第53回(H30) 作業療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

 

16 26歳の女性。結婚後に転居したアパートが古く汚れが目立っていた。食事の後片付け、掃除及び手洗いをいくらやっても汚れが落ちていないのではないかと不安を感じるようになった。これらに長時間を要するようになり、生活に支障がではじめたため、夫に勧められて精神科を受診した。
 作業療法での対応として適切なのはどれか。

1.自由度の高い作業を提供する。
2.正確さを必要とする作業を提供する。
3.手洗い行為が始まれば作業を中止させる。
4.手洗い行為の原因についての自己洞察を促す。
5.作業工程の確認は作業療法士が本人に代わって行う。

解答1

解説

本症例のポイント

・26歳の女性。
・結婚後に転居したアパートが古く汚れが目立っていた。
食事の後片付け、掃除及び手洗いをいくらやっても汚れが落ちていないのではないかと不安を感じるようになった。
・これらに長時間を要するようになり、生活に支障がではじめた。
→本症例は強迫性障害が疑われる。強迫性障害は、「不合理だとわかっていてもこだわって確認してしまう」という特徴がある。作業療法では、他のことに目を向けさせることによりこだわりを軽減することを目的とする。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。認知行動療法とは、ベックによって精神科臨床に適応された治療法である。例えば、うつ病患者の否定的思考を認知の歪みと考え、その誤りを修正することによって症状の軽快を図る。認知行動療法の中に、系統的脱感作法がある。系統的脱感作法とは、患者に不安を引き起こす刺激を順に挙げてもらい(不安階層表の作成)、最小限の不安をまず想像してもらう。不安が生じなかったら徐々に階層を上げていき、最終的に源泉となる不安が消失する(脱感作)ことを目指す手法である。

1.〇 正しい。自由度の高い作業を提供する。強迫観念(細部へのこだわり)が軽減する可能性がある。
2.× 正確さを必要とする作業を提供する優先度は低い。なぜなら、ますます患者の順序手順へのこだわりを助長する可能性が高まるため。
3.× 手洗い行為が始まれば作業を中止させる優先度は低い。なぜなら、手洗い行為を中止させることで、ますます気になり、症状へのとらわれを助長させてしまうおそれがあるため。手洗い(強迫行為)が始まってもなるべく早く作業に復帰するように促すことが重要である。
4.× 手洗い行為の原因についての自己洞察を促す優先度は低い。なぜなら、手洗い行為にますます関心が向いてしまうため。自己洞察とは、自分についての洞察(自分の心、体の状態を把握する)を得ることである。他のことに関心が向けられるように促す。
5.× あえて作業工程の確認は作業療法士が本人に代わって行う優先度は低い。なぜなら、作業工程の低下は一般的にみられないため。作業が進まないのは、強迫観念による影響が大きい。また、「作業工程の確認を作業療法士に行ってもらわないと不安である」という状況を作ってしまい、患者は何度も確認を要求するようになるおそれがある。

 

 

 

 

 

 

 

17 21歳の女性。大学生で単身生活。日中は講義に出席しているが、帰宅すると過食と自己誘発性嘔吐に時間を費やし、睡眠時間が取れず、遅刻するなど日常生活に支障をきたしている。心配した母親に連れられて精神科を受診した。過食後の自己嫌悪感も強く、抗うつ薬を処方されたが、最近ではリストカットなどの自傷行為も見られるようになった。ある日作業療法室で本人が近況について報告してきた。
 その時の作業療法士の本人の代用として最も適切なのはどれか。

1.過食の理由を尋ねる。
2.今後の自傷行為を禁じる。
3.講義の出席状況を把握する。
4.心配している気持ちを伝える。
5.日々のスケジュール管理方法を指導する。

解答4

解説

本症例のポイント

・21歳の女性(大学生、単身生活)
・帰宅すると過食自己誘発性嘔吐に時間を費やし、睡眠時間が取れず、遅刻するなど日常生活に支障をきたしている。
・過食後の自己嫌悪感も強く、抗うつ薬を処方されたが、最近ではリストカットなどの自傷行為も見られるようになった。
→本症例は、摂食障害とそれによる抑うつが疑われる。抑うつに関しては自傷行為もみられていることから、うつ病の急性期の対応も必要と考えられる。

1.× 過食の理由を尋ねる必要はない。むしろ、摂食障害の患者は、一日中食べ物のことばかりを考えていることが多く、作業療法時には食べ物以外に関心を向けることが必要である。
2.× 今後の自傷行為を「禁じる」のではなく、予防(危険物を使用しない作業療法を行うなど)を行う。また、自傷行為が行われていないか身体状況に注意する。
3.× 講義の出席状況を把握する必要はない。なぜなら、本症例は「睡眠不足により遅刻」していることが設問に記載されている。出席できていないことをあえて聞くことは、さらに自責に追い込み、抑うつ症状が悪化する可能性がある。
4.〇 正しい。心配している気持ちを伝える。心配していることを伝え、治療関係を築くことが適切である。摂食障害では、異常なまでに痩せることで様々な身体的不調があるはずであるが、自分自身ではそれに気付かなくなってしまう状態(失感情)に陥りやすい。また自己評価が低く認知の歪みがみられることから、自己表現を促すことで自己肯定感を高めることにつながる。まずは、本人の気持ちを受け止め、信頼関係を築くことが重要である。
5.× 日々のスケジュール管理方法を指導するのは現段階で優先度は低い。現在、過食嘔吐による睡眠不足や抑うつ状態によりスケジュール通りに生活することは困難である。そのため、スケジュールを管理できないことを自覚していっそう自尊心を低下させてしまう恐れがある。まずは休息が大切である。

摂食障害とは?

