第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

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16 35歳の男性。強迫性障害。中学生のころから洗浄強迫と確認癖があり、高校へ進学したが不登校が続き退学した。アルバイトに短期間従事したことがあるが未就労である。症状悪化のため半年前から精神科病院に入院し、家庭復帰を目的として作業療法を開始した。作業療法開始2か月目に「完全な作品ができない」と訴え、症状が増悪してきた。
 作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。

1.作業種目を変更する。
2.作業療法を中止する。
3.訴えを聞き経過をみる。
4.担当作業療法士を交代する。
5.できている部分に患者の注意を向ける。

解答

解説

本症例のポイント

・35歳の男性(強迫性障害
・中学生:洗浄強迫と確認癖があり。
・半年前:症状悪化のため精神科病院入院。
・目的:家庭復帰。
・作業療法開始2か月目:「完全な作品ができない」と訴え、症状が増悪。
→強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。他のことに目を向けさせることによりこだわりを軽減することを目的とする。真面目で几帳面、細かいことにこだわるという性格の人に比較的多くみられる。男性の場合、学業不振や進学、過労など、女性は異性関係、結婚、妊娠、出産、育児の悩みなどが多くみられる。 

1.× 作業種目を変更する必要はない。なぜなら、種目を変更しても「完全な作品ができない」という考えは付きまとう可能性が高いため。他のことに目を向けさせることにより、こだわりを軽減することを目的とする。
2.× 作業療法を中止する必要はない。なぜなら、作業療法を中止しても、作品が完成するわけではないため。他のことに目を向けさせることにより、こだわりを軽減することを目的とする。
3.× 訴えを聞き経過をみる優先度は低い。なぜなら、経過観察はさらに症状が増悪する可能性が高いため。具体的な方法(森田療法、認知行動療法など)で作業療法を進めていく必要がある。
4.× 担当作業療法士を交代する必要はない。なぜなら、作業療法士の交代が、症状の改善に寄与しないため。作業療法士の交代は、担当の作業療法士が独断で決められることではない。チーム医療である限り、ほかのスタッフとも相談しながら、例えば、療法士の身の危険や明らかに相性が悪い場合以外は行われない。
5.〇 正しい。できている部分に患者の注意を向ける。なぜなら、作業療法の目的は、こだわりを軽減することである。主に、認知行動療法を用いることが多い。認知行動療法とは、ベックによって精神科臨床に適応された治療法である。例えば、うつ病患者の否定的思考を認知の歪みと考え、その誤りを修正することによって症状の軽快を図る。認知行動療法の中に、系統的脱感作法がある。系統的脱感作法とは、患者に不安を引き起こす刺激を順に挙げてもらい(不安階層表の作成)、最小限の不安をまず想像してもらう。不安が生じなかったら徐々に階層を上げていき、最終的に源泉となる不安が消失する(脱感作)ことを目指す手法である。

 

 

 

 

 

17 52歳の男性。アルコール依存症。警備会社に勤務。若いころから飲酒が習慣化していたが、最近、朝から酒を飲むようになった。同居する両親に対する暴力行為で警察の介入があり、2日後に入院した。入院後、振戦せん妄が出現し、5日目に消失した。落ち着きがみられるようになり、作業療法が処方された。
 この時期に優先すべき作業療法の目的はどれか。

1.家族内での関係性を改善する。
2.基礎体力の回復・維持を行う。
3.ストレス対処技能を獲得する。
4.他者との協調的な活動を体験する。
5.職場復帰に向けた職業的技能を修得する。

解答

解説

本症例のポイント

・52歳の男性(アルコール依存症
・最近:朝から酒を飲む。
・同居する両親に対する暴力行為で警察の介入があり。
・2日後:入院。
・入院後:振戦せん妄が出現。
5日目:消失し、落ち着きがみられる。
→本症例は、アルコール依存症の導入期~解毒期と考えられる。アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。最終飲酒後72時間頃までに症状が最も激しくなるのは、アルコール離脱症状である。【合併しやすい病状】①離脱症状、②アルコール幻覚症、③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)、④健忘症候群(Korsakoff症候群)⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など。

1.3.5.× 家族内での関係性を改善する/ストレス対処技能を獲得する/職場復帰に向けた職業的技能を修得するのは、時期尚早(治療後期)である。
2.〇 正しい。基礎体力の回復・維持を行う。なぜなら、本症例は、アルコール依存症の導入期~解毒期と考えられるため。アルコール依存症は、飲酒を長い期間続け、不規則な生活を送ってきた経過から、体力低下が懸念される。社会復帰をするためにもある程度の体力は欠かせない。
4.× 他者との協調的な活動を体験するのは、時期尚早(治療前期)である。アルコール依存症の集団精神療法では、自己の飲酒問題を認め、断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく。断酒継続のための自助グループ(当事者グループ)としてよく知られているものに、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)がある。断酒会は日本独自のもので、参加者は実名を名乗り、家族の参加も可能である。AAはアメリカで始まり、世界各地にある。匿名で参加し、家族は原則として同席しない。

 

 

 

 

