第56回(R3) 理学療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

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16 8歳の男児。脳性麻痺による痙直型四肢麻痺。背臥位姿勢と引き起こし時に図のように対応する。
 この児の車椅子の設定として適切なのはどれか。

1.座面を床面と平行にする。
2.平面形状の座面を使用する。
3.胸と骨盤をベルト固定する。
4.背もたれの高さは肩までとする。
5.背もたれの角度は床面と垂直に固定する。

解答

解説

 本症例は、非対称性緊張性頸反射(ATNR)が見られている。したがって、頸部のコントロールが必要になる。また引き起こしをすると、健常児であれば、協力するように肘を曲げ、顎を引いて頭をもちあげる。本症例の右図は、東部の過伸展により、伸展筋優位になっている状態で、緊張性迷路反射(TLR)の影響を受けていると考えられる。下肢は時にやや屈曲(6か月)、または伸展(7か月)して持ち上げるが、本症例は、反応不十分で反り返りがみられる。

姿勢反射

・非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、背臥位にした子どもの顔を他動的に一方に回すと、頸部筋の固有感覚受容器の反応により、顔面側の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する反射のこと。生後から出現、生後4~6ヵ月までに消失する。

1.× 座面を床面と平行にする必要はない。なぜなら、股関節が伸展位に入りやすくなるため。座面は角度をつけて股関節屈曲の補助を行う事が望ましい。座面は殿部より大腿部を高くする必要がある。
2.× 平面形状の座面を使用する必要はない股関節屈曲位を作りだすことで、伸展緊張が抑制されるため、座面の前方を高くしたクッションを使用する。ちなみに、座面が平面の場合、伸展パターンによって骨盤の位置が座面の前方に移動し、仙骨座りや股関節内転などが生じやすく、座位保持が困難になりやすい。
3.〇 正しい。胸と骨盤をベルト固定する。なぜなら、体幹が安定し、体幹の伸展と股関節伸展による伸展パターンの増強を防ぐ事ができるため。また、ずれや転落防止のためにも使用できる。
4.× 背もたれの高さは、「肩まで」ではなく、頭頂部まで覆われ、さらに回旋を抑制するものが望ましい。なぜなら、頸部の位置により下肢の伸展緊張が高くなりやすいため。頭部が安定するよう車椅子(ヘッドレスト付きの車椅子)を選択する。
5.× 背もたれの角度は、床面と垂直に固定する必要はない。なぜなら、背もたれの角度を床面と垂直に固定すると、座位が不安定になり伸展パターンが増強され、殿部が浮き上がりずり落ちの恐れがあるため。ずり落ちない程度に背もたれに傾斜をつけるか、リクライニングもしくはティルティング機構の車椅子が望ましい。

姿勢について勉強したい方はこちら↓

【暗記用】姿勢反射を完璧に覚えよう!

 

 

 

 

 

 

17 42歳の男性。気管支喘息。ある薬物の吸入療法前後のフローボリューム曲線の変化を図に示す。
 この薬物によって生じた呼吸器系の変化として正しいのはどれか。

1.気道抵抗の低下
2.呼気筋力の増強
3.肺拡散能の改善
4.胸郭柔軟性の改善
5.肺コンプライアンスの増加

解答

解説

(※図引用:「呼吸機能検査 フロー・ボリューム曲線」医學事始様HPより)

フローボリューム曲線とは?

