第59回(R6)作業療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11 62歳の男性。畑で野焼き中に熱傷になったため救急車で搬入された。搬入時の両下肢の熱傷部位を下に示す。全身の熱傷面積は35%である。
 熱傷で正しいのはどれか。

1.疼痛評価が必要である。
2.熱傷深度はⅠ度である。
3.全身症状の観察は必要ない。
4.気道熱傷は予後因子ではない。
5.熱傷面積は予後因子ではない。

解答

解説

本症例のポイント

・62歳の男性(熱傷)。
・全身の熱傷面積:35%
→両下肢の熱傷写真は、炭化がみられる。ちなみに、重症熱傷とは、定義として「成人30%以上、幼小児15%以上の熱傷面積」とされている。

【重症熱傷:入院加療を要する熱傷】
①Ⅱ度熱傷で体表面積の30%以上。
②Ⅲ度熱傷で体表面積の10%以上。
③顔面・手・足の熱傷。
④気道熱傷。
⑤軟部組織損傷や骨折を伴う。

1.〇 正しい。疼痛評価が必要である。なぜなら、疼痛の評価により、熱傷の深達度(分類)をより詳細に評価できるため。Ⅰ度熱傷やⅡ度浅層の熱傷では疼痛を生じるが、Ⅱ度深層の熱傷では鈍麻、Ⅲ度熱傷では疼痛を感じない。
2.× 熱傷深度は、「Ⅰ度」ではなくⅢ度である。なぜなら、両下肢の熱傷写真に、炭化がみられるため。ほかにもⅢ度の特徴として、白く乾燥、水泡形成はないことがあげられる。
3.× 全身症状の観察は「必要である」。なぜなら、広範囲に熱傷を負った人は、熱傷を起こした組織の血管から体液がにじみ出ていき、また熱傷が深く広ければ全身の血管から体液が失われるため。したがって、最終的に脱水状態に陥る。ほかの熱傷の合併症として、循環血液量減少性ショックや気道熱傷、感染、瘢痕、拘縮などがある。 広範な熱傷(体表面積の20%超)の患者では、急速輸液が必要となる。
4.× 気道熱傷は予後因子「である」。なぜなら、気道熱傷で気道の浮腫を生じるため。それに伴い、呼吸困難を生じやすく、窒息の危険性が高い。
5.× 熱傷面積は予後因子「である」。なぜなら、熱傷面積が大きいほど体液が失われやすい(合併症を伴いやすい)ため。ちなみに、予後因子として、熱傷深度、熱傷面積、年齢、気道熱傷、合併損傷、既往疾患、熱傷の原因、熱傷部位、受傷後経過時間があげられる。

熱傷の分類

Ⅰ度:【深さ】表皮【症状】発赤、熱感、軽度の腫脹と疼痛、水泡形成(ー)【治癒】数日間、瘢痕とはならない。
Ⅱ度:【深さ】真皮浅層(SDB)【症状】強い疼痛、腫脹、水泡形成(水泡底は赤色)【治癒】1~2週間、瘢痕再生する。
Ⅱ度:【深さ】真皮深層(DDB)【症状】水泡形成(水泡底は白色、もしくは破壊)、知覚は鈍麻【治癒】3~4週間、瘢痕残す、感染併発でⅢ度に移行。
Ⅲ度:【深さ】皮下組織【症状】疼痛(ー)、白く乾燥、炭化、水泡形成はない【治癒】一か月以上、小さいものは瘢痕治癒、植皮が必要。

参考にどうぞ↓

【PT/OT/共通】熱傷についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

12 86歳の女性。介護老人保健施設に入所中。トイレで便座から立ち上がる際、突然大量の嘔吐をした。2日前から同施設内で3名のノロウイルス感染症が発生している。
 ノロウイルスの感染症対策で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.介助していた職員を隔離する。
2.入所者に手指衛生を指導する。
3.吐物の清拭時に防護具を着用する。
4.全職員に抗ウイルス薬を予防投与する。
5.トイレの手すりの消毒にはアルコールが推奨される。

解答2・3

解説

本症例のポイント

・86歳の女性(介護老人保健施設に入所中)。
突然大量の嘔吐
・2日前:同施設内で3名のノロウイルス感染症が発生。
→本症例は、ノロウイルス感染症が疑われる。ノロウイルスの特徴と対応を覚えよう。

