第56回(R3) 理学療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11 健常成人に対して自転車エルゴメーターを用いて10Wattsから開始し、1分間に15Watts増加させるランプ負荷法で自覚的最大運動強度まで運動負荷を行った。その際の呼吸循環代謝指標の変化を図に示す。縦軸は一回拍出量、横軸は時間経過を示す。
 一回拍出量の変化を示すのはどれか。

解答

解説

 Ramp(ランプ)負荷試験(直線的漸増負荷法)とは、数秒から1分以内で負荷強度を少しずつ増やすことにより、ほぼ直線的に負荷強度を増加させる方法である。この方法の特徴は、無酸素性作業閾値(AT)を求める負荷法として、主に心肺運動負荷試験(CPX)に用いられる。健常成人の一回拍出量は50〜80mlである。運動初期に上昇するが、時間経過により一回拍出量は増加せず心拍数が増加する。したがって、選択肢1のグラフが正しい。

 

2.× 図は、二酸化炭素排泄量(乳酸生成量)の傾きを示している。運動開始時は、有酸素系(TCA回路)であるが、嫌気性代謝閾値(AT)を超えると、グラフの傾きが変わり、酸素を使わずに糖を乳酸に分解してエネルギーを生成させる無酸素系(解糖系)が働く。
3.× 呼吸交換比(RER:respiratory exchange ratio)を示している。呼吸交換比とは、肺呼吸における酸素摂取量に対する二酸化炭素排泄量の比率(二酸化炭素排泄量/酸素摂取量)で、呼吸商の間接的な指標となる。
4.× Vo/HR(酸素摂取量と心拍数の比)などの傾きを示している。運動開始時は上昇が急だが、ある程度の運動終了後になるにつれ横ばいに近くなる。
5.× 酸素摂取量の傾きを示している。 酸素摂取量は運動強度に比例して増加する。一定になったときに最大酸素摂取量に達する。

 

 

 

 

 

 

12 図に示す方法で股関節に30Nmの外転トルクを生じさせる等尺性筋力増強運動を行った。
 作用点Bの力として正しいのはどれか。

1.5.1kgf
2.10.2 kgf
3.15.3 kgf
4.20.4 kgf
5.25.5 kgf

解答

解説

 本症例は、30Nmの外転トルクを生じさせている。

まず、30Nmをkgf(重量キログラム)に変換する。

1kgf=9.8Nであるため、

30Nm ÷ 9.8N = 3.06kgf(重量キログラム)となる。
これが、モーメントM (外転トルク)である。

公式:【モーメントM(外転トルク)=力(kgf) × 支点からの距離(m)】

今回求めるべきは作用点Bの力であるため、上記の情報を代入する。
AーBの長さ30cm=0.3mである。
3.06kgf = B × 0.3m
B=10.2 (kgf)

したがって、選択肢2.10.2 kgfが正しい。

重力加速度

重力加速度は、約9.8m/sec2である。

1kgfは、約9.8Nである。

 

 

 

 

 

13 歩行パターンを図に示す。
 筋力低下を生じている筋はどれか。

1.下腿三頭筋
2.前脛骨筋
3.大殿筋
4.中殿筋
5.長内転筋

解答

解説


1.× 下腿三頭筋が筋力低下している場合は、蹴り返しが困難となり、踵足歩行を呈する。
2.× 前脛骨筋が筋力低下している場合は、鶏歩を呈する。鶏歩は、つま先を引きずり、ぱたんぱたんと音をたてて歩く様子が見られる。股関節は強く屈曲し、膝を高く挙上する姿勢となる。歩幅と歩隔は正常のことが多い。ちなみに、歩隔とは、歩く時の両足間の横の幅のことである。歩幅とは、一側の踵が接地してから他側の踵が接地するまでの距離を示す。
3.〇 正しい。大殿筋歩行は、立脚相に体幹後傾(股関節伸展位)を呈する。立脚期に体幹前屈位(股関節屈曲位)で姿勢を保持できないため、急激に腹部を前に突き出すようにして股関節を最大伸展させロックすることが特徴である。筋ジストロフィーなどでみられる。
4.× 中殿筋が筋力低下している場合は、トレンデレンブルグ徴候もしくはデュシェンヌ歩行を呈する。トレンデレンブルグ徴候とは患肢で片脚立ちをしたとき、健肢側の骨盤が下がる現象である。
5.× 長内転筋は股関節外転筋群と同時に立脚相の始めに骨盤を安定させる作用する。その後、立脚後期と遊脚中期に骨盤を安定させるために働く。長内転筋の筋力低下で跛行が生じる例は少ない

筋ジストロフィーとは?

