第59回(R6)作業療法士国家試験 解説【午後問題1~5】

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※解答の引用:第59回理学療法士国家試験及び第59回作業療法士国家試験の合格発表について(厚生労働省HPより)

 

1 関節可動域測定法(日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準 1995年)で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.母指掌側外転
2.前腕回外
3.肩甲帯屈曲
4.肩関節内転
5.股関節屈曲

解答1・5

解説
1.〇 正しい。母指掌側外転の【基本軸】示指 (橈骨の延長上)、【移動軸】母指、【測定部位及び注意点】運動は手掌面に直角な面とする。
2.× 前腕回外の【基本軸】上腕骨、【移動軸】手指を伸展した手掌面、【測定部位及び注意点】肩の回旋が入らないように肘を90°に屈曲する。設問の図は、基本軸が上腕骨を通っていないため不適切である。
3.× 肩甲帯屈曲の【基本軸】両側の肩峰を結ぶ線、【移動軸】頭頂と肩峰を結ぶ線である。設問の図の基本軸が、体幹背面となっているため不適切である。
4.× 肩関節内転の【基本軸】肩峰を通る床への垂直線、【移動軸】上腕骨である。【測定部位及び注意点】立位で20°または45°肩関節屈曲位で行う。設問の図の基本軸が両側の肩峰を結ぶ線となっている。
5.〇 正しい。股関節屈曲の【基本軸】体幹と平行な線、【移動軸】大腿骨(大転子と大腿骨外果の中心を結ぶ線)である。【測定部位及び注意点】①骨盤と脊柱を十分に固定する、②屈曲は背臥位(膝屈曲位で行う)、③伸展は腹臥位(膝伸展位で行う)

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2 65歳の女性。専業主婦。右利き。上肢の振戦のため心配した夫に伴われて来院した。Hoehn & Yahrの重症度分類ステージⅠ。入院後に内服投与が開始され、2週後退院となった。退院時に安静時振戦は消失したが、右下肢の固縮および右すり足を認めた。片脚立位で右が10秒、左が20秒。ADLは自立しているが、箸の使用と書字に時間がかかる。
 退院後のプログラム内容で適切でないのはどれか。

1.散歩
2.太極拳
3.フレンケル体操
4.手内筋の伸張運動
5.床に置かれた物品の整理

解答

解説

本症例のポイント

・65歳の女性(専業主婦、右利き)。
Hoehn & Yahrの重症度分類ステージⅠ
・退院時:安静時振戦は消失。
・右下肢の固縮および右すり足を認めた。
・片脚立位:右10秒、左20秒。
・ADL:自立、箸の使用と書字に時間がかかる。
→本症例は、Hoehn & Yahrの重症度分類が使われていることや症状からもパーキンソン病と判断できる。Hoehn & Yahrの重症度分類ステージⅠは、片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない状態である。「運動や生活を制限しないように、活動量の低下や転倒の予防をし、身体能力の向上について教育することが大切である」と記載されている(図引用:「変性疾患・パーキンソン病のリハビリテーション」著:門脇太郎らより)。ちなみに、パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。

(図引用:「変性疾患・パーキンソン病のリハビリテーション」著:門脇太郎らより)

1.〇 正しい。散歩は、退院後のプログラム内容である。活動低下の予防につながる。
2.〇 正しい。太極拳は、退院後のプログラム内容である。「パーキンソン病に対するリハビリテーションとして太極拳やタンゴダンスが有効であることが示されており、ヨーロッパのリハビリテーションガイドライン2014でも推奨されている」と記載されている(図引用:「変性疾患・パーキンソン病のリハビリテーション」著:門脇太郎らより)。
3.× フレンケル体操は優先度が最も低い。なぜなら、本症例はパーキンソン病であるため。Frenkel体操(フランクル体操、フレンケル体操)は、視覚で代償して運動制御を促通する運動療法であり、脊髄性運動失調などに対して行われる。
4.〇 正しい。手内筋の伸張運動は、退院後のプログラム内容である。身体機能維持・改善につながる。
5.〇 正しい。床に置かれた物品の整理は、退院後のプログラム内容である。転倒への不安予防につながる。

Hoehn&Yahr の重症度分類ステージ

ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

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3 62歳の女性。5か月前に左半身の脱力のため救急車で搬入され、右視床出血と診断された。現在、Brunnstrom法ステージは上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲであり、座位では右に重心が偏移し、頸部は右に回旋していた。図のような検査所見を呈している。
 作業療法プログラムで最も適切なのはどれか。

1.右側から声掛けを行う。
2.座位で左から右に輪移動を行う。
3.頸部を左回旋させて塗り絵を行う。
4.ADL訓練は視覚認知の改善を図ってから行う。
5.机上課題では左側に壁がくるように座席を配置する。