18 32歳の女性。統合失調症。1年前から小売店で週3日のパート勤務をしているが、最近、同僚から嫌がらせを受けているという被害的な訴えが増え、主治医の指示で週2日、精神科デイケアを利用することになった。
 この患者の治療目的に合ったプログラムとして適切なのはどれか。

1.ACT
2.IPS
3.NEAR
4.SCIT
5.TEACCH

解答

解説

本症例のポイント

・32歳の女性(統合失調症
・1年前:小売店で週3日のパート勤務をしている。
・最近:「同僚から嫌がらせを受けている」という被害的な訴え。
・主治医:週2日、精神科デイケアを利用する。
→本症例は、統合失調症の維持期~前兆期と考えられる。統合失調症の維持期は、①再発防止、②様々なレベルで社会復帰をしている患者の生活の質の維持や向上を図る、③体力作り時期である。精神科デイケアとは、精神科に通院している患者を対象に、①居場所を提供したり、②疾患の再発予防、③日常生活技能の改善、④社会復帰のための援助を目的とした施設である。病院内に設置されていることが多い。目標に向けて提供するリハビリテーションは変わるが、おもにレクリエーションや社会生活技能訓練(SST)などを行う。

1.× ACT (assertive community treatment:包括的地域生活支援プログラム)とは、重い精神障害をもった人(入退院を繰り返すなど)であっても、地域社会の中で自分らしい生活を実現・維持できるよう包括的な訪問型支援を中心に提供するケアマネジメントモデルのひとつである。地域社会でうまく生活を継続することができるように多職種が365日・24時間体制で多職種によって構成されたチームにより関わる仕組みである。サービス提供は原則的に無期限である。
2.× IPS(Individual Placement and Support)とは、患者への信頼と可能性を信じることをベースとして、症状の安定度や職業準備性よりも就労意欲を重視し、仕事の中で自分を高め(ストレングス)、最終目的を疾患からの回復(リカバリー)とするものである。つまり、精神障害者の就労を支援するものである。
3.× NEAR(Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation:認知矯正療法)とは、統合失調症患者を対象とし、記憶力・集中力・物事の段取りを考えて実行する能力などの認知機能障害の改善を図るためのリハビリテーションである。参加可能基準は、主に7つ挙げられ、①年齢は13歳~65歳、②知的レベルは境界以上、③取りレベルは小学4年生以上、④現時点で物質及びアルコール乱用者ではない、⑤何らかの中毒における解毒から1ヵ月以上経過している、⑥過去3年間に頭部外傷歴がない、⑦セッションの間座っていられる程度に精神症状が安定していることがあげられる。
4.〇 正しい。SCIT(Social Cognition and Interaction Training:社会認知と対人関係のトレーニング)は、本症例の治療目的に合ったプログラムである。SCITは、統合失調症患者の社会認知の障害を治療ターゲットとする。対人関係改善のためのグループワークトレーニングである。
5.× TEACCH(Treatment and Education of Autistic and Related Communication Handicapped Children)は、自閉症患者とその家族、関係者(教師やグループホームなどの支援者)を対象にする包括的プログラムである。自閉症患者の人生を長期的かつ包括的に支援することで、自閉症患者の自立を目指すものである。

統合失調症とは?

統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)。

 

 

 

 

 

19 32歳の女性。境界性パーソナリティ障害。高校生のころから情緒不安定で、慢性的な空虚感を訴えるようになった。卒業後は事務の仕事に就いたが、異性との交際のトラブルから抑うつ気分が強くなり、自傷行為を繰り返した。今回、尊敬していた職場の男性上司との関係が悪化したことを契機に自殺企図があり入院した。
 この患者に対する作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。

1.異性との交際トラブルについて指導する。
2.対人交流は病院スタッフと家族に限定する。
3.活動時間や活動場所は決めずに作業療法を行う。
4.トラブルがあった場合は担当スタッフを変更する。
5.患者と作業療法士の双方が守るべき規則を明確化する。

解答

解説

本症例のポイント

・32歳の女性(境界性パーソナリティ障害
・高校生:情緒不安定(慢性的な空虚感)
・卒業後:事務の仕事に就いた。
・異性との交際のトラブルから抑うつ気分が強くなり、自傷行為を繰り返した。
・今回:自殺企図があり入院
・契機:尊敬していた職場の男性上司との関係が悪化したこと。
→境界性パーソナリティ障害とは、感情の不安定性と自己の空虚感が目立つパーソナリティ障害である。こうした空虚感や抑うつを伴う感情・情緒不安定の中で突然の自殺企図、あるいは性的逸脱、薬物乱用、過食といった情動的な行動が出現する。このような衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。見捨てられ不安があり、特定の人物に対して依存的な態度が目立ち、他者との適切な距離が取れないなどといった特徴がある。【関わり方】患者が周囲の人を巻き込まないようにするための明確な態度をとる姿勢が重要で、また患者の自傷行為の背景を知るための面接が必要である。

