第51回(H28) 作業療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

次の文により10、11の問いに答えよ。
 5歳の男児。脳性麻痺。麻痺のタイプは痙直型両麻痺であり、図のように両手支持なしで座ることができる。

11 この児で骨盤後傾を修正し、座位姿勢の改善を図るために最もストレッチが必要な筋はどれか。

1. ハムストリングス
2. 大腿筋膜張筋
3. 大腿直筋
4. 前脛骨筋
5. 薄筋

解答1

解説

本症例のポイント

本症例の姿勢は、円背・骨盤後傾がみられ、両側の膝が軽度屈曲している状態である。問題文より、「骨盤後傾の修正」する筋を選択する。したがって、選択肢1.ハムストリングスが正しい。ちなみに、ハムストリングスは、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋の総称で、股関節の伸展と膝関節の屈曲に関与する。短縮すると骨盤前傾・膝関節伸展の動きを妨げる。

【痙直型の特徴】
①機敏性の低下、筋力損失および脊髄反射の亢進など。
②脊髄レベルでの相反神経作用の障害(動筋と拮抗筋が同時に過剰収縮を起こす病的な同時収納や、痙直の強い拮抗筋からの過利な緊張性相反性抑制による動筋の機能不全)
③両麻痺は両下肢の麻痺に、軽~中等度の両上肢、体幹の麻痺を伴うことが多い。

2.× 大腿筋膜張筋は、股関節屈曲・内旋・外転、膝関節伸展に作用する。ちなみに、【起始】上前腸骨棘と大腿筋膜の内側、【停止】腸脛靭帯、脛骨外側顆前面の粗面である。
3.× 大腿直筋は、膝関節伸展・股関節屈曲に作用する。ハムストリングスとは拮抗する。ちなみに、【起始】下前腸骨棘および寛骨臼の上縁、【停止】膝蓋骨、脛骨粗面である。
4.× 前脛骨筋は、足関節背屈・内返しに作用する。ちなみに、【起始】脛骨外側面、下腿骨間膜、【停止】内側楔状骨と第1中足骨の底面である。
5.× 薄筋は、股関節内転・膝関節屈曲と内旋に作用する。ちなみに、【起始】恥骨結合の外側、【停止】脛骨の内側面。
停止腱は鵞足に加わる。

 

 

 

 

 

 

12 70歳の男性。脳血管障害による左片麻痺。車椅子からベッドへの移乗は介助バーを使用して1人で何とか可能である。
 初回評価時の車椅子からベッドへの移乗場面において、ベッド、車椅子、介助バー及び作業療法士の相対的な位置関係で適切なのはどれか。

解答4

解説

車いすからベッドへの移乗の流れ

①非麻痺側がベッド側となるよう車椅子を斜めにベッドにつける。
②介助者は患者の動作の邪魔にならず、バランスを崩してもすぐに手が出せる前方ややや斜めの位置に立ち、見守る。
③介助バーは、ベッド移乗時に非麻痺側の手で利用できる側につける。

本症例は、左片麻痺であり、車椅子からベッドへの移乗の流れ①②③をすべて当てはまる選択肢4が正しい。

 

 

 

 

 

13 27歳の女性。20歳ころに友人に勧められて覚醒剤を使用した。その後、常用するようになり、逮捕および服役を経験した。釈放後に民間のリハビリ施設を利用しながらアルバイトをしていた。1か月前から同僚とのトラブルが続き、最近になり幻覚妄想様の発言が出現したため、父親に連れられて精神科を受診し、入院となった。入院後3週目に作業療法が処方された。
 導入初期のプログラムとして適切でないのはどれか。

1. 疾病について学習する。
2. 生活技能訓練に参加する。
3. ピアサポーターと交流する。
4. 軽運動プログラムに参加する。
5. グループリーダーを体験する。

