第58回(R5)作業療法士国家試験 解説【午前問題31~35】

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31 慢性疼痛を有する患者のリハビリテーション治療で最も適切なのはどれか。

1.運動療法は推奨されない。
2.慢性腰痛では安静を指示する。
3.認知行動療法の導入は有効である。
4.患部への積極的なマッサージを行う。
5.疼痛が軽度であればADL訓練は必要ない。

解答

解説

慢性疼痛とは?

【慢性疼痛の定義】慢性疼痛は「治癒に要すると予測される時間を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関連する痛み」と定義される。整形外科疾患や術後に遷延する痛み、帯状疱疹や糖尿病に関連する神経障害性疼痛などがある。

【痛みの特徴と治療の考え方】慢性疼痛は痛みが長期間持続することにより病態が複雑化し、心理社会的要因も痛みの構成要素となることから、治療にあたっては薬物療法理学療法神経ブロックリハビリテーション心理療法などを組み合わせた集学的治療を行い、痛みの程度の改善にとらわれず、日常生活の改善を目標にすることが重要である。慢性疼痛治療に用いられる薬剤には NSAIDs やオピオイド鎮痛薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗けいれん薬、抗不整脈薬、NMDA 受容体桔抗薬、漢方薬、ステロイドなどがあり、効果と副作用のバランスを考えて投与量の調節や併用を行う。

(※引用:「医療用麻薬による慢性疼痛の治療方針」厚生労働省HPより)

1.× 運動療法は、「推奨されない」のではなく推奨される。特に有酸素運動は、内因性オピオイド鎮痛物質(多幸感)が放出されることが報告されている。
2.× 慢性腰痛では「安静」を指示する必要はない。なぜなら、不要な安静は、廃用症候群をもたらすため。廃用症候群とは、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することにより、身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状のこと。関節拘縮や筋萎縮、褥瘡などの局所性症状だけでなく、起立性低血圧や心肺機能の低下、精神症状などの症状も含まれる。一度生じると、回復には多くの時間を要し、寝たきりの最大のリスクとなるため予防が重要である。廃用症候群の進行は速く、特に高齢者はその現象が顕著である。1週間寝たままの状態を続けると、10~15%程度の筋力低下が見られることもある。
3.〇 正しい。認知行動療法の導入は有効である。例えば、慢性腰痛に対し、認知行動療法を実施されることが多い。具体的には、①腰痛の不安を解消する映像を見せること、②腰を反らせても痛まない成功体験を繰り返させること、③痛みがあってもできる活動があることを認識させること、④適切な身体活動は痛みを増悪させないことを説明することなどによって対応していく。ちなみに、認知行動療法とは、ベックによって精神科臨床に適応された治療法である。例えば、うつ病患者の否定的思考を認知の歪みと考え、その誤りを修正することによって症状の軽快を図る。認知行動療法の中に、系統的脱感作法がある。系統的脱感作法とは、患者に不安を引き起こす刺激を順に挙げてもらい(不安階層表の作成)、最小限の不安をまず想像してもらう。不安が生じなかったら徐々に階層を上げていき、最終的に源泉となる不安が消失する(脱感作)ことを目指す手法である。
4.× 患部への積極的なマッサージを行うことの優先度は低い。慢性疼痛に対するマッサージのエビデンスは2C(行わないように勧められる科学的根拠がない)。多くの論文では、マッサージの手法や介入量、結果の提示や解析の方法が不明瞭で、バイアスを取り除くことが困難なためと説明されている(※参考:「慢性疼痛治療ガイドライン」厚生労働省HPより)。
5.× 疼痛が軽度であればADL訓練は「必要ない」と一概に判断することはできない。なぜなら、慢性疼痛患者は、疼痛が軽度であっても、病気が長くなるつれ不動化や廃用から、ADLの低下も考えられるため。慢性疼痛患者に診られる痛み以外の主な症状として、①認知・感情的要因(抑うつ、不安、怒り)、②身体的要因(睡眠障害、ADL低下)、③社会的要因、④スピリチュアルな要因、⑤そのほかの要因(医療者への依存や期待)があげられる。

 

 

 

 

 

32 介護予防事業の「介護予防教室」で正しいのはどれか。

1.1か月に2回実施する。
2.筋力の向上が目的である。
3.対象は要支援者のみである。
4.市町村が主体となり実施される。
5.1年以上実施しなければならない。

解答

解説

介護予防教室とは?