解答

解説

本症例のポイント

・62歳の女性(5か月前、右視床出血)。
・現在:Brsは上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ。
・座位:右に重心が偏移し、頸部は右に回旋
星印抹消試験:左側に見落としあり。
→本症例は、左半側空間無視が疑われる。半側空間無視とは、障害側の対側への注意力が低下し、その空間が存在しないかのように振る舞う状態のことである。半盲のように左半分が見えないわけではなく、注意力が低下している。したがって、①左側への注意喚起、②左側身体への触覚刺激、③左側方向への体軸回旋運動、④左側からの声かけなどが挙げられる。

1.× 「右側」ではなく左側から声掛けを行う。なぜなら、本症例は、左半側空間無視がみられるため。左側への注意喚起することで、左側へ注意力を促し改善を図ることができる。
2.× 座位で「左から右」ではなく右から左に輪移動を行う。なぜなら、左側方向への体軸回旋運動を行うことで、左側への注意喚起できるため。
3.〇 正しい。頸部を左回旋させて塗り絵を行う。半側空間無視のリハビリテーションとして、①左側への注意喚起、②左側身体への触覚刺激、③左側方向への体軸回旋運動、④左側からの声かけなどが挙げられる。
4.× 必ずしも、ADL訓練は視覚認知の改善を「図ってから行う」必要はない。むしろ、本症例は発症から5カ月経過している。症状は落ち着いており、視覚認知の改善を見込める可能性も低い。したがって、現在の機能でADL拡大を図れる作業療法プログラムを提供することが多い。
5.× 机上課題では「左側」ではなく右側に壁がくるように座席を配置する。なぜなら、本症例は、左半側空間無視がみられるため。左側への注意喚起することで、左側へ注意力を促し改善を図ることができる。

星印抹消試験とは?

星印抹消試験とは、大小の星印と仮名文字・単語が散在する中から、小さい星のみに印を付けさせる課題である。標的は54個ある。3個見落とせば異常と判断する。見落としは、軽度例では線分抹消試験と同様に左下に生じやすく、文字抹消試験ほどではないが中央付近や右側にもみられる。複数の抹消試験を実施した場合、身体中心の座標系において無視される一定空間があるわけではないことがわかる。たとえば、線分抹消試験では左下の一部しか見落とさないのに、星印抹消試験ではきれいに左半分を見落とすということがあることに注意されたい(※引用:「半側空間無視」著:石合純夫より)。

 

 

 

 

 

4 55歳の女性。趣味のガーデニングで手根管症候群となり正中神経低位麻痺を呈した。
 この患者のスプリント製作で最も適切なのはどれか。

1.母指は指腹まで覆う。
2.手背部で中手骨頭部を圧迫する。
3.母指を示指と対立位に保持する。
4.近位端は前腕近位2/3の位置とする。
5.遠位端はⅡ~Ⅴ指のMP関節の掌側部を覆う。

解答

解説

本症例のポイント

・55歳の女性(趣味:ガーデニング)。
・手根管症候群、正中神経低位麻痺を呈した。
→手根管症候群とは、正中神経の圧迫によって手指のしびれや感覚低下などの神経障害が生じる。手根管(手関節付近の正中神経)を4~6回殴打すると、支配領域である母指から環指橈側および手背の一部にチクチク感や蟻走感が生じる(Tinel徴候陽性)。Tinel徴候のほか、ダルカン徴候(手根管部を指で圧迫するとしびれ感が増悪する)やファーレン徴候(Phalen徴候:手首を曲げて症状の再現性をみる)も陽性となる場合が多い。

→正中神経低位麻痺とは、短母指外転筋、母指対立筋、短母指屈筋浅頭が麻痺し母指球の萎縮(猿手)が起こる。猿手は、母指が内転位となり、母指とその他の手指との対立運動が不能となる。したがって、短対立スプリントが適応となる。ちなみに、長母指屈筋や浅指屈筋、示指と中指の深指屈筋の麻痺も見られれば高位麻痺といえ、コックアップスプリントが適応となる。

(※図引用:「手外科の上肢装具」著:宮本忠司より)

1.× 母指は指腹まで覆うのは、橈骨神経麻痺に適応となる⑦トーマス型スプリントである。短対立装具は母指を覆わない。
2.× 手背部で中手骨頭部を圧迫するのは、尺骨神経麻痺に適応となる⑭鷲手用スプリントである。
3.〇 正しい。母指を示指と対立位に保持する。正中神経麻痺低位型で適応となる短対立スプリントは、母指の掌側外転や対立運動の低下のため、第1,2中手骨間を一定に保つ役割を持つ装具である。つまり、母指を対立位に保持し、手関節を保持する。
4.× 近位端は前腕近位2/3の位置とするのは、正中神経麻痺高位型で適応となる⑨コックアップスプリントである。手関節背屈位に保持する。ちなみに、正中神経麻痺低位型は、手首の運動麻痺は生じにくいため、手首の固定までは必要ない。
5.× 遠位端は、Ⅱ~Ⅴ指のMP関節の「掌側部」ではなく背側部を覆う。