解答5

解説

本症例のポイント

・27歳の女性。
・20歳ころ:覚醒剤使用(常用し服役を経験)
・釈放後:民間のリハビリ施設を利用しながらアルバイトをしていた。
・1か月前:トラブルが続き幻覚妄想様の発言が出現し入院。
・入院後3週目:作業療法が処方された。
→本症例は、覚醒剤依存症その治療後の再燃現象(フラッシュバック)が疑われる。フラッシュバックとは、精神作用物質(覚醒剤など)の常用者に、睡眠不足・過労などのストレスがかかると、薬剤を使用しなくても使用した時と同様の精神症状を呈することをいう。作業療法は、初期は身体的機能を回復させて欲求不満耐性を高め、徐々に自助グループへの方向づけを行うことが重要である。

1.〇 正しい。疾病について学習する。なぜなら、疾患について理解を深めることは再発予防につながるため。
2.〇 正しい。生活技能訓練に参加する。なぜなら、今回の再燃の原因は、職場での対人関係の問題であるため。社会生活技能訓練(SST:Social Skills Training:社会生活技能訓練)とは、患者の社会生活でのコミユニケーション技能を訓練する療法である。
3.〇 正しい。ピアサポーターと交流する。なぜなら、同じ背景をもつ仲間に話を聞いてもらえるという安心感・共感・仲問の話を自らに当てはめた際の気づきが得られ、成長や回復の助けとなるため。ちなみに、ピアサポートとは、自助グループ活動の一つであり、同じ問題や障害を背景にもつ人が、仲間同士として支え合うこという。ピアサポートを行う人たちのことを、「ピアサポーター」という。
4.〇 正しい。軽運動プログラムに参加する。作業療法は、初期は身体的機能を回復させて欲求不満耐性を高め、徐々に自助グループへの方向づけを行うことが重要である。
5.× グループリーダーを体験するのは時期尚早である。なぜなら、ストレスがかかりフラッシュバックが再燃しやすいため。グループリーダーは、集団認知行動療法(認知行動療法)において、解説役・進行役などを結びつける人をいう。参加者の意見をまとめたり進行したりと、比較的ストレスがかかりやすい立ち位置である。フラッシュバックとは、精神作用物質(覚醒剤など)の常用者に、睡眠不足・過労などのストレスがかかると、薬剤を使用しなくても使用した時と同様の精神症状を呈することをいう。

 

 

 

 

 

 

次の文により14、15の問いに答えよ。
 16歳の女子。6か月前から特にきっかけはないのに次第に手洗いと入浴の時間が長くなった。1か月前から手洗いに1時間半以上を使う状況となり、自分でもおかしいと感じるようになった。母親が途中でやめさせると余計に不安になり、最近ではやめさせようとすると反発して暴言を吐くようになった。そのため父親が本人を説得して精神科を受診した。

14 この患者が示す症状はどれか。

1. 心気妄想
2. 強迫行為
3. 常同行為
4. チック障害
5. 精神運動興奮

解答2

解説

本症例のポイント

・16歳の女子。
・6か月前:きっかけなく手洗いと入浴の時間が長くなった。
・1か月前:手洗い1時間半以上を使う状況で、自分でもおかしいと感じる。
・最近:母親の制止に対し、反発・暴言を吐く。
→本症例は、おかしいと分かっていながら1時間以上の手洗いで、日常生活にも支障をきたしていることから、強迫性障害が疑われる。強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。作業療法では、他のことに目を向けさせることによりこだわりを軽減することを目的とする。

1.× 心気妄想は、自分は何らかの重い病気であると思い込んでしまう妄想のことをいう。主にうつ病患者にみられる。
2.〇 正しい。強迫行為とは、不合理な観念(手を洗っても汚いままなど)を解消するために繰り返し行ってしまう行為のことをいう。自分でもおかしいとわかっていながら、その行為を繰り返し、それが日常生活に障害をもたらしていることを強迫性障害という。本症例は、手洗いに1時間半以上を要しており、本人もおかしいと感じてしながら強い不安が生じ、やめることができていない。したがって、強迫行為と一致する。
3.× 常同行為は、同じ場所を周遊する・同じ椅子に座るなど同じの行為を繰り返すことである。主に、緊張病症候群、前頭側頭型認知症、自閉症などでみられる。
4.× チック障害とは、突発的で急速な不随意運動あるいは発声のことである。主に、Tourette症候群(トゥレット障害)の症状である。
5.× 精神運動興奮は、意味不明な多弁・多動などの興奮状態を指し、躁病性と緊張病性に分けられる。ちなみに、病識はないことが特徴である。主に、せん妄の症状である。

Tourette症候群(トゥレット障害)とは?

