第56回(R3) 理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 60歳の男性。2型糖尿病。身長170cm、体重90kg。心肺運動負荷試験を行ったところ最高酸素摂取量が2,625mL/分であり、この60%相当の運動強度を処方された。
 METsで適切なのはどれか。

1.8METs
2.7METs
3.6METs
4.5METs
5.4METs

解答

解説

本症例は最大酸素摂取量が2,625mL/分であり、運動強度は60%と処方されている。

したがって、
2,625(mL/分) × 60(%)= 1,575(mL/分)となるように設定する。

この1,575mL/分をMETsに換算する場合は、

1METs = 3.5mL/kg/分】という定義を用いる。

1,575(mL) ÷ 3.5(mL) ÷ 90(kg)をすることで、METs換算が可能である。

上記を計算すると5METsとなる。

したがって、選択肢4.5METsが正しい。

METsとは?

METsは安静座位での体重1㎏当たりが1分間に消費する酸素量を基準(1METs)としている。

1METs = 3.5mL/kg/分

 

 

 

 

 

 

12 運動失調が認められる患者に対し、体幹回旋筋の同時収縮による座位姿勢安定性向上を目的として、図に示す運動を行った。
 この運動はどれか。

1.コントラクト・リラックス〈contract-relax〉
2.スローリバーサル
3.ホールド・リラックス
4.リズミック・スタビリゼーション
5.リピーテッドコントラクション〈repeated contraction〉

解答

解説

PNF法(固有受容性神経筋促通法)とは?

PNF法(固有受容性神経筋促通法)とは、主に固有受容器を刺激することによって、神経筋機構の反応を促通する方法である。固有受容器とは「筋紡錘、腱紡錘、関節受容器、前庭器官」を指す。
特殊テクニックとして、主に5つあり、①リピーテッドコントラクション、②スロー・リバーサル、③スロー・リバーサル・ホールド、④リズミック・スタビライゼーション、⑤ホールド・リラックスが挙げられる。

1.× コントラクト・リラックス〈contract-relax〉は、可動域制限がある場合に用い、可動域の最終域近くまで動かし、運動方向とは別の方向に抵抗を加える。新しく得た可動域での運動で、その可動域における筋の収縮を促進させる方法である。その後、リラクセーションを組み合わせることで、関節可動域の拡大や柔軟性の改善を図れる。
2.× スローリバーサルは、促通パターンの動きをゆっくり往復させる(遅い逆運動)方法のことである。主動筋と拮抗筋の両方向に抵抗をかけ、筋力増強、協調性の後尿、持久力の向上を目的とする。
3.× ホールド・リラックスは、筋のリラクセーションを得るための手技である。2~3秒の痛みが出ない範囲で最大等尺性収縮の直後に力を抜かせる。可動域の拡大と筋力の増強を目的とする。
4.〇 正しい。リズミック・スタビリゼーションは、関節を可動させずに拮抗する方向に交互に抵抗を加える手技である。協調性改善を目的とし、小脳性協調運動障害にも適応となる。
5.× リピーテッドコントラクション〈repeated contraction〉は、促通パターンを用いて片側方向の運動だけを繰り返し行う方法で、可動域の初期または中期の運動を繰り返し行う。筋力増強と協調性の改善を目的とする。

 

 

 

 

 

 

13 70歳の女性。両側変形性膝関節症。外来通院中である。自宅におけるADLは、FIMによる評価で、2項目(歩行・車椅子および階段)はT字杖を使用しての自立であったが、それ以外は補助具を使用せずに自立していた。コミュニケーション(理解、表出)や社会的認知(社会的交流、問題解決、記憶)は問題ない。
 FIMの点数はどれか。

1.100
2.112
3.120
4.124
5.126

解答

解説

 FIMの採点基準は、18個の小項目に7点満点で点数をつけていきADLの評価をおこなう。最高得点が126点であり、最低得点が18点である。本症例は、2項目(歩行・車椅子および階段)は「T字杖を使用しての自立」であると記載されている。補助具を使用しているため、修正自立であり、2項目が6点になる。したがって、FIM最大点の126点から2点を引いて、選択肢4.124点が正しい。

FIMの採点方法

「介助者なしの自立レベル」
7 完全自立(時間、安全性を含めて)
6 修正自立(補装具などを使用)

「介助者ありの部分自立レベル」
5 監視や準備だけをすれば可能
4 最少介助(患者自身で75%以上可能)
3 中等度介助(患者自身で50%以上可能)

「完全介助レベル」
2 最大介助(患者自身で25%以上可能)
1 全介助(患者自身で25%未満)

 

 

 

 

 

14 87歳の女性。転倒して左股関節痛を訴え、入院となった。受傷後2日目に後方侵入法で手術を受けた。術後のエックス線写真を下図に示す。
 正しいのはどれか。

1.臥床時には股関節を内転位に保つ。
2.靴下の着脱は股関節外旋位で行う。
3.術後1週から大腿四頭筋セッティングを開始する。
4.術後2週から中殿筋の筋力トレーニングを開始する。
5.術後3か月は免荷とする。