1.× 介助していた職員を隔離する必要はない。患者のみ隔離の対応をする。なぜなら、感染経路は、経口感染、接触感染、飛沫感染、空気(飛沫核)感染によるため。
2.〇 正しい。入所者に手指衛生を指導する。ノロウイルス対策では、特に、トイレ後、汚物処理やオムツ交換後、嘔吐物処理後、調理前、食事前などに手指衛生を行うことが重要である。
3.〇 正しい。吐物の清拭時に防護具を着用する。なぜなら、処理をする人自身への感染と、施設内への汚染拡大を防ぐため。処理をする人は使い捨て手袋とマスク、エプロンを着用する。吐物は使い捨ての布やペーパータオル等で外側から内側に向けて、拭き取り面を 折り込みながら静かに拭い取る(※参考:「ノロウイルス対応標準マニュアル」東京都保健医療局様HPより)。
4.× 全職員に抗ウイルス薬を予防投与することはできない。なぜなら、現在、ノロウイルスの抗ウイルス薬はないため。したがって、感染性胃腸炎の治療は、対症療法(症状に対する治療)となる。
5.× トイレの手すりの消毒には、「アルコール」ではなく塩素系消毒剤が推奨される。消毒には、通常のアルコール製剤や逆性石鹸は有効でないため、塩素系消毒剤(0.1%次亜塩素酸ナトリウム)を用いる。

ノロウイルスとは?

ノロウイルスは、もっとも一般的な胃腸炎の原因である。感染者の症状は、非血性下痢、嘔吐、胃痛(悪心・嘔吐、水様性下痢腹痛、発熱等の急性胃腸炎)が特徴である。発熱や頭痛も発生する可能性がある。症状は、通常ウイルス曝露後12〜48時間で発症し、回復は通常1〜3日以内である。合併症はまれだが、特に若人、年配者、他の健康上の問題を抱えている人では、脱水症状が起こることがある。原因として、①カキ等の二枚貝、②感染者の嘔吐物等への接触や飛沫による二次感染である。感染経路は、経口感染、接触感染、飛沫感染、空気(飛沫核)感染による。

【予防・拡大防止】
①感染源となる二枚貝等は、中心部まで十分に加熱(85~95℃以上、90秒以上)する。
②消毒には、通常のアルコール製剤や逆性石鹸は有効でないため、塩素系消毒剤(0.1%次亜塩素酸ナトリウム)を用いる。
③ノロウイルスは乾燥に強く、感染者の嘔吐物等が乾燥して空気中に飛散することで感染拡大するため完全に拭き取る。
④嘔吐物等の処理時には手袋、ガウンマスクを装着する。

(※参考:「ノロウイルスに関するQ&A」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

13 35歳の男性。一人暮らし。銀行員。半年前に仕事のミスがあり、徐々に飲酒量が増えた。酒がなくなると深夜でも買いに出かけた。2週前より無断欠勤が続いており、上司が自宅を訪問すると泥酔していた。上司に伴われて精神科を受診し、作業療法が処方された。健康診断で肝機能障害を指摘されているが、これまでに禁酒の試みはない。
 現時点で観察される症状で誤っているのはどれか。

1.渇望
2.抑制喪失
3.離脱症状
4.耐性の増大
5.負の強化への抵抗

解答

解説

本症例のポイント

・35歳の男性(一人暮らし、銀行員)
・半年前に仕事のミスがあり、徐々に飲酒量が増えた
・酒がなくなると深夜でも買いに出かけた。
・2週前:無断欠勤、上司が自宅を訪問すると泥酔。
肝機能障害を指摘されているが、これまでに禁酒の試みはない。
→本症例は、アルコール依存症が疑われる。アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

(※図引用:「精神作用物質使用障害の入院治療」著:成瀬暢也様より)