介護予防教室とは、介護保険の介護予防・日常生活支援総合事業という仕組みの「一般介護予防事業」で行われるサービスである。運動教室や健康講座、趣味活動を行うためのサロンが該当する。対象者は、地域に住む65歳以上のすべての高齢者である。

(※図引用:「介護予防事業について」厚生労働省HPより)

1.5.× 1か月に2回実施する/1年以上実施しなければならないと決まっているわけではない。なぜなら、介護予防教室は、市町村や施設の方針、参加者のニーズによって異なるため。
2.× 目的は「筋力の向上」だけではなく要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)ことである。介護予防は、高齢者が可能な限り自立した日常生活を送り続けていけるような、地域づくりの視点が重要である。 ちなみに、介護予防とは「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」と定義される(※引用:「第1章 介護予防について」厚生労働省HPより)。
3.× 対象は、「要支援者のみ」ではなく、要介護者やその予防を目指す高齢者も含まれる。介護予防事業は、要支援・要介護に陥るリスクの高い高齢者を対象にした二次予防事業と、活動的な状態にある高齢者を対象としできるだけ長く生きがいをもち地域で自立した生活を送ることができるようにすることを支援する一次予防事業で構成されている。
4.〇 正しい。市町村が主体となり実施される。介護予防事業とは、介護保険法第115条の44の規定に基づき、要介護状態等ではない高齢者に対して、予防又は要介護状態の軽減若しくは悪化の防止のための事業である。市町村が実施する。

 

(※参考:「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」栃木県HPより)

 

 

 

 

 

33 作業療法に関する歴史で誤っているのはどれか。

1.加藤普佐次郎は結核患者の作業療法に貢献した。
2.呉秀三は欧州における作業の効果を紹介した。
3.Jean Ayresは感覚統合療法を提唱した。
4.高木憲次は肢体不自由児の療育を体系化した。
5.Philippe Pinelは道徳療法を始めた。

解答

解説
1.× 加藤普佐次郎(かとう ふさじろう)は、「結核患者」ではなく、精神病患者の作業療法(作業治療)に貢献した。精神病患者に対して体を動かす作業だけでなく、精神的活動やレクリエーションも治療方法とし、作業療法(作業治療)を進めた。
2.〇 正しい。呉秀三は欧州における作業の効果を紹介した。1901年に欧州留学から帰国した呉秀三(くれしゅうぞう)は、「我が国の精神病患者には、病気という不幸と我が国に生まれた不幸の、2つの不幸がある」といった意味のことを述べ、当時の日本の精神病患者の処遇の劣悪さを指摘した。隔離拘束が中心であった精神病患者の処遇を解放化に向け、作業を中心とした移導療法を行った。隔離・監置・拘束を一掃し、精神病患者の看護を一新した。人間の尊重・自由・就労を柱に、病者の観念思想を病的世界から現実的なものにむけることを目的として作業をもちいた。
3.〇 正しい。Jean Ayres(アンナ・ジーン・エアーズ)は感覚統合療法を提唱した。学習障害や自閉症を含めた発達障害のある子等へのリハビリテーションの一つで、前庭系、体性感覚系での感覚情報処理が重視される。
4.〇 正しい。高木憲次(たかぎ のりつぐ)は、肢体不自由児の療育を体系化した。高木憲次は、整形外科医であり、肢体不自由児の父とよばれた。
5.〇 正しい。Philippe Pinel(フィリップ・ピネル)は、道徳療法を始めた。道徳療法とは、様々な課題(作業)への参加、人道的処遇、規則正しい生活などがする事が、人を健康にさせるというものである。ちなみに、Philippe Pinelは、フランスの精神科医で、人道的精神医学の創始者である。18世紀末に初めて閉鎖病棟から精神病患者を解放した医師として知られる。

 

 

 

 

34 手指の巧級性向上を目的とした作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.陶芸の菊練り
2.藤細工の編み込み
3.マクラメの平結び
4.木版画の摺り
5.木工の鋸挽き

解答2・3

解説

1.× 陶芸の菊練りは、全身の筋力を使う作業である。菊練りとは、陶芸において上の空気を抜く作業である。
2.〇 正しい。藤細工の編み込みは、手指の巧級性向上を目的とした作業である。藤細工とは、籐のつるを編んで細工すること。
3.〇 正しい。マクラメの平結びは、手指の巧級性向上を目的とした作業である。マクラメは、紐を交差させて結び、結び目で模様を作り装飾品などに細工する作業である。結ぶ動作がメインとなるため、代用手段も少なく高度な手指機能が必要とされる。
4~5.× 木版画の摺り(※読み:すり)/木工の鋸挽き(※読み:のこぎりびき)は、主に上肢の筋力強化を目的とした作業である。