解答

解説

人工骨頭置換術の患側脱臼肢位

①後方アプローチ:股関節内転・内旋・過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展

人工骨頭置換術の脱臼発生率は、2~7%と報告されており、前方アプローチと後方アプローチと比較して、後方アプローチで発生しやすい。

1.× 臥床時には股関節を「内転位」ではなく、外転位に保つ。なぜなら、後方侵入法の脱臼肢位は「屈曲・内転・内旋」であるため。臥床時には、下肢の間に枕を挟むなどして、股関節内転しないよう脱臼を防ぐ。
2.〇 正しい。靴下の着脱は股関節外旋位で行う。脱臼肢位に注意して生活指導を行う必要がある。もしくは、ソックスエイド・リーチャーなどの自助具を使ってソックスを着脱する。
3.× 大腿四頭筋セッティングを開始するのは、「術後1週から」ではなく、術後できる限り早い段階(翌日から)で行う。なぜなら、大腿四頭筋セッティングは、関節運動を伴わず、術後の侵襲を受けておらず、また、術後の廃用予防につながるため。
4.× 中殿筋の筋力トレーニングを開始するのは、「術後2週から」ではなく、術後できる限り早い段階(翌日から)で行う。ただし炎症が増強した場合やその後の熱感がある場合は、負荷量調整のため自動介助運動から行ったり、アイスパックなどの対応が必要である。
5.× 人工骨頭置換術の場合は、免荷期間はない。術後から全荷重を開始する。ちなみに、主に免荷が必要になる疾患として、前十字靭帯断裂やアキレス腱断裂の手術後であるが、ほとんどは2~3週間で部分荷重となる。術後3か月の完全免荷は稀である。

 

 

 

 

 

 

15 32歳の男性。筋強直性ジストロフィー。手指を強く握ると筋強直のために開くのに時間がかかる。側頭部と頬部の筋萎縮と閉口障害を認める。筋力はMMTで頚部2、肩関節周囲2、肘関節周囲2、手指3、股関節周囲2、膝関節周囲2、足関節周囲1で、立位になればかろうじて短距離歩行可能である。労作時に動悸や呼吸苦の自覚はなく、SpO2の低下を認めない。
 正しいのはどれか。

1.ROM運動は筋強直に抵抗して行う。
2.食事は咀嚼回数を減らす形態にする。
3.等尺性収縮による筋力増強は行わない。
4.アンビューバックを活用した呼吸練習を行う。
5.下肢装着型の補助ロボット導入は有効でない。

解答

解説

筋強直性ジストロフィーとは?

筋強直性(筋緊張性)ジストロフィーとは、進行性筋ジストロフィー内の一種で、常染色体優性遺伝(男女比ほぼ1:1)で大人で最も頻度の高い筋ジストロフィーである。そもそも進行性筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性及び壊死を主病変とし、進行性の筋力低下や萎縮をきたす遺伝性疾患である。

【筋強直性ジストロフィーの特徴】
①中枢神経症状(認知症状、性格変化、傾眠)
②顔面筋の筋萎縮により西洋斧様顔貌(顔の幅が狭くなった顔貌)、嚥下障害、構音障害
③前頭部若禿(前頭部の脱毛)
④遠位優位の筋委縮
⑤ミオトニア(舌の叩打・母指球・把握)
⑥心伝導障害(房室ブロックなど)
⑦軽症例:糖尿病(耐糖能異常)、白内障がみられる。

(参考:「筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー」難病情報センター様HPより)

1.× ROM運動を筋強直に抵抗して行う必要はない。なぜなら、さらに筋の緊張を高める原因になるため。過緊張になっていない状態で、抵抗せずに緩める方向へROM訓練を行う事が望ましい。
2.〇 正しい。食事は咀嚼回数を減らす形態にする。なぜなら、本症例は、側頭部と頬部の筋萎縮による閉口障害を認められるため。食事は咀嚼回数を減らす形態にすることで、食事の際の負担を軽減させる効果が期待できる。
3.× 等尺性収縮による筋力増強は効果的である。なぜなら、本症例は、筋強直が見られているため。関節運動を伴わずに、筋力増強運動を実施できる。
4.× アンビューバックを活用した呼吸練習の優先度は低い。なぜなら、本症例は呼吸器の課題は見られないため。アンビューバックを活用した呼吸練習は、喀痰を補助する練習(最大吸気吸気量を維持する目的)として効果的である。ちなみに、アンビューバックとは、患者の口と鼻から、マスクを使って他動的に換気を行うための医療機器である。人工呼吸法の主流として、救急現場の第一線で幅広く用いられている。
5.× 下肢装着型の補助ロボット導入は有効である。なぜなら、四肢の遠位部筋から罹患していくため。本症例は、立位になればかろうじて短距離歩行可能であるため、現機能を維持できるようトレーニングしていく。ちなみに、下肢装着型の補助ロボットは医療機器承認を受け、①脊髄筋萎縮症、②球脊髄性筋萎縮症、③筋萎縮性側索硬化症、④シャルコー・マリー・トゥース病など神経・筋8疾患が保険適応となった。

 

4 COMMENTS

大川 純一

コメントありがとうございます。
こちら有料記事になってしまうのですが解説したものがあります。
今後ともよろしくお願いいたします。
「https://asitahe.com/56-ot-problem-explanation/」

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大日向航太

コメント失礼致します。14の問題の1番ですが
臥床時は外転位ではないでしょうか?

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
多分そうだと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

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