1.〇 正しい。渇望は、現時点で観察される。飲酒してはならないような状況でも感じることがあるような強い飲酒欲求を「飲酒渇望」と呼ぶ。渇望とは、アルコール、薬物の種類にかかわらず、薬物・アルコールを使いたくなり、イライラと落ち着かず、集中力の欠けた状態である。
2.〇 正しい。抑制喪失は、現時点で観察される。なぜなら、本症例は、酒がなくなると深夜でも買いに出かけていたこと、無断欠勤が続いているため。アルコール依存症の抑制喪失とは、飲酒による身体疾患や家族的・社会的問題が起きているにもかかわらず飲酒を続けることである。
3.× 離脱症状は、現時点で観察される症状で誤っている。なぜなら、泥酔が離脱症状とはいえないため。離脱症状とは、飲酒中止後に生じ、精神的、肉体的な症状を呈する。最終飲酒から数時間後から出現し、20時間後にピークを迎える早期離脱症候群(振戦、自律神経症状、発汗、悪心・嘔吐、けいれん、一過性の幻覚)と最終飲酒後72時間頃から生じ数日間持続する後期離脱症候群(早期離脱症状に加え意識変容を呈したもの、振戦せん妄といわれる。小動物幻視や日頃やり慣れた動作、例えば運転動作を繰り返す、夜間に目立つ)に分けられる。
4.〇 正しい。耐性の増大は、現時点で観察される。なぜなら、本症例は、徐々に飲酒量が増えているため。耐性とは、同様の効果が現れるまでに必要とする量が、初期よりも増えることである。
5.〇 正しい。負の強化への抵抗は、現時点で観察される。なぜなら、本症例は、仕事のミス・肝機能障害(負の面)がみられているにもかかわらず、アルコールを摂取し続けているため。負の強化への抵抗とは、アルコール依存症の精神依存の特徴の1つで、家族関係の悪化や身体的な問題、会社でのトラブルなど、自分にとってマイナス(負)な面が強くなっているにもかかわらず、アルコールを摂取し続ける飲酒行動を指す。

オペラント条件付けとは?

オペラント条件付けはSkinner(スキナー)である。オペラント条件付けとは、行動療法のもとになる学習理論である。

①行動が増える(強化)
・正の強化:快刺激で行動が増える。
・負の強化:刺激で逃げる・回避行動が増える。刺激前に逃げる。

②行動が減る(罰)
・正の罰:不快刺激で行動が減る。
・負の罰:報酬がないため行動が減る。

 

 

 

 

 

14 17歳の女子。半年前からダイエットを始め、最近、極端な食事制限をするようになった。身長は156cmで体重は46kgから32kgに減少した。学校で嘔吐して倒れて、その後歩行困難となったため救急外来を受診した。精神科を紹介されて入院となり、精神科作業療法が処方された。
 導入時の作業療法で最も適切な活動種目はどれか。

1.料理
2.屋外スポーツ
3.集団対抗ゲーム
4.陶芸の花瓶製作
5.スタンプ模様の革細工

解答

解説

本症例のポイント

・17歳の女子(身長156cm)。
・半年前:ダイエット開始。
・最近:極端な食事制限
・体重:46kgから32kgに減少。
・学校で嘔吐して倒れて、その後歩行困難
→本症例は、摂食障害(神経性無食症)が疑われる。摂食障害には、①神経性無食症、②神経性大食症がある。共通して肥満恐怖、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤の使用抑うつの症状がみられる。作業療法場面での特徴として、過活動強迫的なこだわり抑うつ、対人交流の希薄さ、表面的な対応がみられる。患者の性格として、細かい数値へのこだわり(①体重のグラム単位での増減、②この食べ物はあの食べ物より〇カロリー多いなど)がみられる。【摂食障害の作業療法のポイント】①ストレス解消、②食べ物以外へ関心を向ける、③自信の回復(自己表出、他者からの共感、自己管理)、④過度の活動をさせない、⑤身体症状、行動化に注意する。【性格的特徴】①強情、②負けず嫌い、③執着心が強い、③極端な行動に及びやすい。

1.× 料理は、導入時の作業療法において優先度は低い。むしろ、食べ物以外へ関心を向けるように接する。なぜなら、食べ物(カロリー)へのこだわりが強いため。神経性無食欲症は、思春期~青年期の若い女性に発症しやすい。神経性無食欲症の主な特徴は以下の通りである。①病的な痩せ願望、②ボディーイメージのゆがみ、③極端な食べ物制限と下剤などの乱用、④月経の停止、うぶげの増加、⑤乳房委縮はみられない、⑥性格的には頑固で競争心が強い、⑦母親との心的葛藤をみることがある。
2.× 屋外スポーツは、導入時の作業療法において優先度は低い。なぜなら、本症例は、BMI13(身長156cm、体重32kg)で歩行困難で入院されてきた経歴があるため。屋外スポーツは過度の活動となりやすく、さらなる過活動体重の減少を助長しやすい。
3.× 集団対抗ゲームは、導入時の作業療法において優先度は低い。なぜなら、摂食障害の性格的特徴として、負けず嫌いがあげられる。数字的なこだわりも強いため、さらなるストレスや過活動を助長しかねない。
4.× 陶芸の花瓶製作は、導入時の作業療法において優先度は低い。なぜなら、陶芸の花瓶制作は、自由度が高く、完成をこだわることができるため。摂食障害の作業療法場面での特徴として、強迫的なこだわりや抑うつがみられることがある。陶芸の花瓶は、割れたり投げつけたり、何か衝動的行動をされたとき、被害が大きくなりやすい。
5.〇 正しい。スタンプ模様の革細工がもっとも優先度が高い。なぜなら、完成形が既に存在し、型を当てはめる工程がはっきりしており、安全非競争的であるため。

