第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午後問題31~35】

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31 FABに含まれる課題はどれか。

1.計算
2.色の呼称
3.書き取り
4.左右判別
5.語彙の流暢性

解答

解説

1~4.× 計算/色の呼称/書き取り/左右判別は、FABに含まれていない
5.〇 正しい。語彙の流暢性は、FABに含まれる課題である。前頭葉機能簡易検査(Frontal Assessment Battery:FAB)は「類似課題(概念化)、言語流暢課題、Fist-edge-palm test(運動のプログラミング)、干渉課題、Go-No-Go課題、把握課題(被影響性)の下位6項目で構成されている。(※参考:「前頭葉機能検査 Frontal Assessment Battery 」愛宕病院HPより)

 

 

 

 

 

32 脳卒中片麻痺の上肢に対する機能回復訓練の課題内容で適切なのはどれか。

1.運動は巧緻運動から粗大運動にする。
2.運動速度は速いものから遅いものにする。
3.課題は単純なものから複雑なものにする。
4.運動パターンは分離運動から共同運動にする。
5.課題の所要時間は長いものから短いものにする。

解答

解説
1.× 逆である。運動は「粗大運動」から「巧緻運動」にする。なぜなら、一般的に、麻痺の回復段階は、最初に大きな運動(粗大運動)を習得し、徐々に細かい運動(巧緻運動)へと移行するため。
2.× 逆である。運動速度は「遅いもの」から「速いもの」にする。なぜなら、一般的に、遅い運動から始めて徐々に精度・速度とも上げていく必要があるため。
3.〇 正しい。課題は単純なものから複雑なものにする。なぜなら、一般的に、課題が単純なもののほうが難易度は低いため。難易度が低いものから行うことで、達成感や自信にもつながる。
4.× 逆である。運動パターンは「共同運動」から「分離運動」にする。共同運動とは、発病の当初は随意性を喪失しているものをさす。やがて、肩・肘・手指全体を生理学的な屈曲あるいは伸展方向に同時にのみ動かせる運動ができる。
5.× 逆である。課題の所要時間は「短いもの」から「長いもの」にする。なぜなら、一般的に、課題の所要時間が短い方が、難易度が低いことが多く、疲労度が溜まりにくくフィードバックを得られる。

 

 

 

 

 

33 治療に関するインフォームドコンセントで正しいのはどれか。2つ選べ。

1.患者の同意内容は文書で保存する。
2.患者はいったん同意したら撤回できない。
3.治療に伴う軽微な合併症は説明しない。
4.選択し得るすべての治療法について説明する。
5.意思決定能力がなくても本人の同意は必須である。

解答1・4

解説

インフォームド・コンセントとは?

インフォームド・コンセントは、「十分な説明を受けたうえでの同意・承諾」を意味する。医療者側から診断結果を伝え、治療法の選択肢を提示し、予想される予後などについて説明したうえで、患者自らが治療方針を選択し、同意のもとで医療を行うことを指す。診断結果の伝達には「癌の告知」という重要な問題も含まれる。

1.〇 正しい。患者の同意内容は文書で保存する。なぜなら、文章で内容を明示することで、患者側の理解も得やすく確認できるようになるため。
2.× 患者はいったん同意しても「撤回できる」。患者は一度同意しても、無条件でいつでも同意を撤回できる。
3.× 治療に伴う軽微な合併症でも「説明する」。治療に伴うリスクや合併症、副作用などについて、患者に十分な説明を行うことがインフォームドコンセントの原則である。
4.〇 正しい。選択し得るすべての治療法について説明する。具体的に、治療法の選択肢を提示し、予想される予後などについて説明したうえで、患者自らが治療方針を選択し、同意のもとで医療を行うことを指している。
5.× 意思決定能力がない場合、本人の同意は「必須とはいえない」。なぜなら、意思決定能力がない患者の場合、親権者や法定代理人が代わりに同意を行うことが可能であるため。ただし、患者の意思を尊重し、可能な限り本人の意向を汲み取ることが重要である。

 

 

 

 

34 高齢者への薬物療法で正しいのはどれか。

1.加齢に伴い有害事象が多くなる。
2.高齢者は有害事象が重症化しない。
3.1回投与量が多いほど治療効果が高い。
4.服薬歴は現在の身体機能に影響しない。
5.服薬数の増加は有害事象の要因にならない。

解答

解説

薬物動態とは?

