第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午後問題46~50】

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46 解離性障害に対する初期の作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.支持的態度で接する。
2.治療的退行を促進する。
3.患者の要求通りに作業を進める。
4.新しい行動パターンの形成を促す。
5.解離症状は心理的葛藤とは無関係であると説明する。

解答1・4

解説

解離性障害とは?

解離性障害とは、心的外傷体験・人間関係などを原因として、それらの問題を抱えきれず、記憶・同一性の統合を失うことで当面の苦痛を回避する行動をいう。健忘、混迷状態、解離性同一性障害(多重人格)、Ganser症候群(偽認知症の一つで的外れ応答が特徴)などがみられる。疾病利得が根底に存在する。初期治療の目標は、患者との信頼関係を築き、安全な環境を提供することに重点を置くべきである。

1.〇 正しい。支持的態度で接する。なぜなら、解離性障害の患者は、過去のトラウマストレス(心的外傷体験・人間関係など)が原因として起こり、それらの問題を抱えきれず、記憶・同一性の統合を失っている状態であるため。支持的態度は、親しみやすい関係性を築き、患者は自分を開放し、治療に対する信頼感を持つことができる。
2.× 治療的退行を促進する優先度は低い。なぜなら、解離性障害の原因となる、過去のトラウマストレス(心的外傷体験・人間関係など)を想起させることにつながりかねないため。退行とは、防衛機制の一つである程度の発達を遂げた者が、より低い発達段階に「子供がえり」して、未熟な行動をすることをいう。退行の分類には、①病的退行、②治療的退行、③創造的退行があげられる。治療的退行とは、精神分析などの心理学的な治療の一環として、人為的に操作される形で一時的な退行状態をもたらされることをいう。ちなみに、防衛機制とは、人間の持つ心理メカニズムであり、自分にとって受け入れがたい状況や実現困難な目標に対して、自我を保つために無意識で発動する心理的な機構である。防衛機制には、短期的には精神状態を安定させる作用があるが、長期的にみればかえって精神を不安定にさせてしまうものもある。
3.× 患者の要求通りに作業を進める優先度は低い。なぜなら、患者の要求が必ずしも解離性障害に有効とは限らないため。また、患者が自分自身の治療について十分に理解していない場合も考えられる。患者の要求通りに作業を進める必要はないが、患者の要求を傾聴共感肯定の姿勢を大切にする。
4.〇 正しい。新しい行動パターンの形成を促す。なぜなら、解離性障害の患者は、過去のトラウマストレス(心的外傷体験・人間関係など)が原因として起こっているため。新しい行動パターンの形成することは、ストレスやトラウマに対処する新しい方法を提案することにつながり、ストレスやトラウマに対処する能力を向上させることができる。
5.× 解離症状は、「心理的葛藤とは無関係である」と説明する必要はない。なぜなら、解離症状は、心理的葛藤と関係し、虚偽の発言となるため。解離性障害とは、心的外傷体験・人間関係などを原因として、それらの問題を抱えきれず、記憶・同一性の統合を失うことで当面の苦痛を回避する行動をいう。

カウンセリングの基本的態度

ロジャーズの3原則とは、アメリカの心理学者であるカール・ロジャーズが提唱した「傾聴」の3つの構成要素を表すものである。

【ロジャーズ,C.Rの3原則】
①「共感的理解」:相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとすること
②「無条件の肯定的配慮」:相手の話を善悪の評価や好き嫌いの評価をせずに聴くこと
③「自己一致」:聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認すること

 

 

 

 

 

47 他の認知症と比較して、Lewy小体型認知症患者にみられやすいのはどれか。

1.失行
2.失語
3.失認
4.尿失禁
5.静止時振戦

解答

解説

Lewy小体型認知症とは?

