第49回(H26) 作業療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11 40歳の女性。筋萎縮性側索硬化症。上肢筋力はMMTで近位筋4、遠位筋3である。下肢は内反尖足位であるが歩行可能。最近、手指の疲労があり食事がしにくくなったと訴えている。
 この患者の食事での対応で適切なのはどれか。

1.吸口付コップを用いる。
2.食事支援ロボットを用いる。
3.ユニバーサルカフを用いる。
4.食器をターンテーブルに置く。
5.ポータブルスプリングバランサーを用いる。

解答3

解説

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋委縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

1.× 吸口付コップは、倒しやすい時やコップから飲めない場合に用いる。本症例は、手の疲労が問題であるため、把持を補助できるコップホルダーを使用する。
2.× 食事支援ロボットの導入は時期尚早である。なぜなら、食事動作が困難になっていないため
3.〇 正しい。ユニバーサルカフを用いて、スプーンなどの把持を補助することは適切である。
4.× ターンテーブルを早急に導入する必要性は低い。なぜなら、本症例は、上肢の近位筋の筋力は保たれており、リーチ制限がないことが考えられるため。ただし、ターンテーブルを設置すれば食事動作の負担を軽減させることにはなるため検討すると良い。
5.× ポータブルスプリングバランサーやBFOの導入は、時期尚早である。なぜなら、現段階では上肢の近位筋の筋力が保たれているため。症状が進行した場合に検討する必要性はある。

類似問題です↓
【OT/共通】筋萎縮性側索硬化症についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

12 小学校に通う10歳のDuchenne型筋ジストロフィーの男児。厚生省筋萎縮症研究班の機能障害度分類において機能レベルはステージ2である。
 学校生活で優先的に行う支援はどれか。

1.マイクロスイッチによるパーソナルコンピューター操作
2.リクライニング式車椅子の作製
3.自助具によるスプーン操作
4.トイレの手すり設置
5.給食の食形態変更

解答4

解説
 Duchenne型筋ジストロフィーでは近位筋から障害され、遠位筋は比較的最後まで保たれる。ステージ2は、手すり使用での階段昇降が可能な状態である。

1.× マイクロスイッチによるパーソナルコンピューター操作は、症状が進行し、移動が困難になるステージ5~7に該当する時期に生活の充実を図るために導入していくものである。
2.× 本症例は歩行が可能であるため、リクライニング式車椅子は時期尚早である。
3.× 遠位筋は最後まで保たれていることが多いため、自助具の使用には現段階では必要ない。
4.〇 正しい。手すりを設置することで、トイレの立ち上がり動作がより楽に行えるようになる。
5.× 食形態の変更は、咀嚼機能や嚥下機能の低下が見られた時に考慮する。

厚生省「筋萎縮症」対策研究会による障害段階分類

ステージ1 歩行可能 介助なく階段昇降可能(手すりも用いない)
ステージ2 階段昇降に介助(手すり、手による膝おさえなど)を必要とする
ステージ3 階段昇降不能 平地歩行可能 通常の高さのイスからの立ち上がり可能
ステージ4 歩行可能 イスからの立ち上がり不能
ステージ5 歩行不能 四つ這い可能
ステージ6 四つ這い不能だが、いざり移動可能
ステージ7 這うことはできないが、自力で坐位保持可能
ステージ8 ベッドに寝たままで体動不能 全介助

 

 

 

 

 

13 4歳の男児。顕在性二分脊椎症による脊髄髄膜瘤の術後。Sharrard(シェラード)の分類ではⅠで、尖足を認める。その他の変形や中枢神経系の合併症はみられない。
 この児の移動訓練に必要なのはどれか。2つ選べ。

1.交互歩行装具(RGO)
2.長下肢装具
3.短下肢装具
4.車椅子
5.T字杖

解答1/4

解説

本症例のポイント

Sharrard(シェラード)の分類Ⅰ
→第Ⅰ群(胸髄レベル):車椅子を使用している。下肢を自分で動かすことはできない
Sharrard分類:二分脊椎の麻痺レベルの評価基準で、Ⅰ(T12)、Ⅱ(L1/2)、Ⅲ(L3/4)、Ⅳ(L5)、Ⅵ(S3)に分類する。

1.〇 正しい。下肢筋の麻痺があるため、移動訓練は骨盤帯がついている交互歩行装具(RGO)が必要である。
2.× 長下肢装具の移動訓練は、第Ⅲ群(L3レベル)で杖を併用して可能となる。訓練レベルとして、第Ⅱ群(L1〜2レベル)で使用することもある。
3.× 短下肢装具の移動訓練は、第Ⅲ群(L4レベル)で自立歩行が可能となる。
4.〇 正しい。下肢筋が麻痺しているため、実用的な移動手段として車椅子を使用となる。したがって、車椅子の訓練が必要である。
5.× T字杖(のみ)の移動訓練は、実用歩行可能レベル:第Ⅴ群(S1〜2レベル)でバランス機能に低下が見られる場合に用いる。交互歩行装具(RGO)に合わせる杖としても、両ロフストランド杖を使用することが多い。

