第60回(R7)理学療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

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16 70歳の男性。COVID-19による肺炎で入院し、マスクで酸素10L/分を投与している。PaO2は背臥位では60mmHgであったのに対して腹臥位では100mmHgに改善した。
 PaO2の改善に最も大きく影響した要因はどれか。

1.肺拡散能
2.換気血流比
3.解剖学的死腔
4.肺動静脈奇形
5.吸入気酸素濃度

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(COVID-19による肺炎)。
・マスクで酸素10L/分を投与している。
・PaO2は背臥位では60mmHgであったのに対して腹臥位では100mmHgに改善。
→ほかの選択肢も身体にどのような影響があるか確認しておこう。腹臥位により依存性部位の換気が改善され、換気血流比の不均衡が是正されることが、PaO₂の改善に最も大きく影響したと考えられる。

→COVID-19とは、新型コロナウイルスによる感染症で、主にせきやくしゃみで感染する。主な症状は発熱やせき、息苦しさなどで、高齢者や持病のある人は重症化しやすい。感染防止には手洗い、マスク、密を避けることが大切である。

1.× 肺拡散能との関連性は低い。なぜなら、拡散能は、肺胞と毛細血管の構造に依存しているため。したがって、体位変化で急激に変わるものではなく、主に肺組織の病変や線維化などが影響する。ちなみに、肺拡散能とは、肺胞から肺胞上皮および毛細血管内皮を介して赤血球へガスを運搬する能力を測定するものである。慢性閉塞性肺疾患などにより肺拡散能は低下する。

2.〇 正しい。換気血流比がPaO2の改善に最も大きく影響した要因である。なぜなら、背臥位では、重力の影響で血流が偏り背側肺の換気が低下するため。したがって、腹臥位にすることで背側肺がより十分に換気され、血流とのバランスが改善される。ちなみに、換気血流比とは、肺胞換気量と肺循環血流量の比、つまり肺の換気と血流のバランスを示す指標である。臥位が長期化することにより、肺活量および機能的予備能力は 25~50%の低下をきたす。これにより、肋間筋は短縮をきたし、その際の筋紡錘からの求心性の情報の変化が呼吸困難感に影響を与える。さらに、換気量や換気血流比不均衡の結果もたらされる高炭酸ガス血症、低酸素血症、アシドーシスは、延髄の呼吸中枢を刺激して換気亢進反応を発現させるだけではなく、呼吸困難感も誘発させる。

3.× 解剖学的死腔との関連性は低い。なぜなら、そもそもガス交換に関与しない部位であるため。したがって、体位変化で大きく変動するものではない。解剖学的死腔とは、気道のうち、解剖学的に肺胞が存在しないためガス交換には直接関与しない、鼻腔から終末細気管支までのスペースのことである。

4.× 肺動静脈奇形との関連性は低い。なぜなら、肺動静脈奇形とCOVID-19肺炎との関連性は低く(病態のメカニズムが異なる)、体位変換でPaO2の変化は起きにくいため。ちなみに、肺動静脈奇形とは、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながってしまい、まるでできもののように膨らんでいる状態になることである。症状として、労作性呼吸困難、チアノーゼ、喀血、血胸などが現れる。

5.× 吸入気酸素濃度との関連性は低い。なぜなら、本症例の両体位で同じ酸素投与量であったため。酸素投与量やマスクの使用条件が一定である場合、吸入気中の酸素濃度は変化しない。ちなみに、吸入気酸素濃度とは、吸入するガスに含まれる酸素の濃度を指す。

 

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17 75歳の男性。右変形性股関節症で歩行時に疼痛の訴えがあった。歩行時床反力の垂直分力(両側)を図に示す。
 右大腿直筋が活動する期はどれか。(※不適切問題:解2つ)

1.①
2.②
3.③
4.④
5.⑤

解答1・5(複数選択肢正解)
理由:設問が不明確で複数の選択肢が正解と考えられるため。

解説

MEMO

【歩行における大腿四頭筋の筋活動】大腿四頭筋は、踵接地で最も筋活動が最大となる。大腿四頭筋は、主に、①立脚初期と②立脚後期から遊脚初期にかけ活動する。①立脚初期は、衝撃吸収(膝折れ防止)のために、②立脚後期から遊脚初期は股関節屈曲の補助として働く。

