第55回(R2) 理学療法士国家試験 解説【午後問題86~90】

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86 肩腱板断裂で陽性となるのはどれか。

1.Adson テスト
2.drop armテスト
3.Finkelstein テスト
4.Phalenテスト
5.Thomsen テスト

解答
解説
1.× Adson(アドソン)テストの陽性は、胸郭出口症候群を疑う。方法は、両手を膝に置き、頚椎を伸展し、患側へ回旋を加え、深吸気位で息を止めさせたときに、橈骨動脈の脈拍をみる。橈骨動脈が減弱もしくは消失すれば陽性である。
2.〇 正しい。drop arm(ドロップアーム)テストの陽性は、肩腱板断裂を疑う。方法は、座位で被験者の肩関節を90°より大きく外転させ、検者は手を離す。
3.× Finkelsteinテスト(フィンケルシュタインテスト)の陽性は、狭窄性腱鞘炎を疑う。方法は、母指を中に入れて手を握り手関節の尺屈を強制させる。
4.× Phalen(ファレン)テストの陽性は、手根管症候群を疑う。方法は、手関節の掌屈位保持を1分間持続する。
5.× Thomsen(トムセン)テストの陽性は、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)を疑う。方法は、握りこぶしにして手関節を背屈させ、検者が掌屈させようとする。

 

 

 

87 疾患と頻度の多い症候との組合せで正しいのはどれか。

1.Alzheimer 型認知症:羽ばたき振戦
2.Huntington病:線維束性収縮
3.多発性硬化症:舞踏運動
4.筋萎縮性側索硬化症:静止時振戦
5.多系統萎縮症:起立性低血圧

解答
解説
1.× 羽ばたき振戦は、「Alzheimer型認知症」ではなく、主に肝性脳症でみられる。羽ばたき振戦とは、手関節を背屈させたまま手指と上肢を伸展させ、その姿勢を保持するように指示すると、「手関節及び中指関節が急激に掌屈し、同時に、元の位置に戻そうとして背屈する運動」が認められる。手関節や手指が速くゆれ、羽ばたいているようにみえるので、このように呼ばれる。
2.× 線維束性収縮は、「Huntington病」ではなく、主に筋萎縮性側索硬化症(ALS)でみられる。線維束性収縮とは、運動神経や脊髄の運動神経細胞(脊髄前角細胞)に障害が起きた時に筋肉が細かくぴくぴくと小さなけいれんのような動きを生じることである。
3.× 舞踏運動は、「多発性硬化症」ではなく、中枢神経の異常(錐体外路障害が原因)によって起こる不随意運動の一つである。手をチョコチョコと動かしたりすることが多い。代表疾患としては脳性麻痺ハンチントン舞踏病(Huntington病)がある。
4.× 静止時振戦(安静時振戦)は、「筋萎縮性側索硬化症」ではなく、主にパーキンソン病でみられる。静止時振戦(安静時振戦)とは、身体を安静にしているときに起こるふるえである。寝ていたり立っていたり、椅子に座っていたりという日常的にくつろいでいるときに出現する。ふるえている手や足を意図的に動かすとふるえが少なくなる特徴がある。
5.〇 正しい。多系統萎縮症は、起立性低血圧が起こり得やすい疾患である。多系統萎縮症とは、神経系の複数の系統(小脳大脳基底核自律神経など)がおかされる疾患で、3つのタイプがある。小脳や脳幹が萎縮し、歩行時にふらついたり呂律がまわらなくなる小脳失調型、大脳基底核が主に障害され、パーキンソン病と同じような動作緩慢、歩行障害を呈する大脳基底核型、もうひとつは自律神経が主に障害され起立性低血圧や発汗障害、性機能障害などがみられる自律神経型である。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋委縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

88 視神経脊髄炎で正しいのはどれか。

1.再発と寛解を繰り返す。
2.レム睡眠行動異常を生じる。
3.免疫不全状態で罹患しやすい。
4.JCウイルス感染により発症する。
5.抗コリンエステラーゼ薬で症状が改善する。

解答
解説

 視神経脊髄炎とは、神経の中でも主に視神経と脊髄を繰り返し障害する病気のことである。以前は多発性硬化症の一部と考えられているほど症状の特徴が似ている。血液中のアクアポリン4抗体が病気の原因と考えられていて、主に女性に発症することが多い。しつこいしゃっくりや吐き気などが病気の始まりだとされており、症状は視神経や脊髄の炎症が何度も出現する。よって、選択肢1.再発と寛解を繰り返す。が正しい。視神経脊髄炎は、視神経炎による急性の視野障害(両耳側半盲や水平性半盲)、急性横断性脊髄炎(対麻痺、分節性感覚脱失、膀胱直腸障害、自律神経障害など)が起こる。

2.× レム睡眠行動異常を生じるのは、主にレビー小体型認知症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症である。レム睡眠行動異常とは、レム睡眠における筋トーヌスの抑制が起こらないため、夢の内容に従った異常行動が出現する。
3.× 免疫不全状態で罹患しやすいのは、主に感染症(特にウイルスや日和見〈ひよりみ〉感染)、自己免疫疾患、悪性腫瘍などである。
4.× JCウイルス(ポリオーマウイルス科ベータポリオーマウイルス属に分類されるエンベロープを持たないDNAウイルス)感染により発症するのは、進行性多巣性白質脳症である。
5.× 抗コリンエステラーゼ薬で症状が改善するのは、主に重症筋無力症である。抗コリンエステラーゼ薬とは、アセチルコリンの分解を阻害し、認知機能の低下を抑制する薬である。したがって、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症でも使用される。