内服薬は、消化管より吸収→門脈→肝臓に達する。血中タンパク質との抱合や代謝を受けて、全身に循環する。その後、薬物およびその代謝物は、肝臓(胆汁)や腎臓(尿)より排出される。その循環に支障が来たした場合、薬効に変化が生じる。

加齢に伴い、肝臓で薬を分解する能力や、薬を腎臓から身体の外へ排出する能力が低下する。また、高齢者は身体の中の水分の割合が少なくなり脂肪が多くなるため、脂肪にとける薬が身体の中にたまりやすくなる。その結果、薬効が強く出て、副作用が現れることがよくある。

1.〇 正しい。加齢に伴い有害事象(副作用)が多くなる。なぜなら、①加齢に伴い、肝臓で薬を分解する能力や、薬を腎臓から身体の外へ排出する能力の低下、②高齢者は身体の中の水分の割合が少なくなり脂肪が多くなり、脂肪にとける薬が身体の中にたまりやすくなるため。有害事象とは、あらゆる好ましくない・あるいは意図しない徴候や症状を示す。いわゆる薬の副作用であることを薬の有害事象と呼ぶことがある。治験薬や医薬品などの薬物を投与された被験者・患者に生じる、薬物の投与と時間的に関連した、好ましくないまたは意図しないあらゆる医療上の事柄のことである。
2.× 高齢者は有害事象が重症化「しない」とは断言できない。なぜなら、高齢者は、免疫の低下や複数の疾患を抱えていることが多いため。特に、高齢者は複数服薬し、薬物相互作用が生じやすく、それら影響が大きい。
3.× 1回投与量が多いほど、「治療効果が高い」とは断言できない。なぜなら、1回投与量が多いと、同時に有害事象のリスクも増加するため。むしろ、予期せぬ副作用が出ることもあるため、1回分忘れたからといって多く服用したり、過剰摂取、大量摂取は行わないよう指導する。
4.× 服薬歴は、現在の身体機能に「影響しない」のではなく影響する。例えば、ステロイド薬の長期服用により、副作用として、糖尿病感染症骨粗鬆症などをきたすことがある。服薬歴とは、過去に服用した薬や現在服用している薬の情報である。
5.× 服薬数の増加は有害事象の要因に「ならない」とは断言できない。なぜなら、服薬数が増加すると、薬物相互作用が生じやすくなり、有害事象(副作用)のリスクが高まるため。特に、高齢者は複数服薬し、薬物相互作用が生じやすく、それら影響が大きい。

ステロイドの副作用

【ステロイドの機序】
ステロイドは細胞の中に入った後にグルココルチコイド受容体に結合すする。ステロイドの結合したグルココルチコイド受容体は、細胞の核内へ移行し、炎症に関与する遺伝子の発現を調節すると言われている。 この結果として強力な抗炎症作用と免疫抑制作用が発揮される。

【ステロイドの副作用】
軽度:中心性肥満、体重増加、満月様顔貌
重度:消化管潰瘍、糖尿病、感染症、骨粗鬆症・骨壊死、筋炎、精神症状(抑うつ、せん妄)

ステロイドを長期的に内服した場合、体内でステロイドホルモンが分泌されなくなることがある。そのため、急に薬の内服を止めると体内のステロイドホルモンが不足し、倦怠感や血圧低下、吐き気、低血糖などの症状が起こることがある。これをステロイド離脱症候群という。

(※参考:「副腎皮質ステロイド」日本リウマチ学会様HP)

 

 

 

 

 