Lewy小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動異常症、自律神経障害などが特徴である。

1~3.× 失行/失語/失認は、脳血管性認知症で見られやすい。脳血管型認知症とは、脳細胞の死滅によって起こる認知症であり、その部位や範囲によって症状は様々である。他の症状として、巣症状(失語、失行、失認など脳の局所性病変によって起こる機能障害)や階段状に認知障害が進行することが特徴である。
4.× 尿失禁は、いずれのタイプの認知症にみられる。進行が進むにつれて尿失禁がみられる。
5.〇 正しい。静止時振戦は、Lewy小体型認知症にみられやすい。なぜなら、Lewy小体型認知症の症状の一つに、パーキンソニズムがあげられるため。パーキンソニズムとは、パーキンソン病の症状(①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害)を呈する疾患の総称のことをいう。パーキンソニズムは、脳の病気、脳損傷、または特定の薬剤や毒素によって引き起こされる。

 

 

 

 

 

48 医療保護入院を規定する法律はどれか。

1.障害者基本法
2.精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉
3.障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律〈障害者差別解消法〉
4.障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律〈障害者総合支援法〉
5.心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律〈医療観察法〉

解答

解説

医療保護入院とは?

医療保護入院とは、①患者本人の同意:必ずしも必要としない、②精神保健指定医の診察:1人の診察、③そのほか:家族等のうち、いずれかの者の同意、④備考:入院後、退院後ともに10日以内に知事に届け出る、⑤入院権限:精神科病院管理者である。

1.× 障害者基本法とは、障害者施策について基本事項を定め、障害者の自立と参加を総合的かつ計画的に推進することを目的としている法律である。
2.〇 正しい。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉は、医療保護入院を規定する法律である。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉は、精神障害者の入院について5つの入院形態(任意入院・医療保護入院・応急入院・措置入院・緊急措置入院)を定めている。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉とは、①精神障害者の医療及び保護を行うこと、②障害者総合支援法とともに、精神障害者の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行うこと、③精神疾患の発生の予防や、国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とした法律である。(参考:「精神保健福祉法について」厚生労働省HPより)
3.× 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律〈障害者差別解消法〉とは、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的としている。
4.× 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律〈障害者総合支援法〉とは、必要な支援により障害者・児の福祉の増進を図り、障害の有無に関わらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことができる地域社会の実現に寄与することを目的としている。自立支援給付、地域生活、社会事業、費用負担について定めている。
5.× 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律〈医療観察法〉とは、重大な他害行為を行った精神障害者に医療を受けさせ、犯罪の再発を防ごうというものである。平成15年に制定され、平成17年施行した。「重大な他害行為」とは、①殺人、②放火、③強盗、④強姦、⑤強制わいせつ、⑥傷害の6つである。鑑定入院の後で、裁判官と精神保健審判員からなる合議体(裁判官と精神保健審判員からなる)が処罰の審判を下す。重大な他害行為を行った精神障害者に対して適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的としている。

障害者総合支援法とは?

障害者総合支援法は、2013年に障害者自立支援法から障害者総合支援法へと改正され、障害者と障害児を対象とした障害保健福祉施策についてまとめられた法律である。これにより障害者の範囲が拡大され、身体障害者、精神障害者、知的障害者、障害児の全てが対象とされている。そして、対象となっている者は、認定調査というものを受け「障害支援区分」という障害の重症度分類によって7区分(非該当、区分1~6)に分けられる。それにより受けられるサービス内容が変わってくる。

①障害者も難病患者も自立できる社会をめざす。
②応能負担(所得に応じて自己負担額が変わること)が原則。
③あらゆる障害(身体・知的・精神+難病)についてこの法律で対応する。
④市区町村が事業の母体である。

 

 

 

 

49 精神障害者に対する就労支援として最も適切なのはどれか。

1.障害を開示して働くことは勧めない。
2.作業療法士が患者の就労支援の方針を決定する。
3.生活リズムが不安定な患者には精神科デイケア以外の利用は勧めない。
4.就労経験のある患者は地域障害者職業センターの職業評価を利用できない。
5.就労中の生活に関する問題は障害者就業生活支援センターに相談できる。