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

89 筋強直性ジストロフィーで正しいのはどれか。

1.5歳までに発症する。
2.伴性劣性遺伝である。
3.顔面筋は侵されにくい。
4.ミオトニアがみられる。
5.認知機能は障害されない。

解答
解説
1.× 5歳までに発症するのは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである。ちなみに、筋強直性ジストロフィーは15~40歳での発症が多い。
2.× 伴性劣性遺伝であるのは、デュシェンヌ型ベッカー型筋ジストロフィーである。ちなみに、筋強直性ジストロフィーは常染色体優性遺伝の疾患である。
3.× 顔面筋は侵されにくいのは、ベッカー型肢帯型筋ジストロフィーである。ちなみに、筋強直性ジストロフィーは、顔面筋の萎縮による斧様顔貌が特徴である。
4.〇 正しい。筋強直性ジストロフィーは、ミオトニアがみられる。
5.× 筋強直性ジストロフィーは、認知機能は障害される。他にも福山型も発症する。時にデュシェンヌ型も発症する。

筋強直性ジストロフィーとは?

筋強直性(筋緊張性)ジストロフィーとは、進行性筋ジストロフィー内の一種で、常染色体優性遺伝(男女比ほぼ1:1)で大人で最も頻度の高い筋ジストロフィーである。そもそも進行性筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性及び壊死を主病変とし、進行性の筋力低下や萎縮をきたす遺伝性疾患である。

【筋強直性ジストロフィーの特徴】
①中枢神経症状(認知症状、性格変化、傾眠)
②顔面筋の筋萎縮により西洋斧様顔貌(顔の幅が狭くなった顔貌)、嚥下障害、構音障害
③前頭部若禿(前頭部の脱毛)
④遠位優位の筋委縮
⑤ミオトニア(舌の叩打・母指球・把握)
⑥心伝導障害(房室ブロックなど)
⑦軽症例:糖尿病(耐糖能異常)、白内障がみられる。

(参考:「筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー」難病情報センター様HPより)

 

 

 

90 心室中隔欠損症で正しいのはどれか。

1.チアノーゼを生じる。
2.動脈管が開存している。
3.卵円孔の閉鎖不全である。
4.肺血流量は正常時よりも多くなる。
5.大動脈から肺動脈に直接血液が流れる。

解答4
解説

 心室中隔欠損とは、 左室と右室とを分けているのが、心室中隔と呼ばれる部分で、そこに穴があいている病気である。 先天性心疾患のなかで、もっとも多い病気で、日本では先天性心疾患の約6割を占めるといわれている。穴を通して左心室から右心室、肺動脈へ動脈血の一部が流れ込む。穴が小さければ無症状のことが多いが、中程度に大きければ息切れ疲れやすさなど、大きな穴が開いているならば多呼吸哺乳困難体重増加不良発汗などの症状を呈す。

1.× チアノーゼが必ずしも生じるとは言い難い。なぜなら、心室中隔欠損の軽度の場合(穴が小さい場合)、無症状のことが多いため。一方、心室中隔欠損の重度の場合(穴が大きい場合やフォロー4徴候:心室中隔欠損・大動脈騎乗・肺動脈狭窄・右室肥大を伴う場合)は、チアノーゼを伴いやすい。ちなみに、チアノーゼとは、皮膚や粘膜が青紫色である状態をいう。 一般に、血液中の酸素濃度が低下した際に、爪床や口唇周囲に表れやすい。
2~3.× 動脈管は、ボタロー管ともいう。動脈管(ボタロー管)は、胎児期において肺動脈と大動脈とを繋ぐ血管であり、胎児循環において静脈管(胎盤からの静脈血を大静脈に送り込む静脈)、卵円孔とともに重要な役割を果たす。動脈管が開存しておらず、卵円孔の閉鎖不全でない。ちなみに、動脈管が開存しているのは動脈管開存症であり、また卵円孔の閉鎖不全は心房中隔欠損症である。
4〇 正しい。肺血流量は正常時よりも多くなる。なぜなら、収縮期に左室から右室へ動脈血が流入するため。
5.× 大動脈から肺動脈に直接血液が流れない。上記にも述べたが、心室中隔欠損は、穴を通して左心室から右心室肺動脈へ動脈血の一部が流れ込む状態である。ちなみに、大動脈から肺動脈に直接血液が流れるものは、動脈管開存症である。

(※図引用:「看護roo!看護師イラスト集」より)

 

4 COMMENTS

ot

コメント失礼します90番の1のチアノーゼを生じるが答えではないのに、解説にチアノーゼを生じると書いてあるのはなぜですか?

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する
ot

コメント失礼します。
第55回午後の共通 問88の選択肢5なんですが
トンプソンではなく、トムセンではないでしょうか?
内容はトムセンテストなんですが、トンプソンだとアキレス腱損傷のテストになってしまうと思います。

偶然、見つけてしまったのでコメントさせて頂きました。今年、国家試験を受験するので勉強の為に大川さんの知識を使わせて頂いてます。
ありがとうございます

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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大川 純一 へ返信する コメントをキャンセル

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