Tourette症候群(トゥレット障害)とは、複数の運動チックと音声チックが同時に存在し、1年以上継続する状態を指す。汚言症がみられることがある。汚言症とは、卑猥語や罵倒語(汚言、醜語、糞語、猥言、猥語)を不随意的に発する症状。一方、一過性チック障害は運動性チックおよび(または)音声チックが1日中頻繁に生じ、少なくとも4週間は持続するが、1年以上には至らないものをいう。

 

 

 

 

 

 

次の文により14、15の問いに答えよ。
 16歳の女子。6か月前から特にきっかけはないのに次第に手洗いと入浴の時間が長くなった。1か月前から手洗いに1時間半以上を使う状況となり、自分でもおかしいと感じるようになった。母親が途中でやめさせると余計に不安になり、最近ではやめさせようとすると反発して暴言を吐くようになった。そのため父親が本人を説得して精神科を受診した。

15 作業療法中にたびたび手洗いを続けている。
 対応として最も適切なのはどれか。

1. 手を汚す作業に参加を促す。
2. 作業療法をしばらく中断する。
3. なぜ手洗いをしてしまうのか話し合う。
4. 手洗い行動を見守りながら作業復帰を待つ。
5. 手洗い行動が出たときに水道の蛇口を閉める。

解答4

解説

本症例のポイント

・16歳の女子。
・6か月前:きっかけなく手洗いと入浴の時間が長くなった。
・1か月前:手洗い1時間半以上を使う状況で、自分でもおかしいと感じる。
・最近:母親の制止に対し、反発・暴言を吐く。
→本症例は、おかしいと分かっていながら1時間以上の手洗いで、日常生活にも支障をきたしていることから、強迫性障害が疑われる。強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。作業療法では、他のことに目を向けさせることによりこだわりを軽減することを目的とする。

1.× 手を汚す作業に参加を促すだけでは効果は薄い。行動療法の一つである「曝露反応妨害法」は、患者の強迫行為を引き起こす刺激に曝露させる必要がある。本症例に促すだけでは手を汚す作業には参加しないと考えられる。
2.× 作業療法をしばらく中断しても効果は薄い。なぜなら、強迫行為に対しアプローチをしていないため。作業療法を継続して、作業療法の中で可能な対応を考える。
3.× なぜ手洗いをしてしまうのか話し合う効果は薄い。なぜなら、手洗い行動は、本人もおかしいと感じていながらやめることができないのであるため。強迫行為は、本人も不合理な行動であると自覚しているため、わざわざ「不合理なことをしている」とこちらから指摘しても意味がない。また、無理に制止することは大きな不安感を生むことにつながりかねないため控えるべきであり、治療計画の中で徐々に減らすようにする必要がある。主な強迫性障害の治療は、薬物療法と精神療法が挙げられる。精神療法としては、行動療法・森田療法・支持的精神療法(カウンセリング)などがある。行動療法の一つである「曝露反応妨害法」では、患者の強迫行為を引き起こす刺激に曝露させ、強迫行為を行うことを禁止して(反応妨害)、不安や不快感に段階的になれさせていき、患者は不安を解消するために強迫行為が必要でないことを学習し、強迫行為を行わなくなるという方法である。
4.〇 正しい。手洗い行動を見守りながら作業復帰を待つ。なぜなら、本症例は作業療法には参加しており、治療意欲と作業復帰の意思は患者自身がもっていると考えられるため。たびたびしてしまう手洗い作業は見守りながら、作業療法を続けるのが重要である。
5.× 手洗い行動が出たときに水道の蛇口を閉めても効果は薄い。なぜなら、無理に制止することは大きな不安感を生むことにつながりかねず控えるべきであるため。治療計画の中で徐々に減らすようにする必要がある。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)