フローボリューム曲線とは、息をはくときのスピードと量を測定すると出てくるグラフのことである。つまり、縦軸は「気速」を示し、横軸は「気量」を示す。本症例は、薬物療法によりFlow(流速:息を出す速さ)の改善が認められる。急速に呼気流速が下がっているが、Volume(容量・気量:息を吸える量)はほぼ変化していない特徴は、「閉塞性障害(気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患)」である。ちなみに、閉塞性障害とは、1秒率の低下がおもな病気である。

1.〇 正しい。気道抵抗の低下は、薬物によって生じた呼吸器系の変化(Flowの改善)として正しい。気管支喘息のフローボリューム曲線は、末梢気道が全体的に狭窄しているため、気流速度が低下して下に凸の曲線となる。吸入療法後、呼気気流速度が著明に改善しており、気管支拡張薬により、気道抵抗が低下したと考えられる。
2.× 呼気筋力の増強は、薬物療法では期待できない。呼吸練習が必要である。
3.× 肺拡散能の改善しても、Flow(流速:息を出す速さ)は改善しない。ちなみに、肺拡散能とは、肺胞から肺胞の毛細血管に酸素などのガスを供給する能力のことである。気管支喘息は、肺拡散能は障害されていない。COPDの場合は、肺胞の破壊による肺胞ガス交換面積の減少と肺毛細血管床の減少(毛細血管の破壊)のために、肺拡散能が低下する。
4.× 胸郭柔軟性の改善した場合、「Flow(流速:息を出す速さ)」ではなく、Volume(容量・気量:息を吸える量)の改善が期待できる。胸郭の可動域練習などで改善する。
5.× 肺コンプライアンスの増加した場合は、「Flow(流速:息を出す速さ)」ではなく、Volume(容量・気量:息を吸える量)の改善が期待できる。ちなみに、肺コンプライアンスとは、肺胞内圧の単位圧上昇によって起こる肺容量の増加である。肺線維症などの拘束性換気障害で低下した状態となり、肺コンプライアンスの増加によって肺活量が改善する。

 

 

 

 

 

18 80歳の女性。夫と2人暮らし。認知症があり、MMSEは13点。自宅にて転倒し、救急搬送され大腿骨頭部骨折と診断されて人工骨頭置換術が行われた。その後、回復期リハビリテーション病棟へ転棟し、理学療法を開始したが消極的である。
 理学療法中の患者の訴えへの返答で適切なのはどれか。

解答

解説

認知症の患者に対する対応

認知症の患者に対する対応では、バリデーションという考え方を用いると良いとされている。
バリデーションを構成する要素
・傾聴する(相手の言葉を聞いて、反複する。)
・共感する(表情や姿勢で感情を汲み取り、声のトーンを合わせる)
・誘導しない(患者にペースを合わせる。)
・受容する(強制しない、否定しない)
・嘘をつかない、ごまかさない

1.× 「さっきも答えた」と一方的な返答は、患者のペースに合わせようとしていないため不適切である。短期記憶の障害のため何度も同じ質問を繰り返すことがあるが、その都度初めてのつもりで対応するのが良い。
2.〇 正しい。「帰りたい」という訴えに「帰りたいのですね」と、患者の発言に対して反復して傾聴する事ができているため適切である。帰宅要求を直ちに「否定する」のではなく、まずは帰宅したい理由を聞き、患者の気持ちを受け止めることが必要である。
3.× 痛みを訴えているにもかかわらず、痛みに対して、我慢を強制しているため不適切である。認知症患者に限らず、術部の痛みを訴えた場合、術部にトラブルが起きていないか評価する。
4.× 「やらないと歩けなくなる」と、リハビリを強制・誘導する発言は不適切である。なぜやりたくないのか、行える時はあるのかなど理由を聞いて、あくまでも患者が選択権を持てるように返答する。
5.× 「財布を盗られた」と患者の訴えに対して、「財布は持ってきてはいけませんよ」と否定する発言は信頼を失う可能性があるため不適切である。「一緒に探しましょう」と伝えることで、離床や歩行練習を促せる。

物盗られ妄想とは?

