第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午前問題26~30】

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26 飛沫感染予防策で対応する感染症はどれか。

1.疥癬
2.結核
3.麻疹
4.インフルエンザ
5.流行性角結膜炎

解答

解説

感染予防策とは?

感染予防策は、院内感染の防止策として推奨されている方法である。感染の有・無にかかわらず患者と医療スタッフすべてに適応される予防対策である。患者の血液や体液、分泌、排泄されるすべての湿性物質、粘膜、創傷の皮膚は感染のおそれがあるとみなして対応・行動する方法である。

1.× 疥癬(かいせん)は、接触感染である。疥癬虫(ヒゼンダニ)による皮膚の角層内感染症で、強い痒み、丘疹が特徴である。
2.× 結核は、空気感染である。結核とは、結核菌による感染症で、体の色々な臓器に起こることがあるが多くは肺のことである。結核菌は、喀痰の中に菌が出ている肺結核の患者と密閉空間で長時間(一般的には数週間以上)接触することにより空気感染でうつる。リンパ節結核や脊椎カリエス(骨の結核)など、肺に病気のない結核患者からはうつらない。また肺結核でも、治療がうまくいって喀痰の中に菌が出ていない患者さんからはうつることはない。また、たとえ感染しても、発病するのはそのうち1割ぐらいといわれており、残りの9割の人は生涯何ごともなく終わる。感染してからすぐに発病することもあるが、時には感染した後に体の免疫が働いていったん治癒し、その後数ヶ月から数十年を経て、免疫が弱ったときに再び結核菌が増えて発病することもある。結核の症状には、咳、痰、血痰、熱、息苦しさ、体のだるさなどがある。
3.× 麻疹は、空気感染である。麻疹とは、麻疹ウイルスの感染後、10~12日間の潜伏期ののち発熱や咳などの症状で発症する病気のこと。38℃前後の発熱が2~4日間続き、倦怠感(小児では不機嫌)があり、上気道炎症状(咳、鼻みず、くしゃみなど)と結膜炎症状(結膜充血、目やに、光をまぶしく感じるなど)が現れて次第に強くなる。
4.〇 正しい。インフルエンザは、接触感染と飛沫感染である。したがって、飛沫感染予防策で対応する感染症である。ちなみに、インフルエンザとは、インフルエンザウイルスへの感染を原因に発症する。A型、B型、C型の3種類があり、このうち冬季に流行する「季節性インフルエンザ」はA型とB型によるものである。症状として、38度以上の発熱や寒気、関節痛、全身のだるさなどの全身症状と、喉の痛みや咳などの風邪のような症状が現れる。
5.× 流行性角結膜炎は、接触感染である。流行性角結膜炎(はやり目)とは、ウイルスによって引き起こされる急性の結膜炎、あるいは角膜炎のことである。角膜・結膜の充血、眼瞼の腫脹が主症状である。

感染経路と感染症

感染には、①接触感染、②空気感染、③飛沫感染がある。

①接触感染(例:流行性角結膜炎、疥癬、ノロウイルス感染症など)
(1)直接接触感染:感染者の皮膚粘膜との直接接触による伝播・感染する。
(2)間接接触感染:感染者の微生物で汚染された衣類、周囲の器物、環境などとの接触による伝播・感染する。

②飛沫感染(例:風疹、流行性耳下腺炎、 インフルエンザ、マイコプラズマ、百日咳など)
咳やくしゃみなどに伴って発生する飛沫(粒径5μm以上の粒子)が経気道的にヒトの粘膜に付着し感染する。飛散する範囲は1m以内であることが特徴。

③空気感染(例:結核、水痘、麻疹など)
飛沫核 (粒径5μm未満の粒子に付着した微生物)が長期間空中を浮遊し、これを吸い込むことで感染が伝播・感染する。

(※参考:「医療施設等における感染対策ガイドライン」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

27 病室で患者が倒れている場面に遭遇した。
 緊急時対応として作業療法士が最初に行うことはどれか。

1.すぐに起こす。
2.主治医に電話する。
3.車椅子を持ってくる。
4.周辺のスタッフを呼ぶ。
5.バイタルサインを確認する。

解答

解説

一次救命処置の手順

一次救命処置とは、呼吸が止まり、心臓も動いていないと見られる人の救命へのチャンスを維持するため、特殊な器具や医薬品を用いずに行う救命処置であり、胸骨圧迫と人工呼吸からなる心肺蘇生法(CPR)、そしてAEDの使用を主な内容とする。