Sharrard(シェラード)の分類

第Ⅰ群(胸髄レベル):車椅子を使用している。下肢を自分で動かすことはできない。
第Ⅱ群(L1〜2レベル):車椅子と杖歩行を併用している。股関節屈曲・内転、膝関節伸展が可能。
第Ⅲ群(L3〜4レベル):長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能。股関節外転、足関節背屈が可能。
第Ⅳ群(L5レベル):短下肢装具による自立歩行可能。装具なしでも歩行可能。股関節伸展、足関節底屈が可能。
第Ⅴ群(S1〜2レベル):ほとんど装具が不要で自立歩行可能。足関節の安定性が低い。
第Ⅵ群(S3レベル):ほとんど運動麻痺はなく、健常児とほぼ同様の歩行。

 

 

 

 

 

 

次の文により14、15の問いに答えよ。
 78歳の女性。Alzheimer型認知症。物忘れが激しくなるに従い、何をするにも介護者である夫に頼り、そばを離れない状態となった。そのため、主治医にデイケアを勧められ、通所を開始した。

14 デイケア導入時に行う知的機能検査で適切なのはどれか。

1.WPPSI
2.WAIS-Ⅲ
3.Blessed dementia rating scale(DRS)
4.Mini mental state examination(MMSE)
5.Behavioral pathology in Alzheimer’s disease rating scale(BEHAVE-AD)

解答4

解説
1.× WPPSI(Wecheler Preschool and Primary Scale of Intelligence)は、ウェクスラー知能検査の幼児版である。
2.× WAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd edition)は、成人用の本格的な知能検査であるが、施行に少なくとも1時間を要するため、認知症患者には不適切である。
3.× Blessed dementia rating scale(DRS)は、①日常生活力、②週間・セルフケア、③正確・意欲の3方面の変化を本人と親しいものが評価するもので、知的機能の評価には向いていない。
4.〇 正しい。Mini mental state examination(MMSE)は、見当識や即時記憶窓を含む知的機能全般を評価するもので、10分程度で実施することができる。
5.× Behavioral pathology in Alzheimer’s disease rating scale(BEHAVE-AD)は、認知症における行動・心理症状(BPSD)を評価するものであり、知的機能の評価には向いていない。

 

 

 

 

 

 

次の文により14、15の問いに答えよ。
 78歳の女性。Alzheimer型認知症。物忘れが激しくなるに従い、何をするにも介護者である夫に頼り、そばを離れない状態となった。そのため、主治医にデイケアを勧められ、通所を開始した。

15 在宅での生活を継続させるために作業療法で優先するのはどれか。

1.体力の維持
2.不安の軽減
3.合併症の予防
4.対人交流の拡大
5.ストレスの発散

解答2

解説
 症例は、何をするにも介護者である夫に頼り、そばを離れない状態であり、不安感が強いことが考えられる。在宅生活を続けるためには介護者の負担軽減が不可欠であり、不安を取り除き、介護者への依存度を減らすことが必要である。

1.× 体力の維持より優先度が高いものを他の選択肢にある。日常生活を送る上で体力などの身体機能維持は必要であるが、夫の負担軽減をするためにもそばを離れられないことの改善が優先である。
2.〇 正しい。不安から介護者への依存が見られているため、不安を軽減することを優先する。
3.× 合併症の予防より優先度が高いものを他の選択肢にある。症状の進行に伴って身体機能低下の合併が見られてくるが、現時点では夫の負担軽減をするためにもそばを離れられないことの改善が優先である。
4.× 対人交流の拡大より優先度が高いものを他の選択肢にある。なぜなら、対人交流を拡大することは、不安の強い現時点では混乱を招き、かえって不安感を増大させてしまう恐れがあるため。まずは、夫の負担軽減をするためにもそばを離れられないことの改善が優先である。
5.× ストレスの発散より優先度が高いものを他の選択肢にある。なぜなら、現時点では、ストレスの有無や原因がわからないため。根本的な解決にならない。まずは、夫の負担軽減をするためにもそばを離れられないことの改善が優先である。

 

2 COMMENTS

匿名

コメント失礼します!
AM13の選択肢3の解説で「長下肢装具は、第Ⅲ群(L3レベル)で杖を併用しての移動訓練が可能である」とありますが、第2群ではダメでしょうか?

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大川 純一

コメントありがとうございます。
分かりにくくなっていたと思うので修正しました。
第Ⅱ群(L1〜2レベル)からでも、長下肢装具の使用が「ダメ」っていうわけではありません。
十分、臨床だと第Ⅱ群(L1〜2レベル)からでも、訓練レベルで使用します。
最近の国家試験でも白黒はっきりできない問題が増えてきてますので、問題文で臨機応変に対応していただけると幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

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