第51回(H28) 作業療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11 72歳の男性。肺癌の末期。意識障害はなく見当識良好で在宅生活を行っている。
 骨転移があり左肩と背部の疼痛を訴え、痛みのため歩行困難と食欲低下がある。
 まず行うべき対応はどれか。

1. 嚥下訓練
2. 疼痛管理
3. 肩のROM訓練
4. 経管栄養の開始
5. 下肢筋力強化訓練

解答2

解説

本症例のポイント

・72歳の男性(肺癌の末期)
・意識障害はなく見当識良好で在宅生活を行っている。
・骨転移があり左肩と背部の疼痛を訴え、痛みのため歩行困難と食欲低下がある。
→緩和ケアにおける理学療法は,回復を目的としたトレーニングとは異なる。回復が望めない中にあってその苦痛の緩和に努め,残された機能を最大限に生かし,安全な生活を支えることが必要である。また,残された機能を生かし支えることは,ひいては患者や家族の実際的ニーズや希望を支えることにもなる。さらに,その過程においてさまざまな患者の訴えに心を傾け,患者に寄り添うことは,理学療法士が提供できる大切な心のケアと考える。

①疼痛・苦痛の緩和:リハにおいてもまず取り組む課題である。(安楽肢位、リラクゼーション、物理療法、補装具の検討、電動ベッドなどの検討)
②ADL 能力維持・援助:特に排泄動作に関する要望が多い。(移動能力維持、環境設定、ADL訓練、介助法の指導)
③精神面の援助:死を受け入れていくうえでも「どのように生きるか」が重要である。
④家族への援助:家族から要望があれば介助方法や援助方法(マッサージの方法など)を伝達する。
⑤廃用性変化の予防・全身機能維持:リハが日常生活にリズムをつくる。
※(参考:「緩和ケアにおけるコメディカルの役割と人材の育成」著:下稲葉 主一(栄光病院リハビリテーション科))

1.× 嚥下訓練の優先度は低い。なぜなら、本症例は食欲の低下があるものの、現段階で嚥下障害はないため。
2.〇 正しい。疼痛管理を行うべき対応である。なぜなら、本症例は疼痛により歩行困難と食欲低下をきたしているため。疼痛に対するアプローチは、QOL維持の観点からも優先される。
3.× 肩のROM訓練の優先度は低い。なぜなら、転移部分を含めた無理なROM訓練は、骨折等を誘発し禁忌であるため。本症例は、骨転移があり左肩と背部の疼痛を訴えていることからも、肩のROM訓練は行うことができない。廃用性拘縮や可動域低下の予防のためには、まず除痛してから可能な範囲で行う。
4~5.× 経管栄養の開始/下肢筋力強化訓練の優先度は低い。なぜなら、歩行困難と食欲低下の原因は疼痛によるものであるため。除痛することで、歩行や栄養摂取ができる可能性が高い。下肢筋力強化訓練も廃用を防ぐという観点では正しいが、本症例の特徴①骨転移があり左肩と背部の疼痛を訴えている、②痛みのため歩行困難と食欲低下していることから、食事を十分にとれていない状態での筋力トレーニングは逆効果になる可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

12 3歳の男児。脳性麻痺。床上に座れるが両手を使えるほどの安定性はない。四つ這いや伝い歩きで移動できる。
 この患児が15 歳時にGMFCS-Expanded and Revised(E&R)で同じレベルであった場合に予想される屋内移動の状態として最も適切なのはどれか。

1. 手すりなしで階段昇降する。
2. 短い距離を独歩する。
3. 自走式車椅子を使う。
4. 電動車椅子を使う。
5. 寝返りで移動できない。

解答2

解説

本症例のポイント

・3歳の男児(脳性麻痺)
・床上に座れるが両手を使えるほどの安定性はない
・四つ這いや伝い歩きで移動できる。
→本症例は、床上に座れるが両手を使えるほどの安定性はなく、四つ這いや伝い歩きで移動できるレベルである。[伝え歩き]≒制限を伴って歩く状態であるため、レベルⅡと考えられる。したがって、選択肢2.短い距離を独歩するが正しい。