摂食障害には、①神経性無食症、②神経性大食症がある。共通して肥満恐怖、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤の使用抑うつの症状がみられる。作業療法場面での特徴として、過活動、強迫的なこだわり、抑うつ、対人交流の希薄さ、表面的な対応がみられる。患者の性格として、細かい数値へのこだわり(①体重のグラム単位での増減、②この食べ物はあの食べ物より〇カロリー多いなど)がみられる。

【摂食障害の作業療法のポイント】
①ストレス解消、②食べ物以外へ関心を向ける、③自身の回復(自己表出、他者からの共感、自己管理)、④過度の活動をさせない、⑤身体症状、行動化に注意する。

【性格的特徴】
①強情、②負けず嫌い、③執着心が強い、③極端な行動に及びやすい。

 

 

 

 

 

 

 

18 20歳の男性。幼少期は1人遊びが多かった。小学校から高校までは成績は概ねよかったものの、正論的発言が多い、融通が利かないなどによって集団になじめず、いじめを受けることも多かった。大学に入ると、講義科目は問題ないが、演習科目のグループワークで相手に配慮した発言がうまくできず、メンバーから避けられることが多くなった。大学2年生になると、過去のいじめ体験を思い出してパニックになることが増え、自宅の自室に引きこもる状態となったため、母親に連れられて精神科を受診し外来で作業療法が開始された。
 この患者の作業療法で適切でないのはどれか。

1.ルールや取り決めを明示しておく。
2.興味や関心がある活動導入する。
3.作業手順を言葉で細かく伝える。
4.心理教育プログラムを行う。
5.パラレルな場を用いる。

解答3

解説

本症例のポイント

・20歳の男性
・幼少期は1人遊びが多かった。
・小学校から高校までは成績は概ねよかった(言語の遅滞や知能低下なし
対人関係に問題あり(正論的発言が多い、融通が利かないなど)
・大学2年生:過去のいじめ体験を思い出してパニックになることが増え、自宅の自室に引きこもる状態となった
→本症例は、自閉症スペクトラム障害(Asperger症候群)が疑われる。自閉症スペクトラム障害とは、正常な社会的関係を構築することができず、言葉の使い方に異常がみられるか、まったく言葉を使おうとせず、強迫的な行動や儀式的な行動がみられる病気である。 自閉スペクトラム症の患者は、他者とコミュニケーションをとったり関係をもったりすることが苦手である特徴を持つ。

1.〇 正しい。ルールや取り決めを明示しておく。なぜなら、「融通が利かない」ため本人の混乱が少なくなる。
2.〇 正しい。興味や関心がある活動導入する。なぜなら、「幼少期は1人遊び」が多く、興味関心のある作業はスムーズに導入できる可能性が高いため。
3.× 作業手順を「言葉」で細かく伝えるのではなく「文章・視覚情報」の方が良い。なぜなら、本症例は「言語の遅滞や知能低下ない」ものの「正論的発言が多い、融通が利かない」などの様子が見られる。明確に文章にしておくことで混乱が少なくなる。
4.〇 正しい。心理教育プログラムを行う。心理教育プログラムで、日常生活の場面での適切な行動を学習させることは有用である。心理教育プログラムとは、病気の概要や治療方法・経過を知ることで病気に対する理解を深め、今後の日常生活での対処法、再発防止について学ぶものである。また、同じ病気を抱える人たちとの話し合いを通して、人との関係も作っていく。本症例は、「対人関係に問題ある」ためまずは個別で対応することも検討される。
5.〇 正しい。パラレルな場を用いる。パラレルな場とは、場を共有しながら集団内での課題や制約を設けず、個別に治療者と課題を進めていく治療構造である。団内での適応が難しい自閉症スペクトラム障害の患者には対応できる。

広汎性発達障害とは?

