第51回(H28) 作業療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

 

16 37歳の女性。境界性パーソナリティ障害。高校卒業後、アルバイトをしていたが、気に入らないことがあると急に家出することを繰り返すため仕事は長続きしなかった。薬物療法と同時に外来作業療法が開始となった。
 作業療法の目的で適切なものはどれか。2つ選べ。

1. 居場所をつくる。
2. 情緒の安定を図る。
3. 治療者への依存を促す。
4. 衝動性の行動化を促す。
5. 治療者への理想化を促す。

解答1/2

解説

境界性パーソナリティ障害とは?

境界性パーソナリティ障害は、若い女性に多いパーソナリティ障害である。様々な局面における人格の不安定性を特徴とし、身体気分の波が激しく、衝動的にイライラ感や不安感が出現し、また、慢性的な空虚感も持ち併せており、抑うつ状態を呈する場合もある。情緒の不安定性から、他者の気を引こうとして、リストカットや過量服薬などの自傷行為、自殺企図を繰り返すこともある。性的、金銭的な側面においても逸脱した行為が目立つことがある。対人関係では他者との適切な距離感を保つのが難しく、著しく依存的な態度をとる。表出される言動が激しく、突然反抗や非難に転じるため、周囲の人々がそれに振り回されやすくなる。自殺例が10%近くあるという報告もある。身体運動や表現活動などによって、衝動の作業療法内での発散(適応的発散)を促す。

1.〇 正しい。居場所をつくる。なぜなら、自己の安定した拠りどころを欠いているため。治療者は適度な距離感を保ちつつ、受容的・支持的な態度で治療に臨む。
2.〇 正しい。情緒の安定を図る。なぜなら、情緒の不安定性から、他者の気を引こうとして、リストカットや過量服薬などの自傷行為、自殺企図を繰り返すこともあるため。作業療法の場面では、安心できる場所の提供と治療者や他の利用者と適度な距離がおけるような配慮をして、情緒の安定を図る。
3/5.× 治療者への依存・理想化を促す必要はない。境界性パーソナリティー障害の特徴として、対人関係では他者との適切な距離感を保つのが難しく、著しく依存的な態度をとることがある。したがって、治療者は適度な距離感を保ちつつ、受容的・支持的な態度で治療に臨む必要がある。また、治療者への陽性転移(依存・理想化など)を促すことは、患者の過剰な期待を満足させなかった際の陰性転移の出現を促す行為にもなりうる。怒りや絶望のあまり、自傷行為や自殺企図に至ることも考えられる。ちなみに、陽性転移は、信頼、愛情、感謝、尊敬などで、陰性転移は、不信、恨み、敵意、攻撃性などをいう。陽性・陰性いずれも、解釈・分析することで患者の葛藤を知る手掛かりとなる。
4.× 衝動性の行動化を促す必要はない。行動化とは、情緒的葛藤やストレス因子に対して内省することによってではなく、行為によって対処するもので、不適切な形で現れた防衛機制の1つである。具体例として、診察室から出ていってしまったり、診察の場で沈黙を続けたりするなどである。したがって、衝動性の行動化は、自己破壊的な側面を助長する可能性があるため「促す」のではなく抑制(コントロール)し、高い自律性の獲得を目標とする。

 

 

 

 

 

 

17 40歳の女性。長年のアルコール摂取による肝硬変、膵炎および2次性糖尿病の合併症がある。飲酒を継続し家事ができなくなったことにより夫婦間の口論が多くなり、夫に連れられて精神科を受診し、入院となった。離脱症状が治まり、作業療法が開始された。
 作業療法士の支援で適切なのはどれか。

1. SSTを実施する。
2. 他者との協調行動を促す。
3. 酒害に関する心理教育を行う。
4. 作業療法士への依存は容認する。
5. 作業に対する頑張りを強化する。

解答3

解説

本症例のポイント

・40歳の女性
・合併症:肝硬変、膵炎、2次性糖尿病。
飲酒を継続し家事ができなくなったことにより夫婦間の口論が多くなった。
離脱症状が治まり、作業療法が開始された。
→本症例は、家事に影響が出る飲酒、離脱症状がみられたためアルコール依存症が疑われる。アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。ちなみに、離脱症状とは、生体が薬物に適応して、薬物の存在下で生理的平衡が保たれる状態になったあと、急に薬をやめることにより、生理的平衡が乱れて身体症状が生じるようになることをいう。