1.× 手すりなしで階段昇降するのは、GMFCSのレベルⅠである。
3.× 自走式車椅子を使うのは、GMFCSのレベルⅢである。
4.× 電動車椅子を使うのは、GMFCSのレベルⅣである。
5.× 寝返りで移動できないのは、GMFCSのレベルⅤである。

Gross Motor Function Classification System (GMFCS)

レベルⅠ:制限なしに歩く。
レベルⅡ:制限を伴って歩く。
レベルⅢ:歩行補助具を使用して歩く。
レベルⅣ:制限を伴って自力移動、電動の移動手段を用いてもよい。
レベルⅤ:自力移動が非常に制限される、手動車椅子によって搬送される。

 

 

 

 

 

13 75歳の男性。脳梗塞による左片麻痺。回復期リハビリテーション病棟での作業療法をSOAP(Subjective Objective Assessment Plan)の方法を用いて記録している。
 Subjectiveに対応する記載はどれか。

1. 「OTが訪室すると表情が乏しい」
2. 「今日は調子が良くないです」
3. 「OT 開始時血圧126/78 mmHg」
4. 「ベッド車椅子間の移乗動作訓練3回実施」
5. 「動作能力に変化なしと考えられる」

解答2

解説

SOAPによる記述

S:Subjective data(主観的な情報)
O:Objectivedata(客観的な情報)
A:Assessment(評価)
P:Plan(計画)

1.× 「OTが訪室すると表情が乏しい」は、観察した結果の内容であるため、O:Objective dataに該当する。
2.〇 正しい。「今日は調子が良くないです」は、患者本人の訴えであるため、S:Subjective dataに該当する。
3.× 「OT 開始時血圧126/78 mmHg」は、血圧の検査データであるため、O:Oective dataに該当する
4.× 「ベッド車椅子間の移乗動作訓練3回実施」は、実行した訓練であるため、O:Objective dataに該当する。もしくは、今後実施する予定(計画)のものであればP:Planに該当する,
5.× 「動作能力に変化なしと考えられる」は、観察した結果を評価しており、A:Assessmentに該当する。

 

 

 

 

 

 

14 18歳の女子。身長160 cm、体重35 kg。交際していた相手から太っていると言われ、51 kgだった体重を1年半で現在の体重まで減量した。月経は停止している。「まだまだ太っているのに私は意志が弱くてやせられない」と言い、体重減少が著明となったため、精神科を受診し、入院した。
 患者の評価として適切なのはどれか。

1. 妄想がある。
2. 解離性の症状がある。
3. 転換性の症状がある。
4. 注意力が障害されている。
5. ボディイメージが障害されている。

解答5

解説

本症例のポイント

・18歳の女子。
・身長160 cm、体重35 kg(BMI約13.7:極端なやせ
・月経は停止している(無月経)。
・「まだまだ太っているのに私は意志が弱くてやせられない」と言う(ボディイメージの障害
・体重減少が著明となったため、精神科を受診し、入院した。
→本症例は、神経性無食欲症が疑われる。特徴として、①体重が標準より15%以上下回るか、BMIが17.5以下という診断基準がある。②低栄養のため、内分泌系に異常をきたし、無月経のことが多い。③活動的である。④病識が欠如していることなどがあげられる。

1.× 「妄想」ではなく、認知のゆがみであるボディイメージの障害として考える。ちなみに、妄想は神経性無食欲症ではみられず、統合失調症や妄想型パーソナリティ障害に見られる。妄想とは、事実ではないことを、確信しており、訂正ができないことをいう。
2.× 解離性の症状は起こりにくい。解離性の症状とは、人格が統合できずに解離していることを指す。つらい体験を自分から切り離そうとするために起こる一種の防衛反応と考えられている。
3.× 転換性の症状は起こりにくい。転換性の症状とは、欲求不満が身体症状に転換されることを指す。
4.× 注意力は障害されにくい。注意力の散漫さはうつ病によくみられる。
5.〇 正しい。ボディイメージが障害されている。神経性無食欲症の症状であり、体重や体型に関しての歪んだ認識(ボディイメージの障害)がみられる。