筋ジストロフィーとは、骨格筋の 壊死 ・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称である。Duchenne型筋ジストロフィーは、筋ジストロフィー症の中で最も頻度が高く、50~60%を占める。病状が進行していくと股関節・膝関節の屈曲拘縮および足部の尖足内反変形が起こる。早期に短縮を起こしやすい筋としては、大腿筋膜張筋、ハムストリングス、下腿三頭筋が挙げられる。

 

 

 

 

 

 

14 75歳の女性。左膝痛を訴え、関節可動域が伸展-10°、屈曲95°に制限されている。来院時のエックス線写真を下図に示す。
 膝関節拘縮に対する治療で正しいのはどれか。

1.CPMを行う。
2.大腿を固定して伸張を加える。
3.疼痛を感じるレベルの矯正力を加える。
4.動的膝装具は用いない。
5.連続ギプス法では1日ごとに5°ずつ矯正位を強める。

解答

解説


本症例は左側変形性膝関節症の内反変形が著明に見られている。内側の関節裂隙の狭小化・内反膝がみられる。

1.× CPM(Continuous Passive Motio:持続的関節他動訓練器)の積極的使用はしない。主な適応疾患として、人工膝関節置換術や人工股関節置換術、膝靭帯再建術、膝関節授動術、大腿骨骨折術といった手術後(手術後1~3日間程度)である。CPMで曲げる角度や速度、時間を設定し、荷重をかけずに関節の屈伸運動を行うことができる。手術後1~3日間程度、CPMを使用した関節の訓練を行い、段階的に、筋肉、歩行のリハビリへと移っていく。
2.〇 正しい。大腿を固定して伸張を加える。なぜなら、大腿を固定して脛骨を遠位に伸張させることで、膝関節の関節裂隙を広げながら、大腿四頭筋、ハムストリングスのストレッチを行うことができるため。
3.× 疼痛を感じない強度の強さの強制力を加えるのが望ましい。なぜなら、疼痛を感じる負荷は過負荷であり、関節可動域制限(防御性収縮)や痛みに対しての過敏な反応につながるため。
4.× 内外側に支柱のついた動的膝サポーター足底板を使用する事が多い。なぜなら、膝関節の不安定感を改善し、外側動揺(ラテラル・スラスト)を防ぐことができるため。しかし、本症例よりも変形が重症例の場合、十分な除痛が得られなかったり、効果が実感できないなど理由で、継続した装具装着をしてもらえないことが多い。
5.× 連続ギプス法とは、「1日ごと」ではなく、3~5日ごとに5~10°分の矯正位を強めたものに順次交換していく方法である。強固に持続伸張を行うことはできるが疼痛を伴う。「下肢」ではなく、上肢にごくまれに利用されることがある。ちなみに、ギプスの種類は主に7種類あり、①有窓ギプス、②架橋ギプス、③歩行ギプス包帯、④免荷ギプス、⑤ギプス副子、⑥ギプスヘッド、⑦矯正ギプス包帯である。矯正ギプス包帯とは、新生児の内反足や垂直距骨といった重度の足変形、あるいは内反手などの矯正後の保持に用いられる。

 

(※写真引用:酒井医療株式会社様HP「膝用CPMシリーズ」)

変形性膝関節症とは?

変形性膝関節症は、①疼痛、②可動域制限、③腫脹、④関節変形などがみられる。進行度にかかわらず、保存療法が第一選択となる。減量や膝に負荷のかかる動作を回避するような日常生活動作指導、筋力トレーニングやストレッチなどの運動療法、装具や足底板などの装具療法、鎮痛薬や関節内注射などの薬物療法が行われる。

 

 

 

 

 

 

次の文により15、16の問いに答えよ。
 45歳の女性。3日前、自宅で荷物を持ち上げた際に、腰部と左下腿の後面から足背外側部にかけての強い痛みがあった。安静にしていたが、疼痛が軽快しないため受診し、腰椎椎間板ヘルニアと診断された。

15 最も疑われる病変部位はどれか。

1.L1/2
2.L2/3
3.L3/4
4.L4/5
5.L5/S1

解答

解説

腰椎椎間板ヘルニアとは?

椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

本症例は、腰部と左下腿の後面から足背外側部にかけての強い痛みがあった。神経の皮膚分節から推測できる。

1.× L1/2( L2:鼠径部)である。
2.× L2/3(L3:大腿前面中央部)である。
3.× L3/4(L4:膝蓋骨~脛骨内果)である。
4.× L4/5 (L5:足背・外果・母指)である。
5.〇 正しい。L5/S1(S1:下腿後面・足外側部・足底)である。

(※図引用:「看護roo!看護師イラスト集」より)

 

6 COMMENTS

匿名

コメント失礼します
とても勉強に役立っています
お暇な時間があったらいいので午後の解説も有れば嬉しいです!

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
更新の励みになります!
午後の解説も、当ブログに挙げてあります。
こちらになります。
「https://asitahe.com/56rigaku1-5national-expmanation-pm/」

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ブログ運営当初、問題と答えだけ最初に公開して、解説は毎日5問程度追記して書いていくスタイルでした。
まだ解説をまるっきり書いていない記事に対した「これは解説とは言いませんよね?」というコメントでした。
そのため、急いで他の記事の解説を書き、頑張ろうと刺激になったコメントでもあります。
ジョリー様含め、皆様が不快に思われるようでしたら、上記コメント含め消去させていただきますが、勝手ながらいただいたコメントはできるだけ残し置きたいと思っています。擁護していただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

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