1.× 異性との交際トラブルについて指導する優先度は低い。なぜなら、パーソナリティ障害は、「異性」に限ったトラブルだけでなく、今回の入院の契機のように、「尊敬していた職場の男性上司」ともトラブルとなる。パーソナリティ障害の社会的交流に関するトラブルとして、特定の人物に対して強い依存心を抱く傾向があり、またそれが裏切られたと感じた時には強い怒りをきたすことがあげられる。このため、対人距離を確保し、過度の依存を形成しないよう注意が必要である。
2.× 対人交流を病院スタッフと家族に限定する優先度は低い。なぜなら、病院スタッフや家族への依存心をさらに高める可能性があるため。また、作業療法士が他者との交流を限定(隔離)することはできない。ただし、作業療法は、個別の作業療法ができるように配慮することが望ましい。なぜなら、他者への関心が高く、集団作業を好むが、対人関係でトラブルを起こして長続きしないことが多いため。
3.× 活動時間や活動場所は、「決めずに」ではなく決めて作業療法を行う。なぜなら、治療者に対して自分の要求をどんどんエスカレートさせていく傾向があるため。枠組みの設定は重要である。
4.× トラブルがあった場合は担当スタッフを変更する必要はない。なぜなら、担当者を毎回変えてしまうと、自分の欲求が通りやすいスタッフを見つけるまで同じ要求を繰り返す可能性が高いため。また、患者が自身の理想にかなうと判断した担当者を変えた場合、それを裏切りと捉え、治療者への攻撃に転じる可能性もある(見捨てられ不安)。
5.〇 正しい。患者と作業療法士の双方が守るべき規則を明確化する。なぜなら、境界性パーソナリティ障害は、治療者に対して自分の要求をどんどんエスカレートさせていく傾向があるため。支援者全員が一貫した態度(枠組み)で対象に接し、周囲の人を巻き込まないようにするための明確な態度をとる姿勢が重要である。

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20 26歳の男性。統合失調症。不動産会社社員。約半年前に仕事のトラブルから次第に欠勤するようになって退職し、引きこもりの生活になった。次第に服薬が不規則になり、幻聴と妄想が出現し入院となった。入院2か月で症状は改善したが、無為の生活が続いており、作業療法が処方された。
 この時期に優先すべき作業療法の役割はどれか。

1.仲間づくり
2.社会生活技能の習得
3.身辺処理能力の回復
4.対人交流技能の向上
5.基本的な生活リズムの回復

解答

解説

本症例のポイント

・26歳の男性(統合失調症
・約半年前:仕事のトラブルから退職・引きこもりの生活に。
・服薬:不規則、幻聴と妄想が出現し入院。
入院2か月症状改善、無為の生活が続く。
作業療法開始
→本症例は、統合失調症の回復期~維持期と考えられる。生活リズムの回復は、亜急性期と回復期に共通の作業療法の目的である。亜急性期は、幻聴・妄想などが活発な急性期を過ぎ、多少の精神症状は残存していても睡眠覚醒などの生活リズムが確立しているが、疲労感が強い時期である。一方、回復期は、疲労感が軽減してこれから社会復帰の準備を始めようとする時期であり、服薬や金銭の自己管理を支援し、学校や職場との連携を図る時期である。それぞれ亜急性期は睡眠リズムの確立、回復期は社会復帰を目指す日常生活リズムの獲得の意味合いに持つ。

1.× 仲間づくり/社会生活技能の習得/対人交流技能の向上は、維持期の課題である。現時点では、負担が大きくストレスがかかり、症状が悪化しかねない。ちなみに、社会生活技能訓練(SST:Social Skills Training)とは、社会生活を送るうえでの技能を身につけ、ストレス状況に対処できるようにする集団療法の一つ(認知行動療法の一つ)である。精神科における強力な心理社会的介入方法である。患者が習得すべき行動パターンを治療者(リーダー)が手本として示し、患者がそれを模倣して適応的な行動パターンを学ぶという学習理論に基づいたモデリング(模倣する)という技法が用いられる。
3.× 身辺処理能力の回復は、急性期~回復前期(消耗期)にかけての課題である。本症例の場合、無為の生活が続いているものの身辺処理能力の回復は獲得済みと考えられる。また、選択肢の中で、より優先度が高いものが他にある。ちなみに、消耗期の課題として、①安心感、満足感の提供、②生活リズムの回復、③身体感覚の回復、④身辺処理能力の回復があげられる。
5.〇 正しい。基本的な生活リズムの回復は、優先すべき作業療法の役割である。生活リズムの回復は、亜急性期と回復期に共通の作業療法の目的である。亜急性期は、幻聴・妄想などが活発な急性期を過ぎ、多少の精神症状は残存していても睡眠覚醒などの生活リズムが確立しているが、疲労感が強い時期である。一方、回復期は、疲労感が軽減してこれから社会復帰の準備を始めようとする時期であり、服薬や金銭の自己管理を支援し、学校や職場との連携を図る時期である。それぞれ亜急性期は睡眠リズムの確立、回復期は社会復帰を目指す日常生活リズムの獲得の意味合いに持つ。

”統合失調症とは?”

統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある。

(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)

 

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