第60回(R7)作業療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 57歳の女性。右利き。5年前から多発性筋炎でステロイド治療中。約1か月前から四肢の脱力と易疲労性が著しく、多発性筋炎の増悪と診断された。嚥下機能は保たれている。スプーンの把持は可能だが、食事の途中で口まで運べなくなり介助を要する。
 この患者への対応で適切なのはどれか。

1.BFOの使用を検討する。
2.利き手交換訓練をする。
3.スプーンの柄の形状を検討する。
4.上肢の使用を控えるよう指導する。
5.高負荷で上肢の筋力増強訓練をする。

解答

解説

本症例のポイント

・57歳の女性(右利き)。
・5年前:多発性筋炎でステロイド治療中。
・約1か月前:四肢の脱力易疲労性が著しく増悪。
・嚥下機能は保たれている。
スプーンの把持は可能だが、食事の途中で口まで運べなくなり介助を要する。
→本症例は、多発性筋炎の増悪期で「腕を持ち上げる筋力と持久性」が不足している。したがって、BFOで上肢の重さをサポートし、自立した食事動作を促す検討をする。

1.〇 正しい。BFOの使用を検討する。なぜなら、本症例は、多発性筋炎の増悪期で「腕を持ち上げる筋力と持久性」が不足しているため。したがって、BFOで上肢の重さをサポートし、自立した食事動作を促す検討をする。ちなみに、BFO(balanced forearm orthosis:非装着式上肢装具)は、主に第4〜5頸椎レベル損傷の場合に用いる。BFO(balanced forearm orthosis:非装着式上肢装具)は、前腕を支持することにより、上肢の重さを軽減させ、弱い力で上肢の動きを引き出す自助具である。

2.× 利き手交換訓練をする必要はない。なぜなら、多発性筋炎の筋力低下に左右差がみられないことが多く、右手が使えないほどの筋力低下なら左手も同程度に弱い可能性があるため。利き手交換訓練は、利き手が切断により義手になった場合や慢性期の重度の片麻痺で回復が見込みにくい場合に用いられる。

3.× スプーンの柄の形状を検討する優先度は低い。なぜなら、本症例は、「スプーンの把持は可能」と記載されているため。手指の関節炎や把持が困難な場合(関節リウマチなど)に、スプーンの柄の形状の工夫(太いグリップや角度付きの自助具)が有効である。

4.× 必ずしも、上肢の使用を控えるよう指導する必要はない。なぜなら、日常生活動作をすべて控えると、二次障害(関節拘縮や廃用症候群など)が進むリスクがあるため。また、すべての上肢の使用を控えた場合、日常生活(スマホをいじる)ことすべてが行えなくなりQOL低下につながるため。多発性筋炎の急性増悪期には、過度な運動は避ける必要があるが、使える機能をなるべく活かす。

5.× 高負荷で上肢の筋力増強訓練をする必要はない(時期尚早)。なぜなら、多発性筋炎の増悪期に無理な高負荷訓練を行うと、さらなる炎症や筋力低下を悪化させる可能性があるため。ステロイド治療中の多発性筋炎では、病状が落ち着いてから徐々に自動運動程度の筋力トレーニングを実施する。

多発性筋炎(皮膚筋炎)とは?

多発性筋炎とは、自己免疫性の炎症性筋疾患で、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下をきたす。典型的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ぶ。膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患で、遺伝はなく、中高年の女性に発症しやすい(男女比3:1)。5~10歳と50歳代にピークがあり、小児では性差なし。四肢の近位筋の筋力低下、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状がみられる。手指、肘関節や膝関節外側の紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な症状がある。合併症の中でも間質性肺炎を併発することは多いが、患者一人一人によって症状や傷害される臓器の種類や程度が異なる。予後は、5年生存率90%、10年でも80%である。死因としては、間質性肺炎や悪性腫瘍の2つが多い。悪性腫瘍に対する温熱療法は禁忌であるので、その合併が否定されなければ直ちに温熱療法を開始してはならない。しかし、悪性腫瘍の合併の有無や皮膚症状などの禁忌を確認したうえで、ホットパックなどを用いた温熱療法は疼痛軽減に効果がある。

(※参考:「皮膚筋炎/多発性筋炎」厚生労働省様HPより)

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【PT/OT/共通】多発性筋炎(皮膚筋炎)についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

12 48歳の男性。ALS。発症後8年が経過し在宅生活を続けている。四肢や体幹に運動麻痺を生じて、手指筋力はMMT0レベル、ADLは全介助。さらに錐体路障害の症状を認め、人工呼吸器を装着している。
 この患者が導入するコミュニケーション機器で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.人工喉頭
2.透明文字盤
3.キーボードカバー
4.音声メモICレコーダー
5.眼球運動センサースイッチ