一次性変形性股関節症とは、原因がわからずに関節軟骨がすり減り、骨が変形するもの。二次性変形性股関節症とは、何らかの病気(ペルテス病や先天性股関節脱臼)やケガが原因でおこっているものをいう。日本では、この二次性が大半を占め、先天性股関節脱臼と臼蓋形成不全によるものが約90%、圧倒的に女性に多い。壊死部は修復過程を経て正常の骨組織に戻るが、形態異常を伴って修復完了した場合、将来的に変形性股関節症を生じる可能性がある。

1.〇 正しい。①(初期接地)は、右大腿直筋が(最大に)活動する期である。※ただし、「右大腿直筋が最大に活動する期はどれか?」と聞かれていれば解答できるが、設問文では「右大腿直筋が活動する期はどれか?」と問われているため、②(荷重応答期)や⑤(立脚終期)も否定できない。

3~4.× ②(荷重応答期)~④(立脚中期後半) は、右大腿直筋の活動がみられないことが多い。

5.〇 正しい。⑤(立脚終期)も、右大腿直筋が活動する期である。股関節屈曲の補助として働く。※設問文が「右大腿直筋が活動する期はどれか」ではなく「右大腿直筋が最も活動する期はどれか」という記載であれば、⑤(立脚終期)は消去される。

(図引用:Eberhart,H. D. et al.:「Human Limbs and their Substitutes」Mc Graw Hill Book Co. Inc 1954より)

歩行周期

【立脚期】

 1. 初期接地(Initial Contact;以下,IC):観測肢の接地の瞬間
 2. 荷重応答期(Lording Response;以下,LR):IC から対側爪先離地まで
 3. 立脚中期(Mid Stance;以下,MSt):対側爪先離地から対側下腿下垂位まで
   立脚中期前半:対側爪先離地から両下腿の交差まで
   立脚中期後半:両下腿交差から対側下腿下垂位まで
 4. 立脚終期(Terminal Stance;以下,TSt):対側下腿下垂位から対側 IC まで
 5. 前遊脚期(Pre Swing;以下,PSw):対側 IC から観測肢爪先離地まで

【遊脚期】

 6. 遊脚初期(Initial Swing;以下,ISw):観測肢爪先離地から両下腿の交差まで
 7. 遊脚中期(Mid Swing;以下,MSw):両下腿交差から下腿下垂位まで
 8. 遊脚終期(Terminal Swing;以下,TSw):下腿下垂位から IC まで

 

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18 55歳の男性。1か月前に急性心筋梗塞で入院し、経皮的冠動脈形成術を受けた。
 退院後に在宅において実施する全身持久力運動で正しいのはどれか。

1.運動頻度は週2回以内とする。
2.1回10分以下の運動を勧める。
3.Borg指数11~13の運動を勧める。
4.拡張期血圧120mmHgでは運動が可能である。
5.運動強度は最高酸素摂取量の10~20%で実施する。

解答

解説

急性心筋梗塞とは?

急性心筋梗塞とは、冠状動脈内に血栓が形成され、動脈を閉塞し心筋が壊死することである。リスクファクターとして、①高血圧、②喫煙、③糖尿病、④脂質代謝異常などである。ちなみに、労作性狭心症とは、心臓に栄養を送る血管である冠動脈の一部が動脈硬化によって75%以上狭窄し、血流の流れが悪くなってしまう状態である。症状として、胸痛発作の頻度(数回/周以下)、持続時間(数分以内)、強度などが一定であることや、一定以上の運動や動作によって発作が出現する。その4大危険因子は、「①喫煙、②脂質異常症、③糖尿病、④高血圧」である。そのほかにも、加齢・肥満・家族歴・メタボリックシンドロームなどがある。

(※参考:「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン P28」一般社団法人 日本循環器学会 様HPより)。

1.× 運動頻度は、「週2回以内」ではなく週3回以上とする。なぜなら、頻度が低すぎると持久力向上や心肺機能改善の効果が得られにくいため。「高強度の運動を実施する場合は週3回以上,中強度から高強度の運動を組み合わせる場合は3~5回,低強度から中強度の場合は5回以上とする.」と記載されている(※引用:「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン P28」一般社団法人 日本循環器学会 様HPより)。