1~2.× SST(Social Skills Training:社会生活技能訓練)を実施する/他者との協調行動を促すには時期尚早である。なぜなら、本症例は、離脱症状が治まり、作業療法が開始されたばかりである。確かに治療前期には、社会生活技能向上のためのアプローチを実施するが、現在の状態を評価をせずSST(Social Skills Training:社会生活技能訓練)を実施するには負担がかかりすぎる。まずは、導入期で行う病気の認識や解毒期で行う合併症の有無などの評価が必要である。したがって、まずはアルコールが人体にとってどのような害があるのかをきちんと説明し、教育する方が優先度は高い。ちなみに、SST(Social Skills Training:社会生活技能訓練)とは、社会生活を送るうえでの技能を身につけ、ストレス状況に対処できるようにする集団療法の一つである。
3.〇 正しい。酒害に関する心理教育を行うことは現段階の作業療法士の支援である。なぜなら、本症例は、離脱症状が治まり、作業療法が開始されたばかりである。まずは、導入期で行う病気の認識や解毒期で行う合併症の有無などを評価し、アルコール依存からの回復につなげていく。
4.× 作業療法士への依存は容認する必要はない。なぜなら、アルコール依存症患者は「」に対しても依存的であるため。依存の対象に対して「この人(作業療法士)なら飲酒を見逃してくれるだろう」と勝手に思い込む傾向があり、作業療法士が飲酒を認めないと、裏切られた気持ちになって治療が中断する可能性がある。
5.× 作業に対する頑張りを強化する必要はない。なぜなら、頑張りを強化することは、それが続かなくなった場合に無力感が出現して再飲酒をしてしまう可能性を高いため。また、アルコール依存症の特有の心理として、「名誉挽回のために過剰に頑張る」というものがあるが、頑張りを強化しないよう接する。

 

 

 

 

 

18 35歳の女性。現在、6か月児の子育て中であるが、1か月前からテレビも新聞も見る気が起こらないほど周囲への興味と関心が低下し、児と触れ合うこともおっくうになった。物事の判断が鈍くなり、子育てに自信をなくし、自分を責め、ささいなことから不安になりやすくなったため、児を祖母に預けて精神科病院に入院した。入院翌日から不安の軽減を目的に作業療法が開始された。
 この患者に対する作業療法士の対応で適切なのはどれか。

1. 運動によって体力の増強を図る。
2. 趣味をみつけるよう働きかける。
3. 子育ての情報提供により関心を高める。
4. 集団のレクリエーションで気分転換を図る。
5. ゆとりが持てるような日中の過ごし方を話し合う。

解答5

解説

本症例のポイント

・35歳の女性。
・現在:6か月児の子育て中。
・1か月前から:周囲への興味と関心が低下し、児と触れ合うこともおっくうになった。物事の判断が鈍くなり、子育てに自信をなくし、自分を責め、ささいなことから不安になりやすくなった。
入院翌日から:不安の軽減を目的に作業療法が開始。
→本症例は、うつ病の急性期であると判断できる。まずは回復の保証、吸息の確保をしつつ不安の軽減する時期である。

1.× 運動によって体力の増強を図るのは回復後期で行う。疲労感の強い急性期のうつ病患者は、簡単な身体運動を行う程度にとどめ、体力増強はむしろ疲労感が増強するため行わない。
2.× 趣味をみつけるよう働きかけるのは回復後期で行う。なぜなら、急性期で励ましや積極性を促すことによってますます患者を追い込みかねないため。うつ病患者は頑張りたいのに頑張れない点に苦痛を感じていることが多いので、患者のペースに合わせることが重要である。
3.× 子育ての情報提供により関心を高める必要はない。なぜなら、本症例は子育てに関して自信を失って入院に至ったため。急性期に子育てを話題にするのは患者の負担になると考えられる。
4.× 集団のレクリエーションで気分転換を図るのは回復後期で行う。なぜなら、急性期での他者との共同作業は、急性期のうつ病患者には負担が大きいため。患者のペースに合わせることが重要である。
5.〇 正しい。ゆとりが持てるような日中の過ごし方を話し合う。なぜなら、急性期のうつ病患者は、日中の過ごし方を話し合い生活リズムの獲得が重要であるため。