解答2・5

解説

本症例のポイント

・48歳の男性(ALS)。
・発症後8年経過:在宅生活。
・四肢や体幹に運動麻痺(手指筋力MMT0レベル、ADL全介助)。
・錐体路障害の症状を認め、人工呼吸器を装着
→本症例は、手指は全く動かせない状態で、音声発話も困難である。この状態でもコミュニケーションが可能な手段を検討しよう。

→ALSは、全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)※詳しくは下参照。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

1.× 人工喉頭は、喉頭摘出患者や気管切開後の患者のための福祉祉用具である。人工喉頭は主に喉頭切除後の発声補助に使われるものである。

2.〇 正しい。透明文字盤を導入する。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、末期まで眼球運動が保持されるため。発声困難となった場合、透明文字盤を用いて会話(アイコンタクト)することができる。ちなみに、透明文字盤とは、上肢が動かせず、発声ができず眼球運動かできないとき、伝えたい文字を相手との視線の中心に来るように動かして使うものである。

3.× キーボードカバーは、運動失調のある脊髄小脳変性症、 アテトーゼ型脳性麻痺などに用いられる。ちなみに、キーボードカバーとは、振戦があっても他のキーに触れずに目的のキーだけを押すことを補助するものである。

4.× 音声メモICレコーダーは、いわゆる「ボイスレコーダー」のことであり、自分の声を録音して残す、または必要なメッセージを録音しておいて再生するための機器である。記憶障害や構音障害のフィードバックに用いられることがある。

5.〇 正しい。眼球運動センサースイッチを導入する。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、末期まで眼球運動が保持されるため。眼球運動センサースイッチは、視線やまばたき、眼球の動きを検知して入力信号に変換するスイッチである。高機能なシステムを組めば、文字変換や文章作成、インターネット利用も可能である。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

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13 48歳の男性。右利き。脳梗塞で左片麻痺。この患者のSOAPによる作業療法記録を下に示す。
 記入箇所で適切でないのはどれか。

1.①S:退院までには、自分でトイレに行けるようになってほしいと思います。
2.②O:FIMの更衣(下半身)は4、トイレ動作は5。
3.③A:左手の把持機能が向上し、ズボンの把持が安定している。
4.④A:トイレ動作は自立レベルになると予想する。
5.⑤P:短期目標(2週間後)は、「ズボンと下着の着脱を含むトイレ動作が自立できる」に設定。

解答

解説

SOAP(subjective, objective, assessment, plan)とは?

SOAP(subjective, objective, assessment, plan)とは、叙述的経過記録方式の問題指向型記録のことである。

S=主観的データ(自覚症状などの患者の訴え)
O=客観的データ(他覚所見:診察所見・血液検査・検査所見)
A=評価(S・Oをもとにした患者の状態の評価・考察)
P=計画(Aをもとにした今後の検査・治療・患者教育の計画・方針)

で、経過を記録する。

1.〇 ①S家族:退院までには、自分でトイレに行けるようになってほしいと思います。
S:Subjective data(主観的な情報)は、患者や家族からの主観的な意見や要望を記録する部分である。

2.〇 ②O:FIMの更衣(下半身)は4,トイレ動作は5。
O:Objectivedata(客観的な情報)は、客観的なデータや測定結果を記録する部分である。したがって、FIMスコアなどの数値評価も含まれる。

3.〇 ③A:左手の把持機能が向上し、ズボンの把持が安定している。
4.〇 ④A:トイレ動作は自立レベルになると予想する。
A:Assessment(評価)は、患者の現状に対する評価分析を記述する部分である。これら選択肢は、セラピストが何らかの考えを介入させ分析(考察)したものである。

5.× ⑤P:短期目標(2週間後)は、「ズボンと下着の着脱を含むトイレ動作が自立できる」に設定。
これは、「P:Plan(計画)」ではなくA:Assessment(評価)に該当する。目標は、セラピストが何らかの考えを介入させ分析していたものである。ちなみに、P:Plan(計画)は、未来に確定したものを指す。例えば、プログラム(歩行練習や回数)などである。

 

 

 

 

 

14 18歳の男子。2年前までは成績優秀で友人も多かった。1年前から口数か減り徐々に欠席が増え、半年前から不登校となった。「隣人が見張っている」と言いだし自室のカーテンを一日中閉めたままにしている。1か月前から自室に引きこもり、「自分の考えが人に伝わってしまう」、「誰もいないのに自分の悪口が聞こえてくる」などと言うようになった。2週前から入浴をしていない。
 この患者の症状で誤っているのはどれか。