うつ病の対応

かかりやすい:几帳面で完璧主義、責任感が強い人が多い。

うつ病の特徴:意欲低下、精神運動抑制などの症状のため、自己評価が低く、疲労感が強い。

①調子が悪いのは病気のせいであり、治療を行えば必ず改善すること。
②重要事項の判断・決定は先延ばしにする。
③自殺しないように約束してもらうことなど。

【作業基準】
①工程がはっきりしている。
②短期間で完成できる。
③安全で受身的で非競争的である。
④軽い運動(いつでも休憩できる)

【対応】
①気持ちを受け入れる。
②共感的な態度を示す。
③心理的な負担となるため、激励はしない。
④無理をしなくてよいことを伝える。
⑤必ず回復することを繰り返し伝えていく。
⑥静かな場所を提供する。

 

 

 

 

 

15 13歳の男子。中学校入学後クラスでの様子を心配した担任から母親に連絡があり、母親に伴われて精神科に来院した。幼少期から物音および匂いに敏感であったという。成績は上位。鉄道に強い興味があり、同級生はその知識にはじめは関心を示したが、一度話し始めると一方的に自分の興味のある話を続けるため、次第に孤立した。本人は他の生徒との関係に無頓着である。
 最も考えられるのはどれか。

1.うつ病
2.限局性学習障害
3.行為障害
4.自閉症スペクトラム障害
5.選択性緘黙

解答

解説

本症例のポイント

・13歳の男子(成績:上位、興味:鉄道)。
・幼少期:物音および匂いに敏感
・一度話し始めると一方的に自分の興味のある話を続ける。
・本人は他の生徒との関係に無頓着である。
→本症例は、自閉症スペクトラムが疑われる。

1.× うつ病とは、抑うつ感、希望や元気を失ったり、興味を失ったり、生産性が低下したり、睡眠障害、食欲の低下、身体症状などが2週間以上続いている状態である。原因は多岐にわたり、生物学的、環境的、社会的要因が関係していることが知られている。
2.× 限局性学習障害読む、書く、話すなどとは、読む、書く、話すなどのある特定の学習能力が同じ年齢・知能の者と比較したときに期待される水準に達しない状態を指す。特定の学習能力が年齢や知能レベル、教育レベルから期待されるものより著しく低いものをいい、学習機会がなかった者や、精神遅滞は除外する。本症例の場合、成績上位であるため否定できる。
3.× 行為障害とは、反社会的、攻撃的あるいは反抗的な行動パターンが反復し、持続する状態をいう。
4.〇 正しい。自閉症スペクトラム障害とは、正常な社会的関係を構築することができず、言葉の使い方に異常がみられるか、まったく言葉を使おうとせず、強迫的な行動や儀式的な行動がみられる病気である。 自閉スペクトラム症の患者は、他者とコミュニケーションをとったり関係をもったりすることが苦手である特徴を持つ。広汎性発達障害、およびその下位分類である自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症は、「自閉スペクトラム症」とまとめられた。【診断基準の要点】①「社会及び感情の相互性の障害」「社会的相互作用で用いられる非言語的コミュニケーションの障害」「発達レベル相応の関係を築き維持することの障害」の3つがすべて込められること。②行動、興味活動の、限局的で反復的な様式が認められること。
5.× 選択性緘黙(場面緘黙)とは、学校や会社など特定の状況下で話すことができないという疾患のこと。緘黙(かんもく)と読む。性格によるものではなく、対人コミュニケーションに対する強い不安が根底にあるとされている。

 

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