 

 

 

 

 

35 Down症候群の乳児の保護者に対する指導で最も優先度が低いのはどれか。

1.関節拘縮の予防法
2.離乳食の摂食方法
3.姿勢の安定を促す抱き方
4.保護者のストレス対処法
5.児とのコミュニケーションの取り方

解答

解説
1.× 関節拘縮の予防法は、最も優先度が低い。なぜなら、ダウン症候群の症状に、筋緊張の低下があげられ、関節拘縮は起こりにくいため。バランスボールなどダウン症児の興味関心を抱きやすい環境で筋緊張を高められる運動(主に体幹筋群)を提供する。
2.〇 離乳食の摂食方法を指導する。なぜなら、ダウン症候群の特徴に、特異な顔貌、筋緊張の低下、舌の突出などがあげられるため。身体の特徴から「唇で取り込む」「口の中で処理する」「のどでの飲み込む」の行為の獲得に時間を要す。定頸や寝返り、座位保持の獲得を目安に離乳食を開始することが多い。
3.〇 姿勢の安定を促す抱き方を指導する。なぜなら、ダウン症候群の症状に、筋緊張の低下があげられるため。姿勢の安定を促す抱き方を学ぶことで、筋緊張を高め主に体幹筋群を賦活することができる。また、定頸が遅れる場合が多いため、頭と首のサポートを行う。
4.〇 保護者のストレス対処法を指導する。なぜなら、一般的な子育ての負担や不安からストレスに加え、障害児を育てるというストレスも加わるため。障害児を育てる保護者の方が、健常児を育てる保護者よりもストレスが高いという報告がある。運動や睡眠、食事といった方法が自律神経の安定につながりやすい。
5.〇 児とのコミュニケーションの取り方を指導する。なぜなら、ダウン症候群の症状に、発達遅滞があげられるため。多くの場合、知的な発達に遅れにより、言語発達が遅れる。言葉で詳しく説明しじっくり付き合うこと、こだわりを否定しないこと、個性を伸ばすことが大切である。

ダウン症候群とは?

 ダウン症候群(Down症候群)とは、染色体異常が原因で知的障害が起こる病気である。常染色体異常疾患の中で最多である。Down症候群になりうる異常核型は、3種に大別される。①標準トリソミー型:21トリソミー(93%)、②転座型(5%)、③モザイク型(2%)である。発症率は、平均1/1000人である。しかし、35歳女性で1/300人、40歳女性1/100人、45歳女性1/30人と、出産年齢が上がるにつれて確率が高くなる。症状として、①特異な顔貌、②多発奇形、③筋緊張の低下、④成長障害、⑤発達遅滞を特徴とする。また、約半数は、先天性心疾患や消化管疾患などを合併する。特異顔貌として、眼瞼裂斜上・鼻根部平坦・内眼角贅皮・舌の突出などがみられる。

 乳児期の特徴としては、全身の筋緊張が低く、発達の遅れを伴う。理学療法では、バランスボールなどダウン症児の興味関心を抱きやすい環境で筋緊張を高められる運動(主に体幹筋群)を提供する。スカーフ徴候陽性や、シャフリング移動がみられる。スカーフ徴候の正常(陰性)の場合、腕を首に巻きつけるようにすると抵抗するが、陽性の場合は抵抗がみられない。シャフリング移動とは、お座り姿勢のまま移動する(いざり)ことである。脚の動かし方、手の使い方のバリエーションが少なかったり、下半身の筋肉の張りが弱く、筋肉量も少ないために行うことがある。Down症候群の子供では、立位歩行の獲得が遅れるため、シャフリング移動がみられる。正常発達の乳児期前半では、背臥位にて手で足をつかむ動作を行うようになるが、ダウン症乳児の場合、全身の筋緊張が低下しているため、背臥位では股関節外転・外旋した「蛙様肢位(蛙状肢位)」となり、足の持ち上げが難しくなる。読み方は、そのまま「カエルヨウ肢位、カエルジョウ肢位、カエル肢位」などと読む。

 

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