2.× 1回「10分以下」ではなく20~60分間(目標)の運動を勧める。なぜなら、時間が短すぎると持久力向上や心肺機能改善の効果が得られにくいため。「運動の持続時間は,1回あたり最低10分を目標とするが,運動耐容能が高度に低下している患者では,運動療法を開始するにあたって10分未満の運動から始め,1セッションごとに1~5分ずつ漸増する100).最終的に20~60分間を目標とする(表17).」と記載されている(※引用:「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン P29」一般社団法人 日本循環器学会 様HPより)。

3.〇 正しい。Borg指数11~13の運動を勧める。「自覚的運動強度(RPE)を評価指標とする場合には,Borg指数を用いる.一般的にBorg指数によるRPEの12未満はHRRの40%未満,12~13は40~59%,14~17は60~89%に相当する.」と記載されている(※引用:「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン P30」一般社団法人 日本循環器学会 様HPより)。

4.× 拡張期血圧120mmHgでは運動は中止すべきである。リハビリテーションの中止基準として、「1. 積極的なリハを実施しない場合」として「安静時拡張期血圧 120mmHg 以上」があげられる(下参照)。

5.× 運動強度は最高酸素摂取量の「10~20%」ではなく40~60%程度で実施する。例えば、軽い散歩程度でもVO2maxの20~30%程度になることが多いため、それ以下だと運動療法としては不十分なことが多い。また、特に心疾患患者においては最高酸素摂取量が運動耐容能、生命予後の指標として汎用される。

(※引用:「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン P30」一般社団法人 日本循環器学会 様HPより)

心臓リハビリテーションの効果

①体力が回復し、スムーズに動けるようになる(運動耐容能の改善)。
②筋肉や骨が鍛えられ、疲れにくくなるとともに心臓の働きを助ける(心拍数減少)。
③動脈硬化のもととなる危険因子(高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満)が軽減する(HDLコレステロール増加、中性脂肪の減少、肥満の改善)。
④血管が柔らかくなり、循環が良くなる(虚血徴候の軽減)。
⑤呼吸がゆっくりとして、息切れ感が軽減する(運動耐容能の改善)。
⑥自律神経を安定させ、動悸や不整脈が軽減する。
⑦不安やうつ状態が改善し気持ちが晴れやかになる。
⑧心筋梗塞の再発や突然死が減り、死亡率が減少する。

(参考:「心臓リハビリテーション(運動療法について)」神戸掖済会病院様HPより)

リハビリテーションの中止基準

1. 積極的なリハを実施しない場合
[1] 安静時脈拍 40/分以下または 120/分以上
[2] 安静時収縮期血圧 70mmHg 以下または 200mmHg 以上
[3] 安静時拡張期血圧 120mmHg 以上
[4] 労作性狭心症の方
[5] 心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈がある場合
[6] 心筋梗塞発症直後で循環動態が不良な場合
[7] 著しい不整脈がある場合
[8] 安静時胸痛がある場合
[9] リハ実施前にすでに動悸・息切れ・胸痛のある場合
[10] 座位でめまい,冷や汗,嘔気などがある場合
[11] 安静時体温が 38 度以上
[12] 安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下

2. 途中でリハを中止する場合
[1] 中等度以上の呼吸困難,めまい,嘔気,狭心痛,頭痛,強い疲労感などが出現した場合
[2] 脈拍が 140/分を超えた場合
[3] 運動時収縮期血圧が 40mmHg 以上,または拡張期血圧が 20mmHg 以上上昇した場合
[4] 頻呼吸(30 回/分以上),息切れが出現した場合
[5] 運動により不整脈が増加した場合
[6] 徐脈が出現した場合
[7] 意識状態の悪化

3. いったんリハを中止し,回復を待って再開
[1] 脈拍数が運動前の 30%を超えた場合。ただし,2 分間の安静で 10%以下に戻らないときは以後のリハを中止するか,または極めて軽労作のものに切り替える
[2] 脈拍が 120/分を越えた場合
[3] 1 分間 10 回以上の期外収縮が出現した場合
[4] 軽い動悸,息切れが出現した場合

 

 

 

 

 