解答

解説
1.× 障害を開示して働くことは、「勧めない」のではなく個人の自由である。むしろ、開示することで適切なサポートが受けられることもある。
2.× 患者の就労支援の方針を決定するのは、作業療法士だけではない。方針を決定するのは、患者自身やその家族の意見を尊重しながら、ケースワーカーや作業療法士を含む医療職、関係者全体で話し合って決めていく。つまり、チームでかかわることが重要である。
3.× 生活リズムが不安定な患者には、「精神科デイケア以外の利用は勧めない」のではなく「精神科デイケア以外の利用も勧める」。なぜなら、精神科デイケアの目的は、生活リズムの安定以外にもあるため。また、生活リズムが不安定な患者でも、行える仕事が見つかる可能性もある。ちなみに、精神科デイケアとは、精神科に通院している患者を対象に、①居場所を提供したり、②疾患の再発予防、③日常生活技能の改善、④社会復帰のための援助を目的とした施設である。病院内に設置されていることが多い。目標に向けて提供するリハビリテーションは変わるが、おもにレクリエーションや社会生活技能訓練(SST)などを行う。
4.× 就労経験のある患者は、地域障害者職業センターの職業評価を「利用できない」のではなく利用できる。地域障害者職業センターとは、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施している。全国の各都道府県に最低1か所ずつ設置されており、運営法人である独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営を行っている。就労経験のある・なしに関わらず、身体障害者手帳、精神福祉保健手帳、療育手帳のある人、難病のある人、その他、障害があると認められる人(診断書がある人、障害者手帳申請中の人含む)などが対象となる。 
5.〇 正しい。就労中の生活に関する問題は、障害者就業生活支援センターに相談できる。障害者就業生活支援センターとは、国及び県から委託を受けた地域の社会福祉法人等が運営する障害者の就労支援機関である。 就業およびそれに伴う日常生活上の支援を必要とする障害者に対し、就業と生活における一体的な相談支援を実施している。

地域障害者職業センターの主な業務

障害者に対し、
①職業相談・職業評価
②職業指導(ジョブガイダンス)
③職業準備支援
④職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援
⑤リワーク支援 など。

 

 

 

 

 

50 精神障害を有する高校生への就学支援で適切なのはどれか。

1.転校は極力避けるように説明する。
2.担当医、家族、担当教員と連携を図る。
3.修業年限内に卒業することを最優先する。
4.本人よりも親の希望により方針を決める。
5.休学中に試験的な登校を行ってはならないと伝える。

解答

解説
1.× 転校は極力避けるように説明する必要はない。なぜなら、転校の理由は、個々の状況に応じて適切かどうか判断する必要があるため。一概に転校を避けるように説明するのは、患者に寄り添ってない姿勢である。
2.〇 正しい。担当医、家族、担当教員と連携を図る。なぜなら、精神障害を有する高校生の支援において、それぞれの専門性を活かし、高校生のニーズに応じた適切な支援を提供することが求められるため。高校生に限ったことではないが、チームで連携を密に行い、就学支援する必要がある。
3.× 修業年限内に卒業することを最優先する必要はない。なぜなら、精神障害を有する高校生にとっては、個々の状況やニーズに応じた支援が最優先されるため。修業年限内に卒業することを最優先にした場合、家族や患者は「学校から追い出そうとしている」と感じ取られる可能性もある。
4.× 本人よりも親の希望により方針を決める必要はない。むしろ、本人の希望により方針を決めることが多い。ただし、家族もチームの一員であるため、家族の希望も聞きながら、連携を密に行い就学支援する必要がある。
5.× 休学中に試験的な登校を行ってはならないと伝える必要はない。なぜなら、試験的な登校は、高校生が登校に慣れるための適切な支援方法の一つであるため。休学中であっても、状況に応じて試験的な登校を行う。

 

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