物盗られ妄想は、記銘力障害による置き忘れしまい忘れが多くなり、①身近な親しい人に盗られたと即断してしまう、②興奮したり騒いだりして、警察に連絡する場合も多い。Alzheimer型認知症の大半で認められる。ただし、必ずしも「特異的」ではなく、その他の認知症でもみられる場合がある。言葉での説得は難しいため、一緒に探したり、自分で納得するように仕向けたりする方がよい。

 

 

 

 

 

 

19 74歳の女性。6か月前に左被殻出血を発症して、軽度の右片麻痺を呈している。くしを歯ブラシのように使おうとしたり、スプーンの柄に食物を乗せようとする行動がみられた。
 この患者の症状はどれか。

1.観念失行
2.構成失行
3.着衣失行
4.観念運動失行
5.肢節運動失行

解答

解説

観念失行とは?

観念失行とは、複合的な運動の障害であり、日常使用する物品が正当に使用できない失行のことである。優位半球頭頂葉を中心とする広範囲な障害で生じる。例えば、タバコに火をつける、お茶を入れる、歯磨きをするなどの手順が困難になる。

1.〇 正しい。観念失行とは、複合的な運動の障害であり、日常使用する物品が正当に使用できない失行のことである。優位半球頭頂葉を中心とする広範囲な障害で生じる。タバコに火をつける、お茶を入れる、歯磨きをするなどの手順が困難になる。本症例の症状(くしを歯ブラシのように使おうとしたり、スプーンの柄に食物を乗せようとする行動)と一致する。
2.× 構成失行とは、図の模写、積み木の組み合わせ(模倣)の障害である。頭頂連合野の障害で起こる。
3.× 着衣失行とは、衣類と身体の関係がつけられず、衣服が着られない。劣位半球の頭頂葉の障害で起こる。
4.× 観念運動失行とは、自然な運動では障害がなく、単純な動作(模倣)を指示すると運動ができない失行のことである。ジャンケンやキツネの真似が困難になる。指示がなければ出来る。優位半球の縁上回の障害で起こる。
5.× 肢節運動失行(運動拙劣症)とは、洋服のボタンを掛ける時や手袋を着用する等の単純な動作、歩行の際の特に歩き出しが拙劣となる症状である。「動作の拙劣さを特徴とし、自発運動、模倣動作、道具の使用のいずれにおいても動作の拙劣さを認める症状」とされている。その成立機序は、中心前回から中心後回にかけての中心回領域に運動記憶が保存されていることを前提とし、その損傷により、運動記憶が障害され、運動が拙劣になると推定される。引用:肢節運動失行にみられる運動記憶と運動プログラムの障害

 

 

 

 

 

 

20 80歳の女性。脳血管障害発症後5年、要介護2。杖歩行は自立しているが、転倒予防を目的に通所リハビリテーションでの理学療法が開始された。
 転倒リスクの評価として適切なのはどれか。

1.FBS
2.KPS〈Karnofsky performance scale〉
3.PGCモラールスケール
4.SIAS
5.WCST

解答

解説
1. 〇 正しい。FBS(Functional Balance Scale)はBerg Balance Scale(BBS)とも呼ばれ、バランス機能を評価するために使用される。14項目について、0~4点の5段階で評価する。つまり、56点満点である。得点が高いほどバランス機能良好である。
2.× KPS〈Karnofsky performance scale〉は、全身状態をスコア化したものであり、主にがん患者の全身状態を評価する際に使用する。
3.× PGCモラールスケールは、高齢者の主観的幸福感を測定するための尺度である。高齢者が自分の人生に対してどの程度幸福に感じているかを測定するものとなっている。
4.× SIASは、脳卒中の機能障害を定量化するための評価である。運動機能だけでなく感覚障害、高次脳機能障害まで幅広く評価する事ができる。
5.× WCST(ウィスコンシンカード分類テスト:Wisconsin Card Sorting Test)は、計画をたてること・計画を達成するためにとるべき行動を決めること、状況の変化に対応すること、衝動的に行動することを抑えるなどの「前頭葉の実行機能」を調べる検査である。提示されたトランプのようなカードを色・数・形のどれに基づいて分類するかを判断する。高次脳機能障害の検査などに用いられる。

 

SIASについて詳しくはこちら↓
SIASとは?評価方法や評価項目は?【分かりやすく解説します】

 

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