 

 

 

 

 

5 70歳の男性。右中大脳動脈領域のアテローム血栓性脳梗塞後に重度の左片麻痺と感覚障害が残存し、4週後、回復期リハビリテーション病院に転院した。転院時のバイタルサインに異常なく自発痛の訴えは無かった。左上下肢は随意性が乏しく、浮腫を認めた。血液検査ではDダイマーが高値以外は正常範囲であった。
 最も考えられる疾患はどれか。

1.心不全
2.蜂窩織炎
3.肩手症候群
4.深部静脈血栓症
5.ネフローゼ症候群

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の男性。
・右中大脳動脈領域のアテローム血栓性脳梗塞後:重度の左片麻痺、感覚障害。
・4週後:回復期リハビリテーション病院に転院。
・転院時:異常なく自発痛の訴えは無かった
・左上下肢は随意性が乏しく、浮腫を認めた。
・血液検査:Dダイマーが高値以外は正常範囲。
→本症例は、深部静脈血栓症が疑われる。なぜなら、Dダイマーが高値であるため。Dダイマーとは、フィブリンがプラスミンによって分解される際の生成物である。つまり、血液検査において血栓症の判定に用いられる。深部静脈血栓症とは、長時間の安静や手術などの血流低下により下肢の静脈に血栓が詰まってしまう病気である。下肢の疼痛、圧痛、熱感などの症状がみられる。ほかのリスク因子として、脱水や肥満、化学療法などがあげられる。

1.× 心不全とは、心臓のポンプ機能低下のため末梢組織の酸素需要に見合った血液量を供給できない状態である。肺循環系にうっ血が著明なものを左心不全、体循環系にうっ血が著明なものを右心不全という。体液の著明やうっ血を生じ、主な症状として呼吸困難、咳嗽、チアノーゼ、血性・泡沫状喀痰(ピンクの痰)などがある。BNPが100pg/mL以上であることが診断基準である。
2.× 蜂窩織炎とは、細菌感染による真皮深層~皮下組織の急性膿皮症である。リンパ浮腫を起こすと、リンパ液の流れが悪くなるため、虫に刺されたり、小さな傷があると、細菌が侵入し、腕や脚全体に炎症が広がる。そのため、血液検査で高値を示すのは白血球数CRPである。
3.× 肩手症候群とは、複合性局所疼痛症候群の一つで、原疾患発症後、数週~数か月後に肩や手の炎症・疼痛を生じ、最終的に骨萎縮や拘縮を来す。本症例は、自発痛の訴えはないことから、肩手症候群より優先度が高いものが他にある。
4.〇 正しい。深部静脈血栓症が最も考えられる疾患である。なぜなら、Dダイマーが高値であるため。Dダイマーとは、フィブリンがプラスミンによって分解される際の生成物である。つまり、血液検査において血栓症の判定に用いられる。深部静脈血栓症とは、長時間の安静や手術などの血流低下により下肢の静脈に血栓が詰まってしまう病気である。下肢の疼痛、圧痛、熱感などの症状がみられる。ほかのリスク因子として、脱水や肥満、化学療法などがあげられる。
5.× ネフローゼ症候群とは、尿から大量の蛋白が漏れ出すことで血液中の蛋白が減少、血液の浸透圧が低下し水分が血管内から血管外へ移動することで、全身の浮腫や腹水・胸水などを引き起こすものである。食事に関しては、蛋白尿が陽性の間は減塩食にする。一般的に水分の制限は必要ないとされており、その理由は水分制限による脱水や血栓症の危険性が増加するためである。【成人における診断基準】①蛋白尿:1日蛋白量3.5g以上を持続する。②低蛋白血症:血清総蛋白量は6.0g/100ml以下(低アルブミン血症とした場合は血清アルブミン量3.0g/100ml以下)、③高脂血症:血清総コレステロール値250mg/100ml以上、④浮腫があげられる。

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肩手症候群とは?

肩手症候群は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)の1つと考えられており、脳卒中後片麻痺に合併することが多い。他にも骨折や心臓発作などが誘因となる。症状は、肩の灼熱性疼痛と運動制限、腫脹などを来す。それら症状は、自律神経障害によるものであると考えられている。

第1期:症状が強い時期。
第2期:痛みや腫脹が消失し、皮膚や手の萎縮が著明になる時期。
第3期:手指の拘縮と骨粗懸症が著明になる時期の経過をとる。

治療目的は、①疼痛緩和、②拘縮予防・軽減である。
治療は、①星状神経節ブロック、②ステロイド治療、③アームスリング装着を行う。
リハビリは、①温熱療法、②マッサージ、③関節可動域訓練(自動他動運動)、④巧級動作練習を行う。
『脳卒中治療ガイドライン2009』では、「麻痺の疼痛・可動域制限に対し、可動域訓練は推奨される(グレードB:行うよう勧められる)」としている。

 

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