19 関節可動域測定法(日本整形外科学会日本リハビリテーンョン医学会基準1995年)を図に示す。
 正しいのはどれか。

1.肩甲骨挙上
2.肩水平伸展
3.股伸展
4.膝屈曲
5.足底屈(屈曲)

解答

解説
1.× 肩甲骨(※誤字?肩甲帯?)挙上の【基本軸】両側の肩峰を結ぶ線、【移動軸】肩峰と胸骨上縁を結ぶ線、【測定部位及び注意点】背面から測定する。設問の図の【基本軸】が両側の腋窩を結ぶ線であるため不適切である。

2.× 肩水平伸展の【基本軸】肩峰通る床への矢状面への垂直線、【移動軸】上腕骨、【測定部位及び注意点】肩関節を90°外転位とする。一般的に肩関節中間位で測定するが、設問の図は、肩関節外旋位で測定しているため不適切である。

3.× 股伸展の【基本軸】体幹と平行な線、【移動軸】大腿骨(大転子と大腿骨外果の中心を結ぶ線)、【測定部位及び注意点】①骨盤と脊柱を十分に固定する。②屈曲は背臥位(膝屈曲位で行う)③伸展は腹臥位(膝伸展位で行う)。設問の図は、膝関節屈曲位であるため不適切である。

4.〇 正しい。膝屈曲の【基本軸】大腿骨、【移動軸】腓骨(腓骨頭と外果を結ぶ線)、【測定部位及び注意点】屈曲は股関節を屈曲位で行う。

5.× 足底屈(屈曲)の【基本軸】矢状面における腓骨長軸への垂直線、【移動軸】足底面、【測定部位及び注意点】膝関節を屈曲位で行う。設問の図は、膝関節伸展位であるため不適切である。

 

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20 75歳の女性。右大腿骨頭部骨折に対して人工骨頭置換術が施行され、入院中である。現在T字杖を用いて50m以上歩行可能で、階段昇降は4段まで可能である。その他のADLはすべて自立している。
 FIM運動項目の得点はどれか。(※不適切問題:解なし)

1.83点
2.85点
3.87点
4.89点
5.91点

解答(解答なし)採点対象から除外
理由:選択肢に正解がないため。

解説

本症例のポイント

・75歳の女性(入院中)。
・右大腿骨頭部骨折→人工骨頭置換術施行。
歩行(6点):T字杖を用いて50m以上可能。
階段昇降(5点):4段まで可能。
・その他のADLはすべて自立
→FIMとは、日常生活動作(ADL)を評価する尺度で、運動項目(13項目)と認知項目(5項目)の計18項目を7段階で採点する。【運動項目】セルフケア(食事、整容、清拭、更衣:上・下、トイレ動作)、移乗(ベッド・椅子・車椅子移乗、トイレ移乗、浴槽・シャワー移乗)、排泄コントロール(排尿管理、排便管理)、移動(歩行・車椅子、階段)、【認知項目】コミュニケーション(理解、表出)、社会的認知(社会的交流、問題解決、記憶)で評価する。

【歩行・車椅子】
7点:介助者なしで自立。
6点:杖などの歩行補助具を使用していれば50mの移動が自立、通常以上の時間がかかる、安全面の配慮が必要など。
5点:監視または準備、助言があれば50mの移動が可能(15m〜49mは自立して移動が可能)。

【階段】
7点:介助者なしで自立。
6点:杖や手すり、装具などの補助具を使用していれば12〜14段の昇降自立、通常以上の時間がかかる、安全面の配慮が必要など。
5点:監視または準備、助言があれば12〜14段の階段を昇降可能(4〜6段の階段は自立して昇降可能)。

本症例の場合、
・歩行(6点):T字杖を用いて50m以上可能。
・階段昇降(5点):4段まで可能。

FIMの運動項目の満点は、91点(13項目× 7段階)である。
本症例の場合、88点(91点 – 3点)となる。

FIMの採点方法

「介助者なしの自立レベル」
7 完全自立(時間、安全性を含めて)
6 修正自立(補装具などを使用)

「介助者ありの部分自立レベル」
5 監視や準備だけをすれば可能
4 最少介助(患者自身で75%以上可能)
3 中等度介助(患者自身で50%以上可能)

「完全介助レベル」
2 最大介助(患者自身で25%以上可能)
1 全介助(患者自身で25%未満)

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