 広汎性発達障害とは、相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンにおける質的障害、および限局した常同的で反復的な関心と活動の幅によって特徴づけられる一群をいう。現在の分類では「自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害」に含まれている。

広汎性発達障害、およびその下位分類である自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症は、「自閉スペクトラム症」とまとめられた。
【診断基準の要点】
①「社会及び感情の相互性の障害」「社会的相互作用で用いられる非言語的コミュニケーションの障害」「発達レベル相応の関係を築き維持することの障害」の3つがすべて込められること。
②行動、興味活動の、限局的で反復的な様式が認められること。

 

 

 

 

 

 

 

19 67歳の女性。Alzheimer型認知症。HDS-Rは18点で特に見当識と遅延再生とに低下を認めた。自宅から1人で外出する際によって保護されることが多くなり、送迎によって通所リハビリテーションに通っている。作業療法では認知機能のリハビリテーションを実施している。
 記憶障害を踏まえた対応で最も適切なのはどれか。

1.「訓練室に行きましょう」と声をかけて訓練室まで先導してもらう。
2.家族写真を一緒に見ながら「この方は誰ですか」と尋ねる。
3.作業療法の開始時に「私を覚えていますか」と尋ねる。
4.「もう◯月の◯日ですね」と伝えて日付を確認する。
5.「前回の作業療法では何をしましたか」と尋ねる。

解答4

解説

本症例のポイント

・67歳の女性(Alzheimer型認知症
・HDS-R:18点(特に見当識と遅延再生が低下)
・自宅から1人で外出する際によって保護されることが多くなり、送迎によって通所リハビリテーションに通っている。
→HDS-R (改訂長谷川式簡易知能評価スケール)では、20点以下(本症例は18点)が認知症であると判断される。本症例は、軽度のAlzheimer型認知症と疑われる。Alzheimer型認知症は、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。Alzheimer型認知症の患者では、現在でもできる動作を続けられるように支援する。ちなみに、休息をとることや記銘力を試すような質問は意味がない。

1~3.5× 「訓練室に行きましょう」と声をかけて訓練室まで先導してもらう。家族写真を一緒に見ながら「この方は誰ですか」と尋ねる。作業療法の開始時に「私を覚えていますか」と尋ねる。「前回の作業療法では何をしましたか」と尋ねる。各選択肢は、「記銘力を試すような質問」と受け取られかねず、自尊心を傷つけたり、患者の不安を助長させる可能性が高い。
4.〇 正しい。「もう◯月の◯日ですね」と伝えて日付を確認することは、記憶障害を踏まえた対応で最も適切である。安心感を得られ不安や戸惑いを軽減でき、また能力維持だけでなく良好な関係を築けやすい。

リアリティ・オリエンテーション法(現実見当識訓練)とは?

「今がいつなのか?」「ここはどこなのか?」「周りの人が誰なのか?」がわからない見当識障害の症状があると、患者さんは強い不安を感じる。医療スタッフが日常会話の中で患者さんに正しい情報を繰り返し伝えることにより、現実見当識の維持が期待できる。これを「リアリティ・オリエンテーション法」いう。
例)「〇〇さん、ちょっと外を見てください、今日はいいお天気ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

20 30歳の男性。統合失調症。3週間前に工場で働きはじめた。外来作業療法ではパソコン使用した認知リハビリテーションを継続している。ある時、同じ作業療法に参加する2人の患者から同時に用事を頼まれ、混乱した様子で相談に来た。
 この患者の職場における行動で最もみられる可能性があるのはどれか。

1.挨拶ができない。
2.心気的な訴えが多い。
3.体力がなく疲れやすい。
4.すぐに仕事に飽きてしまう。
5.仕事の段取りがつけられない。

解答5

解説

本症例のポイント

・30歳の男性(統合失調症)
・3週間前:工場で働きはじめた(就労)。
外来作業療法:パソコン使用した認知リハビリテーションを継続している。
・ある時、同じ作業療法に参加する2人の患者から同時に用事を頼まれ、混乱した様子で相談に来た。
→本症例は、統合失調症の回復後期~維持期の移行中である。統合失調症患者は、物事を順序立てて考えることが難しい。したがって、一度にたくさんの課題に直面すると混乱する。一つの作業を繰り返すことは可能なことが多いが、複雑な工程や同時並行で作業を進めることは困難である。

1.× 挨拶ができないと断定できない。むしろ、「同じ作業療法に参加する2人の患者から同時に用事を頼まれる」ほどであるため、人間関係は良好な印象を受ける。
2.× 心気的な訴えが多いと断定できない。心気症状は、身体の徴候や症状の誤った解釈のため、病気にかかるあるいはかかっているとの思い込みが6か月以上持続しており、それが著しい苦痛や機能の障害を呈している精神障害である。例:病気ではないのに「自分は癌かもしれない」と思い込むなど。神経症性障害にみられやすい。神経症性障害(神経症)とは、不安障害、解離性障害、離人症性障害、身体表現性障害などを総称していう。心因性の機能障害であり、ストレスが原因になり、様々な症状をあらわれる。
3.× 体力がなく疲れやすい時期は急性期~回復前期である。回復期後期には、心身機能の回復は改善されていることが多い。
4.× すぐに仕事に「飽きてしまう」のではなく「飽きがこない(慣れがない)」のが特徴である。作業療法場面では、①柔軟性がない、②計画性がない、③慣れがない、④同時並行できない、⑤作業量に変動がある。
5.〇 正しい。仕事の段取りがつけられないことは、職場における行動で最もみられやすい。統合失調症患者は、物事を順序立てて考えることが難しい。したがって、一度にたくさんの課題に直面すると混乱する。一つの作業を繰り返すことは可能なことが多いが、複雑な工程や同時並行で作業を進めることは困難である。

 

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