である。
3.〇 正しい。社会生活技能訓練<SST>を実施する。社会生活技能訓練<Social Skills Training:SST>は、「人が地域社会で自立して円滑に生活できる」ための技能を習得することを目的とし、日常的な生活場面で適切な行動がとれるよう、具体的な場面を設定してロールプレイ(役割分担)を行いながら練習すること。認知行動療法の基本的な手技である。
4.〇 正しい。学校を訪問して授業の様子を観察する。なぜなら、先生や親から見る児の様子と、作業療法士視点は異なる可能性があるため。また、児の授業の様子を観察して行動の実態を把握し、作業療法の計画に役立てることができる。
5.× 担当教員に本人の行動修正をより促すよう依頼する必要はない。なぜなら、注意や叱責は自信喪失自尊心の低下につながるため。患児の行動特徴を周囲が理解し、適切に支援をしていくことが重要である。 サポートが良ければ、成長とともに過半数は改善していく。放置すると、思春期に感情障害、行為障害、精神病様状態に陥りやすい。

 

 

 

 

 

 

 

20 32歳の男性。統合失調症。これまで院内の外来作業療法に参加していたが、友人の就労を契機に本人も就労希望を口にするようになった。
 担当の作業療法士が院内のカンファレンスで、この患者の就労移行支援事業所利用を提案するにあたって最も重要なのはどれか。

1. 罹病期間
2. 幻聴の頻度
3. 病識の程度
4. 就労への意欲
5. 統合失調症の病型

解答4

解説

障害者総合支援法に基づく障害者の就労支援事業

就労移行支援事業:就業が可能と思われる65歳未満の障害者に対して、就業のために必要な知識や技能を身に付けてもらう。2年(特例で3年)が限度である。
②就労継続支援A型(雇用型):通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者が対象である。期限の設定はない。
③就労継続支援B型(非雇用型):通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労も困難である者が対象である。期限の設定はない。

1~3.5.× 罹病期間/幻聴の頻度/病識の程度/統合失調症の病型は、担当の作業療法士が院内のカンファレンスで、この患者の就労移行支援事業所利用を提案するにあたって最も重要とはいえない。なぜなら、それら選択肢は、すでに院内のカンファレンスにおいて共有されている事柄である可能性が高いため。院内カンファレンス中に、主治医や看護師がそれら報告漏れや差異があったら付け加えで担当作業療法士が報告することはあるが、今回就労移行支援事業を利用するにあたっては優先度は低い。院内カンファレンスにおいて、チーム全体に院内の外来作業療法中に「友人の就労を契機に本人も就労希望を口にするようになった」ことの報告が望ましい。
4.〇 正しい。就労への意欲は、担当の作業療法士が院内のカンファレンスで、この患者の就労移行支援事業所利用を提案するにあたって最も重要である。本症例は、院内の外来作業療法中に、友人の就労を契機に本人も就労希望を口にするようになっている。就労できる・できないにかかわらず、チーム内で共有し、今後の対応を検討する必要がある。

 

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