1.幻聴
2.行為心迫
3.思考伝播
4.被害妄想
5.無為自閉

解答

解説

本症例のポイント

・18歳の男子(半年前:不登校)。
注察妄想:「隣人が見張っている」。
無為自閉:自室に引きこもり(2週前から:入浴をしていない)。
思考伝播:「自分の考えが人に伝わってしまう」
被害妄想・幻聴:「誰もいないのに自分の悪口が聞こえてくる」など。
→本症例は、統合失調症が疑われる。統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)。

1.〇 幻聴は、本症例にみられる症状である(統合失調症の症状)。設問において「誰もいないのに自分の悪口が聞こえてくる」と、被害的内容の幻聴を訴えている。

2.× 行為心迫はみられない。ちなみに、行為心迫とは、主に躁病にみられ、落ち着きがなく、思いついたことをすぐに行動に移さないとすまないことである。

3.〇 思考伝播は、本症例にみられる症状である(統合失調症の症状)。思考伝播とは、統合失調症で見られ、自分の考えが他者に伝わっているように感じる症状である。

4.〇 被害妄想は、本症例にみられる症状である(統合失調症の症状)。被害妄想とは、現実ではありえないような内容であり、「何者かに危害を加えられている」と感じる体験である。

5.〇 無為自閉は、本症例にみられる症状である(統合失調症の症状)。無為自閉とは、対人関係がうまく取れず、ひきこもることを指す。本症例は、「口数が減り、欠席が増え、不登校になり、自室に閉じこもっている」「2週間入浴していない」など、明らかに行動性の低下がみられる。

躁病の特徴

①異常に高揚した、開放的な、または怒りっぽい気分の持続
②過度の自尊心・誇大的思考
③睡眠欲求の減少
④多弁
⑤観念奔逸(考えが次から次へとほとばしり出ること)
⑥注意散漫
⑦目標指向性の異常亢進
⑧快楽的活動への没頭

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【OT/共通】精神症状(精神医学)についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

15 30歳の女性。統合失調症。高校在学中に発症し休学をしながらも高校を卒業した。その後数回の入退院を経て、現在精神科デイケアを利用している。「作業の手順が分からない」、「説明がよく分からない」と訴えるため、認知機能検査を実施した。図版の一部を図に示す。
 この検査で評価するのはどれか。

1.運動機能
2.遂行機能
3.言語流暢性
4.注意と処理速度
5.ワーキングメモリー

解答

解説

BACS-Jとは?

BACS-J(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia Japanese Version:統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版
①言語性記憶と学習:15個の単語が提示され、その後できるだけたくさんの単語を思い出すように求める(5回繰り返す)。
②ワーキングメモリー(作動記憶):数字の組を聞き、聞いた数字を小さいものから大きいものの順に伝えるよう求める。
③運動機能:100枚のプラスチック製のトークンを60秒間、できるだけ早く両手で容器に入れる。
④注意と情報処理速度:記号に一致する数字を説明され、できるだけ早くシートに書き込む(90秒間)。
⑤言語流暢性:(1)意味流暢性(指定されたカテゴリーに属する単語を60秒間にできるだけたくさん答える)と(2)文字流暢性(指定された文字で始まる単語を60秒間にできるだけたくさん答える)がある。
⑥遂行機能(ロンドン塔検査):3本の棒に配置された3つの色のボールの絵を見て、1枚の絵の中のボールがもう1つの絵の中のボールと同じ配置になるように動かすために必要となる最小回数を答えることを求める。

1.× 運動機能のBACS-Jの検査方法は、100枚のプラスチック製のトークンを60秒間、できるだけ早く両手で容器に入れる。

2.〇 正しい。遂行機能を評価する。遂行機能(ロンドン塔検査):3本の棒に配置された3つの色のボールの絵を見て、1枚の絵の中のボールがもう1つの絵の中のボールと同じ配置になるように動かすために必要となる最小回数を答えることを求める。

3.× 言語流暢性のBACS-Jの検査方法は、(1)意味流暢性(指定されたカテゴリーに属する単語を60秒間にできるだけたくさん答える)と(2)文字流暢性(指定された文字で始まる単語を60秒間にできるだけたくさん答える)がある。

4.× 注意と処理速度のBACS-Jの検査方法は、記号に一致する数字を説明され、できるだけ早くシートに書き込む(90秒間)。

5.× ワーキングメモリーのBACS-Jの検査方法は、数字の組を聞き、聞いた数字を小さいものから大きいものの順に伝えるよう求める。

作業記憶とは?

作動記憶〈ワーキングメモリー、作業記憶〉とは、環境から新しく入ってくる短期記憶を保持する過程と、保持された短期記憶の情報と、長期記憶から取り出される情報とを適合して処理する過程の両方に関与している。物事を実行したり考えたりする際に、一時的に情報を蓄えておく記憶のシステムである。いわゆる短期記憶と異なるのは、情報を保持している間に他の情報処理を行うことである。

 

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