 

 

 

 

 

 

19 45歳の男性。統合失調症。自宅で単身生活をしている。精神症状は安定しているが、買い物に行くときを除き自宅に引きこもっている。週3回のヘルパーによる食事のサービスと惣菜による食事摂取をしている。偏食と間食が多く、身長167cm、体重92 kg と肥満である。最近の血液検査の結果、脂質異常症と診断された。
 訪問作業療法における健康管理支援として適切なのはどれか。

1. 自炊を目指した調理訓練を提案する。
2. 抗精神病薬の変更を主治医に提案する。
3. 入院による生活リズムの改善を提案する。
4. 買い物はスタッフが代行することを提案する。
5. 散歩やストレッチなどの運動を取り入れることを提案する。

解答5

解説

本症例のポイント

・45歳の男性(統合失調症、脂質異常症)
・偏食と間食が多く、身長167cm、体重92 kg(肥満) 
・自宅で単身生活
・精神症状は安定しているが、買い物に行くときを除き自宅に引きこもっている。
・週3回のヘルパーによる食事のサービスと惣菜による食事摂取をしている。
→本症例は、統合失調症(維持期)と脂質異常症(肥満)があり、両方に配慮する必要がある。抗精神病薬の種類によっては、肥満と脂質異常を増悪させるものがある。服薬の作用に注意しながら、食事の改善・運動などを提供する。

1.× 自炊を目指した調理訓練を提案する必要はない。なぜなら、本症例は現在、食事を週3回ヘルパーに頼っているため。現時点で自炊を目指すと、より偏食と間食が多くなると考えられる。
2.× 抗精神病薬の変更を主治医に提案する必要はない。なぜなら、抗精神病薬は主治医が責任をもって決めているため。どうしても変更してもらい場合は、主治医に作業療法士中の様子や状況を詳細に伝え、薬の変更を合理的に説明し納得してもらう必要がある。本症例の場合、精神症状は安定しているため変更する優先度は低い。
3.× 入院による生活リズムの改善を提案する優先度は低い。なぜなら、問題文から生活リズムが破綻していることの記載はなく、むしろ精神症状は安定しているため。本症例は、統合失調症の維持期であると考えられ、「入院による生活リズムの改善(確立)」は回復期に習得済みであると考えられる。
4.× 買い物はスタッフが代行することを提案する必要はない。なぜなら、現段階で買い物に行くことはできているため。むしろ、買い物が外出のよい機会となっている。偏食・間食を防ぐよう買い物を代行しても、買い物へ一人で行かれるため抑止力にはならない。代行より見守り(食材のアドバイス)のほうが良い。
5.〇 正しい。散歩やストレッチなどの運動を取り入れることを提案する。なぜなら、肥満や脂質異常症の改善が期待できるため。さらに、散歩で外に出ることにより引きこもりの防止にもなる。抗精神病薬の種類によっては、肥満と脂質異常を増悪させるものがある。服薬の作用に注意しながら、食事の改善・運動などに取り組む。

 

 

 

 

 

 

20 24歳の女性。知的障害。就労継続支援A型事業を利用中。就労意欲は高いが状況の判断能力が低く、他者の発言を被害的に受け取る傾向が強く欠勤が多くなり、作業療法士に相談に来た。
 この患者で優先して支援すべきなのはどれか。

1. 洞察
2. 職場の変更
3. 作業耐久性の向上
4. 生活リズムの安定
5. 対人関係技能の向上

解答5

解説

本症例のポイント

・24歳の女性(知的障害)
・就労継続支援A型事業。
・就労意欲は高いが状況の判断能力が低く、他者の発言を被害的に受け取る傾向が強く欠勤が多くなった。
→知的障害とは、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の支援を必要とする状態にあるもの」と定義されている。状況の判断能カが低く、他者の発言を被害的に受け取る傾向が強い。注意されたことを叱責と捉えるなど自信がなく、自分の気持ちを表現することが苦手である。知的障害では、抽象的概念の形成が困難で、言語概念の形成も遅れることが多く、学習障害を呈する。また、左右の協調的運動や微細運動が不得意であり、更衣動作などの身辺作業面に遅れを伴う。