35 透析患者の血液生化学検査で正常値より大きく低下するのはどれか。

1.CRP
2.血清尿酸
3.血中尿素窒素
4.ヘモグロビン
5.血清クレアチニン

解答

解説

透析治療の合併症

①不均衡症候群、②高血圧(透析開始時)、③低血圧、④貧血、⑤感染症、⑥二次性副甲状腺機能障害、⑦アミロイド骨関節症、⑧高カリウム血症など。

1.× CRPとは、体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりした場合、血液中に蛋白質の一種であるC-リアクディブ・プロテイン(CRP)をさす。 正常な血液のなかにはごく微量にしか見られないため、炎症の有無を診断するのにこの検査が行われる。
2.× 血清尿酸は、痛風の患者の血液検査データで高値を示す。痛風とは、体内で尿酸が過剰になると、関節にたまって結晶化し、炎症を引き起こして腫れや痛みを生じる病気である。尿酸は難溶性の物質で、血清尿酸値7mg/dlを超えると析出しやすくなり急性関節炎の原因になる。尿酸はプリン体の代謝の最終産物として産生される。プリン体が多く含む食材として、豚や牛のレバー、アジやさんまの干物などがあげられる。一般的には、透析治療によって尿酸が除去されるため、透析患者の血清尿酸は透析前よりも透析後に低下することが期待される。しかし、この低下の程度は患者や透析条件によって異なり、必ずしも正常値より大きく低下するとは限らない
3.× 血中尿素窒素(BUN)は、腎機能の状態を表す指標で、高値で腎機能の低下が示唆される。尿素窒素とは、血液のなかの尿素に含まれる窒素成分のことで、蛋白質が利用された後にできる残りかすといえる。通常は腎臓でろ過されて尿中へ排出されるが、腎臓の働きが低下すると、ろ過しきれない分が血液のなかに残る。つまり、尿素窒素の数値が高くなるほど、腎臓の機能が低下していることを表している。一般的には、透析治療によって尿酸が除去されるため、透析患者の血中尿素窒素(BUN)は透析前よりも透析後に低下することが期待される。しかし、この低下の程度は患者や透析条件によって異なり、必ずしも正常値より大きく低下するとは限らない
4.〇 正しい。ヘモグロビンは、透析患者の血液生化学検査で正常値より大きく低下する。これを腎性貧血という。主に、透析患者は、腎臓機能の低下を伴っている。つまり、腎臓から分泌されるエリスロポエチンの産生が減少する。エリスロポエチンは、骨髄で赤血球の生成を刺激する役割を持っているため、エリスロポエチンの不足は赤血球生成の減少を引き起こし、結果としてヘモグロビン値が低下する。
5.× 血清クレアチニンは、筋量に影響を受け、筋肉に含まれているタンパク質の老廃物である。本来は、尿素窒素と同様に腎臓の糸球体で濾過され尿中に排泄されるが、腎臓の機能が低下すると尿中に排泄される量が減少し、血液中にクレアチニンが溜まる。つまり、透析患者では、腎機能が低下しているため、血清クレアチニン値が正常値より高くなる。透析治療は、腎機能が不十分な患者において、クレアチニンや尿素窒素などの老廃物を体外に排出するのを助けるために行われるが、透析治療によって血清クレアチニンが正常値まで戻ることはあっても、正常値より大きく低下するとは限らない

慢性腎不全とは?

 慢性腎不全(慢性腎臓病とも)は、腎臓の濾過機能が数ヶ月〜数年をかけて徐々に低下していく病気である。その結果血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなる。その原因として最も多いのは糖尿病で、次に多いのは高血圧である。尿や血液、腹部超音波検査やCTなどの検査で腎臓機能に異常が見られ、その状態が3カ月以上続いている場合に診断される。

慢性腎不全(CKD)に対する治療は、①生活習慣の改善、②食事療法が重要である。
①生活習慣の改善:禁煙・大量飲酒の回避・定期的な運動・ワクチン接種による感染症の予防・癌スクリーニングなど。
②食事療法:十分なエネルギー摂取量を確保しつつ、蛋白質・塩分・リンの制限。

 

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