①安全確認と感染防御
②意識状態の確認
③協力者を集める
④気道確保・呼吸の確認
⑤人工呼吸2回
⑥胸骨圧迫式心マッサージ
⑦AEDによる除細動

※安全確認と感染防御が最優先だが、設問の選択肢にないので、次の段階で優先される選択肢を選ぶ。

1.3.× すぐに起こす/車椅子を持ってくることは基本的に行わない。今回は病室で発見しているため、安全確保の優先度は低いが、まずは、感染防御と意識状態の確認が優先される。また、起こすといった操作は、さらに症状が悪化する可能性があるため、回復体位(横向き)をとってもらうことが多い。
2.× 主治医に電話するより優先度が高いものが他にある。なぜなら、主治医に電話しても必ずしもつながるとは限らないため。また、意識やバイタルサインの確認もせず、主治医に倒れているだけの情報を伝えても、主治医はなんとも判断しかねる状況となってしまう。
4.〇 正しい。周辺のスタッフを呼ぶ。優先順位としては、①安全確認と感染防御→②意識状態の確認→③協力者を集めるとなる。
5.× バイタルサインを確認するより優先度が高いものが他にある。なぜなら、バイタルサインの測定にも優先順位があるため。バイタルサインとは、生命徴候のことで、脈拍、呼吸、体温、血圧、意識レベルの5つである。意識レベルの観察は優先度が高いが、体温の測定は行わないことが多い。

(図引用:長野赤十字社様HPより)

 

 

 

 

 

28 作業分析で正しいのはどれか。

1.環境は影響しない。
2.一方向から観察する。
3.作業工程で分類する。
4.作業結果から判断する。
5.検査者の経験値には左右されない。

解答

解説

1.× 環境は、「影響しない」のではなく影響する。トイレ動作を例に取ると、自室のトイレは、①洋式か和式か、②手すりの有無、③便座の高さなど明確にした上で、作業療法を実施するとさらに効果的といえる。したがって、作業実施の環境因子を明確にする必要がある。
2.× 「一方向」ではなく多角的視点から観察する。つまり、主観的な視点だけではなく、客観的な視点により行う。
3.〇 正しい。作業工程で分類する。つまり、治療過程を段階づけ実施する。FIMのように、日常生活動作の練習を現在何%にいて、予後はどれほどか段階付けることは大切である。
4.× 作業結果「だけでは」判断できない。なぜなら、作業は、①企画・準備、②実行力、③検証・完了(結果)と3段階に分けられるため。つまり、準備・後片付けも作業分析に含まれる。
5.× 検査者の経験値には左右「されない」のではなく「される」。なぜなら、観察力は経験や訓練によって深まるため。観察者自身の力量を自覚しておき、できるだけ客観的な視点を持つ。

(※画像引用:日本作業療法士協会様HPより)

 

 

 

 

29 FIMの評定で正しいのはどれか。

1.食事5点:万能カフの装着を手伝ってもらい食事ができる。
2.整容4点:洗顔時にタオルを持ってきてもらう。
3.更衣(下半身)4点:介助者が下着やズボンを膝まで通すと残りは自分で行う。
4.トイレ動作6点:介助者に拭く紙を用意してもらう。
5.記憶4点:自らメモを使用して生活できている。