1.× 洞察とは、物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと、見通すことである。本症例は、状況の判断能力が低いことから洞察がおこなえるだけの知的能力はないと思われる。
2.× 職場の変更は優先度は低い。なぜなら、本症例の欠勤理由は、「他者の発言を被害的に受け取る傾向が強く欠勤が多くなった」ことがあげられ、職場を変えても同じような状況になることが予想されるため。したがって、対人関係技能の向上を優先して支援する。
3.× 作業耐久性の向上は必要ない。なぜなら、本症例の問題は、作業自体よりも本人の対人関係技能が低いことであるため。設問の中に「作業耐久性」についての記載がないことから問題にはなりにくいと考える。
4.× 生活リズムの安定は必要ない。欠勤が多くなった理由は、「生活リズムが崩れた」からではなく、他者の発言を被害的に受け取る傾向が強かったためである。したがって、対人関係技能の向上を優先して支援する。
5.〇 正しい。対人関係技能の向上を優先して支援する。なぜなら、本症例は他者の発言を被害的に受け取る傾向が強く、対人関係が円滑ではなかったと考えられるため。本人の周りの人は、本人のおかれている状況や言葉の意味を本人に分かるように説明するよう努めることで、本人はそれを被害的に受け取ることは少なくなり、対人関係技能が向上すると考えられる。また、欠勤も少なくなるであろう。

障害者総合支援法に基づく障害者の就労支援事業

①就労移行支援事業:利用期間2年
【対象者】一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性に合った職場への就労等が見込まれる障害者(65歳未満の者)①企業等への就労を希望する者
【サービス内容】一般就労等への移行に向けて、事業所内や企業における作業や実習、適性に合った職場探し、就労後の職場定着のための支援等を実施。通所によるサービスを原則としつつ、個別支援計画の進捗状況に応じ、職場訪問等によるサービスを組み合わせ。③利用者ごとに、標準期間(24ヶ月)内で利用期間を設定する。

②就労継続支援A型(雇用型):利用期限制限なし
【対象者】就労機会の提供を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上を図ることにより、雇用契約に基づく就労が可能な障害者。(利用開始時、65歳未満の者)
① 就労移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった者
② 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった者
③ 企業等を離職した者等就労経験のある者で、現に雇用関係がない者
【サービス内容】通所により、雇用契約に基づく就労の機会を提供するとともに、一般就労に必要な知識、能力が高まった者について、一般就労への移行に向けて支援。一定の範囲内で障害者以外の雇用が可能。多様な事業形態により、多くの就労機会を確保できるよう、障害者の利用定員10人からの事業実施が可能。

③就労継続支援B型(非雇用型):利用制限なし
【対象者】就労移行支援事業等を利用したが一般企業等の雇用に結びつかない者や、一定年齢に達している者などであって、就労の機会等を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上や維持が期待される障害者
① 企業等や就労継続支援事業(A型)での就労経験がある者であって、年齢や体力の面で雇用されることが困難となった者
② 就労移行支援事業を利用したが、企業等又は就労継続事業(A型)の雇用に結びつかなかった者
③ ①、②に該当しない者であって、50歳に達している者、又は試行の結果、企業等の雇用、就労移行支援事業や就労継続支援事業(A型)
の利用が困難と判断された者
【サービス内容】
通所により、就労や生産活動の機会を提供(雇用契約は結ばない)するとともに、一般就労に必要な知識、能力が高まった者は、一般就労等への移行に向けて支援。平均工賃が工賃控除程度の水準(月額3,000円程度)を上回ることを事業者指定の要件とする。事業者は、平均工賃の目標水準を設定し、実績と併せて都道府県知事へ報告、公表。

(引用:「就労移行支援について」厚生労働省様HPより)

 

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