神経性無食欲症と神経性過食症

【共通の症状】

①肥満への病的な恐怖があるため、目標とする体重は、標準体重よりかなり低い。
②やせるため、自己誘発性嘔吐、利尿薬・下剤の使用、絶食を行う。そのため、電解質異常と代謝性アルカローシスがみられることがある。

【神経性無食欲症】
①体重が標準より15%以上下回るか、BMIが17.5以下という診断基準がある。
②低栄養のため、内分泌系に異常をきたし、無月経のことが多い。
③活動的である。
④病識が欠如している。

【神経性過食症】
①過食のエピソードが必ずある。
②発症年齢はやや高い。
③月経異常をきたすことはあるが、通常、無月経はきたさない。
④活動性は低下する。
⑤病識を有している。

 

 

 

 

 

 

15 31歳の女性。2か月前に地元が大規模な災害に遭い、親が死亡したものの看護師として救助隊に加わり1か月活動した。通常の勤務に復帰後1週ころから不眠や中途覚醒が続くようになり、災害発生時の情景を夢で見るようになった。夫が様子を聞いても詳細を語ろうとせず、その後、自ら精神科を受診し外来作業療法が処方された。
 考えられる疾患はどれか。

1. 適応障害
2. パニック障害
3. 全般性不安障害
4. 急性ストレス障害
5. PTSD(外傷後ストレス障害)

解答5

解説

本症例のポイント

・31歳の女性。
・2か月前:地元が大規模な災害に遭い、親が死亡したものの看護師として救助隊に加わり1か月活動した。
・通常の勤務に復帰後1週ころから不眠中途覚醒が続くようになり、災害発生時の情景(フラッシュバック)を夢で見るようになった。

→心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、大規模な災害や事故の現場、他人の悲惨な死など、心理的に大きなストレスを受ける状況下に居合わせた場合、1か月以上心的外傷による障害が持続した場合に生じる。典型的な症状として、①感覚や情動の鈍化、②心的外傷を想起するような状況の回避、③再現的で侵入的な回想(フラッシュバック)や悪夢、④過覚醒、⑤驚愕反応の亢進などが認められる。したがって、選択肢5.PTSD(外傷後ストレス障害)が正しい。本症例は、典型的な心的外傷後ストレス障害(PTSD)と合致する。

1.× 適応障害とは、大きな生活の変化(進学、就職、転居など)ストレス性の出来事(離別、死別など)に対して、順応するまでに様々な症状(抑うつ気分、不安など)を呈するものをいう。例としては、職場の勤務異動により、新しい部署の仕事や人間関係に慣れることができずに、苦悩や情緒不安定な状態が特続することが挙げられる。非常に適応障害と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状は似ているが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、【トラウマ級のストレス】+PTSDの三徴(「過覚醒」「再体験症状(フラッシュバック)」「回避」)が診断に重要な基準となっている。
2.× パニック障害とは、誘因なく突然予期せぬパニック発作(動悸、発汗、頻脈などの自律神経症状、狂乱・死に対する恐怖など)が反復して生じる状態をいう。また発作が起こるのではないかという予期不安を認め、しばしば広場恐怖を伴う。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②抗不安薬、③認知行動療法(セルフコントロール)などである。
3.× 全般性不安障害とは、日常生活において漠然とした不安を慢性的に感じてしまう病気である。特定の状況に苦手意識を感じる社交不安障害とは異なり、不安を感じる事象が非常に幅広い(漠然とした将来の不安など)ことが特徴である。導入時の作業療法は、軽い運動などで身体的な緊張の軽減を図ることである。治療法として認知行動療法(セルフコントロール)、薬物療法があげられる。
4.× 急性ストレス障害とは、交通事故・自然災害といった極めて強烈なストレスを原因として、その後、急性・一過性に解離症状(感情・感覚麻痺、健忘など)、PTSDと同様の再体験症状、回避症状などが出現し、著しい苦痛や社会的障害を生じている状態をいう。心的外傷後すぐに症状が出現し、持続期間は3日間~4週間である。ちなみに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、1か月以上心的外傷による障害が持続した場合に生じることをいう。

 

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