解答

解説
1.〇 正しい。万能カフの装着を手伝ってもらい食事ができるのは、食事5点(監視・準備)である。ほかに5点の目安として、配膳後に肉を切る、ふたを開けるなど準備が必要、食べこぼしや誤嚥しないように監視が必要な場合をいう。
2.× 洗顔時にタオルを持ってきてもらうのは、整容「4点(最小介助)」ではなく5点(監視・準備)である。ほかに5点の目安として、整容動作の準備や監視・助言を要す、化粧品のふたを開けるなど、用具準備に介助が必要な場合をいう。ちなみに、4点(最小介助)の目安として、石鹸をつけるなど、最小介助が必要、入れ歯を自分で磨けるが洗浄液につけてもらう必要がある場合をいう。
3.× 介助者が下着やズボンを膝まで通すと残りは自分で行うのは、更衣(下半身)「4点(最小介助)」ではなく3点(中等度介助)である。4点(最小介助)の目安として、更衣の「75%以上」を自分で行う場合をいう。一方、3点(中等度介助)は、更衣の「50%〜75%未満」を自分で行う場合をいう。
4.× 介助者に拭く紙を用意してもらうのは、トイレ動作「6点(修正自立)」ではなく5点(監視・準備)である。ほかに5点(監視・準備)の目安として、ズボンの着脱時に安全面の配慮のため見守りが必要となる場合などをいう。一方、6点(修正自立)は、通常の3倍以上の時間がかかる、自助具を使用すればトイレ動作は自分でできている、尿器を使用しているが失敗はない場合などをいう。
5.× 自らメモを使用して生活できているのは、記憶「4点(最小介助)」ではなく6点(修正自立)である。ほかにも、課題を手帳やタイマーなど使用、管理することで記憶、再生できる、課題を記憶しているが、通常以上の時間がかかる場合をいう。一方、4点(最小介助)は、「頻繁に出会う人」「毎日の日課」「他人からの依頼」の3つの課題に対し、「25%未満」思い出すことができず、他者の介入が必要である場合をいう。

 

 

 

 

 

30 心不全患者への生活指導で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.1日4L飲水する。
2.食事の直後に入浴する。
3.入浴は44℃の湯に浸かる。
4.冬季には肌の露出を少なくする。
5.1日の塩分摂取量を6g未満に制限する。

解答4・5

解説

心不全とは?

心不全は心臓のポンプ機能低下のため末梢組織の酸素需要に見合った血液量を供給できない状態である。肺循環系にうっ血が著明なものを左心不全、体循環系にうっ血が著明なものを右心不全という。体液の著明やうっ血を生じ、主な症状として呼吸困難、咳嗽、チアノーゼ、血性・泡沫状喀痰(ピンクの痰)などがある。

心拍出量の低下を起こす原因として、
・左心不全:肺循環系にうっ血が著明なもの(呼吸困難、起座呼吸、尿量減少など)
・右心不全:体循環系にうっ血が著明なもの(頸静脈怒張、胸水・腹水、下腿浮腫、肝腫大など)
右室拡張末期圧の上昇(体循環の静脈系のうっ血)により右心不全は引き起こされる。

1.× 1日「4L」飲水する必要はない。なぜなら、心不全とは、心臓の働きが低下している状態で、体内の水分量が過剰に増加すると、血液量が増えることになり、結果として心臓に更に負担がかかるため。むしろ、重度の心不全患者の場合、水分制限が必要な方がいる。
2.× 食事の直後の入浴は控えたほうがよい。なぜなら、食後は、消化器官への血流が一時的に増加し、さらに入浴により、心臓への負担が増加するため。心臓に負担がかかりやすい運動や入浴は、満腹時や空腹時を避け、食後 1~2 時間はあける。
3.× 入浴は、「44℃」ではなく40~41℃の湯に浸かる。なぜなら、高温の湯に浸かると、血管が拡張し、心臓への負担が増加するため。ほかにも、心臓に負担をかけないように、湯船に入る深さはみぞおちあたりまでにすること、湯船に入ってから出るまでの時間は10分くらいにすること、入浴後は安静することなどが推奨されている。
4.〇 正しい。冬季には肌の露出を少なくする。なぜなら、寒さを感じると体温の発散を防ごうとするため血管が収縮するため。厚着になることで、体温を保ち心臓の負担を減らすことができる。
5.〇 正しい。1日の塩分摂取量を6g未満に制限する。なぜなら、減塩は血圧を下げる効果が期待されるため。血圧の低下は、心臓への負担軽減につながる。一方で、塩分の過剰摂取は、高血圧症や動脈硬化が進行し、心臓に負担がかかりやすくなる。

 

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